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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー > 西川 英彦氏

「ユーザー・イノベーション」が
ブランド・ロイヤルティを向上させる

法政大学経営学部西川 英彦

Profileプロフィール

法政大学経営学部 教授

1985年株式会社ワールド入社、2001年ムジ・ネット株式会社取締役、2004年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了、2005年立命館大学経営学部准(助)教授、2008年同教授を経て、2010年より法政大学経営学部・大学院経営学研究科 教授(現職)。日本マーケティング学会副会長、ブランド・ジャパン企画委員、株式会社ユナイテッドアローズ社外取締役、株式会社島忠社外取締役、株式会社碩学舍代表取締役。『1からの商品企画』(編著、碩学舎)や『1からのデジタル・マーケティング』(共著、碩学舎)など著書多数。専攻はマーケティング論、ユーザー・イノベーション、デジタル・マーケティング。日本マーケティング学会の「ユーザー・イノベーション研究会(http://www.j-mac.or.jp/research-project/5544/)」、博報堂との産学共同研究会の「User Innovation Lab.(https://www.hakuhodo.co.jp/news/newsrelease/85767)」、約400名の大学生が産学連携で実際の商品化を目指すゼミ対抗インターカレッジの「Sカレ(https://s-colle.ws.hosei.ac.jp/)」(Student Innovation College)などの企画運営も行っている。

聞き手:一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 岩本俊幸
話し手: 西川 英彦 氏

ユーザーが、自ら利用するために製品やサービスを創造・改良する「ユーザー・イノベーション」。先進性のある「リードユーザー」を見つけ出し、商業的に魅力のあるイノベーションとなることが期待できるこの概念は、ブランディングにおいても効果的とされ、注目を集めています。「ユーザー・イノベーション」研究を専門的に行っている法政大学経営学部教授の西川英彦氏に、「ユーザー・イノベーション」が企業にもたらす価値やブランディングとの関係についてお話を伺いました。

ユーザー・イノベーションが画期的なアイデアを生む

Q. はじめにこれまでのご経歴を教えてください。
1985年にワールドに入社し、営業や経営企画、ブランド・マネージャーなどの仕事を手掛けていました。その後、無印良品がネットビジネスを始めるために人材を募集していると聞き、2000年にムジ・ネットへ転職しました。それまでネットビジネスに携わったことはありませんでしたが、ワールド時代にさまざまな新規事業に携わっていたこともあり、今までにない新しいビジネスができるのではと思ったのです。
Q. ムジ・ネットに5年ほど在籍されたあと、研究者の世界へとフィールドを移されています。ユーザー・イノベーションの研究を選ばれたきっかけは何だったのでしょう?
