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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー > 宮澤 正憲氏

BXの導入は“次世代のビジネス”を盤石にする

株式会社博報堂宮澤 正憲

Profileプロフィール

株式会社博報堂 執行役員
東京大学教養学部 特任教授

東京大学文学部心理学科卒業。
株式会社博報堂に入社後、多様な業種のマーケティング・ブランディングの企画立案業務に従事。
2001年に米国ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院(MBA)卒業後、ブランドのコンサルティングを行う次世代型専門組織「博報堂ブランド・イノベーションデザイン」を立ち上げ、経営戦略、新規事業開発、商品開発、空間開発、組織人材開発、社会課題解決など多彩なブランドビジネス領域において実務コンサルテーションを行っている。
同時に、東京大学においてブランド発想による共創型授業やコンテスト「ブランドデザインスタジオ」を運営する等、高等教育とブランドビジネスの融合活動も推進。
立教大学ビジネスデザイン研究科客員教授。
東大教養学部「考える力」の教室』(SBクリエイティブ)、 『「「応援したくなる企業」の時代』 (アスキー新書)など著書多数。

企業と生活者の関係性が変化し、“競争”から“共創”へと転換が進む現代。
ブランドの概念もこれまでとは異なる形にアップデートし、変革していくことが求められています。
こうした状況で、博報堂の宮澤正憲氏は「ブランド・トランスフォーメーション(BX)」という概念を提唱。
そこには企業・事業自体の変革と、ブランド概念自体の変革という2つの意味が込められていると語ります。
BXとはどのような概念なのか、宮澤氏にお話を伺いました。

BXには2つの意味がある

Q. 今回は、宮澤さんが提唱されている「ブランド・トランスフォーメーション(BX)」についてお話をお伺いできればと思います。
まず宮澤さんの簡単なご経歴を教えてください。
新卒で博報堂に入社し、マーケティング部門に配属されてマーケティングやブランディングに携わりました。
その後海外のビジネススクールに留学し、戻ってきたときに「何か新しいことをしてほしい」と言われて本格的に取り組みはじめたのがブランドビジネスです。

当時、ブランドビジネスはメジャーではありませんでしたが、広がり始めていました。
ただ、社内でも理解は十分でなく、とりあえず自分1人でスタートすることになったんです。
それから、次第に世間でもブランドに対する理解が深まっていき、私の部署もスタッフが1人、2人と増え、2004年ごろに「ブランドデザイン」というブランドを専門に扱うコンサルティングのような部署ができました。
その後、ブランドの仕事とイノベーションの仕事を統合して「ブランド・イノベーションデザイン」という部門を作り、主にブランドやイノベーションに関するコンサルティングを行ってきました。
同時に、ブランドは生き方や発想にも使えると思い、10年前からは東京大学でブランド的な発想法も教えています。

私がブランドの世界に足を踏み入れた最初のころは、ブランドというと、いわゆるラグジュアリーブランドのような世界でした。
ブランドという概念が浸透するようになったのは、デービッド・A・アーカー氏が“ブランド・エクイティ”という概念を出したあたりだと思います。
さらにその後、伊藤邦雄先生が“コーポレートブランド経営”という言葉を使われて、ブランドが経営者マターに昇華したころから、もう一段ブランドが大きな活動になってきたと思います。
Q. BX(ブランド・トランスフォーメーション)について。提唱された背景や定義を教えてください。

直接的な背景の1つは、DX(デジタル・トランスフォーメーション)との関係です。
ここ数年はDXがブームですが、クライアントから相談を受ける中で、DXがうまくいっていない企業は実は前提となるブランドの考え方がしっかりできていない、という印象を持ち始めました。
目的が不明確なままデジタル化するケースが多いんですね。
そうしたケースでは、デジタルを活用して「ブランドを作りませんか」ということが1つの解決策で、そのような背景から、「ブランドをベースにDXをする」という概念を言葉にしたほうが良いのではと考え、ブランドとDXをくっつけて“ブランド・トランスフォーメーション”という言葉にしたわけです。

