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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >扇野睦巳氏

経営理念の再構築”が異業種との「ミッションコラボ」を実現 ブランディングで社会課題解決へ

株式会社ファーストデコ 代表取締役 扇野睦巳氏

【プロフィール】

株式会社ファーストデコ
代表取締役 扇野睦巳氏

1970年生まれ。岡山県岡山市出身。結婚・出産後、子育てをしながら法政大学通信教育部経済学部商業学科へ進学し、ブランディング・マーケティング・経営・会計を学ぶ。2015年4月、中央大学大学院(MBA)への進学に伴い拠点を岡山と東京に構える。大学院ではSECIモデルを用いて100年企業のビジネスモデルイノベーションを研究。暗黙知を通じた実践的形式知化をデザインの領域に活用する。2015年5月に株式会社ファーストデコ設立。2017年10月、本社所在地を東京都千代田区大手町に移転。2019年度のブランディング事例コンテストでは「株式会社MJカンパニー/株式会社みかも」の事例でSDGs審査員特別賞を受賞。


聞き手:一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 ディレクター 能藤




ガソリンスタンド経営、中古車買取、桐下駄販売、カフェ経営……と幅広い事業を展開する、徳島県に本社を置く株式会社みかも。過疎地、少ない社員数……と地方の中小企業にありがちな条件の中、最大限の成果を得ることを目的として、株式会社ファーストデコは同社のブランディングに着手。地域活性化や貧困の子供支援などにつながる“社会課題解決型”の取り組みを実施し、2019年度のブランディング事例コンテストでは「SDGs審査員特別賞」を受賞しました。ブランディングの背景や内容、さらに最新の状況として新型コロナウイルスによる影響や対策などについて、ファーストデコの扇野睦巳氏にお話を伺いました。




先代の「生き様」「想い」紐解きインターナルブランディングを実施

聞き手

今日はみかもさんのブランディングについて、詳しくお伺いしていきたいと思います。ただ、今年の春先に新型コロナウィルスが席巻して、昨年の受賞当時とはかなり状況も変わって来ました。当時の状況と合わせて、コロナ発生後の新たな取り組みもお話しいただければと思います。


扇野

承知しました。今日はよろしくお願いします。


聞き手

ではまず、ブランディングに取り組んだ当時の状況について教えてください。


扇野

ブランディングは2017年6月からスタートしました。もともと、みかもさんはガソリン販売業を手掛けていたのですが、2015年には徳島県の伝統産業である桐下駄の製造工場を買い取り、ジーンズにあうおしゃれ下駄「みかも木履」のネット販売も開始していました。さらに、三代目の金村盟社長は、当時カフェ事業も開始したいと考えていました。ブランディングはそうした状況の中でスタートしたんです。



オンラインで行ったインタビューの様子。

聞き手

ガソリン販売事業、車関連事業のほか、桐下駄事業、カフェ事業……と、一見バラバラにも見えますが、どのような目的でブランディングに取り組まれたのでしょうか。


扇野

ガソリンスタンド経営の周辺需要である洗車やカーコーティング、レンタカー、中古車買い取りなどの事業は、高齢化や人口減少、電気自動車やシェアリングエコノミーの普及により衰退していくのは明らかでした。ただ、そうはいってもまだまだ需要がある事業であったこと、高齢化によって灯油配達事業は伸びる市場であると考えていたので、安易に捨てることはできないと考えていました。そこで、「いかに収益を落とさずに新しい事業を展開し、ビジネスモデルイノベーションにつなげるか」を目的としました。


聞き手

ブランディングに取り組むうえで重視したのは?


