ジビエで大学発の地方創生に挑戦
話題を呼んだ「ジビエラーメン」「ジビエレザー」を
生み出した
「IPU Gibier」のブランディングとは?
株式会社ファーストデコ扇野 睦巳氏
Profileプロフィール
株式会社ファーストデコ 代表取締役
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 トレーナー
1970年生まれ。
岡山県岡山市出身。
結婚・出産後、子育てをしながら法政大学通信教育部経済学部商業学科へ進学し、ブランディング・マーケティング・経営・会計を学ぶ。
2015年4月、中央大学大学院(MBA)への進学に伴い拠点を岡山と東京に構える。
大学院ではSECIモデルを用いて100年企業のビジネスモデルイノベーションを研究。
暗黙知を通じた実践的形式知化をデザインの領域に活用する。
2015年5月に株式会社ファーストデコ設立。
2017年度のブランディング事例コンテストで大賞並びに中小企業庁長官賞、2019年度は、件の事例が共にSDGs審査員特別賞、2022年度は「IPU Gibier(ジビエ)のブランディング」で中小企業庁長官賞受賞。
地方で野生鳥獣による被害が深刻な社会問題となっている現在。
捕獲された野生動物はほとんどが焼却処分されているのが現状ですが、こうした状況を見て、岡山市の環太平洋大学(IPU)では「地元の社会課題解決」を目的としてジビエを活用したブランド構築に着手しています。
「IPU Gibier」というブランドを生み出した同大学のブランディングとははたしてどのようなものなのか、株式会社ファーストデコ代表取締役の扇野睦巳氏にお話を伺いました。
「地元の社会課題解決」を目的にブランド構築がスタート
Q.
本日はブランディング事例コンテスト2022で中小企業庁長官賞を受賞のジビエを活用した社会課題解決型ブランド「IPU Gibier」についてお話をお伺いできればと思います。
まずは、今回のブランディングの背景について教えてください。
まずは、今回のブランディングの背景について教えてください。
私は2021年9月から岡山市の環太平洋大学(IPU)でブランド戦略論とマーケティング特論を担当しており、今回の「IPU Gibier」というブランドは大学発の地方創生を目的として、ブランド構築の8ステップを活用して取り組んだものです。
令和4年2月の農林水産省の発表によると、野生鳥獣による農林水産被害額は161億円にのぼるなど、地方では深刻な社会課題になっています。
環境省の調査によれば捕獲されるイノシシやシカは年々増加傾向にありますが、ジビエ料理として利活用されるのはそのうち1割程度で、皮のほとんどは廃棄物として捨てられているのが現状です。
環太平洋大学の周辺もシカやイノシシが大量に生息し、周辺の畑を荒らすといった被害が多発しており、岡山市では年間4000頭のイノシシが焼却処分されています。
そこで、2021年9月からスタートしたブランド戦略論の授業は「地元の社会課題解決」を目的として、ブランド構築に取り組みました。
また、文部科学省が推進しているESD(Education for Sustainable Development/持続可能な開発のための教育)も意識し、ジビエを通じて、命の大切さを伝えることも狙いとしています。
令和4年2月の農林水産省の発表によると、野生鳥獣による農林水産被害額は161億円にのぼるなど、地方では深刻な社会課題になっています。
環境省の調査によれば捕獲されるイノシシやシカは年々増加傾向にありますが、ジビエ料理として利活用されるのはそのうち1割程度で、皮のほとんどは廃棄物として捨てられているのが現状です。
環太平洋大学の周辺もシカやイノシシが大量に生息し、周辺の畑を荒らすといった被害が多発しており、岡山市では年間4000頭のイノシシが焼却処分されています。
そこで、2021年9月からスタートしたブランド戦略論の授業は「地元の社会課題解決」を目的として、ブランド構築に取り組みました。
また、文部科学省が推進しているESD(Education for Sustainable Development/持続可能な開発のための教育)も意識し、ジビエを通じて、命の大切さを伝えることも狙いとしています。
Q.
