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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー > 土野 史隆氏

「知的財産権」とブランディングはあくまで “セット”で考える

ブランド弁理士®土野 史隆

Profileプロフィール

ブランド弁理士®
(一財)ブランド・マネージャー認定協会 スタンダードトレーナー

法政大学法学部法律学科卒業。株式会社アルバック知的財産部にて、企業目線からの知的財産保護に従事。その後、秀和特許事務所に転職し、商標・意匠分野のプロフェッショナルとして、幅広い業界のクライアントに対し国内外のブランド保護をサポートする。
2018年9月より株式会社Toreru/特許業務法人Toreru入社。現在は同社COO/パートナー弁理士として経営やブランディングに携わる。

ブランディングを行ううえで、無視できない知的財産権。
ロゴやネーミングなどのブランド要素やブランド体験を決めるうえで、商標権や意匠権を持つことはときに強い競争力となり得る可能性もあり、ブランディングには欠かせない存在と言えそうです。
ブランド弁理士®の土野史隆氏にブランディングと知的財産権の関係などについてお話を伺いました。

「なぜ独占権を取るのか」を考えることが重要

Q. 土野さんは商標・意匠分野のプロフェッショナルでありつつ、ブランド・マネージャー認定協会のトレーナーでもあるなど、「知的財産」と「ブランディング」の両軸で活動されています。
そこで今回は「ブランディングの知財の関係」について詳しくお話をお伺いしたいのですが、
そもそもなぜ知財とブランディングに携わることになったのか教えてください。
まず知財に関しては、製造装置のメーカーに入社した際、知財を担当する部署に配属されたところがスタートです。そこは液晶パネルのディスプレイ製造装置などを製造するメーカーで、特許をたくさん出すわけです。
私は技術的なバックグラウンドはなかったので、主に商標、意匠に関わる仕事を担当していました。具体的には、権利関係の手続きを依頼していた外部の特許事務所や弁理士と社内の研究者などをつなぐような役割です。

そこで3年ほど勤めている間に弁理士の資格を取得し、ご縁があった特許事務所に転職して、商標、意匠専門の弁理士として約6年勤めました。

今所属する Toreru に転職したのはそのあとで、趣味で商標を管理するスマホアプリを作ってSNSで紹介したことがきっかけです。
たまたまそれを見て興味を持った弊社の代表からコンタクトがあり、お会いしたら意気投合したので、転職することになったんです。

ブランディングに強い関心を持つことになったのは、弁理士になって少し経ったとき「何のために依頼者をサポートしているのか、この権利を取ろうとしているのか」という、そもそもの「なぜ」を考えたことがきっかけでした。
弁理士目線だと「権利のための権利」という感覚に陥りやすいんですが、商標の場合、最初は名前そのものに財産的価値があるわけではなく、そこにビジネスの信用が乗ることで初めて価値が出る。
つまり、「ブランドがしっかりと形成されていることが前提で、それによって初めて知財権の価値が生まれるんだ」と気がついたんです。

ただ、当時の自分には、「権利をつくる」はサポートできても「権利自体の価値を高めるサポート」ができる力はないと思いましたし、業界的にもできる人はいないと感じて、ある種の罪悪感を覚えました。
そこで、ブランドを学ぶために、ブランド・マネージャー認定協会で勉強してみようと思ったんです。

Q. 知財についていろいろお伺いしたいと思います。
まずは「商標登録」と「意匠登録」の違いについて、教えてください。
端的に言うと、「商標登録」は“信用”、「意匠登録」は“デザイン”を守るためのものです。
「商標登録」は、たとえば商品のネーミングや企業のロゴマークなどを独占する権利。
一方「意匠登録」は、たとえばプロダクトデザインなど、モノの形のデザインを守る権利です。

ロゴマークは「デザインだから意匠では?」と混乱しやすいのですが、そもそも商標とは、デザインそのものを守るのではなく、あくまで「どこの、誰の、サービス・商品なのか」を見分けるための目印なんです。
人間でたとえると、顔。人は他人を顔で判別することが多いですよね。
一方、デザインは見映えを決める洋服で、意匠は洋服を守るものというわけです。
このように、ネーミングやロゴは商標、プロダクトデザインは意匠、とカテゴリーが分かれているので、権利を取りたいと思っているものはどちらが適切なのか、使い分ける必要があります。
Q. 商標と意匠を使い分けるポイントは?
商標か意匠か、どちらの権利を取るべきなのか迷っている場合は、そのブランド要素(ロゴ、ブランド名など)について、
「その『ブランド要素』が、自分の『信用を表すツール』になると思うか?」
「その『ブランド要素』について、それ自体に『新しいデザイン的価値』があると思うか?」
を問いかけてみるといいと思います。

