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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー > 加藤 剛士氏

ブランドプロミス「Make Waves」で
ブランドの“世界観”を伝達する

ヤマハ株式会社加藤 剛士

Profileプロフィール

ブランド戦略本部マーケティング戦略部広告宣伝グループ主幹
一般社団法人ブランド・マネージャー認定協会1級資格取得者

2003年にヤマハ株式会社入社。家庭用オーディオ製品の国内市場における営業企画/プロダクトマネージャーや商品企画担当を経て、2010年からYamaha Music Europe GmbHに出向。欧州本部のドイツで6年半にわたりヨーロッパ市場における商品企画/マーケティングに携わる。2016年の年末に帰国し、本社事業部でグローバルマーケティングを担当。一方で、2019年に発表されたブランドプロミス「Make Waves」の立ち上げチームに参画する。同年10月からはマーケティング戦略部に所属し、楽器・音響を含めた幅広い製品やサービスのマーケティング、特に広告宣伝の領域を担当。ブランドプロミスの拡大・浸透のため、「企業」「商品」の両面において、横断的なコンテンツ制作と、消費者に価値伝達するタッチポイントの設計を主導している。

楽器の製造・販売を中心に、音響機器や部品・装置など幅広い分野で事業を展開しているヤマハ。近年では消費者との関係づくりやブランド構築などにも注力しており、2019年1月にはブランドプロミス「Make Waves」を制定。新聞広告や交通広告などで一貫したブランドの世界観を積極的に訴求し、今夏、新幹線広告がSNSで話題になるなどの成果も生み出しています。ブランド戦略本部の加藤剛士氏に同社のブランディングについてお話を伺いました。

心震わす瞬間を表現した「Make Waves」

Q. はじめに、現在ヤマハが展開している事業について教えてください。
「楽器事業」「音響機器事業」「その他の事業(部品・装置事業)」の3つの領域で、グローバルに展開しています。中核の「楽器事業」では楽器の製造・販売をはじめ、音楽教室の運営や音楽・映像ソフトの制作・販売など多彩な事業を行っています。特にピアノは「ヤマハ」の象徴で、世界シェアは38%と当社グループの象徴といえる事業。また、「音響機器事業」も「楽器事業」に次ぐ中核事業で、音のネットワーク技術に加えて情報通信の技術も保有する強みを生かし、業務用音響機器を中心に成長事業領域と位置付けています。
Q. そうした事業を展開されている中で、どのようなブランディングを行われているのかお伺いしたいと思います。まず、「Make Waves」というブランドプロミスを打ち出していますが、具体的にどのようなものなのでしょうか。
ブランドプロミス「Make Waves」は2019年1月に制定しました。「お客さまが個性、感性、創造性を発揮し、自ら一歩踏み出す勇気や情熱を後押しする存在となる」ことを約束したもので、人々が心震わす瞬間を「Make Waves」という言葉で表現しています。私が所属するマーケティング戦略部では、このブランドプロミスを通じたブランド訴求や、デジタルマーケティングを軸とした顧客接点の整備など、ブランド価値の向上に向けた取り組みを推進しています。

当社ブランドは全般的に認知度が高く、既存のお客さまからは一定の評価をいただいていますが、潜在的なお客さまには十分な訴求ができておりません。そこで、より多くのお客さまがブランドと接することができる機会の創出を、デジタル・リアル両面で強化することで、当社の商品やサービスがもたらす“豊かな生活”や“革新性”をわかりやすいストーリーとしてお客さまにお届けし、一貫したブランド・イメージの醸成を進めていこう、と考えています。
ブランド・プロミス「Make Waves」
Q. ちなみに、ブランド・アイデンティティはどう制定されているのでしょう?
当社には、直訳的に「ブランド・アイデンティティ」と銘打ったものはありません。ただ、「『なくてはならない、個性輝く企業』になる」という経営ビジョンを打ち出しています。また、従業員の心の持ちよう、あり方として“ヤマハフィロソフィー”を制定しており、そして最後にお客さまへの約束としてブランドプロミス「Make Waves」がある、という構造です。
Q. では、「Make Waves」について詳しくお伺いしたいと思います。「Make Waves」の推進チームは、どのような経緯で誕生したのでしょう。また、どのような方々で構成されているのでしょうか。
チームの人数は10名以下で、2017年の4月にチームが立ち上がりました。発足の背景は、「ブランドマーケティンググループ」という新しい組織を立ち上げることになり、私は当時オーディオ部門の仕事があったのですが、そのグループリーダーとしてアメリカから着任したオーストリア人のマネージャーやチームと意見交換をしていく中で、兼務で参画することになったんです。そのときに「ブランドプロミスを作りたい」という話になりました。

