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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー > 八幡 清信氏

チームブランディングで“オンリーワン”の魅力を発見
低迷する理容業界で売り上げ増を実現した
「OTOKO DESIGN」の施策とは?

株式会社OICHOC八幡 清信

Profileプロフィール

代表取締役/ブランドディレクター
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 トレーナー

セツモードセミナー美術科出身。
26歳でデザイン会社「OICHOC」設立。
2010年に法人化し代表取締役就任。
経営者の「想い」に寄り添うブランドデザインを目指す。
社会貢献活動として「南三陸ねぎ応援プロジェクト」を創設し、2018年度ブランディング事例コンテストで大賞を受賞。
「理容室OTOKO DESIGNのブランディング」で、2022年度ブランディング事例コンテストで大賞受賞。

低単価化や深刻な人手不足など、課題が山積している理容業界。
そのような状況で、埼玉県新座市の理容室「プレミアムヘアーサロンKOTOBUKI」では新ブランド「OTOKO DESIGN」を創設し、売上高170%アップを実現。
スタッフ数もブランディング前の160%アップを果たすなどめざましい成果を生み出しています。
「OTOKO DESIGN」の取り組みとはどのようなものなのか、ブランディングを担当した株式会社OICHOCの八幡清信代表取締役にお話を伺いました。

otokodesignロゴ

スタッフ全員で“内側”を深堀り

Q. 本日は、埼玉県新座市にある「プレミアムヘアーサロンKOTOBUKI」が立ち上げた新ブランド「OTOKO DESIGN」についてお話をお伺いできればと思います。
まずは理容業界の現状とブランディングの背景について教えてください。
まず理容業界の現状からご説明します。
理容業界は「1000円カット」に代表されるように、低単価化が激しい業界です。
理容所数、理容専門学校の入学者数は共に減少しており、理容専門学校の2020年の卒業者数は全国で500人台にまで落ち込んでいます。
理美容師の年収も129職種中119位と低迷しており、待遇面で見ると、働く魅力が薄い業界であることがわかると思います。
そのような状況のため、深刻な人手不足となっており、現在は若い理容師を奪い合う形になっています。

それはKOTOBUKIも例外ではなく、ブランディング前は客層の95%が既存顧客で、6割が60代以上という状況でした。
採用は、年間を通してゼロです。
中に目を向けると、お店では「育毛コース」をプッシュしており、ウェブサイトのトップページには育毛のビフォー&アフター写真がたくさん並んでいました。
2014年のころは、店内はピンクを基調とした内装で、雑然としていたそうです。
こうした状況を変えるために、「先代の築いてきた文化」と「それを受け継ぐ後継者の思い」の両者を生かしたブランディングが求められていたわけです。
そこで2019年から、ブランディングに取り組んでいきました。
店内
Q. ブランディングでは、どのようなことから着手したのでしょうか?
まずインターナルブランディングに取り組んでいきました。
手始めに何をしたかというと、創業者を中心としたものではなく二代目であるチーフデザイナーの三島さんを中心に、8時間にわたるチームブランディングを実施したのです。
そこでは、パート、ヘアスタイリスト、広報担当者、経営者らが一丸となって徹底的に意見を出し合いました。
あえて創業者以外のスタッフ全員で、自分たちの「内側」を深掘りするワークを実施したわけですね。
二代目は、創業者の想いを引き継ぎつつも新しい風を吹き込み、サロン全体をブラッシュアップするためには、それが最善だと判断したのです。創業者もそれを見守りました。

そして、ブランディングの先に描くゴールイメージをチーム全体で共有し、ブランドミッション、ブランドビジョン、ブランドバリューを策定していきました。
さらにブランディングの基礎となる経営理念を見直し、3C分析などブランド・マネージャー認定協会のステップを活用して魅力を絞り込んでいきました。
ペルソナは「美意識が高い40代経営者」と決定しました。

すると、そこである事実に目が止まったんです。
まず世界を見渡してみると、アメリカを中心に「ネオバーバー」と呼ばれる現代的な床屋が増えていました。
いわば“バーバーブーム”が到来していたのです。
そして、実はKOTOBUKIでは、ヘアスタイルの発信地であるロサンゼルスへ定期的に社員旅行を実施しており、バーバーやセレブを相手にする美容師のもとで情報を仕入れ、技術を学び、最新のヘアデザインを直輸入していたわけです。

私が「なぜ海外まで行って、最新のデザインリサーチをするのですか」と質問すると、KOTOBUKIは「お客様のオトコ度を上げることで、自分に自信を持ってもらいたいから」と答えられました。
そのときに「KOTOBUKIのオンリーワンの魅力は、育毛技術の高さではなく、男のブランド力をアップするデザインセンスではないか?」と気づいたのです。
そこでブランド・アイデンティティは「自分ブランドを高め、プレミアムな男を作る洗練されたデザイナー」と決めました。

LA_FREEX

Q. ブランド・アイデンティティを定めてからの具体的な取り組みを教えてください。
情報をステートメントにまとめ、ブレのないブランド作りに取り組みました。
さらに等級評価制度を見直し、ブランドに合わせて役職名を再定義したんです。
その目的は、ブランドの社内浸透を強化し、従業員のモチベーションを上げるためです。
さらに「デザイナー」の名称を積極的に採用し、ユニフォームのリニューアルも行いました。

