一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >小池 玲子氏 Vol.2
聞き手:一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 岩本俊幸
【小池氏のプロフィール】
東京芸術大学工芸科VD卒業
J.Wトンプソンに入社 同社取締役。制作担当副社長
FCB(フットコーンベルディング)制作担当副社長
PUBLICISジャパン制作担当副社長を歴任後
外資系広告代理店で培ったブランディングのノウハウを
日本の会社にも広める事を目的としクリエイテブハウスR-3を設立。
主な仕事
ダイヤモンドを日本の習慣に定着させた「エンゲージメントキャンペーン」
「スイートテンダイヤモンド」
プレミアムアイスクリームのポジショニングで成功したハーゲンダッツ
水を買って飲む習慣を作った、Vittel,Contrex Perrier
日本では認知度ゼロであった,UBSのブランドイメージ確立等、
航空会社から食料品、化粧品の分野迄広くブランドの構築に関わってきた。
聞き手
ところで、このかわいいワンちゃんの鉛筆立てのようなものは何ですか?
小池
これは、4年くらい前に手がけたフィラリアの薬のPRグッズです。ではそのお話をしましょうか。ワンちゃんは、蚊を媒体にして心臓に寄生虫が入って死んでしまうということが多いのですが、ご存知ですか?
小池氏が手がけられたフィラリア予防薬のPRグッズ
聞き手
ええ。
小池
それがフィラリアという病気なのですが、これはそのフィラリアを予防する「カルドメックチュアブルP」という長い名前の薬です。これですとフィラリアを100%予防できる。
聞き手
100%ですか?
小池
ええ、100%です。どうして100%かというと、すごく美味しいから。だから、イヌが食べてしまう(笑)。いままで大型犬に薬を飲ませるというと、嫌がって、賢い子だと舌の後ろに隠していてペッと捨てたりします。だから、飲んでいない可能性がある。でも、この薬は100%の効果。イヌが自分から食べる。私もネコに薬を飲ませたりしますが、押さえつけて、口を開けさせて大変です。そうすると、だんだんあぶくを吹いてきて、最後、舌でピュッと出してしまうことが多いんです。
聞き手
飲み込まないのですね。
小池
そうです。フィラリアの薬にはいろいろな種類がありますが、これはイヌが自分から進んで食べる「100%の効果」というのがコンセプトです。しかも、お医者さんでしか売らない。そこで、消費者にこの効果を伝えるにはどうしたら良いか考えました。まず、メインビジュアルをイヌが尻尾を振っている絵にして、キャッチは「お薬好きだとは知りませんでした」としました。また大型犬、小型犬、特定の犬類のイメージを植え付けないためにも、イラストを使いました。尻尾を振っている後ろ姿のイラストを使い、「うちの子はお薬が嫌いと思っていました。でも、自分から食べるんだ」というコピーでフォローしました。
聞き手
いいですね。
小池
それまでこの会社は新聞15段の広告でやって、当時流行の美しいイヌの写真を使用していました。しかし、そんなことではコンセプトが伝わらないと思い、こういう心温まるものにしたんです。
聞き手
この尻尾が肝のような気がします。喜んでいるという意味ですよね?
小池
そうです。イヌの喜びを伝えるのにはベストです。予算の少ない中で、メディアを選択し、余ったお金でこのポップを作ったのです。ペットオーナーが、獣医師さんの所に来たときのリマインダーの目的で作りました。獣医師さんのところはカウンターが狭いですから、できるだけ小さくして、太陽電池でしっぽが動くようにし、興味を持ったペッットオーナーに看護師さんが説明できるようにしました。
聞き手
なるほど。その場面を全部想定しているわけですね。
小池
想定して作っています。4年以上経ったいまでも、いまだにこれを使っていますよ。
聞き手
この絵の肝は、まさに「ワンちゃんが美味しくて喜んで食べるんだよ」ということをいかに表現するか。
小池
そうです。この肝は完全に、「イヌが自分から食べます」というところです。
聞き手
私はワンちゃんを飼ってないので分からないのですが、みなさんやはりご苦労されているわけですね?
小池
みなさんすごい苦労していますよ(笑)。
聞き手
異物ですものね。
小池
そう。また薬が結構大きくて、本当に苦労しています(苦笑)。
聞き手
最後に、ブランド・マネージャーという職種についてお伺いしたいと思います。日本では、ブランド・マネージャーという職種がまだ定着してないような気がしますが。
小池
そうですね。
聞き手
やはり欧米はしっかりと?
小池
しっかりしています。ブランドが一番大切、ブランドがいかに大切かというのは、欧米の人の方が認識しています。その企業や製品の生命線を握っていますから。だからブランド・マネージャーの権限が強いのです。
聞き手
この間、ある方と話をしていたら、何が一番大変かといったら社内の調整だと。特に日本の場合、トップにそういう意識がないと、その調整だけでほとんど終わってしまうという話を伺いました。そういうことはありますか?
