一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >桜田 圭子氏 Vol.3
聞き手:一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 岩本俊幸
【桜田氏のプロフィール】
1975年東京都生まれ。
広告代理店を経て、2000年宝島社入社。
以来、PR・販促などに携わる。
07年からは、広報の責任者および全出版物のマーケティングを行う。
08年に早稲田大学大学院商学研究科(MBA)修了。
書店員を招いた印刷工場見学ツアーや、「宝島社書店」など、
書店応援キャンペーン企画も担当。
2011年3月マーケティング本部新設とともに現職。
聞き手
現在ファッション誌9誌を刊行しファッション誌トップシェアということですが、2010年10月末に同時創刊した『GLOW(グロー)』と『リンネル』の手応えはどうですか。
桜田
同時創刊した2誌ともが成功するのは異例のことですが、おかげさまで『GLOW』『リンネル』共に部数を伸ばしています。『GLOW』は創刊号で30万部を発行しましたが、おかげさまで4日間で完売しました。銀座松屋さんに協力していただき、“『GLOW』はすべての40代女性へのプレゼント”というコンセプトを表現するため、百貨店の壁面を大きなプレゼントに見立てた巨大な屋外広告を実施しました。40代の女性400人にルビーをプレゼントするというプロモーションも行い、いろいろなメディアに取り上げて頂きました。
聞き手
30万部を4日で完売とはすごいですね。宝島社の活況を見ると本当に不況なのかと思ってしまいます。
桜田
読者が何に価値を感じるのかをきちんと考えることが大切だと思っています。
聞き手
出版業界全体の現状としてはどうとらえていますか。
桜田
電子書籍の話がよく出ますが、出版社の財産は書店流通が使えることだと思っています。もちろん、企画力やコンテンツを作る力は大前提ですが、異業種が参入できない、出版社だけが持っている財産というのは実は出版流通なのです。多分、それにあまり気づいていないのは出版社だけで、他の業界は出版流通がいかに魅力的かにすでに気づいています。実際に他業種とコラボレーションしたCDやDVD、オモチャ、などもかなり売れています。雑誌や書籍を定期的に買う本好きのお客さまだけではなく、普段書店へ行く習慣のないお客様にとっても書店に足を運ぶきっかけになっていて書店さんもそれをとても喜んでくださっています。
聞き手
顧客満足を充足させるものであれば本以外のものもありですよね。
桜田
競合誌は何ですかと取材などではよく聞かれますが、競合は雑誌とは限りません。例えば、『sweet(スウィート)』の競合は?と聞かれたら「スターバックスのトールラテ」と答えています。つまり、お客さまがお金と時間を使う価値があるととらえているものすべてが競合なのです。雑誌を好きな人をターゲットにすれば、『sweet』の競合は他社の女性誌かもしれません。ですが、弊社は雑誌を読んでいないノンカスタマーもターゲットにしています。弊社が読者を拡大していることで、今まで本屋さんに行かなかったお客さまが書店に足を運んでくださる「機会の創出」に貢献しているのではないかと思います。
聞き手
書店の活性化につながりますね。
桜田
そもそも、書店の集客数を増やさないと全体の底上げにはなりません。弊社では書店さんを盛り上げる「書店応援キャンペーン」という企画を行っていまして、「宝島社書店」という書店店頭のプロデュースも行っています。「宝島社書店」では「ブランドムックR」のバッグやポーチなどのサンプルをハンガーラックで展開して、お洋服とコーディネートできるように姿見を置いて販売したり、最近ではアロマの香りや音楽を流して五感に訴えるエモーショナルマーケティングの手法を取り入れたりもしています。
聞き手
「書店応援キャンペーン」や「宝島社書店」というアイデアはどこから発想されたのですか?