扇野

一見、バラバラに見えるガソリン販売業、車関連事業、桐下駄事業、カフェ事業を「どのようにみかもらしく展開するべきか」ということです。ブランディングは「過疎地で少ない社員数」という、地方の中小企業にありがちな条件でのスタートでした。そこで、こうした条件下でも最大限の成果を得るために、まずはインターナルブランディングを実施したんです。


聞き手

インターナルブランディングでは、具体的にどのような手法を採用されたのでしょう。


扇野

まずは経営理念を再構築するところからスタートしました。インターナルブランディングに先駆けて、金村社長が9歳のときに事故死した父親である先代社長の「生き様」や「創業の想い」などを紐解いていったんです。金村家の昔のアルバムや幼少期のエピソード、先代社長の手紙など、さまざまな資料を調べつつ、金村社長の記憶もたどり、「みかも」のDNAを探っていきました。


聞き手

なるほど、会社のルーツを探っていったわけですね。


扇野

はい。たとえば、先代が海外出張から金村社長にあてた手紙には、「今度日本に帰ったら一緒におでかけしよう」と書いてありました。家族でおでかけすることに、何よりも幸せを見出していたわけです。そうした情報をもとに、経営理念やビジョン、ミッションを策定しました。


聞き手

再構築した理念、ビジョン、ミッションはどのようなものですか。


扇野

理念は「出かける喜びを分かち合い、いつまでも楽しい人生を」です。そしてビジョンは「お互いの人生を認めあえる世界を創る」、ミッションは「健康で安全なおでかけを支援する」。これに伴い、事業ドメインもそれまでの「ガソリン販売業」から「おでかけ支援業」に変えました。ブランド・アイデンティティは「わくわくするお出かけが加速するオシャレな会社」です。





扇野

このようにブランディングを進めていたところ、時を同じくして、2017年の7月に岐阜県のNPO法人「はびりす」から「発達障害の子供たちのためのおしゃれなリハビリ下駄を作りたい」というオファーがあったんです。「はびりす」と「みかも」は、“子供たちの楽しいおでかけ”という目指す世界が一致していたので、“リハビリ用おしゃれ下駄”を共同開発することに決めました。こうしたミッションを同じくする異業種によるコラボである「ミッションコラボ」についてもっと研究したいと考え、新規市場開拓戦略も同時にスタートさせていったんです。


聞き手

既存事業を守りつつ、新規事業にも着手していったのですね。


扇野

はい。既存事業のガソリン販売業や中古車買取事業、みかも木履の販売などは「おでかけの足」として、守る領域にしたんです。そこに新規市場開発戦略である「リハビリ用おしゃれ下駄」を「おでかけの足を鍛える」という位置づけで加え、さらに多角化戦略として、2018年12月には「おでかけの場づくり」という位置づけで「みかも喫茶」をオープンした、という流れです。「みかも喫茶」は、金村社長の難病を背負った大学生の娘さんがいずれ活躍できる場にしたいという思いもありました。


聞き手

すべての事業が「わくわくするお出かけが加速するオシャレな会社」というブランド・アイデンティティに基づいているわけですね。


扇野

そうです。一見バラバラに見えますが、これらの事業は金村社長の生き様からくる強い願望を反映しているんです。ブランディングは、高齢化や過疎化、発達障害の子供の増加などの社会課題をいかに「みかも」らしく解決していくか、という思考で行われています。

ただ、新型コロナの影響は避けられず、カフェは4月下旬には休業してしまいました。しかし、「免疫力を上げよう」というコンセプトで、できる限りの予防策を講じて、5月には営業を再開しました。たとえば、席の間をあける、30分に一度アルコール消毒する、従業員の検温、手洗い、手袋とゴーグル眼鏡の着用、入口扉の開放、お客様従業員ともにマスクを着用するなどなど、金村社長のリーダーシップで、思いついた良いと思われることは徹底的にやっています。


「お出かけ」というキーワードと新型コロナ

聞き手

なるほど。ではここで、新型コロナに関連したお話しをこちらからもさせていただこうと思います。気になるのは「お出かけ」というキーワードです。4月から緊急事態宣言が発令され、5月下旬には解除されたとはいえ、まだまだ外出を自粛されている方が多い状況です。ブランド・アイデンティティを変えようということにはなったりしませんでしたか?


