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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >徐 誠敏(ソ ソンミン)氏 Vol.1

CEOブランドと企業ブランドのマネジメント – 前編

徐 誠敏(ソ ソンミン)氏 Vol.1 中央大学商学部兼任講師 兼 静岡産業大学情報学部非常勤講師 企業ブランド・マネジメント戦略論の研究室 & 日韓企業のマーケティングとブランディングのコンサルティング 代表

聞き手:一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 岩本俊幸

【徐 誠敏(ソ ソンミン)氏のプロフィール】

中央大学商学部兼任講師 兼 静岡産業大学情報学部兼任講師

企業ブランド・マネジメント戦略論の研究室 & 日韓企業のマーケティングとブランディングのコンサルティング 代表

「中小企業にも適用可能なインターナル・ブランディング & チームブランディングの重要性とその戦略的取り組み」

「日韓企業のものづくり競争力と市場づくり競争力のバランス戦略」

「サムスン電子のグローバルマーケティング(カメレオン型現地適合化)戦略」に関する講座・講演会・セミナー 代表講師

一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 アドバイザー


徐 誠敏(ソ ソンミン)氏の主な著書

  • 企業ブランド・マネジメント戦略‐CEO・企業・製品間のブランド価値創造のリンケージ‐

  • ブランド
    『この1冊でわかる 中小企業にも適用可能なブランド創発型企業を創るためのインターナル・ブランディングの重要性とその戦略的取組事例&新興国市場における韓国企業の成功事例から読み解くグローバル・マーケティング戦略』



CEOブランドと企業ブランドのマネジメント(前篇)

聞き手

これまでブランドに対してどのように携わってこられたのか、そして今のご自身の活動からお話しいただけますか。


中央大学の博士前期課程に入ったころに、「ブランド・アイデンティティ」という言葉に出会い、非常に魅力を感じました。
実は、マスター(修士課程)のときから、企業にとって企業ブランド(Corporate Brand)のマネジメントが非常に大事だと思ってはいたのです。
そもそも、なぜ、私が企業ブランドのマネジメントに問題意識を持つようになったのかというと、いくら消費者行動がなんだかんだといっても、それはとてもダイナミックに変化していくもので、それがいろいろなアンケートや事象を研究して出された結果としても、一時期の消費者行動のパターンに終わる可能性も少なくないと思ったからです。
そこで私は、マネジメント活動の実行主体はあくまでも企業なので、企業ブランド価値をどういう戦略的意図を持ってマネジメントするべきかが非常に大事だと思ったのです。
それで一番大事なのは・・・実は昨日、昔作ったドイツ語の参考資料をひっぱり出して調べていたところなのですが。


聞き手

ドイツ語も堪能なのですか?


いいえ、私はドイツ語は読めないので、ドイツの経営学者が書いた本を私の後輩が訳してくれたものです(笑)。これによると、本質的な企業ブランド・マネジメントの目標設定で一番重要な基盤になっているのが、やはり①社員の行動指針の中心となる企業ブランドのアイデンティティの確立と②企業(経営)理念の社内浸透プログラムの構築、③社員の要求に応じ、彼らが満足できる形での情報および社員の持つ知識やノウハウの共有なのです(図1参照)。



聞き手

それは製品ブランドではなく、コーポレートブランドのアイデンティティのことですね。


そうです。それには、「企業理念の社内浸透プログラムを構築するには、社員の要求に応じて彼らが満足して仕事ができるような環境や、社員が持つ知識やノウハウを共有できるような基盤がなければならない」と書かれています。


聞き手

まさにインターナル・ブランディングであり、チーム・ブランディングですね。


そうですね。それが最も重要な基盤になっていない限り、企業ブランド・マネジメントは構築できないとあらためて思います。
元一橋大学商学部部長の伊丹敬之教授がおっしゃっていた「人本主義」という言葉があるのですが、それは社員の主権を尊重するという経営方針を説いたものです。
昔の日本の会社は社員をとても尊重していましたが、それが欧米の能力主義や成果主義を取り入れて少しずつ変容してきました。日本と似たようなものづくりを重視する堅実な国民性を持つドイツは、その人本主義がいまだに根付いているのです。


聞き手

ドイツは組織としてブランドを守るというイメージがあります。


そうですね。伝統や組織文化を重んじる風土があります。日本にも、もともとそういう組織文化があったのですが、近年それが薄れかけているような気がします。
企業はもっと社員の意欲、責務、満足を高めるさまざまな施策を打つ必要があります。そこで、企業ブランドの価値を高めるための社員のコミットメントが形成されれば、顧客満足度を向上させることにつながります。その結果として企業パフォーマンスが高まり、企業のプレゼンス(存在感)を高めていくという考え方です(図1参照)。この考え方は、企業ブランド・マネジメントの考え方にピッタリ当てはまるのです。


