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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >阪本 啓一氏 Vol.3

インナーブランディングとは何か ~儲かっている会社がやっている3つのこと~ – 前編

阪本 啓一氏 Vol.3 株式会社JOYWOW 取締役会長 一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 アドバイザー

聞き手:一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 岩本俊幸

【阪本氏のプロフィール】

大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。

建材部門に19年勤務後、2000年4月に独立。

渡米し、ニューヨークでコンサルティング会社「Palmtree Inc.」を設立。

2006年、世界にJOY(喜び)とWOW(感動)を広め、浸透させたいという理念のもと、

「株式会社JOYWOW」を創業、現在同社取締役会長。

主な著訳書として、『共感企業~ビジネス2.0のビジョン』(日本経済新聞出版社)、

『もっと早く受けてみたかった「ブランド」の授業』(PHP研究所)、

『気づいた人はうまくいく!』(日本経済新聞出版社)、

『「たった1人」を確実に振り向かせると、100万人に届く。』(日本実業出版社)などがある。


インナーブランディングの3つのポイント

聞き手

阪本さんが考えるインナーブランディング3つのポイントを教えてください。


阪本

まず、一つはブランド・アイデンティティの価値は何かということを社内全員でシェアする。
二つ目は、それが実際の行動に反映されないと意味がないので、細部にわたるロジックツリーを作る。
三つ目は、シェアするための仕組みを社内で作る、ということです。


聞き手

まず一つ目を具体的に説明していただけますか。



阪本

お客さまのどんな満足を提供しているのかをときどき社内でシェアする必要があるということです。
その商品、そのサービスはよそにないものか、あるいはよそにあるけれども特別なものなのか。
うちはパン屋だとか配送業者だとか、商品やサービスによる定義ではダメで、その商品やサービスを提供することで、お客さまのどんな満足を満たすのかということを突き詰めてみる。

お客さまがその商品やサービスを買う理由、つまりお客さまの購買動機による社内のブランドの定義をやっておかないと、時代の流れは激しいですから、市場に取り残されてしまうし、社員のアンテナも磨かれません。


聞き手

ブランド・アイデンティティの価値をみんなでシェアするためには、共有すべき価値を顕在化させる必要がありますね。


阪本

みんなでディカッションするときに、「この会社を潰すにはどうすればいいか」を考えてみると、自分たちのコア・アイデア(強み)が見えてきます。
自分たちの会社は何でビジネスが成り立っているのかということをあらためて知る作業です。

例えば、洋酒メーカーなら、酒を発酵させている樽を何らかの事故でなくしたらアウトです。
なぜなら、ウイスキーは樽の中で長い時間をかけて醸成されるものですから、その原酒が眠る時間が失われてしまうとビジネスが成り立たなくなるからです。
ということは、ウイスキーメーカーにとってのコア・アイデアとは時間だということがはっきりしてきます。


聞き手

なるほど。ただ単にウイスキーを売るのではなく、時間を売っていると捉えることができますね。


阪本

犬の服を製造販売している三和服創 ( http://www.dogpeace.co.jp/ ) は、ソフトバンクのCMに出てくるお父さん(犬:役名「白戸次郎」)の服なんかも作っているのですが、自分たちのビジネスはなぜお客さまに支持されているのだろうと考えました。
「そもそも、お客さまである飼い主はなぜ犬を飼うのだろう」と、どんどん深掘りしていきました。

つきつめて考えた結果、「お宅の○○ちゃん(犬の名前)の服、可愛いわね」と言われる自分がうれしいのだという結論に至りました。
飼い主には、「可愛いワンちゃんを見せびらかしたい」というインタレスト(興味・関心)があるわけです。

であるならばと、「犬のモデルを募集します」とやったところ、ものすごい数の応募があったというのです。
で、今度は、「犬の服の自分でデザインしてみませんか」という犬のデザイナー養成講座をやれば、よりビジネスが成長するのではないかと考えているそうです。

つまり、同社のコア・アイデアは犬の服を売ることではなく、飼い主の「うちのペットを見てほしい」というインタレストを満たすことなのです。
そうすると、そこにほかにはない価値が生まれます。
このように自社のビジネスの定義を扱っている商品やサービスではなく、それがもたらすお客さまの満足や幸せというものに置き換えてみると、ビジネスの可能性が広がっていくわけです。



聞き手

提供する価値の本質を見極めて、そのコア・アイデアをお客さまにしっかり伝えるということが必要ですね。


阪本

求められるものは時代の流れの中で変わってきますから、コア・アイデアはシンプルなものがいいのです。
それを伝えたい相手がどんな得をするのか、ほかの人に伝えたくなるような面白さがあるのかを検証しながら、伝えるべきコア・アイデアを先鋭化していきます。

