一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >深野勝氏
【プロフィール】
株式会社不二家 深野 勝 氏
1983年4月、株式会社不二家入社。菓子の開発・企画部門、洋菓子の営業やマーチャンダイザー、工場長などを歴任。
聞き手:ブランド・マネージャー認定協会 広報担当 光山
聞き手
カントリーマアムは1984年に発売されました。当時の商品開発の経緯とコンセプトを教えてください。
深野
当時、不二家は菓子の総合メーカーとして、チョコレート、キャンディ、ビスケットのそれぞれの分野でしっかりとした柱をつくっていこうという考えだったのですが、「ミルキー」などのキャンディの分野と比べて、ビスケットの分野は他社に遅れをとっていました。そこで社運をかけて、「ミセスガレット」「プチガトー」「カントリーマアム」の3つのビスケット商品を開発しました。3つの商品のうちの1つが、カントリーマアムだったわけです。
アメリカのビスケット専門店の焼きたてクッキーが日本にも進出してきて、ブームになっていたこともあり、アメリカンタイプのソフトクッキーを開発しようということになりました。焼きたてのソフトな食感をどう作っていくのかということが、開発の大きなポイントでした。
聞き手
カントリーマアムというと、食感が一番に想起されます。
深野
「外はサックリ、中はしっとり」という食感が一番の売りで、そこが他社も真似できないポイントだと思います。 一般的にロングセラーの商品は、他社も真似しようとするけれどもなかなかできないものだと思います。他社の商品を食べてみて、「ああ、これって○○に似ているよね」と思われる○○が、たいていロングセラーなのではないでしょうか。
聞き手
ロングセラーはかたくなにレシピを守り続ければ売れると思われがちですが、カントリーマアムについてはどうですか。
深野
品質改良は現在まで40回以上行っています。
聞き手
年に1回以上のペースですね。
深野
食感をさらに洗練し、良くしていこうという改良をし続けた結果です。また、経時による劣化を防ぎ、常においしく食べていただくというのも改良のポイントです。 私が入社2年目にカントリーマアムの開発部門にいたときも、先輩社員と毎日毎日100個ずつ試作品を作っては食べ、作っては食べ、改良していた思い出があります。
聞き手
「食感の追求」「経時変化の対応」という改良だけでなく、消費者の嗜好の変化に合わせて味を変えたりしたりもするのですか。
深野
品質改良の際は常に、現行品と改良品の比較の調査を消費者に対して行い、消費者の嗜好の変化に合わせた改良を実施しています。
聞き手
消費者の嗜好が、甘いものが人気になったから甘く変えてみた、という単純なものではないのですね。
深野
ええ。また、例えば「甘い」という指摘があったから甘みを落としてしまうと、雑味が出てしまってお菓子としてはおいしくなくなるということもあります。開発部門はそのバランスに気を使います。
聞き手
必ずしも消費者の意向に忠実になればいいわけでもないのですね。
聞き手
パッケージなどのブランド戦略も当時とは違うのですか。
深野
例えばロゴは英語からカタカナに、また大人のバニラ、大人のココアについては「国産小麦の」という表記を入れたデザインに変わっています。当時は各トレーにクッキーをそのまま3枚入れた状態で密閉していましたが、現在は個包装に変わっています。消費者の利便性もありますが、包装のバリア性(密封性)を高めて、先ほど言った経時劣化を防ぐという品質改良の一環です。
聞き手
「外はサックリ、中はしっとり」というコンセプトを変えたこともあるのですか。
深野
発売25周年に、既存の商品とは別に「カントリーマアム・クリスピー」という、サクサクな食感のハードタイプを作りました。パッケージなどでもサックリとした食感であるとうたっているのですが、カントリーマアムは固定のファンが多い傾向があって、思っていた食感と違うというご意見を多くいただきました。
聞き手
やはり従来のコンセプトが大事だということを感じられましたか。
深野
ええ、そういう共通認識は得られました。 ブランド拡張をするときに、「どこまでがカントリーマアムなのか」という線引きが社内でよく議論になります。「クリスピー(ハードタイプ)までは大丈夫だろう」という判断で発売しました。さまざまな意見がありましたが、今でも商品は続いているので、失敗とは言えないと思います。
聞き手
ブランド拡張で成功された事例は。
深野
商品として続いているという指標で考えれば、「カントリーマアムチョコレート」が一例ですね。期間限定商品でバニラ味以外の商品も展開しています。菓子業界には多い例です。
ただ、「カントリーマアム」のブランド拡張は、難しいと感じています。例えばキャンディの「ミルキー」は味に特徴があり、キャラクターもありますから、ブランド拡張はしやすいです。
しかし、カントリーマアムの特徴は、食感・味・チョコチップ配合という総合的なものですから、例えばドリンクなどほかのカテゴリーでは想起されにくい。
ただ、話題にはなりますので、ブランドの注目度は上がると思います。
聞き手
ブランド拡張の目的は、やはりチョコチップクッキーとしてのカントリーマアムという「本丸」の認知や親しみやすさを持ってもらうことですか。
深野
もちろんそうです。チョコチップクッキーとしてのカントリーマアムをきちんと改良し、認知を上げていかないと、ブランドを拡張した時に「どっちがカントリーマアムなの」「こっち(ブランド拡張したカテゴリーの商品)の方がおいしい」ということになりかねません。
聞き手
CMなどのプロモーション戦略について伺います。
深野
発売当初は社運をかけた商品だったので、CMなども大がかりに行っていました。アメリカのテレビドラマ「大草原の小さな家」のお母さん役だったカレン・グラッスルさんを起用したCMをご記憶の方も多いかと思います。当時のクリエイティブが非常にうまく作って、CMのイメージと製品の特徴がかみ合ったことがロングセラーにつながったと思います。
現在ではCMはスポットで年に2回放送する程度です。しかし社員はCMを何回も観ます。
言葉では表せないブランドイメージを社員が共有するということが大事で、商品開発のチームだけでなく、宣伝・広報・営業・生産など全社員が同じイメージを持つことで、共通したメッセージをお客様に送ることができます。
聞き手
今後のカントリーマアムの展望を教えてください。
深野
アメリカのお母さんの手作りのクッキーというブランドイメージは残しつつ、品質的には「外はサックリ、中はしっとり」という食感を維持していくことだと思います。 ただ、あまりそれにこだわっていてもいけないと思っています。新しいチャレンジはどんどんしていかないと。
聞き手
カントリーマアムの特徴である食感が変わるかもしれないということですか。
深野
このままでずっと売れ続けるのかというと、違うと思いますし、食感の改良を重ねていくだけでは、おのずと限界が来ると思います。新しいおいしさの提案をすることで、カントリーマアムも今とはまったく違う形態になるかもしれません。 ただ、今のところは、まだまだお客様に(今の)カントリーマアムを楽しんでいただきと思っています。
聞き手
最後に、ロングセラーになる秘訣について教えてください。
深野
お客様の期待を裏切らないことではないでしょうか。特にロングセラーは、固定のお客様にいかにリピートしていただけるかが重要で、そういった方が「あれ、ちょっと…」といって離れられてしまうと厳しい。コアなファンの期待に応え続けることでロングセラーになり、応えられなくなればそこで終わりという違いだと思います。