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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー > 鹿毛 康司氏 Vol.2

「自分の心を洞察する力」を作ることが
“インサイト”の発見につながる

株式会社かげこうじ事務所鹿毛 康司

Profileプロフィール

株式会社かげこうじ事務所代表

雪印乳業株式会社(当時)を経て、2003年エステー株式会社入社。同社を日本有数のコミュニケーション力のある企業に導く。同社執行役を経て2020年に独立し、かげこうじ事務所を設立。代表作に消臭力のCMなどがあり、2011年震災直後の「ミゲルと西川貴教の消臭力CM」で一大社会現象を起こす。早稲田大学商学部卒、ドレクセル大学MBA。「お客様の心に向き合う」をテーマにマーケターとして活動するとともに、クリエイティブディレクターとしてCM監督、プランニング、コピー、作詞作曲を手掛けている。現在、グロービス経営大学院教授、エステー株式会社コミュニケーションアドバイザー、「日経クロストレンド」アドバイザリーボードメンバー/アドテック東京ボードメンバー。2021年、新刊『「心」が分かるとモノが売れる』(日経BP)を発売。

英語で「洞察」や「物事の本質を見抜くこと」を意味する「インサイト」という言葉。
マーケティングの世界では「人を動かす隠れた心理」という意味で使われており、新刊『「心」が分かるとモノが売れる』の著者であるかげこうじ事務所代表の鹿毛康司氏は、その著書の中でマーケティングを行ううえでは、消費者の「インサイト」を発見することが重要だと指摘しています。では、インサイトを見つけるためには何をすべきなのか。エステー時代に「消臭力」のヒットCMなどを手掛けた鹿毛氏にお話を伺いました。

マーケターはマーケティングの論理だけを言いすぎている

Q. 先日、「インサイト」をテーマにしたマーケティングの実務書『「心」が分かるとモノが売れる』を上梓されました。本日は著書で書かれている「インサイト」とマーケティングについてお話をお伺いしたいと思います。
その前に、まずは鹿毛さん自身のことをお聞きしたいのですが、昨年エステーから独立してかげこうじ事務所を設立されています。どういった経緯があったのでしょうか。
エステー在職中は役員を務めていたのですが、あるとき、同社の鈴木喬会長から「ずっと仕事を続けるためにも、今こそ独立したらどうか」とアドバイスをいただく機会があったんです。
ただ、完全に辞めてしまうのは困るので、「今の仕事はそのままやってほしい」と。
ですから、今は役員会への出席やマネージメント、予算関係の仕事などには関わらず、自由にエステーのコミュニケーション周りの仕事のみを担当している形です。

独立したので、エステーの案件と同時にほかのクライアントの仕事にも携わるようになりました。
会長が独立を勧められた理由は、おそらく「企業は血を入れ替えていかなければいけない」という想いがあるからだと思います。
新しい体制を作るためには、入れ替えが必要ですから。
私もそれがわかっていたので、独立を提案されたときは「わかりました、独立させていただきます」と即断しました。
それが2019年の12月のことで、その後2020年7月にかげこうじ事務所を設立しました。
Q. 事務所設立後の状況はいかがでしょうか。
エステー時代は広告主でしたが、今はクリエイティブディレクターという立場に立ってクライアントに提案する活動もしています。
先日も、ある広告会社でクリエイティブディレクターとして参画しました。
大手広告代理店との競合コンペに参加し、受注を獲得することができました。
また、エステーと友好関係にあるフマキラーのCMもクリエイターとして制作しています。
ほかには、実践だけではなく後輩指導として、グロービス経営大学院の教授に就任してクラスを担当しています。
つまり、アカデミックと実践とクリエイティブディレクター、全部やっているわけですね。
Q. では、今回の本題の「インサイト」について、いろいろお伺いしていきたいと思います。そもそも、今回の新刊では、どういった人に、どのようなことを伝えようと思われたのでしょう。
まずは伝えたいことについてお話しします。
現在はテクノロジーがますます進化しています。ただ、そのことでマーケティング領域がどんどん広がっていて、ブランドという言葉が本来大切にしてきたものが少し薄れてきたのではないか、という気がしていました。

そこで「ここだけは押さえないといけませんよ」ということを著したいと思ったんです。
でも、「ブランドの教科書」にはしたくなかったので、実際に自分が体験したことを書いたわけですが……難しかったですね(笑)