聞き手

なるほど。その意識を持たれたのはいつごろですか。


10年前からです。


聞き手

そこからコーポレートブランディングとブランド・アイデンティティに引きつけられていったのですね。著書の『企業ブランド・マネジメント戦略』でも触れているCEOブランディングについて詳しくお話しいただけますか。


「CEOブランド」とは自分オリジナルの言葉ではありません。韓国のいろいろな先生方が定義されているものと私の考えをミックスした定義なのです。それは、企業トップが持つ優れた資質と能力、とりわけリーダーシップとコミュニケーション能力を発揮することで、実質的な企業価値の向上に貢献できるというものです。
その結果として、競合他社と異なる自社独自の企業ブランドの差別的な優位性を生み、組織内部の社員のモチベーションを高めると同時に、エンドユーザーの間接的な購買意欲を促すことができるのではないかという考え方です。それは、企業ブランドに対する社員の忠誠心を高めることもできます。
例えば、前アップルCEOの故スティーブ・ジョブズを例にすれば、ジョブズに直接会うために毎日たくさんの一般顧客がカリフォルニアの本社を訪れました。株主や投資家ではなく、ジョブズのファンがジョブズに会いに行ったのです。トップ自身がそうしたファンづくりに注力していたのです。



聞き手

組織内部の社員も外部のお客様も経営者のファンになると、絆の強いコミュニティが形成されますね。


そうしたカリスマ経営者は、ジョブズだけでなく、松下幸之助、本田宗一郎、ビル・ゲイツ、ジャック・ウェルチ、李健熙(イ・ゴンヒ)、カルロス・ゴーン、孫正義、柳井正と枚挙に暇もありません。
今まで企業ブランディングや製品ブランディングを論じる研究論文は多かったのですが、その中で私が問題意識を持ったのは、ブランド・イメージ、ブランド・ロイヤルティ、ブランド連想などは中長期的なマーケティング活動の結果として生みだされるものであり、トップマネジメントの主体として先頭に立ってリーダーシップを取る最高経営者が、結果として自社の企業ブランドの価値を高めるのだということでした。
企業ブランドが大事だと言っても、最近のソニーとパナソニックは何が違うのか答えられません。昔ははっきりとした違いがあったと思いますが、今はそれほど差がない。
たぶん、これから違いが出てくるとすれば、それは企業文化の違いではないかと思います。
また、CEOブランド、企業ブランド、製品ブランドの相関関係が高まれば高まるほど、競合他社と異なる自社独自の企業文化を生み出すことができるのではないかと思います。


聞き手

この本の中には、そのCEOブランド、企業ブランド、製品ブランドについて詳しく書かれています。
田中洋先生の推薦文の中に「企業ブランドとの関係においてトップマネジメントの役割はいったい何なのかということをきちっと示唆している」とありますが、CEOブランドに関しての論説はこれまでなかったのでしょうか。


日本では、1980年代後半から使われているプレジデント・アイデンティティ(President Identity)という言葉がありました。
つまり、企業トップの個性(顔)、独自性を世間に絶えず訴えることで、企業そのものをPRし、企業イメージを向上させ、その結果、企業のパフォーマンスの向上を図ることができるという考え方です。
しかし、当時取り上げられていたプレジデント・アイデンティティの言葉には、先ほど申し上げましたように、企業トップが持つ強力なリーダーシップやコミュニケーション能力がもたらす大きな成果として、競合他社と異なる自社独自の企業ブランドの差別的な優位性を生み出すという考え方(視点)がなかったと思います。
つまり、企業トップの強力なリーダーシップやコミュニケーション能力を発揮し、自社の技術力・品質力の向上だけではなく、デザイン力・マーケティング力・人材力・企業ブランド力などを高めることで、実質的な企業価値の向上に貢献したというのがCEOブランドの最も重要なポイントだと思います。
このようなCEOブランドの考え方は、日本企業にも求められていると感じています。
また、日本企業のトップは、常に自分の明確な経営理念と戦略的ビジョンを中心に、競合他社と異なる差別化した魅力的な製品を世の中に出して、どういう社会貢献をし、自社をグローバル企業として発展させていくのかということを、分かりやすい言葉(メッセージ)で伝える努力をしなければならないと思っています。