授業でブランド構築はどのような形で進めていったのでしょうか。
ブランド戦略論やマーケティング特論の授業で用いる指定テキストにブランド・マネージャー認定協会発行の「ブランド・マネージャー資格試験公式テキスト」を使用し、5人から10人までのグループを編成してそれぞれテーマを選び、講義の前半はテキストに沿った理論と事例紹介を行いました。
講義の後半は、グループワークによってブランド構築の8ステップに則って進めていきました。
学生にとっては架空のブランド構築はイメージがつかみづらいため、実際にグループで考えたブランドを形にして、ブランド体験シナリオに則った体験イベントを地元企業の協力のもと実施することをゴールと決めました。
理論を覚えるといった認知教育だけではなく、体験を通じた非認知教育によって、リーダーシップややり抜く力、コミュニケーション能力など将来に役立つスキルを実装することも目的にしました。
そして、2021年度後期ブランド戦略論で9グループのうちの1グループが「ジビエレザー」をテーマにしたことから、大学周辺で捕獲される害獣の捕獲、と殺、解体の様子を実際に現地で見学するフィールドワークを計画しました。
ジビエレザーは、食肉として消費された野生動物の皮をアップサイクルしたレザーのことです。
偶然にも、環太平洋大学(IPU)の1期生で食肉加工場を運営している株式会社どんぐりの石原佑基代表とご縁がつながり、フィールドワークを実施することが実現しました。
このフィールドワークを通じて、学生に「レザーだけではなく、肉や骨も活用したい」という思考の変化が生じたんです。
私たちを取り巻く外部環境では、近年畜産が問題視され、国内自給率を上げることも急務になっています。
そこで、学生と考えたジビエレザー商品やジビエ料理がブルーオーシャンであることに着目し、環境に配慮した「娘にあげたいジビエレザー商品」と、健康に配慮した「娘と食べたいジビエラーメン」作りに挑戦することになりました。
講義の後半は、グループワークによってブランド構築の8ステップに則って進めていきました。
学生にとっては架空のブランド構築はイメージがつかみづらいため、実際にグループで考えたブランドを形にして、ブランド体験シナリオに則った体験イベントを地元企業の協力のもと実施することをゴールと決めました。
理論を覚えるといった認知教育だけではなく、体験を通じた非認知教育によって、リーダーシップややり抜く力、コミュニケーション能力など将来に役立つスキルを実装することも目的にしました。
そして、2021年度後期ブランド戦略論で9グループのうちの1グループが「ジビエレザー」をテーマにしたことから、大学周辺で捕獲される害獣の捕獲、と殺、解体の様子を実際に現地で見学するフィールドワークを計画しました。
ジビエレザーは、食肉として消費された野生動物の皮をアップサイクルしたレザーのことです。
偶然にも、環太平洋大学(IPU)の1期生で食肉加工場を運営している株式会社どんぐりの石原佑基代表とご縁がつながり、フィールドワークを実施することが実現しました。
このフィールドワークを通じて、学生に「レザーだけではなく、肉や骨も活用したい」という思考の変化が生じたんです。
私たちを取り巻く外部環境では、近年畜産が問題視され、国内自給率を上げることも急務になっています。
そこで、学生と考えたジビエレザー商品やジビエ料理がブルーオーシャンであることに着目し、環境に配慮した「娘にあげたいジビエレザー商品」と、健康に配慮した「娘と食べたいジビエラーメン」作りに挑戦することになりました。
ジビエラーメンの試食会が話題に
Q.
実際のブランディングでは、具体的にどのようなことに着手されたのでしょうか?
まずペルソナを、社会や環境、そして次世代に貢献したいと考えている51歳女性に決定しました。
また、ブランド・アイデンティティは、「~ジビエから生きるを学ぶ~ 人にも環境にも動物にもやさしい、楽しい日常」とし、ブランド要素は、ネーミングを「IPU Gibier」と決めました。
さらに、「人間のエゴで奪った命を、大切にしてくれる人の元へ届けたい」というパーパスを組み合わせたカードを作成し、ジビエラーメンのプロトタイプを試食会で配布しました。
また、ブランド・アイデンティティは、「~ジビエから生きるを学ぶ~ 人にも環境にも動物にもやさしい、楽しい日常」とし、ブランド要素は、ネーミングを「IPU Gibier」と決めました。
さらに、「人間のエゴで奪った命を、大切にしてくれる人の元へ届けたい」というパーパスを組み合わせたカードを作成し、ジビエラーメンのプロトタイプを試食会で配布しました。
Q.
ジビエラーメンとジビエレザーの反響はいかがでしたか?