「信用を表すツール」になると思えば、そのブランド要素は「商標」と捉えるべきですし、「デザイン的価値」があると思えば「意匠」です。
このように考えてみると分かりやすいのではないでしょうか。

また、商標と意匠には、一般的にはあまり知られていない大きな違いがあります。
商標の場合、すでに世の中に公開してしまっているロゴやネーミングでも、あとから登録できるのですが、意匠登録の場合は、商品を売り出してしまい、デザインが世の中にオープンになってしまったあとでは、原則としてあとから権利を取ることはできません。
知財専門家はそれを大前提として知っていますが、一般には意外と知られていないんです。
Q. 商標登録や意匠登録をするということは、独占権が付与されるということですが、独占権について知っておくべきことは何でしょうか。
そもそも、「なぜ独占権を取りたかったのか」をよく考えることが非常に大事です。
たとえば、新しく開発した商品のブランド名を付けるとき、コストをかけてまで商標登録することが必要なのか? を考える必要があります。

この「なぜ必要なのか?」は会社次第で異なるのですが、背景には当然、そのプロダクトのブランド戦略があり、「コンセプトをこのプロダクト、このブランド名で伝えたい」という思いがある。
そのブランド名を長い間、ブランド要素のひとつとして世の中に出していくことが戦略上、重要なのであれば、あとからその名前が使えなくなってしまった、という最悪の事態は絶対に避けないといけません。
そして、ならば当然、そこに商標登録を取るためのコストをかけるべきだと誰もが思うはずです。

でも、実際にはなかなかそうはなっていない。
なぜかと言うと、ブランディングをしっかりしていないからです。
そもそも、しっかりしたブランディングをしていれば、ブランド要素に信用を貯め価値を高めるために投資をしているので、必然的にそのブランド要素を構成する知財にコストをかけざるを得ません。
知財とブランディングはあくまでセットなんです。
両方がどう絡むのかを理解できれば、なんのために独占権を取るのか、そのためのコストパフォーマンスはどうなのか、自然と明らかになると思います。

逆に言えば、目の前のネーミング・ロゴの商標登録やプロダクトデザインの意匠登録に投資する必要があるのか?が懐疑的な場合、そのプロジェクトのブランド設計(ブランディング計画)がまだ甘い証拠です。
ブランディングは、具体的にどのようなブランド要素を強調し、あるいは出さないかを意図的に設計することですから、自社やプロダクトのアイデンティティにとって重要なネーミングやデザインとそうでないものの選別ができるはずなんです。
きちんとブランド設計をすれば、単に「知財は大事なのでお金をかけましょう」ではなくて、「ここはあえて守らなくてもいいな」という判断もできるようになってきます。

もちろん、まだ使い始める段階ではないロゴやネーミングがある場合、とりあえず採用されるかもしれない複数の案について先に権利だけを押さえておく、という考え方もあると思います。
商標登録を取るためには審査に時間がかかるので、とりあえず申請するお金だけは確保しておき、たとえば5個あったアイデアのうち、実際に1個だけを採択し、残り4個は不要になれば、そこにはそれ以上のコストをかけなければいいわけですから。
Q. ブランド要素は、具体的にはどこまでが商標登録できる範囲なのでしょうか。
商標登録できるものは法律で決まっています。
たとえば文字、図形。最近では法改正により、色やホログラム、決まった位置についているタグなどの位置商標、音なども商標登録できるようになりました。香りは、日本ではまだ商標登録できませんが、世界にはできる国もあります。

意匠登録についても、店舗の内装のデザインやソフトウェアのUIデザインなども保護しやすくなりました。
今後は、法制度の整備が進み、守れるブランド要素が増えていく流れは間違いなくあると思います。
Q. ではブランディングにおいて、商標などを登録するうえで大事なことは?
ブランディング戦略の中で、どのブランド要素が重要なのか、優先順位を捉えることが重要です。
たとえばブランド・イメージを形成するために重要なブランド要素であればあるほど、長い間継続して使えることが重要になるので、そこに商標登録なり意匠登録なりのコストをかけるべきだと思います。

一方、商標に関して、そもそも商標登録できないものをあえて使うという考え方もあります。
たとえば、バナナのネーミングとして「おいしいバナナ」は説明的で独自性がないので商標登録ができません。
つまり、出願しても誰も権利を取れない名前にすれば、独占はできませんが安全には使えるわけです。
ブランディング戦略上それほど重要ではないものに対して中途半端に独創的な名前をつけてしまうと、商標登録できる名前になってしまうので、誰かが商標登録すると使えなくなってしまうリスクがある。
そうすると、本当はあまり重要じゃないのに商標登録しないといけなくなってしまいます。

