一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >徐 誠敏(ソ ソンミン)氏 Vol.3
聞き手:一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 岩本俊幸
【徐 誠敏(ソ ソンミン)氏のプロフィール】
中央大学商学部兼任講師 兼 静岡産業大学情報学部兼任講師
企業ブランド・マネジメント戦略論の研究室 & 日韓企業のマーケティングとブランディングのコンサルティング 代表
「中小企業にも適用可能なインターナル・ブランディング & チームブランディングの重要性とその戦略的取り組み」
「日韓企業のものづくり競争力と市場づくり競争力のバランス戦略」
「サムスン電子のグローバルマーケティング(カメレオン型現地適合化)戦略」に関する講座・講演会・セミナー 代表講師
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 アドバイザー企業ブランド・マネジメント戦略‐CEO・企業・製品間のブランド価値創造のリンケージ‐
ブランド
『この1冊でわかる 中小企業にも適用可能なブランド創発型企業を創るためのインターナル・ブランディングの重要性とその戦略的取組事例&新興国市場における韓国企業の成功事例から読み解くグローバル・マーケティング戦略』
聞き手
本日はお忙しいところ、ありがとうございます。
今回は『インターナルブランディング』について、色々お話を伺いたいと思っております。
まず、先生は『インターナルブランディング』が非常に重要だということを提唱されていますが、
そのような考えに至った背景をお聞かせください。
徐
その背景には、たとえば従業員の自社に対する
ブランド・ロイヤルティとモラルの欠如ですとか、
経営層は右に行きたいと言っているのに、
社員が勝手に行きたい方向に向かってしまうというような、
そういったズレが最近生じているということがあります。
また1970年代から80年代の、日本企業の競争の原動力である
『従業員を大事にする』という、その精神も薄れつつあるのではないか…という感覚ですね。
結局のところ、企業の価値・理念を顧客に体現するのは従業員や社員ですから、
そういった意味でインターナルブランディングは、
これからもますます重要になってくるのではないかと思います。
徐
今年、日本航空の名誉会長である稲盛氏が書いた書籍でも、
彼自身はインターナルブランディングとは言っていませんが、
従業員をやる気にさせる7つのカギである、
『従業員をパートナーとして迎え入れる』、
『従業員に経営者自身の人生哲学も含めて、心底から惚れてもらう』
『経営者の哲学を語り、会社のビジョンやミッションを確立する』…
そのようなことによって企業の持続的成長を促すことが出来ると書かれていまして、
まさにインターナルブランディングの究極の目的であると思いました。
聞き手
インターナルブランディングの重要性は、 皆、少しずつ分かっているとは思いますが、 まず何をしたらいいのでしょうか?
徐
インターナルブランディングの一番重要なポイントは、
経営者(企業)のミッション(存在理由)・ビジョン・想いなどを
様々な場を通して、常に社員に語り続けるということです。
それらが、組織を強固にすると同時に、事業を成功へと導きます。
聞き手
経営者が一貫して語り続けることが大切、と。
徐
昔ならば、何も言わなくても経営者の背中を見ながら 社員はついてきてくれたと思いますが、 最近では時代の流れ、時代の変化があるので、 やはりそれをより具現化する必要もありますし、 経営者の企業・従業員への想いをわかりやすい言葉に置き換えて、 全従業員に伝える必要性があります。
聞き手
理念経営、つまりCSからESへのシフトということでしょうか?
徐
CSとESの両立が最も大事ですが、電通や博報堂の
ブランディングへの取り組みの歴史を見ると、
2000年代直前まで仕事のほとんどは、
『エクスターナルブランディング』でした。
しかし今、ほぼ半分以上が『インターナルコミュニケーション』、
『インターナルブランディング』となっています。
聞き手
そうなった要因は何でしょうか?