扇野

たしかに、コロナの前と後とでは、状況がすっかり変わりました。ただ、それでも「お出かけ」ということ自体が無くなることはありません。公共交通機関の利用は減っても、逆に車移動は増えるんじゃないでしょうか。

みかもさんがある地域は、過疎化が進んでおり、もともと車社会です。また、これからは「マイクロツーリズム」が主流になっていくと思います。「7割経済」といわれる状況では、車でのちょっとしたお出かけ、ちょっとした小旅行がレジャーの主流になっていくだろうと。その旅先は、自然豊かで、食べ物のおいしい、名物、名産がある地方になるのではないかと。
そう考えるとアフターコロナの状況は、むしろ追い風になるのではないかと考えています。

ただし、これはみかもさんに限った話ではないですが、これからは企業の「価値の再定義」が進んでいくでしょうし、実際にそうなっています。ビフォーコロナでは「環境」が非常に大きな関心事でしたが、今は「衛生」や「健康」という価値もより重要になっています。

さらに、都市圏の人々の「疎開ワーク」が増えていくと思います。これはテレワークの一形態で、出社せずに仕事ができるのであれば、そもそも都市圏に住んでいる必要もなくなります。自然豊かで食べ物がおいしい、田舎に住もうと考える人が増えていくでしょうね。


「子供の貧困」や「地域活性化」への取り組み

聞き手

2018年1月には、初の公開型方針発表会を開催されていますね。


扇野

発表会はブランド再認の機会として開催したもので、地元の企業や行政担当者、地元出身の元オリンピック選手などを招待しました。2019年1月にもメディア関係者を加えて開催し、みかもの方針発表や「はびりす」さんとのリハビリ下駄事業への想いと成果発表、ミッションコラボイノベーションの事例発表などを行っています。


聞き手

その際ロゴマークも刷新していますね。





扇野

社員さんの意見も取り入れながら刷新しました。「わくわくお出かけ応援団」というキャッチコピーもロゴマーク内に取り入れています。


聞き手

そして、2018年12月には多角化戦略として「みかも喫茶」をオープンします。狙いや施策について教えてください。


扇野

まず、ブランドのペルソナは「介護事業を営む62歳の斉藤浩さん」と設定しました。斉藤さんの長男は結婚しており、成長が心配な1歳の孫がいます。そんな斉藤さんが叶えたい夢は「家族で一緒におでかけをして楽しい人生を送る」こと。そこで、「みかも喫茶」を「おじいちゃんとおばあちゃんが孫と一緒に来られる体験型の下駄カフェ」と捉え、運転が苦手な人でも車で来られるように、広々とした駐車場や、バリアフリートイレなどを完備した店舗の設計に取り掛かりました。


聞き手

店内で桐下駄も直販しているのがユニークですね。


扇野

おしゃれ下駄や、「はびりす」さんと共同開発した、児童発達支援を目的としたリハビリ用下駄「ベンガラ下駄」までを取り揃えて展示、販売しています。スタッフも下駄を履いていますが、これは外反母趾を予防し、立ち仕事でも足が疲れないようにという思いからです。また、開店時間も、女性が無理なく働けるように平日は午前9時から午後5時までとしました。店で使用する食材は地元の農家と契約しており、コーヒー豆のカスと卵の殻は肥料として提供する環境循環型の取り組みも行っています。





聞き手

みかもの世界観が体験できるわけですね。オープン後の反響は?


扇野

“下駄とカフェ”というユニークな組み合わせや、地方創生、発達障害の子供支援という社会課題解決への取り組みが話題となって、地元のメディアの取材が相次ぎ、話題となりました。実際の客層は、ペルソナとして設定したような地元のシニア層が中心です。近所の方や家族と一緒に来る方が多く、地元のコミュニティとして機能している印象ですね。鼻緒が選べる桐下駄の展示販売も人気で、下駄目当ての50~60代の女性客も増加しています。


聞き手

ブランディングでは、SDGsを意識した取り組みを積極的に行われている印象を受けました。


扇野

“日本の「持続可能な開発目標実施指針」における「あらゆる人々の活躍の推進」「成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション」にフォーカスして、SDGsの「1.貧困をなくそう」「8.働きがいも経済成長も」「11.住み続けられるまちづくりを」の達成を目指しています。

