一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >小池 玲子氏 Vol.4
聞き手:一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 岩本俊幸
【小池氏のプロフィール】
東京芸術大学工芸科VD卒業
J.Wトンプソンに入社 同社取締役。制作担当副社長
FCB(フットコーンベルディング)制作担当副社長
PUBLICISジャパン制作担当副社長を歴任後
外資系広告代理店で培ったブランディングのノウハウを
日本の会社にも広める事を目的としクリエイテブハウスR-3を設立。
主な仕事
ダイヤモンドを日本の習慣に定着させた「エンゲージメントキャンペーン」
「スイートテンダイヤモンド」
プレミアムアイスクリームのポジショニングで成功したハーゲンダッツ
水を買って飲む習慣を作った、Vittel,Contrex Perrier
日本では認知度ゼロであった,UBSのブランドイメージ確立等、
航空会社から食料品、化粧品の分野迄広くブランドの構築に関わってきた。
聞き手
「もしアイデアを種類で分けると、アイデアとはデモンストレーションとメタファーに大きくわけられる」と小池さんはおっしゃっていますが、それはどういうことでしょうか。
小池
デモンストレーションというのは広告するもの寄り、ものの価値そのものを見せる表現方法です。
メタファーとは、そのものをつかって気持ちが安らいだとか人の気持ちにもたらす価値のことです。
例えば、「スリミングウオーターで痩せる水」という機能的価値はデモンストレーション、「アルプスの風を感じる天然の水」という情緒的価値はメタファーですね。
聞き手
アイデアを出すときに、大きくその2つで考えてみるということですか。
小池
そうです。そして、その中に、トーチャーテスト(耐久性をアピールする酷使テスト)、並列、擬人化という表現方法があります。
聞き手
ブランドを広告表現していく上でルール化されたものがあるのですか。
それともやはりセンスなのでしょうか。
小池
マーケティングサイクルで今のブランドが置かれている市場で何が欠けているかを探れば、おのずと何を表現すればいいのかが分かってきます。
それが分かれば、何を差別化すればこのブランドを一番よく分かってもらえるかが明確になってきます。
聞き手
まず現状把握して、目指すべきものとどういうギャップがあるかを確認し、そのギャップを埋めるためにどんなアイデアを出すかということですね。
新聞広告を見ていくとさまざまな表現方法が学べますね。
小池
ブランド・マネージャーはもっと新聞をよく見て勉強するべきです。
聞き手
そのほか、アイデアについて小池さんからアドバイスをいただけますか。
小池
ブランド・マネージャーはセンスが良くないとダメ。
これはクリエーターと違ったセンスです。
創造力ではなく想像力です。
何故なら、ブランドマネージャーはクリエイテブが市場にでた時に起る反応を想像して制作物をジャジしなければなりません。
ですから、常にセンスを磨く必要があるでしょうね。
幅広く情報に接して知識をどんどん脳にインプットする。
アイデアの源泉は市場だけでなく、芸術、音楽、映画、本も含めて全てのものから吸収できます。
聞き手
インプットがあって初めてアウトプットできるわけですね。
小池
私は、本だと最低3回は読みます。
聞き手
同じ本を?でもどんな本でもいいわけではないですよね。
小池
もしハウツー本を読むのなら、自分が何かに対してものすごく苦しんだときに読むなら役に立つと思いますが、もしそうでなければ、自分にとって一番遠い本をお薦めします。
というのは、私、つい最近、『女形とは―名女形雀右衛門』(渡辺保著)という本を読んだのです。
これは去年亡くなられた歌舞伎の中村雀右衛門丈の演技についての本です。
この本から学ぶ事が沢山ありました。素晴らしい解説書でした。
私は、たまたま雀右衛門丈の後援会に入っていて、一緒にお酒を飲む機会はあったのですが、あまり歌舞伎を観ていなかったのです。
ですから、そのときの自分にとって、その本は遠い本だったわけです。
その本に、「歌舞伎は顔で表現するものではなく、所作で個性を表現する」と書かれてあったのです。
例えば、同じ「藤娘」でも演ずる基本型は決まっています。
しかし実際、演者によって違う、演じる人の藤娘になるのですね。
演者はその役を何度も、何度もくり返し練習してそこから自分の藤娘を創り上げて行く。自分のものにすると書かれていて感銘を新たにしました。