小池
だから日本は、タレントを使うのです。タレントだと社内の通りがいいから。それともう1点、製品がそれぞれ似通っていてそれほどの差別化ができないので、タレントで差をつけようとしていますが、かえって差がつかない状態になっているのが現実です。
聞き手
そうですよね。しかも、そのタレントが何か起こしてしまったらアウトですものね。
小池
アウトです。
聞き手
そういう日本独特の文化みたいなものがあるのですね。
小池
ええ。例えば不祥事を起こしてしまった会社でも、ブランド・マネージャーがしっかりと権限を持っていたら大丈夫なのです。でも大企業になればなるほど、人事の枠の都合なのか担当者がコロコロと代わってしまう。そうすると結局は、担当者が広告について勉強したり、自分の会社のブランドはどうなんだろうと考える時間もない。社内での苦情を処理していく便利屋さんみたいになっている。
聞き手
その可能性はありますよね。日本ではプロダクト・マネージャーとか言っていますが、これが本来であればブランド・マネージャーであるべきですよね。
小池
私は、そうだと思います。
聞き手
ヨーロッパなどの外資の会社でお手伝いしている時、打ち合わせなどの際に、ブランド・マネージャーの権限の強さなどを感じた瞬間はありますか?
小池
私がUBSを手がけていた時、広告担当は女性の方でした。当時、UBSは日本での活動が20年以上に及んでいましたが、度重なる社名変更で認知が非常に低かったのです。また当時、金融ビッグバンが起こり、たくさんの外資系金融が日本に参入したので、UBSも知名度のアップを図り、顧客獲得をしていかなければいけなかった。そこで、初めて広告制作の話が持ち上がったのです。その時の彼女の仕切りがすごかった。会議室に全社員を集めまして、私が、みなさんの前でストーリーボードをプレゼンテーションしたのですが…。
聞き手
全社員ですか?
小池
ええ。その際、マーケティグマネージャーが全社員にメールを流しました。「会社のテレビコマーシャルを創ることになりました。プレゼンテーションをしますから、興味のある人は来てください」と。そして、私がストーリーボードをプレゼンテーションした後に、「このストーリーボードについて何か意見のある人は、何月何日までに私にメールをください」とメッセージを流しました。そのメールを参考に修正したストーリーボードを、また全社員にメールします。そして撮影が終わって、ラフ編ができると「ラフ編ができましたから、みなさん、また来てください」とメールします。それでラフ編を見せる段階になるわけです。その時でした。一番前に座っていたポジションのすごく高い日本人の方が、根本的な所での疑問を提示されました。その意見は、CMのコンセプト自体を根底から覆すものでした。そうしたら彼女が立ちあがって「いまこういう意見があった。すごくいいと思うけれど、時すでに遅い。私は今回で3回皆さんにインフォームしている。何月何日までに意見が欲しいと言ったのに、あなたは意見をくれなかった。だから、残念ながら今回その意見は取り入れられない」と。
聞き手
すごい!
小池
それで終わりです。すごかったです。ビシッと言いましたから。
聞き手
偉い人というのは社長クラスですか?
小池
社長は外国人だったので、社長の下ぐらいの人だったと思います。確か、日本人のトップだったはずです。
聞き手
その人は、最初から見ていたんでしょうか?
小池
私はよく分からなかったのですが、見ていなかったのだろうと思います。ちょろっと来て、日本人にありがちな、社長が一言いうとあとは全部変わるみたいな、そういうことで言われたのだと思います。
聞き手
日本の企業だと、そういう理由でひっくり返るということはよくありますものね?
小池
よくあります。
聞き手
それをガチッと止めた。
小池
そうです。「3回メールしている。意見は何月何日までと言った。だから、あなたの意見はtoo late」と言っていました。
聞き手
格好いいですね。その方がいわゆるブランド・マネージャーですか。
小池
そうです。
聞き手
権限がすごくあるんですね。
小池
そうです。ブランド・マネージャーであり、宣伝広報担当ですから、UBSのブランドを守る立場にある。
聞き手
まさにUBSという会社のブランドを守る責任者なのですね。勇気が出てくるようなお話です。
小池
私が日本の企業で働いてびっくりしたのは、普通の企業の宣伝部の部長というのは、社長とか重役の人たちと喧嘩できる立場でないといけないのに、ほとんどその手の発言を聞いたことがないですね。それだけ自分の役割を認識している方が日本の企業に何人いるのか…。
聞き手
前回伺ったプランニング・サイクルをきっちり、タッグを組んで一緒に考えるぐらいの人がいいですね。
小池
そうですね。
聞き手
今回も、貴重なお話をありがとうございました。
※掲載の記事は2014年9月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。