一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >長田敏希氏
【プロフィール】
株式会社ビスポーク 代表取締役CEO/ブランドコンサルタント・クリエイティブディレクター
長田 敏希氏
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会2級資格取得者
世界三大広告賞のカンヌライオンズ、The One Showを始め、D&AD、NY ADC、iF デザイン賞、グッドデザイン賞、毎日広告デザイン賞など国内外の受賞多数。「能登輪島米物語」で2018年度ブランディング事例コンテスト準大賞を受賞。 https://bespoke-inc.jp
聞き手:ブランド・マネージャー認定協会 森永
聞き手
「能登輪島米物語」とは、どのようなプロジェクトなのでしょうか?
長田
「能登輪島米物語」は輪島市からお話をいただいたプロジェクトです。輪島のお米農家9社が連携して開発したお米の詰め合わせ商品を、どのようにブランディングして売っていくか、ということを目的としています。
聞き手
どのようなきっかけでプロジェクトがスタートしたのでしょうか。
長田
私は5年程前から東京農業大学で地域ブランディングや商品開発の授業を行っていて、そこの卒業生である山本亮さんが「地域おこし協力隊」という制度で輪島市で活動を始めました。そこでの最初のお仕事が、輪島のお米農家9社のお米をプロデュースする、というものだったんですね。ただ、そのようなプロジェクトの場合、補助金を使ってパッケージを作り、一時的な形で終わってしまうことが多いのですが、ブランド構築は継続して取り組んでいく必要があります。
聞き手
9社のお米という商品企画はすでにあり、そこからのスタートだったわけですね。
長田
はい。商品企画はできていたので、それをどう売ればいいか、相談を受けました。そこで、まずはブランド・アイデンティティを設定することから始めました。コアになる部分を作ることが成功の鍵になるので、まずはそこを設定するためのチームビルディングからスタートしました。
聞き手
ブランドを作るために、具体的にはどのようなことをしたのでしょう。
長田
まずは3C分析を行いました。自社と顧客と競合の視点からキーワードを抽出して、コアになる部分を導き出す作業を進めました。考えた末、競合の分析と自社の特徴を知るために、炊飯器を11個並べて、9社のお米と世の中で流行っている魚沼産のコシヒカリやスーパーで売っている価格の低いお米をシャッフルして試食してもらいました。商品を売るためには相手を知ることがとくに重要なのですが、農家の方たちは自社の商品しか食べたことがない人が多く、自社商品と他社商品の差異や特徴を、客観的に捉えたことがないということが最も大きな気づきでした。まずは相手を知る、ということの重要性を理解してもらえたことが良かったと思います。
聞き手
なるほど。その他には何をされたのでしょうか。
長田
対話をする機会を作り、まずは「自分たちが集まっている意味はなんだろう」ということを話し合いました。そこで出てきたのは、「輪島の文化と価値をもっと知ってもらいたい」ということ。また、高齢になり、継いでくれる人がいないという課題も浮き彫りになり、次世代をどう育てていくか、ということもテーマになっていきました。
聞き手
そうした対話などを経て、何が見えてきたのでしょうか?
長田
分析を進めていった中での発見は「お米ってどんなものともコラボレーションできるよね」ということです。たとえば「お米プラス輪島の塩」「お米プラス輪島塗の器」「お米プラス輪島の風景」……今回はお米のみを売る商品ではなく、お米を軸にしながら、輪島のおかずや文化をクロスさせ、他の商品と戦うのではなく巻き込んでいこうよ、ということをテーマにしました。
聞き手
ペルソナはどんな人を設定したのでしょう。
長田
今回のプロジェクトではご高齢の方が多いので、ペルソナという言葉はその場では使いませんでしたが「自分たちの商品を最大評価してくれるお客様は誰だろう」と話し合いました。様々なデータやヒアリングから、都内から輪島に来て、田舎の風景を楽しみたい人は多いということがわかり、そこで今回は、小さいお子さんがいる家族をペルソナにしました。都内でずっと暮らしている、という設定だったので「田舎にあこがれがあるのでは?」などといったストーリーを設計し、その家族に対してどのようなアプローチが良いかをブレイクダウンしていく形で戦略を作っていきました。
聞き手
ペルソナにはどういうアプローチをしようと決めたのですか?