私が本を3回読むのも、1回読んでそのままにしておくのがもったいないから、自分のものになるまで読み込むのです。
インターネットの発達で、知識は今では誰でも得ることができます。
検索すれば、小学生でも同じ知識が得られます。
でも、それをいかに自分の中に落とし込んで、自分の中にホールドできるかが重要だと思います。
聞き手
分かります。
よく、「知識をいかに知恵に変えるか」と言われますよね。
1回読んだだけでは知恵にならないということですね。
小池
前述しましたが、思いつく限りのメモをいっぱい並べて、それをパソコンに落とし込んで、また違う視点からパワーポイントに落とし込んでいくと、だんだんアイデアが形づくられてきます。
本でもまったくの読みっ放しでは時間の浪費だと思います。
せっかく得た知識は、全部自分の中に落とし込まないともったいない。
左脳は長期間の記憶に耐えられないけど、右脳はいくらでも開発できるらしいですよ。
聞き手
よく読書会でも読んだ本の中身をアウトプットし合うというグループワークがありますが、アウトプットするには自分の中に落とし込んでいないとできませんよね。
小池
ナインセンスの講義では、今まで読んだ本を10冊挙げて、その本から得たものを全て書き出すというワークも面白いかなと考えています。
聞き手
先ほど、「自分から遠いものを選ぶ」というお話がありましたが、それはなぜですか。
小池
遠いものでもいい本だったら、真理や原理が書かれてあるからです。
今の自分とは関係ない本を選んだ方が思わぬヒントがあることが多い。
この本で仕事に役立てよう、この本で勉強しようとか思って本を読むのはいいと思いますが、長い目で見たら、本当に役に立つのでしょうか。
聞き手
今の自分に近いとなんとなく役に立った気がするけど、遠い本だと客観視できるからでしょうか。
小池
自分に遠いと分からないから、なんとか理解しようと一生懸命読むんですよ。
聞き手
ああ、なるほど(笑)。
小池
私にとって忘れられないのは、『三太郎の日記』(阿部次郎著)という本です。
私はその当時、芸大の受験に失敗してものすごく落ち込んでいて、自分に自信が持てずにいました。
父親に逆らうと、父から「自分の行きたい大学にも行けないやつは口ごたえするな」なんて言われていて(笑)。
で、とにかく逃げ込むようにその本の世界に入っていったんですね。
18歳のころでしたが、そのときはうなずきながら読んでいましたね。
その本からはものすごく勇気付けられたし、自分が信じたことをやっていくことが一番大事なんだという原理を学びました。
「こうするとうまくいく」とか「こうやれば幸せになれる」とか、そういう本をいくら読んでも幸せにはなれないのでは、もちろんヒントにはなるでしょう。
それよりも、『源氏物語』などの古典とか、夏目漱石とかを読んで、「こんなことを考える人が世の中にいるんだ」と思った方が新しい発見だし、自分の想像力にプラスになると思います。
聞き手
哲学の本なんかは、「こんなことまで考えるんだ」という思考のプロセスを知ると響くものがありますよね。そこから、自分を内省できたりします。
小池
遠いものほど近いというんでしょうか。
今の世の中はモノも知識も情報もあふれているから、その中で自分の型をつくるというか、自分に落とし込むということが大切なのではないかと思います。
アイデアの見分け方は、デイビッド・オグルビィの本が一番お薦めです。
聞き手
オグルビィのアイデアの見分け方は5つあります。
「それを初めてみたときはっとしたか」
「今見たことをあなた自身のこととして考えたいか」
「それはユニークか」
「それは完全に戦略に合っているか」
「それは30年間使えそうか」。
これはアイデアをどう表現するかという上で、私も肝に銘じています。
小池
今の広告は、何でも言いたいことを端から並べ立てるような、インフォマーシャルが多く見受けられますが、アイデアが考えられなくなっているように感じます。
今の日本の広告はデモンストレーションが多くて、昔のアメリカの広告みたいになっています。
でも、そういう広告ばかり見せられると、逆にいいものが画面から飛び出てきます。
新聞広告でもいいものはやはり飛び出てきます。
新聞は読むメディアであるという特性をうまくつかんでいる広告は、表現方法にもアイデアがありますね。
聞き手
今日は本当に深くてためになるお話をありがとうございました。
※掲載の記事は2016年2月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。