ブランドに関してはアカデミックな先生方がいろいろなことを言っているので、そこには触れずに書いています。
最終的には、心理学や脳科学の先生に相談してみたり、大学教授に相談してみたりしつつ自分の経験論で書きました。
意図的にぼかしたところもあれば、経験したことなので「これは“かげこうじ論”としていいかな」という部分もあります。書きあげるまで半年かかりました。
Q. 一読すると、マーケターに対して書かれているような印象も受けます。
私は、お客様を喜ばせるお仕事をしている人は、実は全員マーケターだと思っているんです。
いわゆる調査分析、フレームワーク、コミュニケーション……そうした「王道」と言われていた昔ながらの狭義のマーケティングではなく、人のことを考えて、喜ばせて、喜んでもらったらそれが売り上げや利益につながる……そういうサイクルそのものがマーケティングだとしたら、そこに携わるすべての方はマーケターだ、と。
だからそうした方々に読んでいただきたいなと思っています。
Q. 本の内容は、「マーケティングとは心である」という想いが軸になっています。なぜそうした考えに行きついたのでしょうか。
そう考えるに至った出来事が3つあります。

まず1つは、若いときのアメリカでの体験です。
私は1993年にアメリカでMBAを取得したのですが、当時のアメリカの人々は、すでに携帯をパソコンにつないで通信していました。
図書館に行けばイントラネットができあがっていて、ひとり1台、アップルを持たないといけないとされており、とてもびっくりしたんです。
ビジネスマンがチームでミーティングを開けば、ある大手の食品会社の人間が自分のホストコンピューターに入り込んでいることもありました。
そういうテクノロジーの進化と同時に、スティーブ・ジョブズやグーグルが出てくるわけですが、そこではロジックを押さえつつも、人の深層心理を考えた活動がありました。
テクノロジーと心を意識した企業がどんどん大きくなっていくのを目の前で見ていたわけです。

そして2つめは、雪印乳業時代の「食中毒事件」と子会社の「牛肉偽装事件」です。
当時、MBAで培った論理やフレームワーク、思考方法をいくら実践しても、大きなブランドを損失してしまったことには対応できませんでした。
被害にあった方々のもとにお詫びに伺っても、自分ができるのは心からお詫びすることだけで、目の前のひとりのお客様に無力でした。
MBAという論理だけでは世の中には対応できないということを身をもって教えてもらいました。

3つめは、「日経トレンディ」の「日本パイオニア列伝」という企画で、ソニーでウォークマンを作った大曽根幸三さんにお話を伺い「心の大切さ」を確信しました。
大曽根さんは技術者です。それにもかかわらず技術の話をされることなく「お客さんはこれくらいのサイズを喜ぶんだよ」「これ以上小さいと逆に不安になるんだよ」とお客さんの心理を熱く語られるんです。
そしてそれを木彫りで表現し、そうやってウォークマンやCDウォークマンを開発されています。
で、なぜその大きさなのかと質問すると「それはわからないけど、お客さんはこれぐらいの大きさを喜ぶんだよ」とコンシューマーインサイトの話をされるんですよ。
ご本人はインサイトという言葉は使われていませんでしたが、確実の大曽根さんは著名な技術者であると同時に名インサイト発見者であり優秀なマーケターでありクリエイターだと思いました。


これらの例からもおわかりのように、心を理解するということは、企業活動を進めるうえでとても大切なテーマだと思います。 にもかかわらず、マーケティングの論理とフレームワークだけですべてが解決すると誤解している人が多いように思っています。
皆さんがそう考えるのは、論理やフレームワークのようなもののほうがわかりやすいし受け入れやすいからなのかもしれません。
理論だけでマーケティングできると鵜呑みにしてしまった新人マーケターたちが、手法や道具だけに頼りすぎているように思います。
そして私がこのことを力説しているのは、かつての私が論理ですべてが解決してくれると思い込み、何も成功もおさめられなかった反省があるからです。
Q. 著書ではインサイトのことを「心のツボ」と表現されており、「心のツボ」を探り当てるためには「自分自身の『心のツボ』を見つけるスキル」を磨くことが先決、と語られています。具体的にはステップ1「行動を見つめる『眼力』を鍛える」、ステップ2「自分の『感情』『意識』に潜む心を見つける」、ステップ3「心のフタを開ける力をつける」と示していますが、改めてインサイトを見つけるためのこうした方法について教えてください。