2つ目の背景は、ブランドの概念についての考え方です。
ブランドという概念は、昔と今とではかなり異なっていますが、いまだに「ラグジュアリーブランド」と考える方は多くいます。
ブランドの概念が20年前で止まったまま、進化している中身に追いついていない人が多い。
そこで、「ブランドという概念そのものもトランスフォーメーションしないといけない」という思いも込めて、“BX(ブランド・トランスフォーメーション)”と名付けました。

BX2つの意味

BXの原型は、約3年前に発表しました。
ただ、当時と今とでは、いろいろな人の意見やアイデアを聞いているので、中身はだいぶ変わっています。
「ブランドそのものをアップデートする」という目的もあるので、「これで完成」という概念ではありません。
定義自体も、数年前から少しずつ変わっています。
たとえば今は「生活者とのブランド共創による事業変革」という言葉を使っています。
前述のように、BXには2つの意味を込めています。
1つは「ブランドという視点を持って企業や事業を大きく変革する」という意味のブランド・トランスフォーメーション。
もう1つは、「ブランドという概念そのものを時代に合わせてアップデートして変革する」という意味のブランド・トランスフォーメーションです。
こうした定義はこれからも変わっていく可能性はあると思います。

実務家から見たブランド概念の変遷

Q. 現在のブランド作りの傾向について、ご見解を教えてください。
ここ数年は、企業が「こういうことをやりたい」と一方的に発信するだけでは人がついてこない時代に突入しています。
つまり「共創としてのブランド」です。
ビジョンに共感してくれるお客さん、共感して会社に入ってくれる人……そういう人たちを獲得することをゴールとする考え方ですね。
ブランドの主役が「人」にシフトしているわけです。
究極のゴールは、仲間を集めること
そういう時代になってきている実感があります。
そして、それがどれだけ実現できるかが、強いブランドのキーになると思います。
BtoC企業は当然として、BtoB企業でも、共感してくれる仲間、取引先、関係者を増やそうとしています。
私のところに来る仕事も、最近はそのような「人」に関わるブランドの相談が多くなっている印象ですね。

「仲間」をどれだけ作れるか

Q. BXのフレームワークで、「これからのブランドに必要な要素」として6つの要素についてお話しされています。
これについて具体的に教えてください。

BXフレームワーク

我々が挙げているのは、パーパス、ビジネスプロセス、商品・サービス、コミュニケーション、コミュニティ、組織・人材の6つの要素です。
従来、ブランドでは名前やロゴ、色などが、ブランドの要素とされてきました。
これらはもちろん大事ですが、現在は名前とロゴを変えただけで良いブランドが作れる時代ではなくなっています。
そこで、もっと要素の概念を拡大しないといけないんじゃないか、という議論があり、実際の例を整理してみると今の「強い」と言われているブランドにはこの6つの要素があるという結論に至りました。

図2は、上と下に半球があり、コミュニケーション、商品、コミュニティなど下の半球のほうの要素をブランドフロントエンドと呼んでいます。
従来からのブランドの重要要素ですが、最近の強いブランドを見ていると、これだけではないのではないかと考えられています。
たとえば最近の強いブランドは上位にデジタル系が並びますが、何が強いかというと、ビジネスプロセスが画期的であるなど、ビジネスモデルそのものがすごい。
その背景にあるパーパス、信念も大事です。
そのため上の半球をブランドバックエンドと呼んでいますが、直接的にはお客さんからは見えないけど、実は企業としては大事で、ここがしっかりできていないと下半球もできません。
従来は上と下が切り離されていて、下半球だけでブランドを作ることができた時代がありましたが、今は下だけでは作れなくなっているので、上と下を合わせてブランドを作る、というのがこれからのブランドの作り方だと考えています。