聞き手

なるほど。確かに日本の経営者は数字ばかり見る傾向がありますね。


もちろん、統計データから情報を集約しそれらを戦略的に活用するのも重要です。また、ものづくり競争力と市場づくり競争力のハイブリッド戦略ももちろん大事ですが、物語(コト)をつくることはもっと大事だと思うのです。
そういう意味で、先ほど申し上げました企業のCEOたち(CEOブランド)は、それぞれの社員が社会の役に立っているシーンを具体的に思い浮かべられるよう、分かりやすい言葉(メッセージ)で発信しています。
「わが社はグローバル企業を目指す」といったあいまいなスローガンではなく、具体的に、うちの会社はこういうシーンで社会に貢献したいのだという、全社員が共感し共有できる理念が必要です。
サムスングループの李健煕(イ・ゴンヒ)会長は、1993年に「新経営宣言」を打ち出し、大改革に着手するのですが、そのとき言った言葉は「妻と子以外は、全て変えろ」「不良品は癌である」などという激しいものでした。従来のものの見方や考え方を抜本的に変えることで、一流企業ではなく超一流企業を目指さなければならないと全社員に訴えたのです。
数々のトップマネジメントも含めて、全社員にショックを与えるようなこの短い言葉(ショック療法)で、企業を大改革するという李健煕会長の強い意志を全社員が受け止めたのです。
トップがマスコミなどを通じて新しいビジョンを語っても、社員が何のことだか分からないようでは、そのビジョンはとても実現できません。
そういうことも考えた上で、経営トップがCEOブランド、CEOアイデンティティにもっと真剣に取り組むべきだと思います。
レピュテーション(評判)とは、企業・製品だけではありません。
「あの会社の社長のリーダーシップはすごい」と継続的に投資する個人投資家も少なくありません。
例えば、楽天がまだ企業規模が小さいときから、三木谷浩史社長を個人的に信頼して投資した個人投資家はたくさんいます。
そう考えると、大手企業でも中小企業でも、CEOブランドという概念は持続的な競争優位を獲得するための重要な経営資源の一つだと言えます。



聞き手

なるほど。その中でメッセージ性がとても大事だと。


そのメッセージの中で説得力がないと駄目です。トップが言っていることが、彼らの強力なリーダーシップをはじめ、さまざまな改革を通じて、実際に目に見えるかたちとして効果が出ていることが重要です。
中小企業で問題なのは、二代目、三代目として事業承継した経営者は、先代が作った経営資産の単なる管理者になる場合が多いことです。私が常々、事業承継した中小企業経営者の皆さんに言っているのは、自分自身で技術改革をするか、営業改革をするか、デザイン改革をするか、マーケティング改革をするか、何か先代のパラダイムを超えなさいということです。
中小企業でもCEOブランディングは十分できます。そのためには、トップ自ら動いて、社員を共感させる必要があります。


聞き手

CEOブランディングの再現性という意味で言えば、説得力のあるメッセージが重要だということですが、そのほかに、特に中小企業がコーポレートブランドを組み立てていくためには、どのようなポイントがありますか。


大事なのは、揺るぎない経営理念と経営哲学の実践です。
例えば、独自のブロー成形技術をベースに、プラスチック製の小型容器を専門に創っているクリエーター型メーカーである本多プラスの経営理念は「他人(ひと)がやらないことをやる」というものです。
これは言い換えれば、競合他社がやらないこと、できないこと、あきらめたことをやり続けるという意味です。
これそのものが同社独自のコア・コンピタンス(事業の核となるブロー成形技術能力)をつくり出すことになったと言えます。
同社は独自のブロー成形技術をベースにしたプラスチック製の小型容器のクリエイティブデザイン・開発・製造・販売を業務内容としていますが、以前は専門的で高度な技術を持っていながら、デザインに対する意識がありませんでした。
現在の本多孝充社長がイギリスに留学していたころ、ヨーロッパにはこれほど可愛いデザインの容器がたくさんあるのに、父の会社は優れた技術がありながら、なぜそれができないのか。
それはデザインに対する意識の問題ではないかと思い、彼はマクロ環境要因などをはじめ父の会社を全て分析します。それで分かったことは、ITの進展などによるペーパレス化が急速に進むことで、当時同社の7~8割を占めていた文房具業界の売上が落ちる恐れがあるという事でした。
そして、96年に本多プラスに入社するのですが、その2年後に社内の意識改革を起こします。
そのとき本多社長が打ち出したのは、「わが社の技術なら、パッケージデザインを化粧品や医療機器まで広げれば、売上げの7~8割を占める文房具がもし駄目になってもリスクを回避できる」というものでした。
そして彼は社員の意識改革を促し、事業領域をどんどん拡大していきました。
それがなぜできたのか。それは「他人がやらないことをやる」という同社独自の経営理念があったからなのです。



聞き手

事業の根幹にある企業の理念や哲学が土台としてないと、ブランドは構築できないということですね。


そうですね!実は、口では経営理念が大事だと言いますが、心ではそう思っていない中小企業経営者は少なくないと思います。つまり、「経営理念は大事だと言いながらも、トップの言動が行動に伴っていないと言いますか、経営理念に反するような言動を取っている」中小企業経営者もいました。
はっきりと断言できるのは、先にも申し上げましたが、経営者は経営理念をしっかり自分のものにして、それを社内に浸透するまで何度でも、分りやすく一貫性のある言葉(メッセージ)をはじめ、自ら率先して行動することで、自社独自の経営理念の重要性を全社員に伝えなければならないということです。
社員が直面するさまざまなシーンで思い浮かんでくるような言葉(メッセージ)でないと、飾り物に過ぎません。


聞き手

それは理念が、きちんと経営者の腹に落ちているかどうかということですね。


後篇へ続く

※掲載の記事は2016年3月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。