そもそも「ユーザー・イノベーション」という概念が論文として登場したのは1976年で、MITのエリック・フォン・ヒッペル教授が提唱しました。私は無印良品時代に、オンライン上で、ユーザー・イノベーションを活用しようといろいろと手掛けていて、もっと仕組み化したいと思っていました。そんな中、「空想生活」というサイトがユーザー・イノベーションを活用する仕組みを提供していたので、一緒にプロジェクトを始めることになりました。そうした中、「これを博士論文にできないかな」と思い研究をはじめたわけです。
Q. ユーザー・イノベーションにおける「ユーザー」のメリットには、どのようなことが考えられるのでしょうか。
ユーザー・イノベーションの定義は何かというと、「ユーザーが直面する課題に対して、自らの利用のために製品やサービスを創造・改良すること」となります。それで、ユーザーのメリットについてですが、実はユーザーは自分のために作っていて、メーカー企業のためというわけではないので、それが使えることがメリットです。「使いにくい」などの理由から、自分が欲しいもの、必要なものを使うために作っているわけですね。
Q. その結果として、メーカーは、自分たちでは思いつかないような画期的なアイデアが手に入る、ということですね。
その通りです。有名な例では、マウンテンバイク。1970年ごろ、「山で自転車に乗りたい」と思ったサイクリング愛好者がバイクのパーツなどを利用して作ったものです。それを1975年ごろ、小さな組み立て業者が製造・販売し、1982年ごろ大手メーカーが大量販売しました。その結果、2000年には米国の自転車市場の65%がマウンテンバイクになるまで広まりました。
そもそも、「山で自転車に乗る」という行為はリスクを伴うので、メーカーがモニターを依頼しても誰も乗ってくれませんよね。だから、リスクの伴う激しいスポーツは、愛好者が仲間たちとつくりあげたユーザー・イノベーションが多いのです。
Q. なるほど。
それで、想像ですが、マウンテンバイクに乗るメンバーの中に、たとえば整形外科医がいて、腰を痛めないサスペンションを考える……など、愛好者のメンバーが、各自の知識を活かし改良を重ね、製品が洗練されていきます。製品の完成度や人気が高まったのをみて、メーカーが参入するという形だと思います。
Q. そうして、日本でもメーカーが活用しようという動きが出てきたわけですか。
それがあまり出ていないのです。今お話ししたような消費者イノベーションに限って言えば、2011年のデータですが、消費者のアイデアが実際にメーカーなどの第三者で利用されているのは全体の5%ぐらいで、95%は無駄になっています。日本にイノベーターは390万人ぐらいいて、その人たちは年間12万円ぐらいを開発に使っています。12万×390万円なので、0.46兆円です。消費財メーカーのR&D費を推測すると3.47兆円なので、その13%に相当する資金を、消費者イノベーターが使っているのです。さらに、その中で知的財産権を要求している消費者は、日本の場合は0%です。これは、社会全体にとって、すごくもったいないと思います。
Q. それは日本特有の現象なのでしょうか?
いえ、アメリカでも実際に利用されているのは6%です。イギリスは17%ですね。ただ、アメリカは知的財産権を要求している消費者が9%います。日本の場合は、ある意味フリー・イノベーションですね。ユーザーは、自分の作ったものに価値があるとは思っていない可能性があります。こうした埋もれた資源が存在しているのは確かなので、それを活用することは、企業が差別化を図るうえですごいメリットだと思います。