また、中心に「生活者価値」を置いた理由についてですが、ブランドは結局、生活者発想が大事です。
従来の生活者・顧客発想というのは、最終的な段階でお客さんのことを考えて化粧の仕方を変えましょう、という発想でした。
ただ、今はモノビジネスからサービスビジネスに変わってきています。
今はデジタル化によって、サービスを作るときに研究開発の段階からお客さんの声を入れたり、クラウドファンディングを入れたりと、途中で巻き込みやすくなっています。
そうなると、従来のように最後にあわててお客さんの発想を入れるのではだめで、すべての段階で生活者・顧客発想を色濃くし、今まで以上に生活者のことを考えないといけません。
そういう意味で真ん中に置いているのです。

Q. ブランド価値を高めるための、顧客との関係構築の方法について、お考えを教えてください。
ピーター・ドラッカー氏の「マーケティングとは顧客の創造」という有名な言葉がありますが、この「顧客」が誰なのか考えることが大事だと思います。
なぜかというと、「顧客」というと多くの人が消費者のことだと考えますが、ブランディングやマーケティングのゴールが「消費者の創造」となってしまうと、無用なものを生み出し、押し付けのように消費をあおることになってしまう。
だから、ブランドでは「顧客」を消費者ではなく「生活者」と捉えることが肝なんです。

「生活者」であれば、極端な話、お客さんが自分のブランドを買わなくてもいい。
もちろん、最終的には買ってもらうことがゴールですが、それよりも「ファンになってくれるかどうか」がすごく大事だと思います。
ブランドが「商品を出しました」と言っても、「どうせ大して中身は変わらないんでしょ」という声が実際はすごく多いと思います。
しかし、強いブランドを見ると、たとえばSNSで「このブランド良いよね」と発信している人には、そのブランドを買ったことがない人が実は結構多いんです。
お客さんではないけど、強烈なファン、仲間になっていて、それを見た周りの人が「なるほど、このブランドって良いよね」と買ってくれるモデルですね。
「顧客」と捉えると誤解を招くので、「仲間」でいいんです。
つまり、このブランドの仲間は誰に設定しますか、というわけですね。
いっぱい買ってくれる仲間、ちょっとだけ買ってくれる仲間、買ってはくれないけど応援してくれる仲間……「仲間」というレイヤーで見ることによって、ブランディングの進め方も変わってくると思います。

もともと、ブランドはいろいろなステークホルダーのものと言われていましたが、実際は直接的なヘビーユーザーがメインターゲットでした。
ただ、いろいろなステークホルダーを広く見ていかないと、長期的な観点からは弱いブランドになってしまいます。
だから、仲間として考えることが大事。
長くサポートしてくれる仲間をどう作るか。
それがブランドのゴールと考えると、これそのものがブランディングの目的になるので、ここを真ん中に置いて考えることが大事だと思います。

日本では、コミュニティという概念がすごく狭く捉えられがち。
たとえば「ファンコミュニティ」という概念もありますが、結局は消費者コミュニティなんです。
もちろんそれも大事ですが、そういうコミュニティは新規ユーザーが入りにくいという問題もある。
常連客が多すぎるバーのようなもので、一部では盛り上がっているけど新規顧客が入りにくいわけです。
それよりも、もう少し緩やかな「仲間」のような存在をどれだけ作れるかが大事ではないでしょうか。

BXと“ヒューマニティ”と“テクノロジー”

Q. 先ほどDXについてのお話がありました。
テクノロジーが進化する一方、“ヒューマニティ”についての議論もあります。
“ヒューマニティ”と“テクノロジー”がBXに与える影響を教えてください。

テクノロジーは、本質的には「生活者の声をより聞きやすくするもの」と捉えるのが良いのではないかと思います。
昔と比べると、生活者データなどははるかに取れるようになっていますよね。
従来は、情報を分析するのにタイムラグがありましたが、今はほぼリアルタイムで生活者の声を分析できる状況になっています。
企業と生活者が密接になってきているのは、すごく大きなチャンスだと思います。
たとえば、最近は「Web3.0」がトレンドですが、これは分散型のシステムによって企業ではなく生活者側に力が行くテクノロジーで、これが進むことによって、生活者にもメリットのある世界になる。
そう考えると、テクノロジーの進化というのは、生活者と企業がより密接になり、生活を良くするためにある、と捉えられると思います。

