一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >八幡清信氏
【プロフィール】
株式会社OICHOC代表取締役/ブランドディレクター
八幡 清信氏
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 スタンダードトレーナー
セツモードセミナー美術科出身。26歳でデザイン会社「OICHOC」設立。2010年に法人化し代表取締役就任。18年以上の経営経験から、経営者の「想い」に寄り添うブランドデザインを目指す。社会貢献活動として「南三陸ねぎ応援プロジェクト」を創設。ブランディング事例コンテスト2018で大賞を受賞。
聞き手:ブランド・マネージャー認定協会 森永
聞き手
「南三陸ねぎ応援プロジェクト」とは、どのような活動なのでしょうか?
八幡
「南三陸ねぎ」は、宮城県の南三陸町と気仙沼市で栽培されているねぎの総称です。2011年に起こった東日本大震災以降、南三陸町では地域の雇用創出を目的として、塩害にも強いねぎが栽培されるようになりました。その後、気仙沼市でも栽培されるようになり、「南三陸ねぎ」というブランドが誕生しました。プロジェクトが動き出したのは、2017年から。「南三陸ねぎ」を全国に広め、南三陸町と気仙沼市を元気にすることが最大のミッションです。
聞き手
そもそも、なぜプロジェクトをはじめたのでしょうか。
八幡
震災後、南三陸町でボランティア活動をする中で出会ったねぎ農家の方に、「南三陸ねぎをブランド化したい」と相談されたことがすべてのはじまりですね。震災で、私は「災害時にはデザインは何の役にも立たない」ことを痛感しており、震災後は「人を助けるデザイン」とはなにかをずっと考えていたんです。そんな中、ねぎ栽培で町の復興を目指している農家「グリーンファーマーズ・宮城」のスタッフから、ねぎをブランド化したいという思いを告げられ、デザインの力で何かできないかと思ったんです。
聞き手
「南三陸ねぎ」にはどのような特徴があるのでしょう。
八幡
「南三陸ねぎ」は復旧農地を活用して栽培されています。津波被害を受けた土地は、塩分濃度が高くなってしまっているのですが、ねぎは「塩害に強い」野菜なので、栽培にはうってつけだったんですね。特徴は、緑の部分まで「甘い」ということ。仮説ですが、この土地の寒さや、海から吹く強い潮風によって甘みとミネラルが発達したのではないかと考えています。南三陸ねぎは常に潮風に吹かれているのですが、風速15メートル以上の風にあおられると、農作物は甘くなるらしいんです。これからは専門家も交えて、これらのエビデンスを得ていければと思っています。
聞き手
津波被害を受けた土地で栽培する野菜として、ねぎは最適だったのですね。具体的には、プロジェクトでどのようなブランディングをされたのでしょうか。
八幡
もともと南三陸は海産物が特産品でしたので、ねぎは認知度が低いという課題がありました。そこで、「南三陸ねぎ」のブランドアイデンティティーはいったい何かと考え、3C分析を行いました。さまざまな情報があがり、深谷ねぎや九条ねぎ、仙台曲がりねぎといった有名ブランドにどう立ち向かっていくかと考えたとき、まず浮かんだのが、「津波被害ののちに生まれたねぎである」というストーリーや農家さんのドラマ。これが非常に重要だと感じました。また、今は地方創生、社会貢献が叫ばれている時代。そんな中で、「不屈のストーリー」や「共感」「共創」といったキーワードを見つけ、ここにチャンスがあると思ったんです。
聞き手
なるほど。そうしたキーワードを見つけたことで、ブランドの形が明確になったわけですね。
八幡
また、ポジショニングマップで独自性を考えました。ねぎというと、やはり有名ブランドの特徴は「甘い」こと。ただ、甘いだけでは、他と一緒で差別化につながりません。たしかに「南三陸ねぎ」は甘くておいしいのですが、そこのみにフォーカスするのでは、弱いと思ったのです。そこで、「ブランド力」に対する「物語力」、「独創性」に対する「共創性」こそが強みになり得ると考えました。また、「南三陸ねぎ」は生産量が少ないため、現地に行かないと食べることができませんが、応援者がいるという独自性があります。こうして、「塩害を受けた土地でも育つねぎ」「津波に負けてたまるかの精神で困難から立ち上がろうとする南三陸」という性質から浮かび上がってきたものが、「不屈」というキーワードだったんです。この結果、「みなさんで育む『不屈のねぎ』」というブランドアイデンティティーになりました。ちなみに、「みなさん」は「南三陸」にもかかっているんです(笑)。
聞き手
「南三陸ねぎ応援プロジェクト」では、具体的にどのような活動をしているのでしょう。
八幡
基本は「クリエイティブによる東北復興支援」をコンセプトにしております。主な取り組みとしては、ウェブ、広告、商品のデザイン制作、動画の撮影、編集。ドローン撮影も自分たちで行います。さらには、ブログやSNSによる情報発信とファンの拡大、飲食店などとのコラボイベント、キャラクターの公募や制作……などを行っていますが、どこまでも「不屈のストーリー」を中心としたクリエイティブを心がけています。
また、「南三陸ねぎ」を通じた東北復興支援の形も考えてみました。ひとつは「自立型」で、もうひとつは「交流型」です。まず「自立型」についてですが、我々がクリエイターとしてできることは、認知拡大、認知価値向上によるブランド化だと考えました。それによって商品の価値が高まれば、収益率が向上します。その結果、生産量が拡大するので雇用も拡大していく、というわけです。また、「交流型」は、興味関心を向上させることで、現地には行けないけど関係している「関係人口」と現地に直接行く「交流人口」を増やしていくことを目指しています。
聞き手
幅広く活動されているのですね。活動の核となるポイントは?
