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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー > 扇野 睦巳氏

ラグビーにちなんだジビエバーガーとポテトを開発
“エシカルアスリート”普及を目指す
IPUのブランディングとは?

株式会社ファーストデコ扇野 睦巳

Profileプロフィール

株式会社ファーストデコ 代表取締役
環太平洋大学 特任准教授
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 トレーナー

岡山県岡山市出身。
結婚・出産後、子育てをしながら法政大学通信教育部経済学部商業学科へ進学し、ブランディング・マーケティング・経営・会計を学ぶ。
2015年4月、中央大学大学院(MBA)への進学に伴い拠点を岡山と東京に構える。
大学院ではSECIモデルを用いて100年企業のビジネスモデルイノベーションを研究。
暗黙知を通じた実践的形式知化をデザインの領域に活用する。
2015年5月に株式会社ファーストデコ設立。
2017年度のブランディング事例コンテストで大賞並びに中小企業庁特別賞、2019年度は、2件の事例が共にSDGs審査員特別賞、2022年度は「IPU Gibier(ジビエ)のブランディング」で中小企業庁長官賞受賞。
2023年度は「ラグビーを通じて地域を元気にするIPUエシカルアスリート」でSDGs審査員特別賞受賞。

野生鳥獣による被害の増加や知名度の停滞、少子化に伴う学生数の減少……こうした様々な課題を解決するため、岡山市にある環太平洋大学(IPU)では“ラグビー”と“食”を軸にしたブランディングに取り組んでいます。
「人にも環境にもやさしいアスリート集団」として地域社会に貢献し、食とラグビー体験を通じて地域へのポジティブな影響を生み出す同大学のブランド「IPUエシカルアスリート」とは、どのようなものなのか。
株式会社ファーストデコ代表取締役の扇野睦巳氏にお話を伺いました。

ラグビーを通じて岡山を元気に

Q. 本日は、昨年開催された「ブランディング事例コンテスト2023」でSDGs審査員特別賞を受賞されたブランディング事例「ラグビーを通じて地域を元気にするIPUエシカルアスリート」について、お話をお伺いできればと思います。
まずは今回のブランディングの背景について教えてください。

「ラグビーを通じて地域を元気にするIPUエシカルアスリート」は、私が特任准教授を務めております岡山市の環太平洋大学(以下IPU)経済経営学部現代経営学科のブランド戦略論の受講生が考案した取り組みです。
環太平洋大学について簡単にご説明しますと、ラグビーやサッカー、野球などスポーツが有名で、「教育とスポーツの融合」を教育理念に掲げて文武両道を目指している大学です。
ちなみに、2022年度ブランド戦略論は、今年ラグビー日本代表に選ばれたティエナン・コストリー(コベルコ神戸スティーラーズ所属)も受講していました。

環太平洋大学

今回のブランディングのきっかけですが、2022年7月、ラグビー部のメンバーとともに、地元の就労移行支援施設である「閑谷ワークセンター・せと」様へ伺う機会があったんです。
訪問時は、新型コロナウイルスの影響により、入所者様とのラグビーイベントなどはできなかったのですが、そのときに、アスリートである彼らの持つパワーは一瞬でポジティブな絆づくりができるということに気が付き、それがブランディングのヒントになったんです。
そこで、パーパスを「ラグビーを通じて岡山を元気にする」とし、「~スポーツ×SDGs~食とラグビー体験を通じた地域の活性化」を市場機会としたブランディングに着手しました。

「閑谷ワークセンター・せと」様には、コロナが落ち着いた2023年10月に改めてお伺いし、利用者様と簡単なラグビー体験を実施したのですが、言葉が話せなくてもボール一つで心がつながることを実感でき、改めてラグビーというスポーツの素晴らしさを味わうことができました。

閑谷ワークセンター・せと サービス管理責任者 田坂大地様
写真中央/閑谷ワークセンター・せと サービス管理責任者 田坂大地様

ブランディングのゴールは、「『食とスポーツ体験』を通じて“エシカルアスリート”という新しい地域貢献の在り方、アスリート発信のウェルビーイングを学内外に広げること」に決め、具体的には①IPUらしいユニークな名物料理を作る、②けがや病気で部活動を離脱した学生のセカンドキャリアを身に付けるきっかけを与える、③スポーツの体験格差をなくす──などを目指しました。
ちなみに“エシカルアスリート”は造語で、倫理的かつ道徳的で、人権や環境、地域に配慮する「エシカル」と「アスリート」を組み合わせたものです。