ただ、実際は日本の生活者に「テクノロジーの進展はあなたにとってプラスか、マイナスか」と聞くと、ディストピア的な世界観から「マイナスだ」と答える人が多いんです。
実際、生活者が不在のまま、企業の論理で「こっちのほうが良いだろう」と思ったものを押し付けてくる世界観があることも否定できませんが、それは正しいテクノロジーの使い方ではありません。
今は、そのどちらに進むのか、分岐点を迎えている気がします。
「ヒューマニティのためのテクノロジーって何だろう」と常に考えることが本質的ですし、またそうでなければ、テクノロジーと本来求めているものがどんどん解離して、幸せではない社会がきてしまいます。
だからヒューマニティとテクノロジーは常にセットにする、そしてそれがBXの真ん中にある、と考えることが大事だと思います。

ヒューマニティ

Q. 変革が苦手な企業は、BXをどのように導入すべきか、アプローチの仕方を教えてください。
私がよく言うのは「この時こそブランドですよ」ということ。
ただ、大企業が自社のメインブランドや企業そのものを変えるとなるとすごく体力がいりますし、リスキーでなかなか難しいと思います。
だから「新しいブランドを作る」というのがオーソドックスな手法です。
「出島型」と言われる手法で、既存の組織とは切り離した新規事業として、ちょっと違ったタイプのブランドを作ろう、ということですね。
昨今はDtoC(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)が流行っていますが、これはコンシューマーに直接販売するブランドを作る行為で、ここですごく儲けるというより、新しいビジネスモデルがうまくいくかの実験として着手する企業が多いです。
たとえば、実験的にユーザーイノベーションを入れてみましょうとか、パーパスドリブンな新しい事業を作りましょうとか。
試してみて成功すれば、少しずつそちらにリソースをシフトしていく、というのが現実的には有効だと思います。

BXで「次世代のビジネスを盤石にする」

Q. BXを導入することで得られる成果は?
一言で言えば、「次世代のビジネスを盤石にする」ということに尽きます。
今は、ほとんどの企業が「直近の既存事業がもう数年で立ち行かなくなる」と答えています。
たとえば広告産業では、広告というモデルそのものが効かなくなっています。
聞くと、7割方の企業が「既存事業は難しい」と言っています。
とはいえ、何かしなければいけない。
ですから、私たちは「ビジネスのOSの変更」と呼んでいますが、OSを変えるぐらいの変更がないと、トランスフォーメーションは難しい。
そうすると、結局は自社のブランドをどれだけトランスフォーメーションできるか、ということになるわけです。

また、生活者の側から見たときに、今あるブランドのすべてが魅力的かというと、必ずしもそうではありません。
だからBXを進めて、もっと生活者にとって魅力的なブランドを増やすことが生活者側から見ると素敵なことですし、ひいては社会をもっと良くすることにつながるのではないでしょうか。
BXを導入するということは、もちろん企業が生き残るためでもありますが、社会そのものをより豊かにするためでもある、と思います。
Q. スタートアップ企業など、小さな規模の会社でもBXの概念は取り入れられますか?
むしろ、小さな企業のほうが取り入れやすいと思います。
今のスタートアップは、思いの強さが仲間や資金を集め、ブランドを作ります。
もちろん、お金儲けのためにスタートアップをやるという人もいますが、少なくなっている印象です。
最初からこのBXのモデルを考えて、ではパーパスは何か……と共創型で巻き込みながら事業を作るのは、むしろスタートアップのほうがやりやすいかもしれません。
Q. では最後に、今後の活動について教えてください。
これまで、ずっとブランドに仕事として携わってきましたが、その中で思うのは、ブランドが古い概念で止まっている人が多い、ということです。
それがダメというわけではないのですが、世の中を良くするためという意味では、ちょっと弱いなと思っていて。
ですから、ブランド自体の概念を拡張できるような活動のお手伝いをしていきたいなと思っています。
本当の意味での良いブランドを作る企業がどんどん出てくればいいなと思っていますので、そうした活動を推進していきたいと思います。

※掲載の記事は2023年6月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。

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