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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー > 水口 克夫氏

ブランディングにおける“デザイン”の役割と重要性
「多くの人に届けるコミュニケーション」のための“飛躍”とは?

株式会社Hotchkiss水口 克夫

Profileプロフィール

株式会社Hotchkiss代表取締役社長/アートディレクター
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 アドバイザー
金沢美術工芸大学名誉客員教授
京都芸術大学大学院特任教授

金沢美術工芸大学卒業。
電通、シンガタでアートディレクターとして活動後、Hotchkissを設立。
企業のブランディングにとどまらず、デザインの力で地域社会の活性化や、人材の育成に尽力。
2021年からクリエイティブな思考を鍛錬する「Schola-hotchkiss」を主宰。
グッドデザイン賞審査委員(2017~2019、2022、2023年度) を務める一方、自身も国内外の受賞歴多数。
主な著書に『アートディレクションの「型」。
デザインを伝わるものにする30のルール』(2015、誠文堂新光社)、『安西水丸さん、デザインを教えてください!安西水丸装幀作品研究会』(2018、Hotchkiss)など。

Profileプロフィール

平野 朋子

(今回のインタビュアー)

合同会社Brand. Communication. Design.代表
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 エキスパートトレーナー/シニアコンサルタント

サンタモニカ大芸術学部グラフィックデザイン学科卒(Honor Student)。
ロサンゼルスのスケートボードメーカーでグラフィックデザイナーとしてキャリアスタート。
帰国後、広告代理店、通販会社勤務を経て独立。
新規事業立ち上げのブランディングやインターナルブランディングをはじめ、地方自治体のブランディングに従事。
共著に新版『社員をホンキにさせるブランド構築法』(共著、同文舘出版)。

ブランディングを行ううえで重要な「デザイン」。
株式会社Hotchkissの代表でありアートディレクターの水口克夫氏は、デザインについて語る中で「多くの人に届くコミュニケーションをとるためには“飛躍”が大事」と話します。
アートディレクターとして数多くの実績を積み上げてきた水口氏が考えるブランディングとは、そしてデザインの役割とは何か、お話を伺いました。

岩本氏、水口氏、平野氏
左から代表理事岩本氏、水口氏、平野氏(インタビュアー)

“いい波”を見つけ続けてここまで来れた

Q. 本日は、長年広告やブランディングのお仕事をされてきた水口さんが考える「ブランディング」とは何か、貴社ホームページで語られている「機能するコミュニケーション」とはどのようなものなのか、お話をお伺いできればと思います。
まずは理解を深めるために、これまでの歩みについて教えてください。

先日、今僕がブランディングを任されている洋菓子屋さんの経営者の方とお話ししていて、あることに気づいたんです。
それは、これまであまり深く考えずに「これいいかも」と思う“いい波”を見つけて、その波に乗って……を繰り返して今に至っているんだ、ということでした。

実は、中学生のときから地元の美大に行きたいと思っていたんです。
江口寿史さんの『すすめ!!パイレーツ』を読んで、「こういうことをやってみたい」と思ったのですが、 ストーリーを考えられなかったので漫画家はあきらめました。
学校の先生にデザインをやってみたいと相談したところ「美大に行きたいならこのレベルの高校には行ったほうがいい」と言われ、高校で勉強しながら絵の研究所にも通い、 無事、金沢美術工芸大学に入学できました。

そんな中、電通という会社なら広告のポスターが作れると聞いて、じゃあ、電通に行ってみようと。
必死にがんばって電通に入社し、「この人、面白そう」という人に「一緒に仕事がしたい」と手をあげて 乗っかっていったら、面白い仕事ができたんです。
佐藤雅彦さんという天才とも一緒に仕事ができるチャンスがあったり……と、あまり深く考えずにその都度、面白そうなことに乗って今に至っている感じでしょうか。
電通には17年いました。
そこからシンガタに移り、独立して自分の会社を作って、12年が経ちます。

今は京都芸術大学の大学院で授業を持っていますが、 それも一度も会ったこともない人に誘われて“ひょいっ”と乗ったことですし。
そうなったのは運もあるでしょうし、そもそも波に乗るのが好きだったことが大きいかもしれません。
サーフィンをちょっとやったことがあるんですけど、サーフィンはやっぱりいい波を見つけることが大事。
そういう“いい波”を見つけることが、もしかしたら得意なのかもしれないと今は思えます。

