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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >日本赤十字社 Vol.1

日本赤十字社が、「もっとクロス!計画」でブランディングに乗り出した – 第一話

日本赤十字社 Vol.1 同社企画広報室 広報主幹 畑 厚彦氏 同社 企画広報室 佐藤 理恵子氏

聞き手:一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 岩本俊幸


日本赤十字社が、「もっとクロス!計画」でブランディングに乗り出した(前篇)

聞き手

まず、日本赤十字社が2007年から実施している「もっとクロス!」の活動を詳しく教えてください。


計画スタートの背景

日本赤十字社企画広報室

日本赤十字社(以下、日赤)は現在9つの事業を展開しています。日赤の一番大きな強みは世界的なネットワークで、世界189カ国、国内に442の拠点があります。
国内の職員数は6万2000人と非常に大きな組織になっていますが、だからこそ、意識を統一するのが難しいという課題がありました。

「もっとクロス!計画」を始める前の2004年に、一般の方たちに日赤の認知度に関するアンケートを行ったところ、「日赤のことをあまりよく知らない」「自分とは直接関わりがない」という回答が、20代、30代を中心に多く寄せられました。このことは、私たちにとって大変大きなショックでした。
そのころ、血液センター、日赤支部、日赤病院、社会福祉施設、看護専門学校などのロゴマークは統一されていませんでした。使い方や条件の取り決めもなく各所が勝手に作ってしまったため、それらが同じ日赤の事業であると意識されていなかったことが原因だったのです。

そうした背景から、ブランディングの必要性を痛感し、「もっとクロス!計画」が発足したのです。“クロス”とは日赤のロゴ、社員同士の連携、さらには世界と、社会と“クロス”するという思いが込められています。
日赤は「苦しい立場におかれた人たちに手を差し伸べます」ということを第一義としていますが、その反面、あまり社会とクロスする機会が持てていませんでした。

その他に企業とのクロス、いわばパートナーシップです。企業から寄付金や社費(会費)を長年頂いてきましたが、一緒にコラボレートする取り組みができていませんでした。
「もっとクロス!計画」はこれらの課題を解決するための一大プロジェクトだったのです。
まずは、最も基本である社内で「もっとクロス!」することを目下の目標として活動を開始しました。



社内でクロス!

日本赤十字社企画広報室

日赤支部では、災害救護、救急法の普及、ボランティア関係の活動などを行っています。日赤病院は災害時には医者や医療救護の派遣なども行いますが、基本的には地域病院と同じ地域医療の機能を果たします。また、血液センターでは献血を行い、製剤化して病院に供給します。福祉は市町村からも資金を頂いて福祉活動をしています。このように事業が多岐にわたることもあり、同じ日赤社員であっても他の事業には意識が向いていませんでした。
社員が日赤全体の事を知らなくては、外の人たちに活動を伝えていくことなどできるわけがないのです。

6万2000人の職員が同じ意識を持てば、強い組織づくりにつながります。トップの近衞忠煇社長も先陣を切って手書きのメッセージを掲げ、「もっとクロス!計画」の意義を訴えたことで、さらに結束力を生み出しました。
全国442の全拠点に社内ポスターを配布し、あらゆる施設に貼ってもらいました。また、社内向けニュースレターも作成し、全拠点に配信しました。


理念とツールの統一

日本赤十字社企画広報室

そうして機運を高めつつ、まず行ったことはミッション・ステートメントの作成、コーポレート・スローガンの作成、ロゴマークの見直しでした。

各国の赤十字社や国際赤十字社はきちんと自分たちのミッション・ステートメントを持っているのに、それまで日赤だけ持っていなかったのです。組織はきちんとしたミッション・ステートメントを公表し、社会に対して約束しなければなりません。それは外に対する表明でもあり、自分たちの共通理解にもなります。
そこで立てられたのが「わたしたちは、苦しんでいる人を救いたいという思いを結集し、いかなる状況下でも、人間のいのちと健康、尊厳を守ります」というミッション・ステートメントです。
それを踏まえ、「人間を救うのは人間だ」というコーポレート・スローガンを作成しました。

さらに、統一したロゴマークを作成し、封筒・名刺、ウェブページなどで、統一したデザインを使用するようにしました。

次に広報マインドの向上です。病院、センター、支部等の広報担当者を対象に基礎セミナーを行い、さらにスキルアップセミナーも行いました。そして広報担当者の提案を的確に判断できるよう、マネージャー向けのマネジメントセミナーも行いました。
セミナーは事業内容が多岐にわたるため、事業の壁を越えて共通意識を持たせるためにも役立ちました。



日本赤十字社企画広報室

その一つの成果として、広報担当者で「広報マニュアル」を作成することができました。広報の基本的な考え方や目標、あるいはニュースリリースの書き方、写真の撮り方など、今まであまり意識していなかった部分をより明確に、わかりやすく統一することにしたのです。印刷物のレイアウト方法、写真のサイズや撮り方、ニュースリリースのタイトルの付け方など、具体的な内容を含んでいます。また、メディアの記者の取材への対応の仕方にも触れています。
自社の理解だけでなく、それを発信するスキルも高めていくこと、さらに今までは掲載をためらっていた小さな出来事でも積極的に発信していくように促しました。



表彰制度で事例共有

日本赤十字社企画広報室

優れた広報活動を表彰する「もっとクロス!大賞」も年に1回開催しています。
ニュースリリースを出してたくさんのメディアがきてくれた、イベントを開催してこんな人たちに来てもらったなど、いろいろな事例を集め、それらを評価すると同時に共有化する機会をつくるこのイベントはすでに6回を数えています。

2011年第3回大会では、石巻市の日赤病院が銀賞を受賞しました。その1週間後に東日本大震災が襲ったのです。


未曽有の大震災を世界へ伝える

日本赤十字社企画広報室

これは石巻の日赤病院職員が実際に撮影した映像です。



日本赤十字社企画広報室

地震の混乱の中、このように撮影ができたことに驚くかもしれませんが、この2日前に起きた地震時に、撮影準備が出来ていなかったことから、その反省でカメラを用意していた矢先の出来事だったそうです。

広報の担当職員が撮影している中、病院全体がそれを批判することなく理解を示してくれていたということが、広報マインド向上の影響だと思っています。

石巻日赤病院では、どんな取材が来ても決して断らず、むしろその力を活用しようと、全職員の共通認識として徹底していました。応援職員にも広報活動に協力を求め、全てのミーティングにメディアも同席しました。
「石巻赤十字病院は、震災直後の混乱の中でも取材を受けたことで、多くのメディアが被災地の状況を全世界に発信できた」と各メディアからも高く評価されました。



日本赤十字社企画広報室

また病院内の食料が底をついた時も、メディアを通じて救援物資の提供を訴えました。その結果、全国から大変多くの食料や救援物資を送っていただきました。情報で命を救ったわけです。
こうした広報活動は海外にも発信され、世界中で報じられました。それは日本への支援にも大きくつながっています。


第二話へ続く

※掲載の記事は2016年5月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。