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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー > 後藤 晃氏

“価値の意味付け”で顧客の心に感動を呼び起こす

株式会社ベアーズ後藤 晃

Profileプロフィール

株式会社ベアーズ 執行役員 マーケティング本部長 CMO
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 スタンダードトレーナー

IT・業務コンサルタントとして、数多くのプロジェクトに従事し、大手システム開発会社にてソリューション営業に携わり、クラウドサービスの事業企画兼マーケティングを歴任。複数のSaaS事業を立ち上げる。その後ベンチャー企業でIoTの事業企画間マーケティングに携わり、2016年10月に株式会社ベアーズ入社。現在に至る。また、2015年には「システムインテグレーション再生の戦略」の出版やコンサルティングを行う目的でSwankyConsultingを設立。コンサルティング事業やマーケティング戦略立案などを手掛けている。MBA経営学修士。

「暮らしを“愛する心”を応援します」をコンセプトに、家事代行サービスやハウスクリーニングなどを展開するベアーズ。家事代行サービスのパイオニアとしてスタッフの規模や質で高い優位性を持つ同社では、「甘かった」というブランディングに本格的に着手。コンセプトを外に伝える施策を行ったほか、サービスのブランド統合を行うなどの取り組みを推進しています。具体的なベアーズのブランディングとはどのようなものなのか、同社執行役員マーケティング本部長CMO の後藤晃氏にお話を伺いました。

ベアーズにはブランドの一貫性がなかった

Q. まず、ベアーズの概要について教えてください。
ベアーズは1999年に現社長と副社長の高橋夫婦が創業しました。
2人は1990年代前半から、仕事の関係で香港に暮らしており、第一子が生まれてからも香港は家政婦の文化が進んでいるので2人ともバリバリ働いていたんです。
ただ、日本に帰ってくるタイミングで第二子を出産したとき、1999年当時は家政婦のサービスは家政婦紹介所ぐらいしかなく、月に20~30万がかかり、住み込みという形しかありませんでした。

そうした状況を見て、家事代行サービスの新しい産業を作ろうとスタートしたんです。
家事代行という言葉は、社長が作りました。家政婦だと高級感が出てしまうので、もっとみなさんの手に届くネーミングにしようと。
ただ、最初の5~6年は認知が行き届いておらず、あまり売れませんでした。1件1件お客様に説明しサービスを提供している時期でした。
それが2008年前後から、日本でも男女共同参画や女性活躍推進など言われるようになり、女性が活躍するための政府の支援も出てきました。

そうした中で、家事代行という仕事があるとテレビで取り上げられるようになり、「カンブリア宮殿」で紹介されたことで爆発的な成長を遂げ、現在に至っています。
なお、「ベアーズ」という名称は映画「がんばれ!ベアーズ」からきています。
ベアーズを立ち上げたとき、なかなか人が集まらなかったので「一人一人が完璧ではない凸凹ばかりのメンバーが集まっているけど、一生懸命力を合わせれば逆転できる」という映画の内容をモチーフにしたそうです。
Q. ベアーズに入社されたきっかけは?
ビジネススクール時代の同期生がベアーズの経営企画で働いていて、マーケティングのポジションが空いているという話を聞き、副社長と会って意気投合して入社することになりました。
昨年まで情報システム部門とCMOの両方を担当していましたが、会社的にもっとIT化に注力する必要があって片手間ではだめだと思い、現在のマーケティングのポジションに腰を据えることになりました。
Q. CMOとしての具体的な業務内容は?
現在は、マーケティング部とアライアンス推進部の両方を管掌しています。
たとえば、マーケティング4Pの設計。配下には広報もいるので、プロモーションのためにメディアに出し、それを見た人が我々のウェブサイトに到着し、そこからナーチャリングしてコンバージョンまでつなげるわけですね。
あとは、トリプルメディアの設計とキャンペーン企画など、それらを統合的に見ているような形です。
また、配下にクリエイティブチームもいるのでブランディングも手掛けています。
大きな戦略に沿って、各メンバーと細かく施策を作っていく感じですね。
Q. ベアーズ入社後にブランド・マネージャー認定協会も受講し、トレーナーの資格も取得されていますが、ブランディングに携わろうと考えた背景を教えてください。
もともと、ベアーズのブランド・アイデンティティはエッジが効いていたんです。
ただ、ブランディングにコストやリソースが追い付いておらず、ブランドの一貫性がないと思っていました。それがブランディングを始めた経緯です。
MBAではユニ・チャームやコカ・コーラなどの大企業のブランディングは学びますが、では中小企業の場合は具体的にどうするのか、ということは学びません。
だから中小企業でもできるブランディングをどうするか、課題を感じていました。
ブランド・マネージャー認定協会では小規模の会社もブランディングしているので、役に立つと思い受講したんです。
Q. 家事代行サービスは市場に競合他社も増えています。現在の状況をどう見ていますか?
競合企業は2010~2012年ごろから徐々に増えだし、現在は何社になるのか分かっていません。毎年100社近くが参入してくる状況です。
ベアーズとしては、競合が増えるのはウェルカムなんです。
産業を作るとなると、何百、何千社があるという業界でないといけないので。そこについてはあまり気にしておらず、むしろもっと増えればいいな、と思っています。