「ジビエラーメン」の試食会は、ジビエ料理の第一人者や、製麺業、カフェ経営者など、地元の中小企業経営者の協力によって実現しました。
実施した結果、この取り組みは大変に新規性があるとして、テレビや新聞で大きく取り上げられることになったんです。
地元の経済紙でも紹介され、2022年度の大学のパンフレットにも掲載されたことから、学内外に急速にこの取り組みが浸透していきました。
ジビエレザーについては、事業が終了した後も継続的に商品作りに取り組めるようになりました。
東京都墨田区の二宮五郎商店さんに鹿革でできたカップスリーブ作りを依頼し、ロゴを学生のラフをもとに生物多様性を表現するものにアップデートして制作し、商標登録も完了しました。
カップスリーブは、ペルソナが娘とお揃いでファッションアイテムのように持ち歩ける商品であることを意識して制作し、9月から東京ソラマチに出店したところ話題になり、地元誌に掲載されるなど大きな反響がありました。
また、企業からの応援購入の問い合わせも相次ぎました。
こうした売り上げの一部は、子供向けのジビエの食育イベントに充当しています。
このカップスリーブ作りと並行して、孫を抱きたいと夢見ているペルソナに向けたジビエレザー商品として「ファーストベビーシューズ」を考案しました。
「これから幸せな人生を歩んでほしい」という願いを込めたもので、この企画は昨年5月に開催された「第4回SDGs提案グランプリ」でも優勝することができました。
また、ベトナムでは男の子が好まれるという習慣が残っているようで、男女を意図的に産み分けることが社会課題となっているそうです。
このファーストベビーシューズは、別の社会課題にも切り込んでいます。
こうした習慣作りを日本からベトナムに広げ、世界の習慣作りにも取り組んでいきたいと思います。
こうした実績がつくれたのも、日本人とベトナム人の混合チーム、そして、世代も肩書も飛び越えたコラボレーターの方々とのダイバーシティ・インクルージョンの成果だと感じています。
実施した結果、この取り組みは大変に新規性があるとして、テレビや新聞で大きく取り上げられることになったんです。
地元の経済紙でも紹介され、2022年度の大学のパンフレットにも掲載されたことから、学内外に急速にこの取り組みが浸透していきました。
ジビエレザーについては、事業が終了した後も継続的に商品作りに取り組めるようになりました。
東京都墨田区の二宮五郎商店さんに鹿革でできたカップスリーブ作りを依頼し、ロゴを学生のラフをもとに生物多様性を表現するものにアップデートして制作し、商標登録も完了しました。
カップスリーブは、ペルソナが娘とお揃いでファッションアイテムのように持ち歩ける商品であることを意識して制作し、9月から東京ソラマチに出店したところ話題になり、地元誌に掲載されるなど大きな反響がありました。
また、企業からの応援購入の問い合わせも相次ぎました。
こうした売り上げの一部は、子供向けのジビエの食育イベントに充当しています。
このカップスリーブ作りと並行して、孫を抱きたいと夢見ているペルソナに向けたジビエレザー商品として「ファーストベビーシューズ」を考案しました。
「これから幸せな人生を歩んでほしい」という願いを込めたもので、この企画は昨年5月に開催された「第4回SDGs提案グランプリ」でも優勝することができました。
また、ベトナムでは男の子が好まれるという習慣が残っているようで、男女を意図的に産み分けることが社会課題となっているそうです。
このファーストベビーシューズは、別の社会課題にも切り込んでいます。
こうした習慣作りを日本からベトナムに広げ、世界の習慣作りにも取り組んでいきたいと思います。
こうした実績がつくれたのも、日本人とベトナム人の混合チーム、そして、世代も肩書も飛び越えたコラボレーターの方々とのダイバーシティ・インクルージョンの成果だと感じています。
Q.
以降の「IPU Gibier」の展開について教えてください。
2022年4月にスタートしたマーケティング特論でも同様に、グループワークによってブランド構築を行い、12グループのうち3チームが「IPU Gibier」の商品ブランドとして試食イベントに挑戦しました。
そこでは、たとえば独自性を追求したアスリート向けの「ジビエパスタ」や、提供の仕方が独特な「カップ入りジビエパスタ」、さらにパン生地に玄米パウダーを入れた「ジビエカレーパン」が誕生しています。
高級レストランでしか食べられないイメージのジビエ料理を学食でカジュアルに食べることができる試食イベントを開催したことで、学生だけではなく、学長先生や多くの先生方にもご参加いただくことができ、全体の90パーセントが満足したという結果になりました。
今後は、本格的に商品化に向け動くとともに、ジビエレザーを用いたキャンプ用チェアの商品も考案しています。
このように、2021年後期のブランド戦略論で誕生した「IPU Gibier」の思いは2022年前期のマーケティング特論や2022年後期のブランド戦略論の受講生にも引き継がれるなど、商品ブランド誕生の連鎖が広がっています。
先日行われた卒業式では、全体で844人もの卒業生がいる中で、、ブランディング事例コンテストに出場したメンバーの男子学生さんの NGO BAO LONG(ゴーバオロン)さんが現代経営学科の学位記を代表で授与され、学長賞は、女子学生さんの LE HUONG LY(レフオンリー) さんが受賞しました。