水口氏と平野氏

ブランディングは“美しさ”が大事

Q. 水口さんが考える「ブランディング」とは何でしょうか?

ちょっとデザインにも関わってくる話なんですが…… 大事なことを2つ挙げます。
まず石器時代の石器を見たことありますか?すごく美しいんですよ。
石器って落とし穴を掘ったり、ナウマンゾウやマンモスにトドメを刺したり、みんなで肉を分けたりするときに使ったと思うので、本来はそこまで美しくなくていいはずなんですが、すごく美しいんですよね。
同じように、ナイフもやっぱりすごく美しい。
たぶん、これほど美しくなかったら世界中の人が持たなかったと思うんです。

つまり、おそらく人間のDNAには“美しさ”を求めるものがあって、そうした「美しさを求めること」は、これからもAIにはできないと思うんですよね。
「美しいか、美しくないか」の判断は人それぞれで正解はないですけど、やっぱり人間には美しいものを求めてしまう感覚が必ずある。
そこをちゃんと真ん中に置かないと、ブランディングは成功しないと思っています。
単に形やロゴ、パッケージが美しいということではなく、仕組みだったり仕掛けだったり、考え方だったり、そういうものにも美しさは宿る。
僕はそれがないと納得しないし、やった甲斐もないし、提案にも説得力がないと思っているんです。
美しさのないブランディングでは経営者や企業の人たちのモチベーションもアップしない。
“美しさ”は大事なことの1つだと思っています。

そして、もう1つは“無意識”をどう引き出すか、ということ。
人には、たくさんの無意識の部分があります。
たとえば氷山でも、海の上に出ている部分はほんの少しで、海中にはもっと大きな氷山があるわけですよね。
そうした海中の氷山のような無意識の部分にどこまでアプローチできるかがすごく大事だと思っています。
ブランディングは、理屈だけで行うと奥行きがないものになってしまいます。
だから、僕はブランディングするときは無意識の部分にどこまでアプローチできるかを大事な指標にしています。

僕は広告の世界で、みんなが気づいていない大切なものを引き出し、購買意欲や好感度を高めるにはどうすればいいかずっと考えてきたので、ブランディングをするときもそこはすごく大事にしています。
そしてそれは、自分の中の無意識を引き出すことでもあるんです。
理詰めでアプローチして、それをアウトプットするときは、自分の中の無意識を引き出す必要がある。
まずは論理的に構築し、それから無意識の部分をどう引き出すかが大事だなと思います。

水口氏

届くコミュニケーションには飛躍の適切な距離感と集合的無意識へのアプローチが必要

Q. Hotchkissのホームページの会社紹介では「デザインや広告などを通じて、機能するコミュニケーションを追求する」と書かれています。
「機能するコミュニケーション」とは、具体的にはどのようなことを指すのでしょうか。

1990年代まではテレビCMを打てばたくさんの人が動く状況が作れていましたが、2000年以降、ウェブが台頭し、スマートフォンが登場して、みんなテレビを見ない時代になりました。
では、何で心を動かすのか。
具体例を1つ挙げると、ナイキが「公園のゴミのポイ捨てをなくそう」と、ゴミ箱にナイキのスウォッシュマークが付いたバスケットボールのボードを設置したことがありました。
みんな、家でゴミ箱があったら、バスケットゴールに見立ててゴミを投げることがありますよね。
公園のゴミ箱にナイキマークの入ったボードを付けるだけで、 アフォードされて、そこにゴミを入れたくなる。
たとえゴミを投げ入れなくても、「ナイキがまた面白いことをやってるぞ」とスマホで撮って拡散してくれるわけです。
これを見て、僕は「すごく美しいな」と思いました。

人間は、ゴミを捨てるとき、つい無意識のうちにバスケットボールに見立ててゴミを投げている。
その無意識を見つけ出して、「バスケットボールのボードを置けばいいじゃん」と考えた。
さらにそこにスウォッシュマークを付ければ、ナイキのブランド・エクイティもすごく上がる。
仕組みが、ちゃんと考えられているんです。
全体のアイデアもそうですし、インサイトの見つけ方もそうですし、すべてが美しいんですよね。
それが今の「機能するコミュニケーション」だと思います。

