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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >徐 誠敏(ソ ソンミン)氏 Vol.2

CEOブランドと企業ブランドのマネジメント – 後編

徐 誠敏(ソ ソンミン)氏 Vol.2 中央大学商学部兼任講師 兼 静岡産業大学情報学部非常勤講師 企業ブランド・マネジメント戦略論の研究室 & 日韓企業のマーケティングとブランディングのコンサルティング 代表

聞き手:一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 岩本俊幸

【徐 誠敏(ソ ソンミン)氏のプロフィール】

中央大学商学部兼任講師 兼 静岡産業大学情報学部兼任講師

企業ブランド・マネジメント戦略論の研究室 & 日韓企業のマーケティングとブランディングのコンサルティング 代表

「中小企業にも適用可能なインターナル・ブランディング & チームブランディングの重要性とその戦略的取り組み」

「日韓企業のものづくり競争力と市場づくり競争力のバランス戦略」

「サムスン電子のグローバルマーケティング(カメレオン型現地適合化)戦略」に関する講座・講演会・セミナー 代表講師

一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 アドバイザー


徐 誠敏(ソ ソンミン)氏の主な著書

  • 企業ブランド・マネジメント戦略‐CEO・企業・製品間のブランド価値創造のリンケージ‐

  • ブランド
    『この1冊でわかる 中小企業にも適用可能なブランド創発型企業を創るためのインターナル・ブランディングの重要性とその戦略的取組事例&新興国市場における韓国企業の成功事例から読み解くグローバル・マーケティング戦略』



CEOブランドと企業ブランドのマネジメント(後篇)

聞き手

今回は、前回の経営理念のお話から伺います。経営者は、自身が理念を腹に落とし、それを社員に浸透するまで伝え、社員がさまざまな場面で思い出せるものにしなければならないというお話でした。


経営者が格好をつけるための、形だけの経営理念では意味がありません。経営理念は、株主などステークホルダーにアピールするために掲げるのではなく、なぜ、この事業をやり始めたのか、事業の定義に結びつくものでなければなりません。適当に自社の事業を定義すると、事業ドメインもいつの間にかあいまいになってしまいます。


聞き手

優れた経営理念として、具体的にどのようなものがありますか。


前回お話ししたプラスチック製の小型容器を専門に創っているクリエーター型メーカーである本多プラスは、先代の本多会長が作った「7つの経営哲学」があり、そのDNAを受け継いだ現在の本多社長も「7つの実践」というものを作り、徹底的に実践しています。
これを私がフェイスブックに載せたところ、「鳥肌が立った」とか「感銘を受けた」とか、たくさんの人からものすごい反響がありました。


聞き手

同社が躍進するきっかけになったのは何だったのですか。


本多プラスの本社がある愛知県はトヨタのお膝元ですが、そのトヨタの系列メーカーから仕事を受注したときに、「受けた仕事をそのまま機械的に製造するような、将来性のない仕事を社員にさせたくない」と本多会長は思ったそうです。
そして、何度も何度も失敗を重ねながら新しい機械を開発し、小型容器を作れるような技術と設備を導入したといいます。その後、デザイン開発に注力し、今では全ての商品がオリジナルのデザインとなっています。