表彰状の内容に、中小企業庁長官賞受賞が盛り込まれていたのが大変嬉しかったです。
4月からは特任准教授としてゼミを持つことになりましたので、大学のスローガンである「夢、挑戦、達成」を体現できるような社会課題解決型ブランドづくりを行っていきたいと考えています。
そこでは、たとえば独自性を追求したアスリート向けの「ジビエパスタ」や、提供の仕方が独特な「カップ入りジビエパスタ」、さらにパン生地に玄米パウダーを入れた「ジビエカレーパン」が誕生しています。
高級レストランでしか食べられないイメージのジビエ料理を学食でカジュアルに食べることができる試食イベントを開催したことで、学生だけではなく、学長先生や多くの先生方にもご参加いただくことができ、全体の90パーセントが満足したという結果になりました。
今後は、本格的に商品化に向け動くとともに、ジビエレザーを用いたキャンプ用チェアの商品も考案しています。
このように、2021年後期のブランド戦略論で誕生した「IPU Gibier」の思いは2022年前期のマーケティング特論や2022年後期のブランド戦略論の受講生にも引き継がれるなど、商品ブランド誕生の連鎖が広がっています。
先日行われた卒業式では、全体で844人もの卒業生がいる中で、、ブランディング事例コンテストに出場したメンバーの男子学生さんの NGO BAO LONG(ゴーバオロン)さんが現代経営学科の学位記を代表で授与され、学長賞は、女子学生さんの LE HUONG LY(レフオンリー) さんが受賞しました。
表彰状の内容に、中小企業庁長官賞受賞が盛り込まれていたのが大変嬉しかったです。
4月からは特任准教授としてゼミを持つことになりましたので、大学のスローガンである「夢、挑戦、達成」を体現できるような社会課題解決型ブランドづくりを行っていきたいと考えています。
実績を作り「必要とされるブランド」に
Q.
今後の課題や展望について教えてください。
まず課題ですが、ひとつはブランドづくりに関する経費が挙げられます。
一部、大学からの補助はあるものの、ほとんどは私が自費で実施しているのが現状です。
これは、プロジェクトが結成されたばかりで大学からの予算獲得に時間を要することや、自治体や国からの補助金が対象外だったり、期間の縛りがあったり……と柔軟に活用できないことが原因です。
ただ、補助金が使えないからあきらめるというのではなく、実現可能にするにはどうすれば良いか、そのプロセスも含めて教育コンテンツにしていくため、教える側が率先して汗を流すことを信条としています。
まずは、ブランディング事例コンテストなど、学外での受賞歴や販売実績を作り、学内外で認められ、必要とされるブランドに育てていきたいと考えています。
昨年12月には大学のある瀬戸地区で地元の猟友会や生産者の方々との交流会を開催しました。
また、ブランディング事例コンテストで中小企業庁長官賞を受賞したことで地元テレビのSDGs特集で紹介されたり、岡山市長を表敬訪問したりといった機会に恵まれ、受賞による反響を実感しているところです。
長期的な展望としては、環太平洋大学という名の通り、ベトナム人をはじめニュージーランド人、フィジー人、タイ人といった国際色豊かな留学生が受講生の約半分を占めているという国籍構成なので、それを活かしたいと考えています。
少子高齢化の日本を救うためにも、多子若齢化の国の若者たちへ向け、親日の感情づくりとして、日本のブランディングの一環として、継続的に取り組んでいきたいと考えているところです。
一部、大学からの補助はあるものの、ほとんどは私が自費で実施しているのが現状です。
これは、プロジェクトが結成されたばかりで大学からの予算獲得に時間を要することや、自治体や国からの補助金が対象外だったり、期間の縛りがあったり……と柔軟に活用できないことが原因です。
ただ、補助金が使えないからあきらめるというのではなく、実現可能にするにはどうすれば良いか、そのプロセスも含めて教育コンテンツにしていくため、教える側が率先して汗を流すことを信条としています。
まずは、ブランディング事例コンテストなど、学外での受賞歴や販売実績を作り、学内外で認められ、必要とされるブランドに育てていきたいと考えています。
昨年12月には大学のある瀬戸地区で地元の猟友会や生産者の方々との交流会を開催しました。
また、ブランディング事例コンテストで中小企業庁長官賞を受賞したことで地元テレビのSDGs特集で紹介されたり、岡山市長を表敬訪問したりといった機会に恵まれ、受賞による反響を実感しているところです。
長期的な展望としては、環太平洋大学という名の通り、ベトナム人をはじめニュージーランド人、フィジー人、タイ人といった国際色豊かな留学生が受講生の約半分を占めているという国籍構成なので、それを活かしたいと考えています。
少子高齢化の日本を救うためにも、多子若齢化の国の若者たちへ向け、親日の感情づくりとして、日本のブランディングの一環として、継続的に取り組んでいきたいと考えているところです。
※掲載の記事は2023年3月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。
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