ですから、「ここは独創的なブランド要素にしてコストもかける」「ここは重要度が低いからあえて独創的にはせず、コストをかけない」などの設計をすることが非常に重要だと思います。

リブランディングでは「知財のチェックをかける」ことが重要

Q. ブランド・マネージャー協会では、ブランディングについて“8つのステップ”を提唱しています。
知財はそこにどのように関わってくるのでしょうか。
8ステップ前半(上図)の市場分析や自己分析をしてブランド・アイデンティティをどうするか考えるフェーズでは、まだそれほど強く知財を意識しなくてもいいとは思います。
ただ、過去にすでに取っている知財の権利や現在すでに持っている技術的な資産、ブランド資産がある場合は、自社の強み・弱みを分析するうえで、知財面での強み・弱みがあるかどうかを分析要素に入れるといいのではと思っています。

たとえば、自社に独自の技術があり、その技術が強みのひとつになっている場合、特許をすでに持っていれば、「独占できている技術」を中心とした(その技術があるからこそ実現できる)ブランドコンセプトを作れないか、という見方をすることができます。
コンセプトが斬新であるというだけでなく、法律的にも、「これは我々にしかできない」というポジショニングができる可能性が出てくるわけです。 それはものすごく強い競争力になると思います。
次に、8ステップの後半の「刺激の設計」の段階と知財の関わりについてですが、刺激の中には、ブランド要素とブランド体験がありますよね。
そのブランド要素、体験の中に、知財がまぎれていないか、検討してほしいと思います。
実は知財と気づいていないだけで、ブランド要素と体験の中に、知財になるものがあるケースがあるんです。

たとえば、スターバックスコーヒージャパンでは、希少性の高いプレミアムコーヒーを体験できる「STARBUCKS RESERVE®」がありますが、特別な内装だったり、特別なコーヒーを入れる機械があったりして、プレミアムなコーヒーの世界観に没入できる。 これはまさしくブランド体験です。
もし、そのコーヒーを作る特別な内装や機械について、特許やデザインの意匠権が取れるものがあれば、そのブランド体験は権利を持っている人にしか作れないものと言えます。
リブランディング特有の事情に絞ってご説明すると、リブランディングする前のブランドの知財がどうだったか、ということがポイントです。

たとえば、自社のロゴマークがあり、それをリブランディングして、結果的にロゴデザインが変わったとします。その変更前のロゴを商標登録していたとすると、もともと持っていた権利のままでいいのか、それともデザインが変わったことで新しい権利を取らないといけないのか、そういう問題が出てきます。
だから変化することで権利関係、知財関係で手を打つ必要があるのかないのか、きちんと整理して対応することがポイントです。

また、ブランドをコンセプトから変えるという場合であれば、ロゴやブランド体験など、当然ブランドの設計全体が変わりますよね。
ブランド要素や体験が変わるということは、当然それを作り上げている知財の内容も変わるということなので、コンセプトから変えるケースのほうが、知財においても新たな対応をしないといけない量は増えると思います。

一方、コンセプトは変えず、デザインを微修正するだけの場合では、知財面でのケアは少ないのではないでしょうか。
つまり、リブランディングの内容次第で、そのための知財のケアにかかるコストが変わってくるわけです。
となると、知財をまったく念頭に置かずにリブランディングをしてしまうと、あとになってから「こんなにコストがかかるのか」と気づくことになる。
逆に言えば、「知財の予算はこれぐらいに抑えたいから、こうリブランディングしましょう」という考え方もできるわけです。
Q. 最後に、土野さんの今後の活動について教えてください。
個人的な展望としては、やはりブランディングと知財をガチッと組み合わせて回せるように、融合させていきたい。
その実現のために何が足りていないのか、自社のブランディングにも取り組みながら今は考えているところです。
ブランディングと知財の両方が分かる人がもっと増えないといけないと考えているので、まずは自分がそうなろうと思いつつ、もっとそういう人を増やしていく活動もしないといけないと思っています。

その一方、ブランディングのことも知財のこともあまり知らない人でも自然とブランディングができ、知財もケアできる仕組みを作ることも非常に重要なので、その仕組みづくりもしていきたいですね。
商標登録はそれ自体のハードルが高いので、まずはそこを身近に感じられ、必要な人が当たり前に利用できるようにすることが重要。

Toreru」ではその課題解決を図っていこうと思っています。
その延長線上で、商標だけではなく、そこにいかにブランディングが絡む形を作っていけるか、そういう方面にも活動を広げていければと思います。
特に少子高齢化の日本では、ブランディングや知財で戦っていく流れは確実にあると思うので、ニーズは増えていくのではないでしょうか。

※掲載の記事は2021年9月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。

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