聞き手

それは全て、「他人のやらないことをやる」という経営理念に基づいた経営戦略だったのですね。


そうなんです。
さらに、本多会長が立てた経営哲学は、
1.「他人のやらないことをやる」(自社の独自性と差別化戦略の重要性)、
2.「『一寸法師の針』を磨く」(競合他社に対して模倣困難性の高い、自社独自のコア技術力(ブロー成形技術力)の強化)、
3.「会社はほうっておけばつぶれるようにできている」(企業のトップの強力なリーダーシップ力の確立)、
4.「台風でも倒れない『タコノキ』経営を実現する」(さまざまな業種の取引先顧客の確保)、
5.「販売なくして事業なし」(マーケットイン(Market-in)型の売り方の重要性)、
6.「自分で考え、自分で作り、自分で売る」(トップをはじめとする全社員の主体性の確立)、
7.「給料は社長ではなく、お客様からいただくもの」(顧客=製品の価値に対する最終意思決定者)と続きます。
つまり、「一寸法師の針」のようなコア技術に裏打ちされた強い商品を作ること。
そして、茎の途中から多数の気根を伸ばして茎を支えるタコノキ(常緑樹)のように、例えば、文房具業界が落ち込んでも医療品や化粧品の容器でカバーできるように、いろいろな業種の取引先を確保することでリスク分散し、不況がきても倒れない体制をつくること。
そして、作るだけでなく、売ることまで考えた仕事のやり方。
さらに、価値はお客さまが判断するということ。
というふうに、経営理念を全社員にも分かりやすい言葉で共通言語化したのです。
現在の本多社長は、これに
1.「提案の数と量、スピードを高める」、
2.「自分たちで作ったものを一番よい状態で魅せる」、
3.「BtoCのつもりでBtoBをやる」、
4.「企業の担当者にも『欲しい』と思わせる」、
5.「工場で働く現場社員も大切な営業スタッフ」、
6.「肝心なのは驚きを与える営業」、
7.「魅せ方で顧客の反応は2~5倍は変わる」
といった7つの実践を加えました。
同社はBtoBの企業ですが、マーケティングもデザインもBtoCのように取り組んでいます。
このような戦略的取り組みが、今日の同社の競争力を高めていると言えます。



聞き手

トップの思いが全社員に共有されているというのはとても大きな強みですね。


また、同社の営業担当者は取引先に対して、その商品を欲しいと思わせるようなサプライズ・プレゼンテーションを常に考えながら仕事をしています。
デサイナーたちも単にデザインを設計するだけでなく、店舗でいかに美しく陳列されるかというところまで考えてデザインしています。さらに、彼ら・彼女たちは金型作りから、納期までのスケジュール設定、見積もり、数量提案、マーケティングなどに至るまでこなします。
いわば、全社員で営業ができる体制になっているのです。


聞き手

だから、20年もの間、黒字経営を継続できるのですね。


まだこれで驚くのは早いです(笑)。本多社長をはじめとするデザイナーたちが目指しているのは、トータル・マーケティング・コミュニケーションの専門組織なのです。単なるデザイン組織ではなく、ものをつくる段階から売るまでのトータル・マーケティング・コミュニケーションの仕組みづくりが、同社はすでに出来上がりつつあります。


聞き手

結局、そういう共通のベクトルが生まれてくるのは、その根底に経営理念があるからなのでしょうね。では、経営理念に対してブランド・アイデンティティはどう位置付ければいいのでしょう。


この2つはまったく違うものではなくて、強い相関関係にあるものです。経営理念=ブランド・アイデンティティ、あるいはブランドDNAとなるのが一番理想的です。
もちろん、ブランドには変えなければならないもの、変えなければならないときがあります。しかし、その根底にゆるぎないブランドのDNAがなければなりません。
ブランド・アイデンティティとは、何年経っても、どこから見ても変わらないものでなければならないと思います。



聞き手

特にコーポレートブランドのアイデンティティはかなり企業理念に近いものですね。商品のブランド・アイデンティティについてはどうでしょう。


企業ブランドを全面的に出した戦略的な製品ブランドがあります。例えば、トヨタが1989年にアメリカで発売した「レクサス」は、企業ロイヤルティを高める高級ブランドでした。
お客さまから「さすがトヨタだ」というリアクションが出るような製品開発が、企業ブランドと製品ブランドの理想的な相関関係だと思います。
それはアウト・オブ・コーポレートブランド(企業色を一切出さないで展開するブランド戦略)であっても同じだと思います。
後になって、その製品がその企業のものと分かることで、「なるほど」というプラスの心理効果を生みますからね。