徐
会社が提供する製品・サービスの価値を認めたときに、
顧客は財布からお金を出して払います。
そういった顧客に現場で接し、
会社の製品・サービスの価値を体現するのは
あくまでも『従業員』なわけです。
近年、日本の企業も、やっとそれに気づき始め、
さらにそういうニーズを外部から見た広告代理店も
追随したということだと思います。
聞き手
ブランド作りは一部のマーケティング部門の人間だけで
やるものじゃない…ということですね。
それをみんなで体現するために、
インターナルブランディングをきちっとやらなければいけないという。
徐
その通りです。
しかし、それは会社の規模が大きくなってしまうと、とても難しくなります。
先日、ある社員数が1,000名を越えた上場企業(中堅製造業)で
会長と社長、役員を含め30人ほどの前でお話ししましたが、
典型的なものづくりの会社なので、
そもそもブランディングという言葉自体に対する
意識や理解度があまり高い状態ではありませんでした。
このような企業が、今からインターナルブランディングに取り組むのは、容易なことではありません。
そうなる前の数十人程度の中小企業の段階で、
あらゆる場とコミュニケーション・ツールを通して、
常に経営者のミッション・哲学を伝え続けることが大切です。
聞き手
スターバックス元CEOの岩田氏も、講演会で同じことをおっしゃっていましたね。
経営者は繰り返し、ミッションと経営哲学を従業員に伝えなければならないと。
徐
先日、経営者・後継者または経営者の知識創造研究会である、 志成会の講演会で岩田氏のお話を聞かせていただきましたが、 そのようなお話をされていました。
徐
2000年以降、企業のミッション・理念・哲学というブランドを
一貫した形で発信し続けるべきだということがムーブメントになっています。
『ブランドアイデンティティ』が主流となり、
それをまず内部で共有・浸透・定着させようとする活動です。
聞き手
そのムーブメントは、日本だけですか?
徐
世界的です。
欧米、日本、韓国だけを見ても、すべて当てはまります。
たとえばサムスン電子などは、徹底的に取り組んでいます。
グローバルマーケティング室という組織があって、
顧客と接しない生産現場の管理職から、
サムスン電子が目指すブランドやプロミスといったものを刷り込みました。
聞き手
『顧客と接していないところ』から?
徐
はい。
全世界を回って、いろいろな現場のトップマネジメントや
社員も含めて、サムスン電子のDNAを浸透させています。
実はこの取り組みでサムスン電子がモデルにしたのはP&Gです。
テレビ会議を使って本社のタウンミーティングを
リアルタイムで全世界の末端社員も含めて見られるようにするような
ベストプラクティスをサムスンは取り入れて、徹底的に実践したのです。
徐
本当はインターナルブランディングのための組織など作らず、 全社員一人一人が、ブランドの実現に向けて主体であることを自覚し、 当事者意識を持って考え、自社ブランドの求心力の核となる ブランド・アイデンティティを社内全体で共有すると同時に、 これらを自発的に実践・行動できるような仕組みをつくることが 1番理想的だと思います。
聞き手
それはむしろ、中小企業の方がやりやすいですね。
経営者が語って、顧客の接点のないところも含めてしっかり浸透させるという。
徐
中小企業の段階でこそ、経営者はそういう意識を持って各部門にDNAを浸透させ、
従業員一人一人が経営者という当事者意識を持つような
仕組みを作るべきだと思います。
ある程度大きな会社になると、各部門間のしがらみができるので、
それを壊しながら実行するのは非常に困難でしょう。
聞き手
その『仕組み』というものはどういうものですか?
徐
凸版ソリューションがつくった、経営理念・ビションを
社内に定着させるための3ステップをご紹介しましょう。
まず第1ステップの経営理念・ビジョンを
従業員一人一人に認知させる段階では、
社内ポスターや社内ビジョンなどを使います。
もっと深く理解させる第2ステップでは、
経営理念・ビジョンをまとめたブランドブックや
社内報の作成、教育・研修などを行います。
実際に現場で経営理念・ビジョンに基づいて、
お客様のクレームをどう解決するのかという動画を作ったところ、
非常に効果があったそうです。
最後に定着させる段階では、
経営理念・ビジョンを携帯型カードや社内報酬制度、
Eラーニング(定期的なチェックテスト)などの方法がありますが、
『コーポレートキャラクター』を作るのも有効です。
たとえば企業イメージが漠然としている製造業などでは、
コーポレートキャラクターをつくることによって、ビションがわかりやすくなります。
聞き手
非常に明快でユニークな方法ですね。
本日は、大変ありがとうございました。
※掲載の記事は2016年9月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。