八幡
ポイントは、「共創」ブランドということ。ひとつのメーカーが作るブランドではなく、みんなで作るブランドということです。クリエイターやファンが情報発信して広げ、それを企業が受けることでコラボレーションが生まれます。農家さんにお客さんの声が届き、企業とつながっていろいろな商品が生まれることで、そこからまたクリエイターやファンとつながっていく、というイメージですね。
聞き手
「南三陸ねぎ応援プロジェクト」は、実質的に何人ぐらいのメンバーで行われているのでしょうか。
八幡
プロジェクトのメンバーは6人です。それでは人手が足りないので、あとはサポーターという形で、認知拡大を助けてくれる仲間作りを行いました。初期のペルソナは、「社会貢献意識の強いねぎ好きのブロガー」。こうした方を対象に情報発信をした結果、全国のブロガーさんがサポーター証をブログにつけて発信してくれる、というサイクルが生まれ、最終的には550人以上のサポーターが集まりました。
聞き手
いわゆるインフルエンサーの方々からさらに拡大したわけですね。
八幡
また、ブランドのキャラクターも作成しました。「みなさんで作るねぎ」なので、公募という形を選びました。不屈というキーワードは、英語でいうと「NEVER GIVE UP」。そこから、キャラクター名が「ネギプー」と決まったんです。ネギプーは農協とのコラボポスターにも描かれたり、農家さん募集のチラシにも使われております。
聞き手
リアルのイベントも開催していますね。
八幡
やはり食べてもらわないとはじまらないので、「南三陸ねぎラーメンプロジェクト」を実施しました。広域八王子圏の4つの名店に依頼して、「南三陸ねぎ」を用いた限定メニューを開発してもらったんです。私が唯一注文をつけたのは「ねぎを主役に」ということだけでした。
聞き手
どのような結果になったのでしょう?
八幡
1カ月の開催で、4店合計で1500杯以上の注文があり、150万円以上の売り上げとなりました。1店舗につき1週間の開催というルールで、中には1週間で480杯の注文があったお店もあったようです。そのお店では、来店客の8割が新規客だったということで、このプロジェクトに興味を持っていただいた方がたくさんいたことが分かりました。また、スタンプラリーも開催したところ、全店制覇した方が我々の想定を5倍も上回る100人にのぼるなど、大成功に終わったイベントでした。
聞き手
「南三陸ねぎ応援プロジェクト」はどのような成果を生んだのでしょうか。
八幡
まず、ファン作りについてですが、北は北海道、南は沖縄まで、550人以上のサポーターを全国に拡大することができました。関係人口の拡大を目指していましたので、上々の結果を生むことができたと思います。また、中には実際に現地を訪れ、ボランティアをするサポーターもいて、交流人口の増加にも寄与することができたと捉えています。
聞き手
認知の拡大についてはいかがですか?
八幡
地元のテレビ番組や、地方紙などに取り上げていただいたほか、「ヤフー!ニュース」やラジオ番組、大手一般紙などにも取り上げられたことで、東京や宮城県内での認知拡大が図れたのではと思います。地域への浸透についても、南三陸町観光協会とのコラボイベントが実現したほか、南三陸復興応援大使の方にねぎアンバサダーに就任していただいたことで、さまざまな方を集めてねぎ料理を食べる「南三陸ねぎ大交流会」も開催できました。
聞き手
今後の計画を教えてください。
八幡
今後は、南三陸町内で、海産物や飲食店とのコラボを検討中で、ねぎを使った特産品をつくりたいと考えています。また、ねぎ農家さんと商品開発もはじめています。商品化実現に向けて、クラウドファンディングで資金集めにも成功しました。まずは、返礼品として南三陸ねぎを全国の支援者の方々にお届けする予定です。さらには、ファンと農家さんをつなげる仕組みや、ねぎをきっかけにして南三陸町に訪れる方が増えるようなツーリズムプランなども考案したいと考えています。
※掲載の記事は2019年4月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。