2022年のブランディング事例コンテストで「IPUジビエ」が受賞しましたが、担当学生が卒業しても持続可能なプロジェクトになるよう、後輩の興味関心を喚起しIPUらしく新規性のある取組になるように心がけました。

SDGs審査員特別賞受賞
写真左から竹林 真慶 (現代経営学科4年/No.8)
藪 智也 (現代経営学科3年/10番スタンドオフ)
三木 淳平 (現代経営学科4年/2番フッカー/キャプテン)
宮岡 栄起 (現代経営学科3年/7番FL)
長井 一馬 (現代経営学科3年/学生コーチ)
西本 陽 (現代経営学科3年/4番ロック)
※学年とポジションは受賞時の2023年度当時

ラグビーの考え方をベースに

Q. ブランディングの軸となる「ラグビー」について教えてください。

ラグビーには、全員が心をひとつにする、一体感を持った“ワンチーム”の考え方があります。
ラグビー憲章には5つのコアバリューが定められており、それは品位、情熱、結束、尊重、規律です。
ラグビーは激しいスポーツだからこそ「品位」を重視しており、品位はラグビーを作るものの中心で、誠実さとフェアプレーから生まれるもの。
また、ラグビーに関わる人々はラグビーに対する熱い「情熱」を持っており、ラグビーは生涯続く友情、仲間、チームワークという「結束」をもたらします。
そして、勝っても負けても笛が鳴ればノーサイドでお互いの頑張りを称え合うことからもわかるように、ラグビーはチームメイト、相手など関わる人々を「尊重」します。
さらに、ラグビーには選手がボールを蹴るときは声を出さず静かに見守るなどの「規律」があり、この規律はルールだけではなく、人としての定めや集団の秩序なども含んでいます。

ラグビーは、単に点を取り合うのではなく、「守るべきものを守る」というルーツがあるスポーツ。
だからこそ、弱い人を守るために後ろにパスをつなぎます。
この考え方をベースにすればSDGsの世界観が伝えやすいのではないかと考え、ブランディングに取り組んでいきました。

元日本代表・環太平洋大学ラグビー部 小村淳監督"
写真右/元日本代表・環太平洋大学ラグビー部 小村淳監督

ラグビーに絡めた商品を開発

Q. どのようにブランディングを進めていったのか、教えてください。

まず第1段階の「学内浸透」では、ペルソナを「親の影響でラグビーを始めた県外出身の学生」に設定しました。
そして第2段階の「学外浸透」では学園ドラマ「スクール・ウォーズ」世代の父親をペルソナに設定。
ブランド・アイデンティティは「人と環境にやさしいアスリート集団」と決め、IPUの体育会系の13チームをピクトグラムで表現した、エシカルグリーンを用いたロゴも作成しました。

環太平洋大学ロゴ

また、具体的な施策としては、イノシシを使ったジビエバーガー「ジャッカルバーガー」と、岡山のソウルフード「えびめし」味のポテト「ノットリリースザポテト」という、ラグビーの技に絡めたネーミングの商品を考案しました。
「ジャッカル」は、タックルで倒れた相手からボールを奪うラグビーの技の名前で、「人から奪いたくなるほどおいしすぎる」という意味が込められています。
また、イノシシ肉を使うことで、向こう見ずに突き進む「猪突猛進」という意味も含ませました。
バンズをラグビーボール型に成型するなど、ラグビーに親しみを感じてもらえる工夫を施しているのも特徴です。
同じようにポテトにも、ボールを持った選手が倒れてしまったにもかかわらずボールを離さずに持ち続けるラグビーの反則のことを「ノットリリースザボール」と言うところから、「離したくないほどおいしい」という意味が込められているんです。

ジャッカルバーガーとノットリリースザポテト

商品完成後は、ペルソナとなる学生を集めた試食会や、飲食店経営者を招聘した調理実習を行う授業を実施しました。
ただ、ハンバーガーはおいしかったのですが、ポテトは大失敗したんです。
そこで、「えびめしや」を運営する株式会社いんでいらの出井山登社長にお越しいただいて調理実習室で授業し、試行錯誤の末に完成させました。

