一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >藤原 かおり氏 Vol.1
聞き手:一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 岩本俊幸
【藤原 かおり氏のプロフィール】
大学卒業後、旭硝子株式会社に入社。 新規カテゴリーのビジネスデベロップメントの職に従事した後、外資系広告代理店、国内広告代理店にて、ストラテジックプランナーを務める。その後、外資系食品メーカーにて、飲料ブランドのブランドマネージャーを担当。2011年にカルビー株式会社に新商品のブランドマネージャーとして入社、2012年より、フルグラのマーケティングを担当、2014年4月より、現職(マーケティング本部フルグラ事業部・事業部長)に就く。
聞き手
25年前に発売されたカルビーが製造・販売しているシリアル『フルグラ』は、ここ5年で急激に売上を伸ばしたことで注目が集まっていますよね。今回は、『フルグラ』のマーケティングを担当されている藤原かおりさんに、お話をお伺いしたいと思います。はじめに、カルビー株式会社の現状を教えてください。
藤原
弊社の現在の売上高は、連結で2200億円(2015年3月現在)ほどです。2008年まで、カルビーはオーナー会社として株式公開をしていませんでした。しかし、2009年から経営陣が現在の体制となり上場をし、それ以降売上げと利益は順調に伸びています。しかし、大きく成長していくためにはイノベーションが必要です。そのために期待されているのが『フルグラ』で、『フルグラ』を中心に1000億円規模の朝食事業を確立するように言われています。
聞き手
『フルグラ』の特徴は、どのようなものがありますか。
藤原
『フルグラ』の特徴は、主に4つあります。1つ目は、いくつかの穀物が主原料になっていることです。2つ目は生地の食感で、この部分にカルビーのこだわりがあります。カルビーは食感をつくり込むのが上手な会社で、たとえば『じゃがりこ』や『ポテトチップス』など、それぞれのブランドの価値を体現する食感を上手くつくり上げることが得意なんです。3つ目はフルーツをミックスして、味覚のハーモニーをつくっているところです。最後に食物繊維や鉄分、ビタミンなどの栄養バランスが良く、バナナ4本分の食物繊維やホウレンソウ10食分の鉄分が入っているところが特徴となります。
聞き手
『フルグラ』に力を入れるようになった、きっかけを教えていただけますか。
藤原
『フルグラ』は、もともと売上30億円のブランドでした。2009年に代表取締役会長兼CEOである松本晃がカルビーに来て、ひと通りカルビー商品を食べてみました。『フルグラ』を食べて、「こんなにうまいものが、なぜこれだけしか売れていないんだ。100億円くらいは軽く売れるだろう、何とかしよう」と社内に指示を出しました。『フルグラ』を食べた誰もが、「おいしい」と口をそろえて言います。そこで商品自体の改良はせず、マーケティングのやり方を変えることで、セリングすることにしました。また派手なテレビCMなどは行わずに、できるだけ無駄なコストをかけないようにマーケティングを行ったのです。『フルグラ』は秋冬が売れづらい商品だったので、通年で売れる商品を目指しました。
聞き手
テレビCMなどを行わずに、どのような形でマーケティングを進めていったのでしょうか。
藤原
広告をしない代わりに、戦略PRという手法を使いました。単に戦略PRを行ったのではなく、しっかりと中期事業戦略と結びつけるための戦略開発体制を整えてから開始したんです。また中期計画もできるだけ柔らかいストーリー、伝えたくなる分かりやすい計画をつくりました。その上でお客さまや流通、メディアの方に「いいね」と言ってもらえるような環境を目指したんです。
聞き手
そのとき、課題になったことはありましたか。
藤原
シリアル市場は250億円ほどの規模で推移していて、もうこれ以上伸びない、と言われていました。しかし実際は、シリアル自体を食べたことのない消費者が77%もいました。弊社では、その点をチャンスだと考えたのです。シリアルは「簡便で健康である」ことを訴えてきました。しかし、そのことが「手抜きの商品」というネガティブなイメージを与えてしまっていたのです。また、「食事らしくない」「おいしくなさそう」とも言われていたので、このイメージを変えなければ、お客さまはスーパーにあるシリアル売り場にさえ来てくれません。こうしたお客さまの「自分には合わない」というイメージを変えるところからはじめなければいけませんでした。よって、自分たちオリジナルの新しいマーケティングモデルを構築することと、カテゴリーのイメージを刷新するという2つの目標を掲げたのです。さらに、ブランドのビジネスとはどのような形なのか、それによってブランドはどう再生できるのかを考えました。
聞き手
新しいマーケティングモデルについて、詳しく教えていただけますか。
藤原
大雑把に言ってしまうと、ニュースや報道を使って売れる環境をつくり、店頭で『フルグラ』をトライアルしてもらえるような構造をつくることです。これが成功すれば、100億円の売上に到達するのではないかと考えました。
聞き手
具体的には、どのように進められたのでしょうか。
藤原
まず中期戦略を考え、それを短期戦略に落とし込みます。そしてコミュニケ―ションテーマを設定し、それを世の中に伝えていくために何のファクトが必要かを考えて、コンテンツにしていきました。これはBtoCのマーケティングでは、よく使う手法です。実際にはBtoBの方に力を入れています。BtoBの「B」の部分が弊社カルビーで、「toB」の部分は流通を指しています。営業は、売りやすいスナック菓子に注力しますが、シリアルはスナックとはバイヤーが違うことも多く、営業するのが難しいのです。スナックに比べ、販売個数が少ないので、積極的に売り込む対象ではありませんでした。どんなにトップが「売れ」と言っても、うまく売り込めない状態が続きました。そのため流通向けに商品の素晴しさをPRしていけば、流通の方から「ほしい」と弊社の営業に要求してくるのではないかと考え、BtoBの方に力を入れました。
聞き手
シリアル市場は250億円で頭打ちの状態だった、という話を聞きました。競合他社とは、どのように差別化を図ったのでしょうか。
藤原
シリアル市場の中でシェア争いをしていても、30億円から100億円にジャンプはできないと考えました。だから、対競合とのシェア争いをしないことにしたんです。またシリアル市場の中の『フルグラ』ではなく、シリアルとは別の朝食市場をドメインにしようと思い付きました。その市場で、どんな商品と一緒であれば確固たる地位を築けるだろうか、という視点を大事にしました。その結果、2つ見つかりました。1つは、女性のほとんどが食べているイメージのあるヨーグルトです。もう1つは、原宿などで流行っていたパンケーキです。この2つの商品と組めば、チャンスがありそうだと考えたんです。
聞き手
実際は、どのようにタッグを組まれたのですか。
藤原
まず、シリアルはネガティブなイメージをもたれていたので、「グラノーラ」という言い方をするように変更しました。そのグラノーラが流行っている、「増殖、グラノーラ族」という話を雑誌やテレビなどで取り上げられるように、コミュニケーションテーマとして設定しました。そして1年に2回のフェーズを設定して、それぞれPRの内容を変えて展開しました。1つのネタは、もっても半年だと考えたからです。戦略PRでは、ニュースがつくれるかどうかがカギとなります。この手法は、みんなが知っている商品では通用しなかったでしょう。『フルグラ』を知らない、食べたことがないという方がたくさんいたからこそ、通用した手法だと考えています。
※掲載の記事は2017年9月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。