メーカー側から発信するメッセージとお客さまから見えるメッセージは違っていて、たとえばNIKEは、メーカーとして「世界中のすべてのアスリートにインスピレーションとイノベーションをもたらすこと」をミッションに掲げていますが、外部から見ると「JUST DO IT」というスローガンが有名です。そこで、当社としてはどうするべきか、ということを話し合ったことが「Make Waves」のスタートでした。このブランドプロミスは、1年ぐらいの期間をかけて作り上げていきました。
Q. 「Make Waves」を作り上げていくうえで、社内的な問題はありましたか?
当社は歴史の長い日本企業にありがちな商品軸で発想しがちな会社ですので、どうしてもすぐに商品と技術の話になりがちです。そうすると、ブランドプロミスと言っても、ピンと来てはもらえない。それに、ブランドという言葉はどうしてもフワッとしているので、「ブランドを訴求することがどう事業に結びつくのか」という疑問を持った人も多かったと思います。そのため、伝え方に相当の工夫が必要であると考えました。
Q. そのようなことを踏まえて、うまくいったポイントは?
決してマーケティングの部署だけでの仕事としなかったことが挙げられると思います。我々が所属するブランド戦略本部に留まらず、外部や内部、具体的にはステークホルダーへのインタビューを大々的に行うなど調査しました。たとえば全部門のセールスの責任者、生産工場で働く方、アメリカで商品トレーニングをしている方、品質保証をしている方……など、幅広く声を集めたんです。最終的に、彼らからの言葉を引用して「Make Waves」を説明することで、反応に明確な変化が見られました。つまり、会議室で考えられたものではなく、「ちゃんと我々の声が形になっているんだ」という確からしさを確保できたことが大きかったですね。
Q. ほかに、「Make Waves」を制定するまでに行われたことはなんでしょうか?
「Make Waves」の思想や背景、使い方を整理した「スタイルガイド」を発行しました。また、2020年には、スタイルガイドの実践版として、事業ごとのクリエイティブやコミュニケーションをガイドする「クリエイティブマニュアル」も発行しています。これらを整備していく中で、目指す姿を関係者と共有し、「避けたいこと」「達成したいこと」を明確にするようにしました。ブランドプロミスが正しく印象的に伝わるように、また様々な事業を展開していても一貫したイメージを持っていただけるように、クリエイティブに際して参考にしてもらえるようなガイドとして、細かく定義しています。
「Make Waves」スタイルガイド
Q. レギュレーションを制定したわけですね。具体的にはどのような禁止事項があったのですか?
社内のブランドに関するレギュレーションですので詳細をお伝えすることが難しいのですが、たとえば、色です。クリエイティブでは、ブランドに関連したビジュアルの一貫性を保つため、カラーパレットに含まれない色を使用することや、コーポレートカラーの「ヤマハバイオレット」を過剰に使用することを禁止するなど、ガイドラインを規定してそれに沿って制作してもらうことにしました。

