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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー > 野村 恭子氏

ブランドを進化させ続ける“3つの法則”とは?
「Air ビジネスツールズ」10年間の試行錯誤と成果

株式会社リクルート野村 恭子

Profileプロフィール

株式会社リクルート
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会トレーナー

青森市出身。
一橋大学社会学部卒業後、1996年株式会社リクルートに入社。
人事部採用グループで採用広報の制作業務などを経験し、社会人学習領域で季刊誌の編集デスクを経て Webサイトのリニューアルプロジェクトに参画、2007年に編集長に就任する。
その後「ホットペッパービューティー」「じゃらんnet」などのアライアンスチームを統括。
2014年から『Airレジ』をはじめとしたSaaS事業でマーケティング、PR、ブランド周りの業務を担当する。
現在はAirブランドマネジメントグループで、「Air ビジネスツールズ」全体のブランド担当者を務める。
「『Airレジ』のブランディング」で2019年度のブランディング事例コンテスト準大賞を受賞。
2023年度のブランディング事例コンテストでは「『Air ビジネスツールズ』のブランディング」で最優秀賞・準大賞を受賞。

株式会社リクルートが展開する業務・経営支援サービスの総称である『Air ビジネスツールズ』。
POSレジアプリの『Airレジ』からスタートし、10年間で17サービス(※2023年11月時点)にまで拡大を続けています。
これらサービスのブランディングを担当する同社の野村恭子氏は、スタートから10年間にわたって試行錯誤を繰り返した末、ブランドを進化させ続ける“3つの法則”にたどり着いたと語ります。
「Air ビジネスツールズ」のブランディングについて、野村氏にお話を伺いました。

“空気のように”事業者を支える「Air」

Q. 本日は、2023年度のブランディング事例コンテストで最優秀賞と準大賞を獲得した「『Air ビジネスツールズ』のブランディング」についてお話をお伺いできればと思います。
まずは「Air ビジネスツールズ」とは何か、教えてください。

「Airビジネスツールズ」とは、リクルートが提供する業務・経営支援サービスの総称です。
複数のアプリやWebサービスを組み合わせて使うことを事業開始当初から構想していたので、AirID ひとつですべてのサービスを使えます。
また、デザインもブランド体験もすべて統一されています。

サービス内容をいくつかご紹介すると、たとえばPOSレジアプリの「Airレジ」、決済サービスの「Airペイ」、採用管理サービスの「Airワーク 採用管理」、資金調達サービスの「Airキャッシュ」などがあります。

「Air」ブランドについてお話します。
「Air」のブランディングは、ブランド・ステートメントをベースに実行しているので、ビジョン、ミッション、バリューを非常に大事にしています。
ブランド・ステートメントは「意思決定の際にすべての従業員が思い浮かべられるかどうか」が最も重要だと考えています。
ブランド・ビジョンは「商うを、自由に。」です。

このビジョンには「事業を営むすべての人が、心のままに、何にも阻害されずに、自分の思い描いていることを実現できるように」という想いが込められています。
事業の現場には毎日、大切でやらなければいけないけれど煩わしいことがたくさんあります。
私たちのサービスでそんな煩わしさを少しでも減らし、物理的、心理的負担が軽くなったその先に、事業者の方が思い描いていることを実現できる世界をつくりたい。
こうした想いから生まれたのが「Air ビジネスツールズ」なのです。

ブランドステートメント

そして「Air」という言葉には、「まるで空気(Air)のように、あたりまえに、使う人が存在を意識しないほど、毎日の業務の中で自然な存在でありたい」という思いが込められています。
空気のように存在を意識させずに事業者を支えていく、それがAirブランドのDNAだと思います。

airレジ開始から10年

「Air ビジネスツールズ」10年間の成果

Q. 「Air ビジネスツールズ」のこれまでのブランディングの成果について教えてください。

まずサービス数は、2013年に始めた1サービスから現在17サービスまで拡大しました。
サービスの数が多ければいいというわけではありませんが、先行したサービスのブランディングがうまくいっているからこそ、後続のサービスが続くことができたのではないかと思います。
次に、アカウント数です。
2014年の10万から346万(※2023年9月末時点)まで伸長しました。
そしてブランド認知率は、最初に提供を開始した『Airレジ』で、2014年から2023年にかけて約10倍に伸長しています。
最後に経済効果ですが、「Air ビジネスツールズ」のサービスを使ったことで煩わしさを削減できたとされる時間は年間2172万時間、削減した人件費は年間230億円となっています。
「Air ビジネスツールズ」を利用する事業者は、この削減できた時間とお金を新たなチャレンジや投資に充てています。

こうして数字だけ見ると「大企業だからできたことだよね」と思われるかもしれませんが、私にはこの10年間、真摯に向き合い続けてきた問いがありました。
それは「どうすれば経営から投資を獲得し続けられるのか」「どうすれば従業員のブランドへの愛着を高め続けられるのか」「どうすればブランド・マネージャーとして必要とされ続けるのか」です。

そして10年間、この問いと向き合い続け、たどり着いた“3つの法則”が「『どう事業貢献するのか?』を論理的に示し続ける」「『何のために?』『何を目指す?』を情熱を持って伝え続ける」「すべてのステークホルダーに信頼してもらう努力をし続ける」だったのです。

そして10年間、この問いと向き合い続け、たどり着いた“3つの法則”が
1.『どう事業貢献するのか?』を論理的に示し続ける
2.『何のために?』『何を目指す?』を情熱を持って伝え続ける
3.すべてのステークホルダーに信頼してもらう努力をし続ける
だったのです。

たどり着いた法則Q

たどり着いた法則A

“3つの法則” にたどり着いた背景とは?