長田
田舎にあこがれる家族に対してもっと輪島を知ってもらえる商品が作れたらいいのではとポジショニングを考えていきました。その結果「お客様にこういうふうに思ってもらいたい」という価値として目指したのが、素朴さやあたたかさ、食を含めた輪島の文化です。ブランド・アイデンティティは「おかずで旅する輪島のお米」と決まりました。
聞き手
ブランド・アイデンティティは商品にどう反映されたのでしょう。
長田
まずデザインについてですが「おかずで旅する輪島のお米」という部分を、どのようにロゴマークに体現できるかシミュレーションしていきました。そこで、マークはお米の形状をベースにして、そのお米の中に輪島の山や海があり、旅人が輪島塗の茶碗を持って輪島の風景、文化を旅している……というデザインにしました。
聞き手
ブランドストーリーも作られていますね。
長田
我々は商品だけではなくストーリーも知ってもらいたいと思っているので、ブランドストーリーを作るようにしています。ストーリーを作ることは、お客様にどのような思いで作っているのか知っていただくために、有効な手法だと思います。
聞き手
パッケージも工夫を凝らしたデザインですね。
長田
パッケージの各側面には、生産者のお米に対するこだわりや思いが書いてあり、さらに、農家の方たちが選んだ、お米に合う輪島のおかずも描いてあります。そのおかずはそれぞれの農家のみなさんにインタビューさせていただき、決まりました。自社のお米の性質や特徴を踏まえたうえで、おすすめのおかずを教えていただいて、面白かったですね。さらに、パッケージを9個並べると箱の絵柄が全部つながっていて、旅人が輪島の風景や文化を旅しているようなデザインになっています。お米とおかずはセットでもご購入いただけるようになっており、コンセプトがしっかり商品につながる形に設計しています。
聞き手
その後の展開を教えてください。
長田
あとは「商品をどう体験させるか」が重要になると考えました。そこで始めたのが、季節の物語体験です。これは実際に輪島に来てもらい、輪島塗の茶碗にごはんをよそい、風景を味わいながら食べてもらう……ということができるツアーです。ほかにも、稲刈り体験、田植え体験などを通して、輪島の文化を知ってもらいながら食べる、ということも行いました。
聞き手
なるほど。
長田
そして、輪島の朝市にも門戸を開いていただきました。朝市ではふぐなどが買えるのですが、その場で食べられるところはそれまでありませんでした。そこで今回、買ったふぐなどを七輪で焼いて、その場でごはんと食べられるという、贅沢な体験ができる場が誕生しました。
その他、空港や観光エリアのスポットなどでも商品を販売してもらえるようにしたところ、どんどんファンが増えてきました。しっかりビジョンを作って説明をすれば、ファンが集まっていく。それがブランディングを行った強みだったのかなと思います。実際、今ではおみやげ屋や展示会にも出品しており、取引先も増えていますね。
聞き手
「能登輪島米物語」プロジェクトの成果を教えてください。
長田
プロジェクトを始めた後は、返品率は限りなくゼロになりました。さらに、石川県の有名旅館がギフト商品に選んでくださったり、セレクトショップやオンラインストアでも取り扱っていただいたりして、おかげさまで売り上げが拡大しております。
聞き手
今回、ブランディングで大事にしたことは何でしょうか?
長田
私たちが大事にしていることは、ブランドを作るチームみんなでワークショップなどを行い、共通認識を作ることです。チームとして共通認識を作ることで、一貫した取り組みと継続したプロモーションを作ることができます。思いが伝播していくことで、関係者にも広がっていくということが重要なのかなと思います。
聞き手
今後の展開を教えてください。
長田
今は旅行会社などと連携して、「能登輪島米物語」をフックにしたツアーを計画中です。「作って終わり」ではなく、継続してどのように育てていくか、それがブランディングの重要なことだと思っています。
※掲載の記事は2019年5月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。