リードユーザーを探すことが魅力的なイノベーションにつながる

Q. そうしたユーザーを、メーカーはどのように探し出すのでしょうか。
探索方法は、「クラウドソーシング法」と「リードユーザー法」のふたつに大別できます。どちらの方法も「リードユーザーを探す」ことが重要です。なぜかというと、ユーザー・イノベーターの中でも、リードユーザーが商業的に魅力のあるイノベーションを起こすからです。つまり、リードユーザーのアイデアを使うと大きな市場規模になる可能性があるわけですね。
Q. そもそも「リードユーザー」とはどのような存在として定義づけられるのでしょうか?
ふたつあり、ひとつは「先進性」です。既存の製品では満足されないニーズをターゲット市場のほかの消費者よりも先に感じ、製品の解決策を見出すこと。そしてもうひとつは「高便益期待」。ニーズが解決されることが自分に利益をもたらすと信じて、革新に動機づけられること。このふたつの特性を持っている人が「リードユーザー」です。
Q. では、「リードユーザー法」「クラウドソーシング法」とは、どのような手法なのでしょうか。
「リードユーザー法」は、企業がユーザーを探して会いにいく方法で、「クラウドソーシング法」は、ネットを通して、ユーザーに自ら応募してもらう方法です。クラウドソーシング法が、消費者ユーザーの参加になるため消費財に向いていて、一方リードユーザー法は企業ユーザーも消費者ユーザーも探すことができるため消費財でも産業財でも向いているというのが違うところですね。
Q. 「リードユーザー法」のポイントを教えてください。
ポイントとしては「ピラミッティング探索」です。リードユーザーの紹介の紹介で、より離れた先進類似市場のリードユーザーを探す方法ですね。たとえば自動車のブレーキの例を挙げると、開発者は、ブレーキのリードユーザーを紹介してもらうなかで、街乗りのレーサーから、先進類似市場の航空機市場のリードユーザーにまでたどり着く。その結果、自動車のABS(アンチロックブレーキシステム)という産業財が生まれたわけです。
また、「外科手術に伴う感染予防のための対処法」が生まれた例もあります。これは手術で使用するものですが、実は毎日役者に化粧をする舞台メイクの専門家が詳しくて、医者という同業界のユーザーよりアイデアの新規性が高かったのですね。
Q. 先進類似市場の紹介を促進するためのポイントは?
ひとつは「自社市場のトップレベルのリードユーザーが、他のユーザーに比べて、類似市場ユーザーを紹介する」ということ。ふたつ目は、「類似市場ユーザーが、ターゲット市場ユーザーに比べて、さらにほかの類似市場を紹介する」ということです。そうすることで、思いもしなかったアイデアが見つかるわけです。これは産業財や消費財でのピラミッティング探索のデータ1097件を分析して分かったことですね。そして、重要なのは、「離れた先進類似分野ほど、アイデアはより斬新になる」ということです。
面白い実験があり、大工用呼吸保護マスクの快適性と着用率を高める方法を、大工さん、屋根職人、インラインスケーターの3グループに尋ねたんです。共通していたのは、傷害防止用の安全装置を着用していることでした。結果、大工さんのアイデアよりも屋根職人のほうが斬新性は少し高く、さらに、もっともターゲット市場から隔たりがあるインラインスケーターのアイデアが非常に斬新で、大工さんの常識では考えつかないアイデアが出ることがわかりました。つまり、より離れた先進類似市場のリードユーザーまで探索するのが良い、ということですね。当該分野より技術が先進的か、またはより切実な状況の分野を選ぶのがいいようです。
Q. ほかに重要なポイントはありますか?
解決者が自分の知識に関連付けられるように、問題の本質を提示してあげる、ということですね。たとえば「斬新な都市交通のソリューション」を探索するとして、医師や循環系の研究者に尋ねるとしましょう。この場合、ストレートに尋ねても「医者だから、交通問題はわからない」と言われますが、「複雑なシステムにおいて諸要素がスムーズに流れるように調整する方法を探している」と聞けば、交通系の専門家からは出てこなかったアイデアが出てくるわけです。つまり質問の仕方が重要ということですね。
Q. 「クラウドソーシング法」についても教えてください。
2000年ごろから登場した手法で、コンテンツの創造や問題解決、企業の研究開発のために、普通の人々が余剰能力を使うことを指します。大きく分けると、リードユーザーのアイデアをもとに新製品開発を行うときに使う場合と、多数の人に作業を委託するというマイクロタスク的に使う場合のふたつがあります。 新製品開発の場合は、インターネットを通して幅広くアイデアを募集し、多数のユーザーが自己選択で参加する……というアイデアコンテスト形式が多いですね。そして、成果も生まれています。無印良品の例で説明すると、家具の売上高をユーザーのアイデアをもとにしたユーザー創造製品と内部の専門家のアイデアをもとにした専門家創造製品で比較した場合、ユーザー創造製品が平均5.0億円で、専門家創造製品が平均1.4億円と、3.5倍ぐらい違いました。新規性の比較も、ユーザー創造製品のほうが1.5倍ほど評価が高かったという結果になっています。
Q. リードユーザーに参加してもらううえで、重要なことはなんでしょうか?
カテゴリーに関心が高く、使用経験の長いユーザーの参加を促進することですね。そして、自社の顧客基盤を使うことが大事です。ただし、先進性が高く、高便益期待を持っていないと意味がないので、一般的な市場調査が対象とする「平均的ユーザー」では無意味、ということは意識しておくべきでしょう。そして公開形式にして、多数のユーザーの参加を促進することが必要です。
Q. その理由は?
参加ユーザーは当然、企業の開発者に比べて多数で多様な背景を持っています。つまり、リードユーザーの中に先進類似市場のユーザーが含まれる可能性があります。多数で多様なアイデアが投稿されれば、少数の、真にすばらしいアイデアの発生確率を上げられるわけです。だからクラウドソーシング法において、多数のユーザーが参加することは非常に重要だと思います。

