一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >水野 与志朗氏 Vol.3
聞き手:一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 岩本俊幸
【水野 与志朗氏のプロフィール】
経営者、経営コンサルタント、講演家、著述家。
学習院大学経済学部卒業後、味の素ゼネラルフーヅ(株)、マキシアム・ジャパン(株)、ハーシージャパン(株)でブランド・マネージャー、マーケティング・マネージャー、マーケティング・ディレクターを歴任。
34歳の時、書籍出版をきっかけに、コンサルティングの依頼を受けるようになり独立。
2005年には個人事務所をビーエムウィン(水野与志朗事務所株式会社)にする。
主な著書に
『ブランド・マネージャー』(経済界)
『THE BRAND BIBLE』(総合法令)
『ブランド戦略実践講座』(日本実業出版社)
『戦略的パブリシティ』(インデックス・コミュニケーションズ)
『「相談からはじまる営業」ならこんなに売れる!』(同文舘出版)
がある。
聞き手
水野さんは、昨年12月に『「相談からはじまる営業」ならこんなに売れる!』という本を出版されました。この本を書いた目的は何ですか。
水野
営業のパラダイムシフトを起こしたかったからです。一般的にメーカーの営業の仕事は、新規顧客の獲得や商品を売ることです。しかし、ブランディング視点での営業の役割は、消費者とブランドのタッチポイントを広げること、消費者のブランド体験をつくり出すこと、得意先からのブランドロイヤリティを高めることの3つです。営業がブランドロイヤリティを高めるとは、得意先の満足を高めることを意識し、“他とは一味違う営業マン”であると認識してもらうこと。それができれば、営業は集客をしなくても、お客さんがお客さんを紹介してくれます。そのために有効なのが、ソリューション営業です。ソリューション営業は、得意先に商品を売り込む営業ではありません。得意先が抱える様々な悩みに対して、営業が解決策となるソリューションを提供するのです。こういった相談は、商品開発や売り方など、どちらかというとマーケティングや経営レベルに近い相談です。営業というよりコンサルティングに近い役割を求められるわけです。
聞き手
ソリューション営業がもたらす具体的なメリットについて、事例はありますか。
水野
エステティックサロンを中心に化粧品を卸しているメーカーがありました。その会社の営業マンは、商品自体の良さや特徴についても話をしますが、それ以前にエステティックサロンの経営者の悩みにフォーカスして営業を行っています。エステティックサロンの経営者には次の3つの悩みがあります。
1 集客
2 スタッフの育成
3 物販を増やして、労働集約率を減らす
これらの課題は、サービス業全般の経営者の悩みでもあります。営業マンは商品を売る前にこうした相談に乗るのです。エステティックサロンは規模の小さい会社が多いので、社長が直に営業マンと話をします。社長の悩みに対してソリューションを提供すると、「この営業さんは頼りになる」ということで、コンタクトの回数が必然的に増えます。その結果、売り込まなくても商品が売れてしまいます。
聞き手
営業マンにも、得意先の悩みに応えられるだけの知識が必要ですね。
水野
そうです。ソリューション営業に必要な知識は2つあります。1つめはマーケティングリテラシーです。マーケティングの知識は、営業マンが得意先の相談に乗るときの共通言語みたいなものです。そのため、マーケティングの知識が大事です。営業とマーケティングは近い分野ですが、多くの企業では残念ながら、まだまだマーケティングに疎い営業マンが多いように思います。2つめは、得意先を喜ばせるのではなく、その先にいる消費者を喜ばせることです。つまり消費者視点を持つことが必要なのです。エステティックサロンの経営者を喜ばすためには、そのエステティックサロンに来ている消費者の満足を高めることを考えるのです。営業マンの仕事はBtoBであっても、本質的にはBtoBtoCだということ。最後のCが喜べば、得意先も喜んでくれます。そのため、得意先のお客である消費者を知る必要があります。現場を見るとは、消費者がどうすれば喜ぶかを知ることです。
聞き手
実際にソリューション営業を行うためにはどのような勉強をすればよいのでしょうか。
水野
ソリューション営業に取組む営業マンたちを集めて勉強会を行うことをお勧めします。そこで、各自の得意先で起こっている問題を参加している他のメンバーに投げかけるのです。それに対して、チームでアイデアや知恵を出し合って、お互いに解決方法を探ります。勉強会というよりカウンセリング会と言ってもよいかもしれません。知識だけを詰め込む勉強ではなく、現場に即活かせる実践的な勉強会になります。
聞き手
水野さんは営業を経験して、その後ブランド・マネージャーになったわけですが、ソリューション営業とブランディングを関連づけるときに、どういう視点を持っておくとよいのでしょうか。
水野
ブランディング視点でソリューション営業を考えたときも、やはりブランド体験が重要だと感じます。取引先に対して、お店にくる消費者にブランド体験を提供することを提案するのです。ある缶コーヒーのメーカーが、朝のコンビニのPOSデータを見ていて、30~40代の男性消費者が缶コーヒーとタバコを一緒に買う人が多いことに気付きました。それをもとに、タバコと連動した売り場を提案して、缶コーヒーの売上げを伸ばしたという例があります。この事例には消費者視点があり、マーケティングリテラシーがあり、ブランドの視点も入っている、まさに全て入っている事例です。
聞き手
消費財を扱っているメーカーでは、ブランドマネジメントをしているのに、営業がブランドコンセプトとかけ離れた動きをすることがあります。これはどうして起こるのでしょうか。
水野
開発から販売までのバリューチェーンの中で、コンセプトが“複雑骨折”を起こしてしまっているのでしょう。開発部門で決まったコンセプトが、営業に行くと営業側の解釈によって、違うコンセプトに置き換えられてしまうことがあります。広告代理店が入ると、またさらに別のコンセプトに変わってしまうことがあります。それぞれが良かれと思って変更してしまうのでしょうが、結果として様々な矛盾を引き起こします。このようなことを起こさせないためには、開発プロジェクトに営業も巻き込んで、全員参加型のプロジェクトにするとよいと思います。開発部門だけで開発を行う“密室型”の開発をやめることです。“密室型”の開発では、営業は製品コンセプトを押し付けられていると感じてしまいます。社内、特に営業が応援できないような商品を消費者が応援してくれるでしょうか。いろいろな人の視点や知見を組み合わせて、商品開発を行うことが必要です。
聞き手
欧米のブランド・マネージャーはどういう位置づけなのでしょうか。
水野
欧米の企業では、ブランド・マネージャーはブランド戦略を司っています。また、開発、営業、広報宣伝に対して権限と責任を持っています。しかし、日本にある大手企業の多くは、外資系も含めて“日本的”な組織の中でブランド・マネージャーが存在しています。利益や売上げの責任があまりなく、そのかわり権限もほとんどありません。そういった企業では、ブランド志向の弱い、流通志向のマーケティングになります。ブランド戦略よりも、営業の売りやすさを重視しているので、どちらかというと、“営業マーケティング”です。この流通志向のマーケティングになるところが日本企業の特徴です。
※掲載の記事は2017年6月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。