世界観を構築して一貫したアウトプットを設計

Q. エクスターナルブランディングの取り組みを教えてください。
エクスターナルブランディングでは、ブランド要素やブランド体験を設計していきました。
まずは「オトコを上げるデザイナー」ということで、ブランド名を「OTOKO DESIGN」と決定。
KOTOBUKIというショップブランドはそのまま活かしつつ、先代に配慮して“サービスブランド”という位置づけで新たに「OTOKO DESIGN」というブランドを作ったわけですね。

ロゴを作り、商標登録もしました。
また、新しいブランドでは、理容師の刈り上げ技術とアイロンパーマが最大限に生かせるロサンゼルス直輸入の「FADEカット」を全面的にプッシュしました。
この「FADEカット」は、簡単に言うとグラデーションの効いた刈り上げなのですが、そこにアイロンパーマの技術を使うことによって、さまざまなバリエーションのヘアスタイルを生み出すことができるのです。

さらにブランドコンセプトをもとに、一貫したアウトプットを設計していきました。
キャッチコピーは「オトコを上げろ。」です。
そしてブランドの世界観を構築したので、ブランドサイトやブランドムービー、ブランドブックを制作するなど、ブランドメッセージを明確に発信することを重視しました。
さらに世界観を統一するため、店内の内外装にも手を加えたほか、名刺や専門学校に配るためのブランドブックなどの営業・採用ツールにも一貫性を持たせることを意識しました。
さらにロイヤルカスタマー戦略として、プレミアム会員カードを導入することも決めました。

ブランドブック

Q. 実際に取り組まれたプロモーション戦略があれば教えてください。
SNSプロモーションを実施しました。父の日に合わせて、お父さんの「オトコ度」を上げる企画を実施したんです。
具体的には、Instagramで8万人のフォロワーを持つインフルエンサーを起用して、「父親と疎遠になっていた娘が、お父さんに“ダンディー”をプレゼントする」というブランデッドムービーを制作しました。
このムービーは、YouTubeでなんと9万5,000回の再生回数を達成しました。

また、スタイリング剤のニューブランドも作りました。
床屋さんが、スタイリング剤まで作ってしまったわけです(笑)。
「LA FREEX」という商品で、ロサンゼルス直輸入のデザインを大切にしている「OTOKO DESIGN」なので、商品ブランドネームに「LA」を冠したのです。
この商品は商標登録もしています。

LA_FREEX

ブランディングで売上と新規採用が大幅にアップ

Q. ブランディングの成果について教えてください。
生活衛生サービスはコロナ禍で大変な打撃がありましたが、あえてコロナ前の2018年とコロナ禍の2022年の実績を比較してお伝えします。
まず売上高は、ブランディング前の2018年から170%アップになりました。
また、カットメニューの料金は3,800円から7,000円と184%もアップしましたが、年間顧客数は約700人ものアップを達成しました。
さらに年間ロイヤルカスタマー数を見ると、年間5万円以上使っている方は176%アップ
そして顧客単価も、154%アップと大幅増を実現しています。
商品売り上げも202%アップし、利益は228%アップとなりました。
コロナ禍にもかかわらず1カ月に100名以上の新規集客を達成し、緊急事態宣言の影響で一時は売上減になりましたが、その影響はわずかに留まりました。

次に新規採用については、ブランディング前はゼロだったのですが、この3年間で新たに6名の採用が決まり、スタッフ数も160%アップしました。
業績が上がれば、当然社員にも還元ができます。
たとえば社員Aさんの給料は、2018年時の34万円からブランディング後は47万円と、138%アップしています。
練習など時間外労働が多い業界ですが、2年前に入社した女性社員の方は、ブランディング後は20時半には完全帰宅できており、さらに有給休暇もどんどん活用していると話しています。
二代目の三島さんは、こうしたKOTOBUKIの働き方の水準や技術水準をバーバー業界に広めたいと考えており、「週休3日、最低年収800万円以上」という欧米のバーバーの水準を目指しています。

三島さんが考えているのは、「OTOKO DESIGN」の事例を単に1店だけの成功に留めるのではなく、業界活性化につなげること。
その一環として、2022年11月には、約1.5万人が来場したビッグイベント「TWBC2022」のビジネスセミナーでブランディングについて講演も行っています。
また、1冊丸ごとOTOKO DESIGNが特集された業界誌では、余すことなく技術情報を開示しており、さらに全国で開催される業界向けのセミナーにも数多く登壇し、業界活性化のために積極的な情報共有を行っています。

key_visual

Q. 現在の課題と、今後の展開について教えてください。
このような「OTOKO DESIGN」の成功は、理容業界全体にも大きく波及し、現在は影響を受ける店舗が増加しています。
こうした状況を見ると、業界の活性化につながっていると言えるのではないでしょうか。
ただ、似たような競合店が増加することで優位性が低下する懸念があるため、これからはいかにブランドを守り、発展させるかが残された大きな課題だと思います。
今後の展開については、2023年に2店舗目のオープンを予定しています。
中長期的な目標としては、2032年までに直営5店舗、ロサンゼルス1店舗の開業を目指しています。

※掲載の記事は2022年12月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。

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