SDGs審査員特別賞受賞
写真左端/株式会社いんでいら 出井山登社長

このほかにも、害獣として捕獲し食肉加工を施したイノシシの皮を活用して、あえて穴や傷があるコースターも作成しています。
IPUではこのように、ジビエバーガーを通じてサーキュラーエコノミーに挑戦しており、最終的には、「ノットリリースザポテト」を作るためのジャガイモの栽培ができたらと考えています。
なお、ブランドの社会的価値としては、男子の調理体験によるジェンダー平等や、地元の野生鳥獣対策、岡山市の関係人口の増加などを狙いとしました。

ジャッカルバーガーとノットリリースザポテト

大学のイメージランキング上位に

Q. ブランディングの反響について教えてください。

こうした取り組みを大学が一丸となって行ったことが一助になったのか、高校生が選ぶ大学のイメージランキングでは、上位に食い込むことができました。
また、10月に開催された学園祭でもこれらの商品は人気を博し、学内での関心が少しずつ高まり、テレビなどのメディアにも取り上げられることで学外への認知度も向上しました。

テレビの取材

さらにブランディングに携わった学生が、自分たちが考えて作ったメニューで人が喜ぶ姿を実際に見聞きしたことで「人の役に立つことができた」「社会に貢献することができた」という成功体験を味わえたこともブランディングの効果として挙げられると思います。

日本ラグビーフットボール協会 清宮克幸副会長"
コンテストで上京した際には、日本ラグビーフットボール協会
清宮克幸副会長(プロ野球日本ハム 清宮幸太郎選手のお父様)とお会いする機会もあり、
感動で涙する学生さんもいました。

また、岡山市の令和5年度学生イノベーションチャレンジ推進プロジェクトにも選ばれた事業でもあったので、ブランディング事例コンテストでの成果を最終成果報告会で他大学の学生さんの前で発表できたことも、よい体験になりました。
さらに、優秀な取組ということで、内閣官房・内閣府総合サイトでも紹介していただく運びになりました。

2024年2月17日岡山市勤労福祉センターにて開催された最終成果報告の模様。岡山県内の大学・専門学校から21チームが参加。"
2024年2月17日岡山市勤労福祉センターにて開催された最終成果報告の模様。
岡山県内の大学・専門学校から21チームが参加。

イノシシレザーを活用したジビエコースターは、2023年度の卒業記念品にも選ばれ、SDGs未来都市に選出された岡山県備前市の「備前市SDGsフェスティバル」にも展示するなど、学内浸透・学外浸透が進んでいます。

ブランディング事例コンテストでの2年連続入賞を受け、2024年度からは、ブランド検定3級の資格試験にも挑戦し、1年生~4年生の38名が合格しています。
学内には、A0サイズのポスターを掲示し、「学生さんの成長がブランドの成長」になるように取り組んでいます。

ブランド検定3級"

エシカルアスリートの社会的価値を追求するために、スポーツ庁の方針も勉強したいとIPUの大橋節子学長に申し出たところ、2024年5月22日に、スポーツ庁長官の室伏広治氏の講演が実現しました。
体育学部・競技スポーツ科学科の設置を記念したご講演でしたが、現代経営学科として取り組んでいるエシカルアスリートとしての次なる挑戦の矛先を見出すことができました。

Q. 今後の展望を教えてください。

今年から、IPUオリジナルキッチンカーが導入され、一般学生や留学生はもちろん、アスリートのセカンドキャリア育成に向けてさらに実践的な経営を学べる環境が整備されました。
今回はまずはラグビー部から始めましたが、こうした取り組みを学内に浸透させていき、今後は下級生やほかの学部・学科にもパスをつないでいければと考えています。
また、スポーツ庁が推進する部活動の地域連携を受け、早速、怪我をしてリハビリ中の学生のセカンドキャリア育成を狙いとして、高校の部活支援にも挑戦しています。

今後は、室伏長官の講和の、スポーツは単なる勝ち負けを決めるものだけではなく、ライフパフォーマンスの向上にも寄与できるという点に着目し、「スポーツを通じて岡山を元気にする」というパーパスに再定義し、その実現に努めていきます。

※掲載の記事は2024年8月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。

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