桜田
書店員さんは毎日時間に追われてお忙しいのにとても職業意識が高くて、本や雑誌が大好き!という方々が多いので、どうやったらこの方たちに貢献できるのだろう…、何かサポートできることや喜んでいただけることはないかなとみんなで考えて、実現しました。2010年の春からスタートした「宝島社書店」は、書店さんからのオファーも続々と増えています。スタートした2010年は、紀伊國屋書店福岡本店さん、リブロ池袋本店さん、紀伊國屋書店ゆめタウン博多店さんと23店舗の実施でしたが、2011年8月には、全国のTSUTAYAさん約370店舗で同時開催もしていただきました。現在は、店頭展開ツールと、ハウツーマニュアルを書店さんへお届けして、全国の書店さんに実施していただいています。
聞き手
一般のメーカーが流通に働きかけるときのそうした販促手法を、出版業界はこれまでやってこなかったのですね。
桜田
出版社は、出版物を「文化」としてとらえているだけで、「商品」として“売ること”をタブーとみなす意識がこれまであったのかも知れません。ですが、お金を出してお客さまに買っていただくものなので、良いものを作るだけではなく、商品としての付加価値をより高め、きちんと分かりやすくお客さまに伝えて、その価値を認めていただかなくてはならないと思います。
聞き手
ほかの出版社に真似されませんか。
桜田
そのような考え方は、どんどん真似して頂きたいと思います。
聞き手
「宝島社書店」はメーカーのアンテナショップのような情報の受発信機能もあるのですね。
桜田
もともとはそういうショールームのような旗艦店を作りたいと考えていました。そんな折、紀伊國屋書店さんから「20坪のコーナーで何か一緒にやりませんか」というありがたいお話があったので実現しました。ユニークな取り組みだということでいろいろなメディアにも取り上げていただき、パブリシティ効果も大きかったですね。でも、それ自体は目的ではなくて、書店にお客さまを呼び戻す手段なのです。今までお客さまではなかった方たちに、書店の魅力を知っていただき、足を運んでいただくことが一番の目的なのです。
聞き手
書店が売れることで出版社も潤うというWIN WINの発想ですね。
桜田
そうですね。そういう考えは全社的に共通の意識として持っています。この「書店応援キャンペーン」は1社だけが成功しても業界全体が縮小しては何の解決にもならないので、業界全体の活性化につなげたいですね。
聞き手
まさに宝島社は4Pマーケティングミックスを実践していますが、今後、考えている取り組みとかありますか。
桜田
やはり、出版流通を応援する企画を続けていきたいと思っています。書店さんを味方につけるために、2009年の4月には、書店の販売員さんをリムジンで凸版印刷の工場見学にご招待しました。毎日、雑誌を売っている方たちに、どうやって雑誌ができるのかを知っていただきたいと思い、その過程を編集長が案内するという企画を立てました。雑誌の編集長というのは一般的には近づき難いイメージがあると思いますが、そのような場を設けることで、弊社の商品を売ってくださっている書店員さんに親近感や愛着を持っていただけるのではないかと。
聞き手
大人の工場見学ツアーとか増えていますものね。
桜田
やはり商品に関するストーリーが分かった方が、より愛着が持てると思うのです。どんな人が作っているのか、どういう風に作られていくのか、その背景が見えるともっと興味を持っていただけると思います。
聞き手
仕事、プライベートで日頃から気をつけていることはありますか。
桜田
企画を考える際には、常にその企画が「一言で言えるか」ということに気をつけています。例えば、「書店員がリムジンで工場見学」というように、Yahoo!のトップページに13文字でいかに収まるかということをいつも考えています。そういったキャッチーな企画は、メディアも興味を持ちますし、結果的に口コミも広がりやすいです。
聞き手
コピーライティングですね。マーケティング、あるいはマーケティング会議には何が最も必要だと思われますか。
桜田
社長からは、「リスクをとるのがマーケティングだ」と言われています。逆に言えば、リスクをとれなければマーケティングはできないということだと思います。弊社のマーケティングがうまくまわっているのも、宝島社という企業風土によるところが大きいですね。マーケティングは誰か一人の担当者がやるものではなく、社員みんなの知恵を出し合っていくものです。まず、上下の垣根をなくして、モノが言いやすい環境でなければマーケティング会議はうまくいかないと思いますね。
聞き手
そこで挫折する人が多いですよね、組織の壁で。
桜田
そうなのです。いろいろな出版社の方からも、「宝島社のマーケティング会議を真似しているがぜんぜんうまくいかない」とよく相談されます。トップの方が必ずコミットしたり、上の人たちに対しても反対意見が言える土壌を醸成したり、まず、社内の風通しをよくすることから始めた方がいいのではとお答えしています。フラットに自由にものが言える風土がなければよいアイデアがあったとしても、なかなか実現できないですよね。
聞き手
そうですね。宝島社のように実際に成功している会社のよいところはどんどん真似するべきですね。今日は非常に勇気がわくお話をありがとうございました。
※掲載の記事は2015年2月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。