新幹線広告がSNSで拡散

Q. 「Make Waves」というブランドプロミスによるブランディングと、それによる広告展開について教えてください。
当社は取り扱い製品が非常に幅広いため、単純に「楽器」というコミュニケーションをしたのでは、広い層へリーチしているように見えて、実はどなたの心にも届かない凡庸なコミュニケーションに陥りがちです。現状を分析したうえで、いかに「情緒的結びつき」にバランスを取りながらシフトしていくか、試行錯誤の結果、「新しい企業広告」にたどり着きました。「Make Waves」というブランドとしての“傘”ができたので、その世界観を積極的にお客さまに宣伝していくフェーズにきていると思いました。
Q. 具体的にはどのような広告展開をされているのでしょうか。広告媒体の選定とクリエイティブの狙いを教えてください。
まずは、出稿する媒体の整理・把握を行いました。当社はマス広告を大量に投下できる規模ではありませんので、目的を持った選択を心がけています。現在は、直営店や駅などのOOH、新聞や新幹線など交通広告などが主な出稿先になっています。
Q. 広告については、ピアノの前に少女がいて、「きっと忘れない。人生初の努力だから。」というコピーの広告が印象的です。すごく“刺さる”と思いました。
世の中にはPUSH型ともシャウト型ともいえる騒がし目の広告が多い中、自社のブランドパーソナリティから、間接感性を刺激する本質的な広告でありたいと考えました。一部例外はありますが、基本的にはお客さまが心の中でささやく声を「人生は、何度高鳴るか。」「未知は、じぶんの中に。」という中立的なコピーとともに「Make Waves」とつなげています。ビジュアルも決して楽器ありき、プレーヤーありきではなく、音楽という普遍的な自己表現と向き合いながら、「Make Waves」の瞬間を切り取っています。
Q. そもそも、なぜ新幹線での広告を始めたのでしょうか。
新幹線広告自体は2年前から始めています。当社の音響ビジネスの中に、ルーターや会議システムを扱うコミュニケーション事業部があって、そこで新幹線で平日移動するエンジニアの方や中小企業の社長の目に留まるようなコミュニケーションを展開しています。
Q. そうした層と楽器事業の顧客層は異なるのでは?
通常でしたらその通りですが、今年は何と言ってもオリンピックイヤーでしたので、夏季シーズンに一般のお客さまにズバッと刺さるものを展開しようとしたのが、今夏に展開した一連の企業広告キャンペーンなんです。
Q. ただ、結果的に2020年のオリンピックはなくなりました。影響も大きかったのでは。
はい。新幹線については、乗車率は過去最低水準で、本来なら大失策です。ですが、それを結果的に救ってくれたのがSNSの力でした。実はこの夏、乗車顧客のSNS投稿から新幹線広告が話題となったんです。ある方が大阪への移動中、広告をスマートフォンで撮影してSNSにアップし、3000人ぐらい一気に「いいね」がついたんです。以降、アナログの新幹線広告がどんどん連鎖して拡散していきました。掲載期間のWEBサイトへのアクセスは前年比158%となり、定量的な成果も確認されました。
Q. SNSで拡散されるのもわかる、傑作のクリエイティブですよね。
社内で初めてお披露目したとき、涙ぐんだ20代女性もいました。この広告の良さは、この広告に出ているような年齢のお子さんがいなくてもかつての自分や娘を思い出すなど、人それぞれでいろんなことを連想できるところにあると思います。広告はほかにもいくつかのパターンがありますが、一貫性を担保しているつもりです。

情緒的価値と機能的価値の両輪を大事に

Q. そのような、「Make Waves」というブランドプロミスに基づいた広告は、どのような成果を生んだのでしょうか?
おかげさまで、アドスルーの時代ながら多数のポジティブなお声を頂戴しています。また、新聞出稿による広告賞もいただくなど、想定以上の外部評価をいただき、ありがたく思っています。さらに、本社浜松地区の駅に掲出したところ、社員やマネジメントからの温かい声もあり、インナーブランディングにも寄与していることがわかりました。
Q. コロナの影響で変更した部分などはありますか?
一部使用を見合わせている原稿もありますが、だからと言ってコロナ禍に向けて意図的に広告を作るというよりも、ニューノーマルの機運の中で見えてきた、本質的に音楽が人々の生活に寄与するコトを伝え続けることが大切なのではないかと考えています。世の中は暗いように見えるけど、きっと私たちに見えている世界は美しいはず。そういうことを、少し後押しして「そうだよね」と思ってもらえる広告に仕上がっていると思います。
Q. では、改めて加藤さんがブランディングで大事にされていることを教えてください。
「継続性」「一貫性」「意図性」を徹底することだと考え、チームスタッフへの意識づけをしています。また、私どもはメーカーなので、最終的には商品やサービスを通じてお客さまに価値伝達することになります。その意味でブランディングは非常に大切で、その小さくない比率は情緒的価値からくるのですが、一方で、機能的価値を疎かにして良いことにはなりません。どんなに美しいコンセプトでも、実行されなければ無価値。一生懸命モノを作ってくれる人がいるから、「品質」や「信頼」というヤマハのポジションがある。

それをどう上手に伝えられるか、というためにブランディングやマーケティングがあると思います。情緒的価値と機能的価値はコミュニケーションの両輪。当社に不足していた部分を補う意味で情緒的価値を大切にしていく、という姿勢を忘れないことが大事だと思います。
Q. 最後に、今後の目標を教えてください。
まず、企業及びプロダクトの広告宣伝活動を通じて「人の胸が大きく波打つ瞬間」を伝えていきたいと思います。それが蓄積されていき、お客さまの心の中にヤマハが存在する状態を作る。それが当社が事業ビジョンに掲げる「なくてはならない、個性輝く企業」だと思います。

そして、2020年はたくさんのチャレンジがあったと同時に、発見もありました。そのひとつが「音楽のチカラ」。もっと生活者の幸せの瞬間に貢献できると信じていますし、世界中の仲間たちとそれを実現していきたい。「Make Waves」はお客さまの「瞬間」ですが、それに関われたヤマハの人間も、同じく「Make Waves」していると思います。「Make Waves」の波は複数形で、しかも伝播していくものだとすると、可能性は凄く大きいのでは……と、志は高鳴るばかりですね。

※掲載の記事は2020年12月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。

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