競合企業が参入するときは、ベアーズをまねして入ってきます。
たとえば赤いエプロンもそうですし、おそうじの種類、サービスの種類、時間単価でベアーズをベンチマークして参入してくるので、我々も日々進化しないといけません。
そして、業界の品質をしっかり担保していかないといけない。

競争優位性の観点で言えば、スタッフの数や品質には競争優位性があると思っています。
スタッフは登録者数で1万6000人いますし、研修プログラムが手厚いので教育体系もしっかりしています。
規模が大きくなると、1人の作業を均質化するノウハウを構築するのは難しく、100人を超えると崩壊し始める。
我々の場合、1万人を超えても均一なサービスを提供できるところに競争優位性があるので、そこを磨いていくつもりです。

最近はアプリでマッチングをさせる会社も出てきていて、あとから参入してきたほうがある部分において優位性が高いので、ベアーズはそこを模倣して、王者の戦略としてやっていこうと考えており、アプリを出したり、システム化に力を入れたりしています。
Q. 経営面での課題は?
毎年120%ぐらいで成長していますが、200%の成長力を実現するのは、労働集約産業では非常に難しいので、そこが大きな課題です。
労働集約的な部分以外はIT化し、コスト削減したオペレーションを構築していくことが課題です。
また、今は国家戦略特区(国家戦略特別区域)で入国しているフィリピンの人が170人ぐらいいるのですが、そうした部分も開拓していくことが重要です。
国家戦略特区は、内閣府とベアーズで最初に枠組みを作ったんです。
ただ、スタッフが増えたぶん仕事をマッチングしないといけない。そのために、今まではウェブマーケティング中心でしたが、ブランディングも活かしたマス広告やテレビコマーシャルも徐々に始めています。
リソースに合わせて集客をスケールアップしたり、そうしたコントロールができるような設計をしている段階です。

社内にブランディングを啓蒙

Q. ベアーズのブランディングについてお聞きします。現在、ブランドの階層はどういった状況でしょうか。
まず「株式会社ベアーズ」というコーポレートブランドがあり、そして家事代行、ハウスクリーニングなどサービスごとのブランドがあります。
コーポレートブランドは「暮らしを愛する心を応援する」というコンセプトです。
サービスのブランドは、サービスごとに温もりを伝えるとか、家事をアウトソースすることによる付加価値を訴求する、という作りです。
Q. ブランディングを導入したきっかけを教えてください。
当時、ブランド・アイデンティティを顧客の記憶に定着させる、ということが非常に甘かったんです。
また、自分たちが掲げているブランド・アイデンティティが顧客の共感を呼べてない、とも感じていました。
家事代行サービスもそうですが、目に見えないので、顧客の反応が非常にあいまいだったんです。
Q. では、そこからどういった流れでブランディングを行っていったのでしょう。
会社の優先順位が「どうやって売り上げを上げるか、どう集客するか」だったので、まずは「ブランディングがあり、そのあとに集客しよう」と優先順位を明確にしました。
そのためには受け皿がしっかりしていないといけないので、最初にホームページのリニューアルに着手しました。