上の図を見ていただくとわかりやすいのですが、お客様は、この上半身の色が異なっている部分は、人それぞれで違う部分です。
主義主張、感情、意識、行動パターン……それぞれ異なっていますが、それ以外のピンク色の部分はみな同じです。
違う部分はアンケートやインタビューなどで行動分析をして違いをはっきりさせればいいのですが、ピンクの同じ部分はそうではありません。

たとえば私自身の話をすると、先日母が他界し、心にぽっかり穴が開いたような状態になりました。ですが、それは人として当たり前の心です。
わざわざアンケート調査などで質問して何人がそうであるかと確認するような類のものではありませんよね。
嫉妬のような感情も同じです。そうした嫉妬や悲しみ、欲望は、昔から人類の心の中に勝手に組み込まれているものです。
こうした自分の心の中をまずは洞察し、探っていくと、「確かにこういう心がお客様の中にもあるな」と見つかるわけです。

こうした手法はフレームワークになっていないので、まずは自分の心を洞察するという訓練が必要です。
それができなければ、人の心が見えるわけがありませんから。
自分の中の無意識にいる、もう一人の自分と会話をする必要があります。
しかし心の中は自分でも見たくない嫌なものもあるからできれば見たくないと、どこか蓋をしているものです。

私は「心のパンツ」とよんでいますが、それを脱ぐしかありません。
自分の心が見えない限りは人の心は見えないので、勇気をもってパンツを脱ぐしかありません。
それを手掛かりにお客様の心に周波数を合わせる。そのときにはじめてお客様の心の中に見えてくるものがある。
それが「インサイト」です。
さらに「それ」がマーケティング課題に役立つときに「コンシューマーインサイト」と定義できると思っています。

ある意味、これは小説家や漫才師の思考と同じようなものかもしれません。
たとえばビートたけしさん。
「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という有名な言葉がありますが、これは「人と一緒じゃないとだめだ」という心理を突いて、笑いに変換したものです。
糸井重里さんもそうですよね。
言われてみて初めて自分の中にある「もやもやしたもの」に気が付く。
そういう潜在意識の中に存在するものを見つけるということです。

「心のマーケティング」で学習塾の入塾者数が1.5倍に

Q. 著書の中の、マーケターがクリエイターとクリエイティブを生み出すうえで、「じくあし」というキーワードで“気をつけたい4つのポイント”を説明されています。
4つのポイントとは、「自分勝手な期待を捨てる」「クライテリア(判断基準)を明確にする」「愛情をいっぱい込める」「シンプルを恐れない」で、この頭文字を取って「じくあし」ということですが、改めてこれらについて教えてください。
気をつけないといけないのは、マーケターはせっかくインサイトを見つけても、クリエイティブを生み出す段階でまた論理一辺倒になってしまう可能性がある、ということです。
そもそも、人の心を動かすことが素晴らしいクリエイティブだと、本当はマーケターもわかっている。
ですが意識していないと、95%の潜在意識の領域ではなく、つい表面上の5%の顕在意識の領域でクリエイティブのディレクションを出してしまうんです。

「これこれのインサイト、つまり心のツボを突こう」ということが明確になっているにもかかわらず、「この機能を訴求してください」「もっとここで価格訴求してください」と言い出してしまう。
しまいには「文字を大きく青を赤に変更して欲しい」と素人クリエイティブの意見を押し付ける。
そうやって「クリエイティブこそができる心のつぼ突き」を放棄しています。

そして表面上の5%の顕在化した意識しか触ることができない事例があとをたちません。
本当にすごいマーケターなら、しっかりとマーケティングゴールを設定したうえで「クリエイティブはあなたに任せます」と言えるし、ちゃんと責任を取れるから、結果的にうまくいく。
そういうマーケターに優秀なクリエイティブの人も集まるのだと思います。
逆に、クリエイターも論理的なマーケティングを勉強すればマーケターとお互いに共通項ができるので、よりわかりあえるようになるのではと思います。
Q. 具体的な事例として、「心」のマーケティングによって、コロナ禍の学習塾が前年比1.5倍の入塾者を獲得したというお話がありました。その過程について詳しく教えてください。
私は東北地方を中心に小中高生向け学習塾「ベスト個別学院」を展開している会社のマーケティングに関わっており、現在は約100教室、6000人超の子供たちが在籍するほどの規模ですが、コロナ禍の「全国一斉休校」の影響で、2020年3月の入塾者数は前年同月比37%減、4月は同58%減と大きく落ち込んでしまったんです。
そこで何をしたかというと、自らの心に深く潜り、子供たちの心の奥底に眠る「心のツボ」にアクセスするため「心の周波数」を探るという方法を選びました。

