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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >江上 隆夫氏 Vol.1

ブランド構築とは、<アイデンティティ>を見出すこと – 前編

江上 隆夫氏 Vol.1 有限会社ココカラ 代表取締役

聞き手:一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 岩本俊幸

【江上 隆夫氏のプロフィール】

鹿児島県生まれ。長崎と愛知で育つ。

大学卒業後、広告制作会社を皮切りに大手広告代理店に18年近く勤務。

コピーライターおよびクリエイティブディレクターとして商品から企業まで、

広告を通じた数々のブランディングを手がける。

2005年末に、有限会社ココカラを設立。

以後、クリエイティブディレクターとして広告制作および

多くのブランドづくりのコンサルティングをスタートする。

最近はコピー、ブランディングなどのセミナー、講演も行っている。

東京コピーライターズクラブ新人賞、朝日広告賞、日経広告賞グランプリ、

日経金融広告賞最高賞、日本雑誌広告賞、IBAファイナリスト

ほか広告関係の受賞多数。

東京コピーライターズクラブ(TCC)会員


江上 隆夫氏の主な著書

  • 無印良品の「あれ」は決して安くないのに なぜ飛ぶように売れるのか?



ブランディングにつながった代理店時代

聞き手

本日はよろしくお願いします。
まずは江上さんの「ココカラ」という会社の設立経緯を含めて、 代理店時代のお話を伺えますか。


江上

2004年の秋頃に、会社を作ろうと思ったんですね。
家内の病気などいろいろな事情が重なり、 それに後押しされるように独立を決めました。
2005年の7月くらいからフリーのクリエイティブディレクター兼 コピーライターという形でスタートして3年間くらい、1人でやっていました。
今では社員3人の4人体制です。


聞き手

「ココカラ」という名前は、どういう由来が?


江上

「この場所から、この時点からスタートします」という自分の再出発という意味です。
もう一つは、「心と体」という意味ですね。
どうにも、それまでの自分のバランスが悪かったので。
バランス良く行きたいという意味を込めました。


聞き手

前職のアサツーディ・ケイさんでは、何年くらい?


江上

18年です。
35才くらいでクリエイティブディレクター(以下、CD)になり、 基本的にはCDをずっとやっていました。


聞き手

広告業界でいろいろな経験をされて、 ある時期から「ブランディング」を専門的に手掛けるというところに 舵を切ってこられたと思いますが、そのきっかけは?


江上

きっかけというか、代理店時代は、商品をセルする広告にも携わりましたが、 仕事の6割以上は企業ブランドを作ることでした。
あるタバコのブランドを担当したとき、 商品をセルする広告ではなく、ブランドの「世界」を作ったんですね。
これはすごく勉強になりました。
また、その他の大手企業さんなど、私が担当した会社は企業広告、 つまりブランド作りが多かったです。


聞き手

それは、代理店時代から意識されてましたか?


江上

いえ、独立して振り返ってみると、そういう仕事が多かったなという感じです。



ブランディングに欠かせない自分自身の「深堀り」

聞き手

そのように企業や商品の「ブランディング」を数多くやってこられて、 上手くブランド構築ができているケースには、どんな共通点がありますか?


江上

その会社が持っているコアの資質・本質に沿ったブランドを構築すれば、 それは残っていきます。
一方、無理をしていたり、違うことをやり始めると、 必ずどこかで支障をきたすように感じます。


聞き手

上手く行っていないケースの共通点は、コアの部分と沿っていない?


江上

きちんと自分たちの価値を深堀りしていない、形だけのブランディングですね。


聞き手

どうしたら企業は、自分たちの価値を深堀りできますか?


江上

深堀りするためには、「なぜ?」というのを繰り返し問いかけていきます。
結局、自分を探るしかありません。
何に喜ぶのか、何が喜びなのか、どうしたいのかと問いかけをしておかないと、 ブランディングがブレていきます。
面白いのはその人、その会社にとって、 真にチャンレジングであることというのは、基本的に「怖い」と感じます。
ただ「怖い」ということは裏返せばワクワクしているということでもあって、 予定調和的は現状維持には役立つけれど、飛躍に役立たない。
深堀りしつつ、どこにチャレンジするかという視点を持たなければ 拡大にはつながりません。


聞き手

その「恐さ」を、どう捉えるかということですね。
以前、江上さんの言葉で印象深かったのが 「結局ブランドは、経営者の決断だ」というものなのですが、 それはつまり、そこに対する決断ですか?


江上

そうですね。
たとえば富士山の方に行くと決めたら、 決断して一歩を踏み出さないといけません。
富士山の方に行きたいと思っているだけで、 富士山に行けるわけじゃない。
目指さなければ、目指すところには到達しないわけです。
ブランドも一緒だと思います。



ブランド構築に成功したポルシェ

聞き手

その決断の例として、ポルシェのお話がありました。


江上

ポルシェが90年代に打ち出したコンセプトに、 「壊れないプレステージ・スポーツカー」というものがありました。
それを使うに当たっては、当時のCEOが非常に厳しい決断をして、 その方向に行ったんですね。
当時のポルシェ製品の信頼性は、非常に低いものでした。 百万点の部品の内、一万点が不良品だったと言われています。
トヨタはその当時、百万点の部品の内、不良品は五点でした。
そのような状況下で、当時のCEOはこのままでは駄目だと 日本の車の工場に見学に行きました。
彼が大変ショックを受けたのは、トヨタもホンダも何も隠さず見せてくれて、 自分たちがライバルとも思われていないことだったそうです。
そしてポルシェの生産工程を根底から変えるしかないと決断し、 トヨタのカイゼン活動を支えたある日本のコンサルタントグループを招きました。


聞き手

プライドをズタズタにされたでしょうね?


江上

「話にならない」とバカ呼ばわりされながら、 それでもやらなきゃ駄目だと改善に取り組みました。
それが実って、2013年頃にアメリカの団体に品質調査をされたら、 ポルシェが世界一でした。
その前年はセルシオと並んでいて、それくらい品質が良くなっています。
ポルシェは「壊れないプレステージ・スポーツカー」というコンセプトを実現して、 現在では世界最高峰にいるわけです。


聞き手

なるほど。


江上

イタリアのトリノでフェラーリの工場も見学したことがありますが、 まるで工芸品のように造っていて、直感的に壊れやすいと思ったんです。
ポルシェも以前は同じでしたが、今は壊れません。
大赤字で追い詰められた結果かもしれませんが。


聞き手

おそらく、プライドの捉え方ですよね。
このブランドのプライドを保つためには、 自分の今のつまらないプライドを捨てろという考えでしょうね。


後篇へ続く

※掲載の記事は2016年7月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。