聞き手

徐先生はサムスンの研究もされていますが、サムスンのコーポレートブランドは何が優れているのでしょうか。


サムスングループの経営理念があります。
それは、「人材と技術をもとに最高の製品とサービスを創り出し、人類社会に貢献する」というごく当たり前のものであり、人々が感嘆するようなものではありません。
ただ、サムスンの何が違うかというと、その当たり前のことを当たり前のように全社員が一丸となって徹底的に考え抜いて、実践し続けることで、競合他社と異なる自社独自の企業ブランドの差別的な優位性を生み出していることです。
製品戦略には、ブロダクトアウトとマーケットインという2つの視点があります。
先進国では、比較的に高性能・高機能製品が求められますから、プロダクトアウト型のものづくりの競争力が高い日本製品は、これまで、欧米の先進国市場で持続的成長とハイパフォーマンスを実現してきました。
その一方で、サムスン電子をはじめとする韓国企業は、日米欧先進国市場では最初から規模の経済性を追求するプレミアム・ブランド戦略を展開すると同時に、BRICsをはじめとする新興国市場では徹底した現地密着型製品開発・マーケティング戦略を実践しつづけることで、急成長を遂げています。
その成功の前提条件は、それぞれの新興国市場には先進国市場とまったく異なる文化的・制度的・地理的・経済的な隔たりがあるということです。
その新興国市場で、サムスン電子はマーケティングの基本的なプロセス(R(Research:マクロ環境分析+ミクロ環境分析)→STP(Segmentation、Targeting、Positioning)→MM(Marketing Mix)→I(Implementation)→C(Control))を徹底的に実践したのです。
つまり、韓国企業が行ったのは、最先端のマーケティング・ツールではなく、既存にあったものをお客さまの目線に合わせながら実行し、お客さまが「あったらいいな」と思う現地密着型製品をつくり出しているのです。
今日のサムスン電子の競争力(企業ブランド力)の向上は、先進国市場と新興国市場の特性に応じた、日本企業からダイナミックに学習してきた「ものづくり競争力」と欧米企業からダイナミックに学習してきた「市場づくり競争力」とのハイブリッド戦略の確立と徹底した実践があったからこそ実現できたと考えられます(図2参照)。



聞き手

マーケティングの基本的なプロセスというと、3C分析、STP(セグメント・ターゲティング・ポジショニング)、4P/4Cといったものですか。


そのとおりです。ブランド・マネージャー認定協会の講座でも指導されているマーケティングの基本的なプロセスは、ドメスティック・マーケティングであろうが、グローバル・マーケティングであろうが、非常に大事なものです。
サムスン電子は、プレミアム・ブランドを目指し、グローバル・カンパニーとして成長すると同時に、新興国市場のボリュームゾーンに対しては、まるでその現地のローカル・メーカーのように、現地密着型製品開発・マーケティング戦略(=カメレオン型現地化戦略)を徹底的に実践することで、確固たる企業ブランドを確立していると言えます。


聞き手

最後に、インターナル・ブランディング、あるいはチーム・ブランディングのあるべき姿とはどういうものでしょうか。


それは人の立場に立ったものだと思います。社員なら、社員の考え方や権利を尊重する。顧客なら、顧客のライフスタイルや価値観などを尊重する。その上でものをつくり、ものを売ることを考えないと、組織内にブランドを構築・強化することはできないと思います。
最近、横浜市の林文子市長がいろいろな改革を断行して、横浜市がすごく良くなったと感じるのですが、BMW東京の社長を務めていたこともある林市長の原点は、CS(顧客満足)とES(社員満足)の同時実現です。
いかにすれば顧客の満足を高められるか、そしてその前提として、顧客に最前線で接する社員(市職員)が満足できるような環境づくりをいかにつくるか、に大変注力しているのです。
同じように、社員が「うちの会社は本当に我々と家族のことを真剣に考えていてくれる」と実感すれば、社員は主体的に一生懸命働くでしょうし、いろいろなアイデアを考え抜いて出してくると思います。
トップが社員をわが子のように思って接すれば、社員一人一人が経営者意識を持って主体的に働くようになるのです。インターナル・ブランディングの元となるのはエンゲージメント(愛社精神)なのです。



聞き手

人づくりが大きなポイントになりますね。


人づくりがきちんとできていなければ、いざ製品やデザインの競争力を高めようとしてもうまくいきません。なぜなら、その根底には社員の主体性、経営者意識が必要だからです。
トップ自ら、定期的にモニタリングして社員の役割を確認し、ビジョンを社員に語り続け、モチベーションと向上心を育てていく。そういう「場」作りがインターナル・ブランディングを形成していくのだと思います。


聞き手

最近はES経営に注力する企業も増えています。会社経営の原点であり、最大の経営資源は人ですからね。今日は、ありがとうございました。


※掲載の記事は2016年3月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。