Q. “3つの法則”にたどり着くまでの課題や経緯について、教えてください。

まず、1つめの「『どう事業貢献するのか?』を論理的に示し続ける」からご説明します。
確か2017年だったと思いますが、ある施策の投資決裁者から「ブランディングが大事なのはわかる、でもそこに投資したら売り上げ上がるの?」と言われたんです。
この言葉は私の心に深く刺さり、それから2年間かけてブランディングのビジネス貢献を定量化しました。

具体的には、1人の人の頭の中にあるイメージをイメージ総量として、『Airレジ』のビジネスKPIであるアカウント数との相関を証明したのです。

ブランディングのビジネス貢献を定量化

このグラフにより社内の空気は一変し、確かにブランディングの重要性は伝わりました。
ただ、私はこれだけだと不足だなと感じていたのです。
そこで、「Airレジ」のデータだけではなく、他のサービスのデータでも証明できないか、さらにアカウント数の手前にあるパラメーターの「利用意向」や「推奨意向」にも相関が見出だせないか、と考えました。
それが証明できれば、打ち手の幅が飛躍的に広がると思ったわけです。
そこで私たちは、日頃行っているブランディングの活動について、「それが推奨意向と利用意向に結び付くのか、結び付くとしたらどんなブランド・イメージが寄与しているのか、そしてそれはどんな接点で押し上げられるのか」を丁寧に検証していきました。

その結果、ブランディングによるイメージ総量の増加は、利用意向や推奨意向の上昇に寄与することがわかり、さらに、寄与するブランド・イメージまで特定できたのです。
これにより、「イメージ総量」という言葉を共通語にできるようになりました。
「定量化」は、難しいことは多々あるけれど、ランディングを「聖域」にせず、諦めずにやってみることが大切だと思います。

次に、2つめの「『何のために?』『何を目指す?』を情熱を持って伝え続ける」についてです。
実は『Airレジ』のリリースから半年後に急激な組織拡大があり、創業時のスタンスや大切にするマインドが共有されづらくなるなど、組織コンディションが悪化した時期がありました。
そのときに創業者とブランドステートメントを策定。
ただ、策定するだけならどんな人でもできます。
大切なことは、ステートメントの背景や込められた思いを、ストーリーにして伝え続けることなのです。
私たちは、Airの事業に新規参画する人に向けて毎月「Air Orientation」という研修を行っています。
この研修では、ブランド・ステートメントの成り立ちや、ビジョン、ミッション、バリューに込めた思い、何を目的に事業を始めたのか、などを創業当時のエピソードも交えながら、自らの言葉で毎月伝えています。

ブランドステートメント策定

また、2018年には、増えたサービス間でコミュニケーションに溝が生まれたこともありました。
そのときはブランド・ビジョンムービーを作って、自分たちは「事業者のために存在している」ということや「どんな世界をつくりたいのか」という思いを映像で表現しました。
自分達の日々の仕事の意義が、左脳だけではなく右脳でも感じられるといいな、と思ったのです。
このムービーによって従業員の気持ちが同じ方向に向いたような気がします。
情熱は人の気持ちを動かすことができる。
上層部の意向を汲むだけではなく、自分が作りたい世界を明確に持ち、情熱的に伝えることで、人は動いてくれるのだと思います。

ビジョンムービー

最後の「すべてのステークホルダーに信頼してもらう努力をし続ける」です。
2017年に、Air ビジネスツールズに関する制作物をすべてチェックするオンラインのブランドレビューを始めました。
現場からは「レビューが大切なのはわかるけど、正直に言うと負担もある」という声がありました。
そこで私たちは、レビュー自体を意味あるものにするために現状を徹底的に可視化し、半期ごとに振り返って品質を担保しながら現場の負荷を下げる施策を打っていきました。
さらに、弊社から発注されて、広告用のバナーを制作している広告代理店に対してもブランド勉強会を実施するなど、Airのブランドに関わるさまざまな人に意義を伝える努力もしました。
その結果、「レビューは「あたまえ」という文化が根付き、レビュー数は累計で3190件(※2023年10月時点)にもなったのです。

現状を可視化

振り返ってみると、試行錯誤してたどり着いた3つの法則「論理的に、情熱を持って、信頼してもらう努力をする」は、古代ギリシャの哲学者アリストテレスが提唱した、人を動かすための三要素「ロゴス、パトス、エトス」と同じであると気づきました。
これこそが「ブランディングが普遍的なものである」証拠と言えるのではないかと思います。

※掲載の記事は2024年1月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。

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