これには「美しさ」があり、「無意識にアプローチする」ということが完璧にできている事例で、僕らも普段ブランディングするときにはそこを目指さなければいけないと思います。
あれだけ話題のCMをたくさん作ってきたナイキが「もうマス媒体じゃないよね」と考えて、こんなことをしたというのがすごい。グローバルにCMを打って、アメリカンフットボールの「スーパーボウル」ですごく高い媒体を使ってCMを展開していたナイキが、こんな小さな 仕掛けでおそらく同じぐらいのブランド効果を生んでいるわけですよね。
それは、やっぱりすごいことだと思います。

水口氏

Q. ブランディングを進めていく中での「デザイン」の役割、重要性についてどのようなお考えをお持ちなのか、お聞かせください。

ブランディングは論理的に構築していくことも大事ですが、そこから多くの人に届くコミュニケーションをとるためには、“飛躍”が大事だと思っています。
そして飛躍をするときには、「ここまで飛躍していいんだ」という距離感がわかっていなければいけません。
飛躍しすぎるとちんぷんかんぷんになるし、飛躍できないとつまらない結果になってしまう。
その「飛躍の距離感」をしっかりと測れるのがデザイナーであり、クリエイティブをわかっている人間だと思っています。
どれぐらい飛躍すればみんなに面白いと思ってもらえて、どんどん拡散してもらえるのか、そのすべての設計をしっかりできるのが 優秀なデザインです。
そこがちゃんとできるデザイナーが今は本当に必要だと思っていますし、そういうデザイナーを育てたいと思って 教鞭を取っています。

論理的に積み上げて、「この論理でいけば大丈夫だな」というところまで来たとき、僕はアウトプットもする人間なので、この「論理的に積み上げたこと」をどこまで壊せるか……ということをやらなければいけない。
自分の中の 無意識下にあるアイディアの種を探さなければいけない。
その左脳と右脳を切り分ける作業が大変なんですが、その瞬間がまた、気持ち良かったりするわけですよ(笑)。
たとえばリブランディングをする場合は、それまでに積み上げてきたことを壊すという大変さがあり、「ここまで行っていいんじゃないか」という距離感も自分で設定しなければいけない
そんなことをぐちゃぐちゃとやりながら、自分の無意識に向かっていくわけです。
そのための期間は、特に決まってはいません。
一カ月のときもあれば、一晩のときもあります。
時々夜に散歩をするんですけど、そのときにハッと思いつくこともありますね。

ただ、やっぱり専門分野というのはあるので、そうしたことをみんなが本当にできるかというと、なかなかできない部分もあります。
たとえば、左脳部分は誰かがやってくれて、僕たちは右脳だけを使ってアウトプットできれば仕事はシンプルです。
でも、そうじゃないことがほとんどです。
与えられた課題自体が間違っていることが往々にしてある。
僕が「Schola-Hotchkiss」を立ち上げた理由はそこにあります。

デザイナーだけでなく、ビジネスパーソンも課題をしっかり捉える能力を持っていないと、プロジェクトはお金の無駄、時間の無駄になってしまう。
課題を自ら発見することができる人が増えたほうがいいと考え、そのためのオンライン講座を笠井成樹と一緒にはじめました。

水口氏

今は「教育」に大きな波が来ている

Q. 今後の展望について教えてください。

今までお話ししてきたように、僕は “いい波”を見つけては乗ってきたので、また何か“いい波”が来たら乗っていこうと思っています。
今は、2026年に飛騨高山に新しい大学(Co-Innovation University、仮称)が開校する予定で、そこで基幹教員を務めるというお話が来ているので、その“いい波”に乗ろうと考えています。
その大学では、地域にいくつもの拠点を作り、独自プログラム「ボンディングシップ」で学生を送り込んで地域の人たちと一緒に課題を解決していこうという試みがあるんです。
そこに誘われたので、ちょっとその波に乗ってみようかな、と思っています。

今は、「教育」に大きな波が来ていると感じています。
もちろんブランディングも好きな仕事ですが、自分が今までに養ってきたブランディングやデザインの知見を体系立てて人に共有する、ということも好き。
デザインという人類が育ててきた武器をたくさんの人にも共有できるような形にしていきたいと思っています。

水口氏

※掲載の記事は2024年7月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。

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