「今こそ塾で勉強しよう」「感染対策も万全」というような“マーケティング的に正しい”とされるメッセージではなく、どんな言葉なら子供たちの気持ちが動くのかを考え、最終的に「大丈夫だよ」という言葉にたどり着き、それをベースにテレビCMを制作したんです。
それが結果的に1.5倍という数字につながったというわけですね。
Q. その後、学校が再開して猛スピードの学習進度についていけない子供たちが続出し、2020年7月には入塾者数が前年同月比32%減と再び大幅に落ち込んでいますが、2度目のV字回復を果たしています。1度目と2度目では、何か違いはあったのでしょうか。
1度目のときは、学校に行けなくなって子供たちもみんな戸惑っていたけれど、まだ「いつかは学校に行けるだろう」と未来を感じていたんです。
そのときは「大丈夫だよ」と言ってあげることでよかった。
ですが、学校が再開したら、1度目のときよりもっと悲惨なことになっていました。
今までならちゃんとしていた過程を飛ばしたり、先生によって方針がまったく違っていたり……と、めちゃくちゃなことが起きていたんです。

もっとひどいことを言うと、“いじめ”が発生しました。
そうしたいじめによって自殺者も増えています。でも、そこまでの状態に行き着いてしまったのは、それほど心が痛めつけられてしまったから。
そうなると、「大丈夫だよ」だけではなく、もう一言「一緒に計画を立てよう」という言葉が必要です。
つまり「大丈夫だよ、そばにいるよ」という言葉ですね。
でも、「そばにいるよ」だと心理学のコンサルティングのようになってしまうので、「計画を立てよう」という言葉に置き換えたわけです。

そこまでやさしく包み込んであげるのは、コロナで先が見えない中で人の心がどんどん痛めつけられてきたからです。
ご飯を食べられない子も出てきている。その子たちに「一緒に計画立てようか」と言ってあげられるのは誰なのか。
そう考え、政府も学校の先生も親も言えないけど、塾だったら言える、と思ったんです。
Q. そうした従来のマーケティングの手法だけに頼らずに制作したCMを打ち出すと決めてからの社内の反響は?
これは、本の中では詳しくは書いていない話ですが……当時、200人の社員に対して「こういうメッセージを発するけど、これを実現するためにはどうしたらいいだろうか」と投げかけました。
すると、社員たちは毎日のようにディスカッションを始めたんです。
子供たちがどうすれば「大丈夫」という気持ちになるのか、一緒に寄り添うというのはどういうことなのか、親が相談に来たらどうすればいいのか……、そうしたことを社員たちが毎日のようにディスカッションして、200ある教室の教室長たちがやりとりを重ねて、工夫していきました。
土日も出勤して自習室も作りました。つまり、そういう本質があって、初めてあの言葉が生きるわけですね。

このやり方をまねした競合の塾もありましたが、インサイトを見つけるためのプロセスを省いているので、いい成果が出せているかどうかは疑問です。
Q. このインサイトを探り出す作業は、鹿毛さん1人で行われたのですか?
私と、プランナーを務めた私の娘とでそれぞれインサイトを探り、そのうえで毎晩のように電話で話し合いながら、最も課題解決に適したものを探りました。
そうしてクリエイティブワークに仕上げていきました。
自分の心の中を見つめる作業は個人技ですが、こうして話し合いながらやることも効果的でした。
Q. ありがとうございます。では、最後に鹿毛さんの今後の展望を教えてください。
本当は心の中では「心が重要だ」と思っているマーケターは少なくないと思うんです。 でも組織では思うようにできないとか、そういう人はいっぱいいるはず。
これからはそういう方々とパートナーを組んで一緒に仕事がしてみたいですね。
そうすれば、みんな幸せな世界をもう少し広げることができるかもしれない、と思っています。

私は糸井重里さんをメンターとして尊敬しているのですが、今、糸井さんが72歳。
だから私も72歳まで第一線で働くことを目指しています。
『「心」が分かるとモノが売れる』

『「心」が分かるとモノが売れる』
(日経BP)

「心」が分かるとモノが売れる | 鹿毛康司 |本 | 通販 | Amazon

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