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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >永井 和人氏 Vol.1

戦う市場は世界!メジャーリーガーから注文が殺到する埼玉の中小企業 前編

永井 和人氏 Vol.1

【プロフィール】

ベルガードファクトリージャパン株式会社
代表取締役社長 永井 和人氏

1982年 シナガワスポーツ(株)入社
1983年 ベルガード(株)に社名変更 ※2012年2月に経営破たん
2012年6月 ベルガードファクトリージャパン(株)設立


野球に興味がある人なら知っている米大リーガーのヨエニス・セスペデス選手(ニューヨーク・メッツ)、ロビンソン・カノ選手(シアトル・マリナーズ)やジャンカルロ・スタントン選手(マイアミ・マーリンズ)といった有名選手が愛用しているのが、日本の中小企業ベルガードファクトリージャパンの打者用防具です。日本ではあまり耳慣れない「ベルガード」ブランドの防具は、従業員4人の埼玉県にある企業で作られています。実は同社は2012年に一度経営破たんしています。そこからどうやって復活したのか、またどうやって販路を海外に広げていったのか、同社の代表取締役社長永井氏に話を伺いました。

聞き手:平野史恵(株式会社イズ・アソシエイツ クリエイティブディレクター)


突然の経営破たん「会社は今日で終わり」

平野

御社の事業内容についてお聞かせください。


永井

弊社は野球の捕手が着けるマスクやプロテクター、打者が着けるアームガードやフットガードといった防具を中心に、グローブやミットを含む野球用品を製造・販売しているメーカーです。従業員はこれらの防具を作る職人3人を含め4人の会社です。小さい企業ですので、大手企業のような幅広い商品は扱わず、熟練の職人が一つひとつ手作りで製作しています。


平野

御社は一度経営破たんしたとのことですが?


永井

前の会社は1935年に創業し、当初はボールを製造していましたが、国内外の大手メーカーのOEM(相手先ブランドに合わせた商品提供)として防具を製造するようになり、2000年代以降は韓国プロ野球にも商品を提供しました。私が入社したのは1982年です。商品企画と製造の両方を手掛け、対外的な交渉もするようになっていました。あれは私が勤続30年目を迎えた2012年の2月のことです。社内で仕事をしていると急に会議室に呼ばれました。すると弁護士から「会社は今日で終わりです」と伝えられたのです。翌日にはすぐに破産手続きが始まりました。


カタログ1 カタログ2 カタログ3

平野

なぜ会社を立て直そうと考えたのですか?


永井

当時、私は会社の経営状況に不安を感じ独立を考えていて、開業資金を貯めたり、起業家セミナーにも参加したりしていたのです。会社の業績が悪いことは以前から知っていたのですが、予想よりも急な話でした。でも倒産した2月というのは、ちょうど春からの野球シーズンを迎えるタイミングです。新しい企画商品もあり、今年こそはと期待をしていた矢先の出来事でもあり、誰もやらないなら自分が会社を再生させようと思ったのです。後押ししてくれたのが、ベルガードブランドのファンたちでした。多くのファンから「ブランドをなくさないでほしい」という声をいただき、さらにアンパイアショップを運営する元プロ野球審判員やソフトボールの審判用品を販売する会社の社長などが少しずつ注文してくれるようになりました。こうして注文が増え、前の会社のベテラン職人3人に入社してもらい、新しいベルガードが始まったのです。


メジャーリーガーからオファー!「ベルガード」の防具

平野

こう言ったら失礼ですが、会社規模もそんなに大きくない日本企業の製品が、どうやってメジャーリーグの選手たちに愛用されるようになったのでしょうか?


永井

きっかけとなったのは今から十数年前のこと。当時イチロー選手がマリナーズに在籍していた頃、彼の専属トレーナーが私の知り合いだったんです。日本では、打者がデッドボールやファウルボールに備えて防具を着けるのが当たり前ですが、米国では「ボールが当たっても痛くないふりをするのがかっこいい」と言って、打者防具を着けない選手も少なくありません。それに、日本ではほとんどの大手メーカーが防具を販売していますが、米国ではエボシールドというメーカーのものしかない状態でした。そんな中、知り合いのトレーナーに日本の防具を試したい選手がいたら連絡をくださいとお願いをしました。すると数名の選手が「使ってみたい」とオファーをくれたのです。その当時、現横浜ベイスターズのホセ・ロペス選手や、現テキサスレンジャーズのエイドリアン・ベルトレ選手も気に入って使ってくれました。そうやってマリナーズで広がった「ベルガード」の防具を着けた選手が、フリーエージェントやトレードで他の球団に移籍し、他チームでも口コミで広がり、徐々にメジャーリーグの中で「ベルガード」の知名度も上がっていきました。


ヨエニス・セスペデス選手(ニューヨーク・メッツ)

レネ・リベラ選手(ニューヨーク・メッツ)


平野

セスペデス(ニューヨーク・メッツ)選手のアームガードには、カタカナで「ベルガード」の文字が書かれているということですが?


永井

うちのブランドはまだまだ日本での知名度が低いので、国内向けの宣伝になればと思ってカタカナ文字が書かれている商品を提供しました。そうしたら、ある日本のアナウンサーがMLB中継の実況で話題にしてくれたんです。その影響もあって、国内からも注文が増えるようになりました。


カタカナ表記が入ったセスペデス選手のアームガード


使う用具に制限のある日本のプロ野球

平野

メジャーリーガーからこんなに支持されている製品なのに、なぜ日本の選手の間では「ベルガード」製品が広まっていかないのでしょうか?


永井

日本では、選手がメーカーとグローブやバットを含めた全用具の契約を結んでいるケースが多いのです。そのため自由に他のメーカーの製品を使うことができません。メジャーリーガーは「自分の使いたいものを使う」という選手も多い。しかも、「ベルガードの宣伝にあなたの名前を出してもいいか?」と聞いても、「ノープロブレム(問題ないよ)!」と、とても自由。その上日本では「防具はメーカーから提供してもらって当たり前」という感覚で、メーカーは二軍選手にも無償で提供していることが多いです。もちろんそれが広告になって一般の人にも売れればメーカーとしてはいいのですが、売れなければすべて持ち出しです。防具のみの契約は難しく、消耗品のバットや手袋の提供もセットの契約となり、巨額の資金がかかってしまい、経営を圧迫しかねません。ですから、弊社では日本選手への提供は積極的に行うことはできません。一方米国では、メジャーの選手はいくら払えばいい?と購入希望のオファーがきます。オファーのあったメジャーリーガーには最初の1セットは提供し試してもらいます。マイナーリーグの選手には購入してもらっています。メジャーに上がれば提供すると伝えると提供されるよう頑張るとモチベーションも上がるようです。メジャーリーガーに使ってもらうことで広告となり、マイナーリーグの選手やアマチュアからの注文が増えており、経営も安定してきました。アメリカでの販売はまだ始めたばかりですが、市場が大きいので夢が膨らみます。


後篇へ続く