一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >榛沢 明浩氏 Vol.2
聞き手:一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 岩本俊幸
【榛沢氏のプロフィール】
東京大学法学部卒業。
北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科博士前期課程修了。
コーポレートディレクション、トーマツコンサルティング、デロイトトーマツコンサルティング
(現アビームコンサルティング)を経て、2003年に株式会社日本ブランド戦略研究所を設立。主な著書に『知的資本とキャッシュフロー経営』(生産性出版)、
『図解 ブランドマネジメント』(東洋経済新報社)などがある。
聞き手
80年代にCIなどが流行っていましたが、90年代になると、そういう風潮からコーポレート・ブランドという考え方にシフトしていきました。ブランドという意味でいえば中身はCIと違うではないですか?これも田中先生に伺ったお話ですが、日本企業はいろいろな意味で、海外の経営戦略やマーケティング用語とかに踊らされてしまったりしているのかなと思います。でも何かで見たのですが、日本には創業200年以上の老舗の企業が3,100社ぐらいあって、世界全体の40%ぐらいにあたるそうです。とすると、日本こそ実は本質的にブランド・マネージメントができているのではないかと思ったりしますが、その辺の見解をお聞かせいただけますか?
榛沢
私も何かの本で読んだことがありますが、日本最古の会社は金剛組でしたか。一度倒産しましたが、屋号は一応残っています。古い会社というのは旅館とか…。
聞き手
あと、虎屋とかもそうですよね。
榛沢
和菓子とか、料理屋とか、そうした業種は多いかもしれませんね。
聞き手
なぜ長く続いているんでしょう。何かあるのですか?ブランドの資産価値の問題が絡んでいるのか、全く違うところに見解があるのか、文化的なものなのか。
榛沢
ある本で読んだのですが、大きな理由としては、他国に侵略されなかったのが大きいのではないかと言われています。ヨーロッパなどの国の場合、そうしたことが結構激しく、なかなか継続しなかったと。ただ、継続性を重んじる文化みたいなことについては、ちょっと分かりませんが。
聞き手
なるほど。逆にヨーロッパの企業は、そうしたことがあったからこそ、しっかりした土台をつくらねばという意味でブランドをすごく重んじているように思います。やはり日本とは違うのでしょうか?
榛沢
なんとも言えないですね。ただ、料理屋と衝立ては広げすぎると倒れるとか言われます。そういう意味で、日本の場合は、ローカルな会社が長くやっているような気もします。
聞き手
確かに。
榛沢
ちょっとずつ信用を積み重ねている。それで、ちゃんと家訓的なものがあって、それを守っている。
聞き手
手広くしないみたいな。
榛沢
そうですね。その家訓的なものに信用を重んじるとか、利益とかそういうのとは違う要素でやっているのではないか。また、同族企業が多いというのが大きいと思います。だから、上場企業とは違って、もう少し長い目でやれるということがあるのかなと思います。ですが、同族と言いながら、わりと養子が多いと思います。この養子をとるというのが、結構大きな要素だと思います。
聞き手
それは、またなぜ?
榛沢
ダメな息子とか、どこかで必ず出ますから(笑)。
聞き手
いわゆる、マスオさんですね(笑)。
榛沢
そうです。養子の場合は、優秀な人を選択するということを、躊躇なくやれるというところが。
聞き手
血の繋がりだけで継続させないということですね。
榛沢
はい。
聞き手
そういえば吉兆の家訓か何かで聞いたことがありますが、娘が生まれたほうが喜ぶそうです。息子が生まれると、息子にそのまま継がせるという流れになってしまうけれど、娘が生まれると、優秀なマスオさんを無限大に選べると。そうしたことが長く続く秘訣なのかもしれませんね。
榛沢
それはあると思います。
聞き手
榛沢先生もそういう風に感じていたということですね?
