一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >田村高顕氏
【プロフィール】
大日本印刷株式会社
コーポレートコミュニケーション本部長
田村 高顕 氏
1986年入社。
電子組版・電子出版・携帯情報サービスなどに携わった後、2005年広報室へ。
マスコミ対応、社内報制作、IR活動などを担当し、2017年から現職。
聞き手:ブランド・マネージャー認定協会 広報担当 光山
聞き手
DNPは「未来のあたりまえをつくる。」というブランドステートメントを策定されました。背景を教えてください。
田村
DNPは従来BtoB取引が中心で、それまで生活者に届けるような広告はあまり行っていませんでした。あらためて世の中に広くメッセージを発信していかなければならないという思いから、2012年5月にディーエヌペンギンというキャラクターとともに「未来のあたりまえをつくる。」というメッセージの企業広告を作りました。2015年10月にはグループビジョンが改定され、そこでブランドステートメントとして明確化されています。
聞き手
ディーエヌペンギンを含め、DNPが生活者への訴求を図っているのは、BtoC向けビジネスに力を入れられているからでしょうか。
田村
確かに紙と電子の書籍販売サービス「honto」や写真プリントサービスなど、BtoC向けビジネスの割合は増えています。しかしDNPが生活者と向き合っているのはそのためだけではありません。商習慣や情報の流れが変わり、お客様である企業が、生活者の課題を発見しづらくなっていることが背景にあります。人々の課題を、企業とともに、あるいは直接生活者とコミュニケーションすることで、発見したいと考えています。
聞き手
「未来のあたりまえをつくる。」に込められた思いを教えてください。
田村
DNPはこれまでも「あたりまえ」をたくさん作ってきました。出版社による週刊誌の発行は、当初私たちが印刷工場を整備したことではじめて可能になりました。無菌充填されたペットボトル、歯磨き粉などのラミネートチューブ、国産初のカラーテレビ用のディスプレーなど。それからICカードも1980年代から開発してきました。20年ほどは苦戦しましたが、2000年ごろから日の目を見るようになって、今や「あたりまえ」になっています。 これからも社会の課題を解決するような「あたりまえ」を作るのだという思いが込められています。
聞き手
「未来のあたりまえ」は具体的にどういった分野なのでしょう。
田村
「知とコミュニケーション」「食とヘルスケア」「住まいとモビリティ」「環境とエネルギー」の4つの成長領域を掲げています。情報セキュリティが確保されたコミュニケーションプラットフォーム、食品が長持ちし、フードロスの低減にもつながるパッケージ、データベース化と共有によって病巣などの早期発見にも貢献できる医療用画像診断システムなどの開発を進めています。
聞き手
どれも課題解決型であることがポイントですね。
田村
広報やブランドの担当としては、社会に対してしっかりと私たちの成果をアピールしなければなりませんが、「こんなすごい製品を作ってきた」と自慢げにアピールすると共感を得られないと思っています。日常的に手に入ったり、使えたりできるのは、こういう人が支えているからだよという、ストーリーが大切です。
やはり社会の課題を解決してきたことに共感が得られると思いますし、実際DNPはそういった製品・サービスを作ってきました。そして、これからもやっていくのだという宣言が、「未来のあたりまえをつくる。」であると考えています。
聞き手
御社では情報コミュニケーション部門、生活・産業部門、エレクトロニクス部門とさまざまな事業をお持ちです。1つの課題に対して、あらゆる部門が協力して解決することが重要になると考えられますが、いかがでしょうか。
田村
おっしゃっていることは非常に重要です。例えば「住まいとモビリティ」のうち、電気自動車に関しては、電池のパッケージを開発・製造する部署はもちろん、クルマがネットワーク化すれば情報セキュリティを構築する部署が重要になります。車体の一部となる内装材や樹脂ガラス、サイドバイザーなどを製造する部門も含めて、力を結集しなければなりません。
聞き手
その時に、事業ごとにばらばらに活動するのではなく、「住まいとモビリティ」のような成長領域を定義することが有効になってくるのですね。
田村
その通りですね。「ここに向かって、社会課題を解決するのだ」という方向性や覚悟を示すことが、各部門の力を結集することにつながると思います。各部門や、財務・非財務のリソースを統合する「統合経営」によって、はじめて社会課題を解決できると思います。
聞き手
DNPでは2015年10月、グループビジョンを新たに策定しています。
田村
「企業理念」「事業ビジョン」「行動指針」からなるグループビジョンは2015年10月に15年ぶりに改定されました。社員としての心構えと、社外に向けてのメッセージは切り分ける必要があると考えています。
聞き手
社内に向けてと社外に向けてとで、異なるメッセージを発信するということですか。
田村
「社会課題を解決する価値を提供する」という大本は同じです。そういう大本の「ワンソース」をしっかりと定義したうえで、社員には社員へのメッセージ、パートナーにはパートナーへのメッセージを発信していくことが大事だと思います。具体的にいうと、案件ごとにステートメントを固めたうえで、相手によって表現を最適なものにしていくということです。そうしていかないとアウトプットのガバナンスが効かなくなります。
また印刷会社として、発信すべき情報だけでなく、発信してはいけない情報もあります。製品カタログや雑誌・書籍などの情報を扱う企業として、情報を守るべきときはきちんと守る、発信すべきときはきちんと発信することが重要になってきます。
聞き手
社員に向けてどのようなメッセージを発信されていますか。
田村
例えば行動指針として「対話と協働」を掲げています。人々との対話を通じて課題を解決し、コラボレーションで価値を提供していくという指針です。 情報媒体としては、季刊誌やタブロイド判の情報紙などの社内報を社員に展開しています。「対話と協働」とは具体的に何であるかということを社員に次から次へと発信することが大切だと思っています。
聞き手
最後に「ブランディング」に関してのお考えをお聞かせください。
田村
ブランドはいくら自分たちで価値がありますよと訴えても、だめなものはだめで、相手の頭の中にいい印象を持っていただくことでしか残りません。ブランドの価値を高めるのは、やはり日常的な活動であり、当社でいうと企業、国や自治体、生活者、さらには国外の人々が感じている課題を発見して、解決するという繰り返しだと思います。そのシンボルとしてディーエヌペンギンといったキャラクターや会社のロゴがあると思っています。
何かを掲げたからブランド力が高まるわけではありません。掲げたものが示しているものは何かということが重要だと思います。
私たちは「未来のあたりまえをつくる。」というブランドステートメントを掲げました。その約束を果たすことが、ブランディングだと思っています。
※掲載の記事は2018年9月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。