ロサンゼルス(アメリカ)のドジャー・スタジアムに行ったときに気づいたことですが、野球場ではホットドッグもビールも売っています。
そのとき、野球場ビジネスもシネコン(シネマコンプレックス)も同じだなと思ったんです。
ということは、野球場もシネコンも本質はフードビジネスだなと。
だから、食中毒の事故を起こしたら、ビジネスが倒れてしまう。
球場は野球を見せながら食事を売っている。
シネコンも同じです。
そういうふうに置き換えてみると本質が見えてきます。


聞き手

まず、そういう切り口として入っていくということですね。


ロジックツリーで「なぜならば」を言語化する

阪本

ブランドで「とんがったモチーフ」とよく言われますが、このユニーク・セリングポイントは実は難しいのかなという気がし始めています。
投資もエネルギーも時間もかかりますからね。
もっと小さなプチ・イノベーションでいいのではないかと思うんです。
もともと日本人はプチ・イノベーションが得意です。
どんな形状の物でも包んで運べる風呂敷とか、名古屋の喫茶店が始めたモーニングサービスとか、ちょっとしたアイデアが長く続くビジネスを生み出しています。

ですから、コア・アイデアを煎じ詰めたら、もう少し発展させて、プチ・アイデアを付加してみる。
例えば、神戸の「ピノッキオ」というピザ屋では、1962年の創業以来の累計枚数をナンバリングした三角形の紙をピザに付けています。
お客さまは面白がってそれを持ち帰り、友だちに伝えます。
それがそのままクチコミのツールになるわけです。

おなじみのヴィレッジ・ヴァンガードはただの本屋ではなくて、雑貨も編集しています。
本屋が本じゃないものを売ってもいいじゃないかという発想からスタートしています。



聞き手

それは、どう思われたいかのアイデアでもあるわけですね。


阪本

誰のためのブランドであるということをどう伝えるかが重要です。
今は時代の流れが激しいから、プチ・イノベーションでいいんです。
例えば、ノンアルコールビールの「キリンフリー」はキリンだからできた。
資本とかエネルギーとかナレッジとか社内のリソースが使えますから。

だけど、中小企業のような資源に恵まれていないところは、大手のマネをする必要はなくて、チョットした工夫でいいんです。

大阪の女性に人気のレストラン「瓦町ブラン」は、毎週火曜日は「オッサン・デー」を設けています。
この店は女性に人気があるけれども、大阪の女性はしっかりしていますから客単価が上がらない。
だから、「火曜日はオッサン、およびオッサン同伴の女子のみ入店OK」としています。常連の女性客に「オッサン」を同伴させるわけです。


聞き手

ああ、なるほど。お客さまにお客さまを連れてきてもらうわけですね。


阪本

連れて来られたお客さまがまたリピーターになってくれる。新規顧客の開拓につながっているんですね。


聞き手

まさにプチ・イノベーションですね。次に2つ目のロジックツリーについて解説していただけますか。


阪本

居酒屋チェーン「鳥貴族」を運営している(株)ダンクが実際にやっている手法ですが、属人的なものにしないということ。
特定の誰かではなく、誰もが同じようにできるということです。
ダンクは「お客さまにハッピーを与える」というコア・アイデアを持っています。

では、具体的にどういうことをすればいいのか。
例えば、お客さまがドアを10cm開けたら、店内から「いらっしゃいませ」と店内スタッフの誰もが声を掛ける。
お客さまのジョッキのビールの残りが5cmになったら、「おかわり、いかがですか」と声掛けする。
そういう細かいロジックツリーを作っているのです。
それによって、サービスを愛想のいい「山田さん」とか客あしらいのうまい「鈴木さん」とか属人的なものにせず、今日入ったアルバイトでもできるようなものにしています。


聞き手

サービスを標準化するということですね。


阪本

理念を頭で理解させるのではなく、行動によって標準化するということです。
理念はもちろん大事ですが、行動させることはもっと大事です。
シェアする仕組みを作るという一環で、ダンクも「ホスピタ(ホスピタリティ)総会」とかやっていますが、それに加えて、日常業務の実際の行動に結びつく仕組みが必要なのです。


聞き手

では、ロジックツリーのロジックという部分をどう理解すればいいのでしょう。


阪本

「なぜならば」と置き換えると分かりやすいでしょう。「ジョッキの中のビールが残り5cmになったら声掛けしましょう。
なぜならば・・・」ということをきちんと説明する。
「なぜならば、今、お客さまはわざと残しているのではなく、つい話に夢中になってオーダーするのを忘れているかもしれないから。
そういうときに、痒いところに手が届くように声掛けしましょう」と論理的に説明するのです。


聞き手

今回のテーマである「インナーブランディング」は、その「なぜならば」を社内でシェアするということですね。
やり方とすれば、まず、スタッフみんなが集まる機会をつくらなければなりません。


阪本

一番手っ取り早いのは朝礼です。
毎朝、開店前の朝礼で、15分でいいからシェアする。
昨日はこうだったと具体的な事例を挙げながら話し合う。

コア・アイデアの言語化がまさにロジックツリーなのです。


後篇へ続く

※掲載の記事は2015年11月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。