2017年11月にリニューアルして、ブランド・アイデンティティやキャッチコピーをしっかり決めたほか、ロゴやブランドごとのカラーもなんとなく使っていた状態でしたので、ブランドルールもしっかり定めました。
チラシのデザインもホームページをもとに変えていきました。
また、ブランドのコンセプトをしっかり伝えるため、ブランディング動画の作成にも着手しました。
まずベアーズが伝えたいブランドメッセージを定義して、動画を見た人がホームページに入ってくるときにしっかりブランドの思いが伝わるように、ブランドサイトを作りました。
サイトを見ない人には、契約した際にコンセプトブックを提供するようにしています。
ベアーズがなぜ家事代行をしているのか、それが伝わるようなツールを揃えていったわけです。2018年の1月から1年がかりで手掛けていきました。
Q. ブランディングでこだわってきたことは?
一貫性です。ベアーズは良くも悪くも全国に展開しきってしまっており、北は札幌から南は福岡まで拠点があるのですが、拠点ごとに営業ツールがバラバラ、ということが多いんです。
現場での地域密着した営業活動が多かったので、統一するのには骨が折れましたが注力していきました。
ブランディングについて理解している人はあまり多くないので、デザインに飽きたから変える、という話もよく出る。それをやめさせて、このほうが認知が進むから、と説明していきました。
新しいことをしないと世の中から遅れてしまうのでは、と思っている人が多いので、その作業は大変でしたね。
Q. そうした人たちにはどのように伝えていったのでしょうか?
ベアーズには月に一度、関東と関西で全国集会のようなものがあるので、そこでしっかりと伝えました。
また、ブランド勉強会も年に1回必ず開催しているので、そこで特に人事や採用の部署、営業企画などといったアウトプットを扱う部署に伝えていきました。
Q. ペルソナも変更されています。どういう理由によるものでしょうか。
ホームページを構築する際に調査したとき、ベアーズのペルソナが違うと気づきました。 たとえば飲食店で店長とともに顧客が古くなっていくという現象がありますが、我々の場合も、会社が20年近く経つと、どうしても創業当時のペルソナを設定してしまうんです。 でもホームページを解析すると実は顧客は30代前半でした。時代とともに家事代行の裾野も広がってきていたんです。

しかし、ペルソナを変えようと思ったのですが、最初は会社としては受け入れられなかったんです。
そこで、ホームページをリニューアルしたあとにタグを入れてしっかり情報が収集できるようにして、どういう人がサイトに来ているのかデータで見せていきました。
ホームページのクリエイティブ面も30代前半向けに変更しました。
ただ、経営にとってはブランディングが大事だと思いつつ、KPIには直結しないので、なかなか優先順位は高くならないんですね。
だから優先順位についてしっかりコミュニケーションをとることが大事だと思いました。

「変わります」宣言でブランド統合を推進

Q. 家事代行サービスと暮らしのサポートのブランド統合を進められています。その経緯を教えてください。
将来、家事代行のような労働集約的な産業は、規模の不経済が働いてコスト高になってしまうと考えたからです。
規模が大きくなると、販管費が高くなる。そこを改善する必要があります。

また、家事代行以外にも、たとえば水道のパッキンを変えてほしいとか、家の中の困ったことはありますよね。
そうした暮らしのサポートを取り入れていこうと思いました。
ただ、領域が広すぎるので、別サービスとして切り出してみたんですが、なかなかうまくいきませんでした。
誰も認知していない新しいサービスを別ブランドで立ち上げるのはすごく難しいんです。
だから一度方向転換して、家事代行やハウスクリーニングの既存ユーザーに展開する付帯的なブランド、という形で取り込むことにしました。