一例を挙げると、「1.貧困をなくそう」については、子供の貧困対策として、初の新卒採用として、児童養護施設を卒所した子供たちの受け入れを実施しています。児童養護施設に預けられた子供は、卒所しても「住む場所がない、免許取得の費用がない、車が買えない」という問題に直面します。そこで、空室を会社の寮として活用し、ファイナンスについての勉強会や給与積み立ての補助サポートするといった取り組みを実施しています。

また、「11.住み続けられるまちづくりを」に関連した話ですが、今年の5月7日に車買取専門店「エムネット」をオープンしました。みかも本体から新規に立ち上げた事業部で、長年ガソリンスタンドで働いてきた社員さんの活躍の場として去年から準備を進めていました。今回のコロナ禍でも事業性と社会的意義が高いと見込み、オープンに踏み切りました。なにせ過疎と高齢化の町なので、高齢者が免許を返納した後、車を買い取ってほしいというニーズがかねてから非常に強かったんです。


今後の課題と展望

聞き手

今後の課題や展望などを教えてください。


扇野

課題のひとつは、下駄工場の職人さんの高齢化により、生産力の限界が危惧されていることです。ただ、過疎化と高齢化が進み、人材不足、後継者不足が深刻なのは地方全体に当てはまることでもあります。そこで私自身にとっての大きな課題として、地方の一次産業を支援できないか?ということを考えています。
地元の飲食店や行政も巻き込んで、埋もれている価値を発掘、発信していきたいですね。

その一つの手段として、先日、新たに「SDGs貢献型クラウドファンディング事業」をスタートしました(※)。商品が売れるのか売れないのかを判断するテストマーケティングを、ノーリスクで実施できることがクラウドファンディングの大きなメリットです。
また、その実績は公開されて、金融機関や行政からの評価でも加点対象になり、次の成長戦略のためのさらなる資金調達に役立ちます。

今まではBtoC、BtoBの業態が主流でしたが、これからはDtoC(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)がもっと加速するのではないでしょうか。
DtoCは、話題になっている割に成功例がまだまだ少ないと思います。この「SDGs貢献型」のクラウドファンディングで、アフターコロナに向かってDtoCによるビジネスモデルイノベーションが加速すると考えています。


聞き手

そう考える根拠をお伺いしても良いでしょうか?


扇野

はい。私は、コロナによって、結果的には世の中が良くなると考えています。私利私欲の地球をいったん強制終了し、痛みを伴って再起動できるんじゃないかと。
今までは、たとえば農業では、生産性を上げるために農薬を使うのが当たり前でした。ほかの業種でも、大量生産・大量消費・大量廃棄が前提の経営戦略、早い・安い・便利という過剰な顧客満足追及によって、環境破壊や低賃金・低福祉・長時間労働といったトレードオフが起き、持続不可能な社会が進行してきたわけです。

アフターコロナ社会では、自分さえよければいいという人や、社会や環境に配慮できない企業は、時代から選ばれない会社として淘汰されていくのではないでしょうか。
しかし、その一方で、常日頃からよりよい未来を信じ、例えば生産者であれば、無農薬で、敢えて手間暇をかけて、環境にも人にも想いを馳せて頑張ってきた方々は何としても救わねばと思っています。

私は大学院時代に、とある限界集落の6次産業化にチャレンジしましたが、成果を出すことができませんでした。その原因は、いきなり多くの人を巻き込もうとしたからではないかと推測しています。まずは、同じような志を持った方と数名のプロジェクトチームを組み、小さな成功体験を積み重ねながら少しずつ巻き込んでいくことが必要なんだと感じています。

このSDGs貢献型クラウドファンディングでは、同じ志を持った異業種の方々とのミッションコラボによって、DtoCの取り組みを支援することができると思います。「売り手良し、買い手良し、世間良し」の、ウィン・ウィンならぬトリプルウィンを広げていきたいですね。



※ プレスリリース 社会課題を解決するSDGs貢献型クラウドファンディング事業をスタートします。
 (株式会社ファーストデコ 2020年5月22日)
  https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000049967.html