榛沢
そうですね。それから相続の問題が結構大きいと思います。これは税金の問題ですが、持ち分を全部、相続税でとられてしまうと継続できない。そういう問題は結構大きいと思います。みなさん、どうやってクリアしているのかわかりませんが、実際には相続資産を低減するとか事実上の措置があるのではないかと思います。例えば、時価では評価しないとか、事業系の土地・建物はちょっと違う評価をするとか、投資用の資産とは分けるとかいろいろあって、そうしたことも大きいのではないかと思います。
聞き手
その辺をうまくクリアしてきた。ノウハウとしてそういうのを持っているのでしょうね。
榛沢
それから商標についても、昔からやっている商標は、商標登録ができていなくても、ローカルに通用しているものは守るという決まりがあります。ですが、そういうことを中小規模経営者の人たちは知らないのです。それで現在、地場産業の中には中小企業が危機的状況にある業界があります。例えば、大手企業が登録されてないブランドをどんどん商標登録してしまう。それで古くから続く、ローカルな中小企業を商標権侵害で訴えるということをやっているらしいのです。本当はそれをやったらダメなのですが、中小規模経営者の人たちはそれを知らないから、そこにつけ込んでいるという側面があります。
聞き手
なるほど。
榛沢
本当はそういうものは守られているので、暖簾、商標に疎い人でも事実上は何とかなるような背景も、継続していくうえでそれなりにあるのかなと。200年以上といっても、すごく小さなところが多いでしょうから態勢が整ってない。 だから、もともとはその企業のものなのに、大手企業から後に訴えられて、慌てるみたいなところが大半だと思います。それまでその地域においては、事実上通用していたものは守られてきたとか、そういう背景もそれなりにあったからなのでしょうが。
聞き手
まさに商標に対する意味というか、大切なところですね。
聞き手
ところで、榛沢先生は多くのコンサルティングをやられていらっしゃって、ブランド・マネージャーという職種の方々との交流が多いと思います。
榛沢
そうですね。
聞き手
ブランド・マネージャーって、社内での調整が大変ではないですか。榛沢先生は、優秀なブランド・マネージャーや、成功されているブランド・マネージャーに共通する資質はどんなところだと思われますか?
榛沢
私が関わるところは、ブランドといってもコーポレートのブランドのところが多くて、商品とはまたちょっと違います。ですがコーポレートのブランドの場合、わりと調整型の人が多いですね。予算はあまり持ってない。お金よりも、気を使うみたいな方。
聞き手
何か分かるな(笑)。
榛沢
そういう方々が多いことは確かです。ただ、ブランド戦略の重要性を会社のトップが十分に理解していれば、ブランド・マネージャーも仕事をしやすいでしょうね。しかもそういうケースの場合、データを重視するところがある。そういうのが素地にあると、割とデータ重視、科学的アプローチみたいなのがあって、何をどれだけやって、その結果どうだというようなことが分かりますから。
聞き手
データを重視して、論理的にきちっとできるということですね。
榛沢
そうです。ただ、ブランド・マネージャーにあたる人というのは、広報にいることが多いのですが、割とローテーションが多いのです。
聞き手
異動で代わってしまうのですね?
榛沢
そうです。だから、あんまり力を持ってない。そういうのがあるんです(笑)。長い人はそれなりに見識があって、社内、社外に顔が利いてそれなりの成果が出せますが、2、3年ぐらいで入れ替わる場合は、地位もあんまり高くないですし、どちらかというと後追い的な仕事が多いと思います。また、最近新しい要素として、WEBサイトがあります。これも割と広報が担当することが多いのですが、WEBというのは専門性が高い分野です。これまでの広報とはちょっと違って、技術や広告の理解という要素が入ってきたりするので、そういうのにローテーションが妨げになっています。長い人はこういう風にやっていこうと、ビジョンを持ってやっているのでうまくいきますが、そうでない人は、そもそもそれで何ができるかとか、理解するのに数年かかるようなところなので、それでまた入れ替わると結局すべてを外部に任せるみたいなことになってしまいます。それが随分妨げになっていますね。
聞き手
事実、榛沢先生の会社も、広報の部署とやりとりすることが多いのですか?
榛沢
そうです。
聞き手
やはり頻繁に代わられたりする企業は多いですか?
榛沢
頻繁に異動があるような企業の場合、結局、広報自体に力がないので、クライアントになる可能性も相対的に低いですね。
聞き手
うまくいかない可能性が高くなってしまいますか?
榛沢
そうです。
聞き手
先ほどのお話にもありましたが、それは会社の経営のスタンスが影響しているのでしょうね。そこにどれだけ力を入れるか。
榛沢
そういうことだと思います。
聞き手
それだけ軽く見ているからコロコロ、例えば1年ぐらいで代わってしまう。
榛沢
そうですね。
聞き手
田中先生も全く同じことをおっしゃっていました。経営者層が、どれだけブランドの大切さとか、そういうのに重きを置いているかどうかで変わってしまう。だから、ブランド・マネージャーとか、現状でいうと広報の方々が苦労されてしまうとおっしゃっていました。まさにそういうことですか?
榛沢
そうですね。何かをやるにはそれなりの予算をとらないといけないけれど、ローテーションで配属されて、しばらくやることになりましたという人は受け身なので、予算をとろうともしない。そういうのも力を持てない大きな要因になっていると思います。
聞き手
自発的に目標をちゃんと立てて、その成果を出すためにこういう予算をという流れに持っていかないとダメということですよね?
榛沢
そうですね。やはり経験ある方は、継続的にプロジェクトを作っています。
聞き手
そういう意味では、ブランド・マネージャーの資質というより、会社のスタンスに影響されてしまいますね。
榛沢
そうですね。
聞き手
本日は、大変ためになるお話をお伺いすることができました。ありがとうございました。
※掲載の記事は2014年10月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。