ユーザー・イノベーションはブランド・ロイヤルティを高める

Q. ユーザー・イノベーションによるブランド価値向上への影響について教えてください。
まず、それを説明する前に、ユーザー・イノベーションの効果についてお話しします。ユーザー・イノベーションには、大きくは「製品効果」と「ラベル効果」の2つの効果があります。
「製品効果」は、製品自体の品質を要因とする効果のこと。先の無印良品の例は、この効果を説明するもので、売上や新規性の高さはブランド価値を向上させます。
一方、「ラベル効果」は、開発源の情報を要因とする心理的な効果。これは「Country of Origin効果」という、原産国名を出すとより高い品質と認識される効果と同様のものです。たとえば、単にパスタ、ワイン、エンジンと言われた場合に比べて、イタリア産パスタ、フランス産ワイン、ドイツ製エンジンと言われた場合に、高い品質と感じる効果ですね。ブランド連想に近いかもしれません。たとえば、無印良品の店頭実験で、ユーザー創造製品に、「お客様のアイデアから生まれた」というPOP表示をしたところ、2割ほど売上が向上しました。
この「ラベル効果」の要因の1つは、品質推測です。つまり、消費者はユーザー創造製品が消費者ニーズを効果的にとらえた高い品質を持っていると推測していると考えます。「“お客様の声”から生まれた製品なら、品質が高いんじゃないか」と思うわけですね。ラベル効果はブランド価値を向上させる話ですが、実際の製品の品質が悪い場合は逆効果を引き起こす可能性があるので、製品効果をもつような高い品質の製品でないと意味がありません。
そして、単にユーザーが創造したというだけでなく、ユーザーが選んだということもラベル効果をもたらします。実験した結果、ユーザーが創造も選択も実施した製品という表示は、どちらも専門家が実施した製品、つまり伝統的新製品開発による製品という表示に比べて、消費者は、購買意向やロイヤルティ、口コミ意向、コミットメント、絆を強く感じます。このように、ブランド価値向上につながります。もっとも、ユーザー側が知識を持っていないと思われるようなカテゴリーでは効かないのですが。
Q. なるほど。
また、ラグジュアリーブランドでは、負のラベル効果となります。たとえばプラダ、グッチ、ヴィトン、アルマーニ、ドルガバなどの場合、消費者は、デザイナー、つまり専門家に創造してほしいと思っているというデータがあります。一方、ZARA、H&M、DIESELなどでは、ユーザー創造製品を購入したい、という声が多い。要するに、ステータスが求められる製品の場合は専門家の創造した製品を選ぶわけです。
ただ、ラグジュアリーブランドでも、トップデザイナーによって認められたユーザーによる創造製品の場合は、負のラベル効果を緩和させるのです。たとえばドルガバに認められたユーザーによる創造製品の方が、単にユーザー創造製品よりは選択されるのです。あるいはセレブ、芸術家による創造製品も、同様の傾向をもちます。消費者が、自分たちと同じ普通のユーザーではない、知識をもった特別なユーザーが開発したと思えることが大事です。
Q. 消費者とそのユーザーとの社会的距離がある場合は、負の効果も減少するということですね。
そうですね。あと、たとえばプラダの場合でも、低ステータス関連製品だと負の効果を緩和させることがわかっています。ハンドバッグやドレスシャツ、革靴は専門家に作ってほしいけれど、メッセンジャーバッグやTシャツ、スニーカーならユーザー創造製品もありえるかも、というふうに。緩和効果が存在しているわけですね。
このように、今はすごくさまざまな研究が進んでいます。ユーザー・イノベーションの活用は、企業にとって新しいイノベーションを発見する機会になると同時に、ブランド価値向上につながる可能性を持つわけです。
Q. ユーザー・イノベーションはブランディングとしても効果的なわけですね。中小企業でもブランディングとして応用することは可能でしょうか?
中小企業でも十分応用は可能だと思います。クラウドソーシング法は多くの顧客がいなければ難しいですが、リードユーザー法は有効だと思っています。消費財、産業財問わず、ユーザーをたどってリードユーザーを探索していけば、すぐれたアイデアが見つかる可能性はあるでしょう。
そして、そうした取り組みを行うことは、ほかの会社が知らない新しい知識が入ってくることになるので、ブランドの大事な要素である差別化にもつながるのではないでしょうか。ブランディングとの親和性はすごく高いと思います。
Q. 今後、ユーザー・イノベーション発展のために考えていることを教えてください。
今、日本マーケティング学会で「ユーザー・イノベーション研究会」を運営しているのですが、もうひとつ、博報堂と一緒に「User Innovation Lab.」を立ち上げました。これらをベースに、さまざまな会社を巻き込んで、研究と実践を進めていこうと考えています。
Q. 最後に、コロナ禍でのマーケティングやブランディングでできることは何か、考えていることを教えてください。
今はいろいろなところでオンライン型になっており、参加のハードルが下がっているので、いろいろなことへ興味を広げることが大事だと思います。それによって、今までは見なかった情報に触れられるので、縮こまらず、新しい領域に挑戦したほうがいいのではないかと思います。また、企業によってはZOOMなどの利用が進んでいないところもありますが、ぜひやったほうがいいと思います。ZOOMだけでなく多様なオンラインサービスを体験して、広がりを持つといいのかなと。
これからは、もっとオンラインに寄り添ったサービスが伸びると思うので、新しいサービスや技術は使いこなせるようになったほうがいいですね。特にブランディングに携わっている方は、先進性を高める必要があるのではないかと思います。

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