ただ、サービスの範囲が広がるうえで、やはりブランドのイメージを変えていかないといけない。
たとえば家事代行は、「豊かな暮らしのために時間を捻出する、それによって笑顔も増える」というストーリーですが、買い物に行ってほしいとかパッキンを変えてほしいという暮らしのサポートは、時間という概念ではなく手間やノウハウに対するもの。
だから家事代行と合体させるためには、ブランドメッセージも変えないといけなかったんです。

そこで着手したのは「我々は変わります」宣言です。
プレスリリースを載せ、トップページに「暮らしのサポート企業に変わります」と出しました。
これはインナーブランディングをメインにしているんです。外に発信することで、中を変えようと。
そうしないと、家事代行事業の社員は率先して暮らしサポートサービスの営業をしないので。
でも発信をすることで、家事代行と暮らしサポートというブランドは統一されたんだ、という認識ができる。
今は「暮らしをサポートする」というキャッチコピーをチラシなどいろんなところに埋め込んでいる最中です。
Q. ブランド統合で、どういった状態を目指しているのでしょう。
ベアーズは暮らしサポート企業で、こういうことができます、ということを社員すべてがお客様に言える状態を目指しています。
今は、家事代行のブランド・アイデンティティなどを整理しているところ。来年ホームページのトップページを変えて、そこで再度ブランド・アイデンティティを再定義したものを出す予定です。
Q. ブランディングを進めていくにあたって、気をつけないといけないポイントは?
やはり一貫性です。
一貫性にもふたつあって、ひとつは外に対する一貫性。これはある程度やり方が分かってきたので、今度はテレビCMも含めて大きくドライブしていこうと考えています。
もうひとつは、ブランド・アイデンティティ自体がコンセプチュアルなことを掲げていくほどオペレーションからは乖離していくので、オペレーション面での整合性がより難しくなる。
そこがすごく大変だなと思っています。たとえば、今後コールセンターやアプリでお客様からの注文を受けることになると、自分たちの掲げるブランド・アイデンティティが体現できているか、すさまじく数多くのものをチェックしなければなりません。
そういうことを、仕組みとしてどう落としていくかは大きな課題です。

また、ベアーズの大事にしているブランド・アイデンティティとIT化が少し相反するところがあるので、そこも課題です。
対面サービスでは温もりやあたたかみということを大事にしますが、どうしても非効率になってしまうので、IT化はしないといけない。
そこでブランド・アイデンティティに沿ってどこまで細かく設計できるかが大事だと思います。
端的に言えば、ドライとウェットのメリハリをどうするか。現場サイドはドライにしたほうが自動的に回るのでコスト効率がよくなり、売り上げも上がりやすい。
でも私のようなブランドサイドは、もっとウェットにやろうと考えます。
そこの境界線が不明確になりつつあるので、大きな課題として捉えています。
Q. では、後藤さん自身がブランドやブランディングというものをどう捉えているか、どこがポイントだと考えているのか、教えてください。
ブランディングで一番重要なのは「価値の意味付け」だと思っています。
たとえば、単純なブランドロゴなどに意味をつけて、顧客の心に感動を呼び起こす。
そういう部分が非常に重要だと思っています。

しっかり意味付けをして、顧客の心の深いところに届ける。
メール文面ひとつとってもそうですし、1枚のチラシでも、謝罪文をひとつ送るのもそう。
そこに、ベアーズとしての意味付けをひとつひとつ付けていく。
その徹底度合いが大事だと思っています。
そこで意味付けすることができれば、たとえ同じようなサービスがあっても、ブランド価値が高いのでお客様から選択される。
そういうことをどう埋め込むかを大事にして、しっかり発信していかないといけないと思います。
Q. 最後に今後の目標を教えてください。
これまでにウェブマーケティングからブランディングまで、BtoBやBtoCまで幅広くやってきたので、こういうノウハウやすばらしさをいろんな人に伝えていきたいですね。
今は個人がブランディングしてものを作ったり発信したりできる時代。
もっと個人や地方でもブランディングできるようになると、日本にはすばらしいものがたくさんあるので、ブランディングして世の中に伝えていける。
そうした手助けができるようになればと思っています。

※掲載の記事は2021年7月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。

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