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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >敷島製パン株式会社(Pasco) Vol.2

「超熟」ブランドの誕生・育成から「社会的価値」の創造へ – 後編

敷島製パン株式会社(Pasco) Vol.2

聞き手:一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 岩本俊幸

【敷島製パン株式会社のプロフィール】

1920年6月創業。

パン、和洋菓子の製造販売を行う、老舗製パン企業。

国内に15工場、事業所は国内に40か所。

売上高は170,173百万円(2014年8月期)、国内製パン業界2位のシェアを誇る。

また冷食事業、海外事業も展開している。

製パン事業ではPascoブランドで商品を展開。

中でも主力商品「超熟」は、食パン市場でNo.1シェアを誇る人気商品である。

「金儲けは結果であり、目的ではない。食糧難の解決が開業の第一の意義であり、事業は社会に貢献するところがあればこそ発展する」

という創業者・盛田善平の理念を今も守り続けている。


大切にしてきた「社内向け」のブランディング

岩本

15年以上ものロングセラーブランドになるまでには、開発段階にも、その後の育成にも大変なご苦労をされてきたことを伺いましたが、その間業績はずっと右肩上がりだったのでしょうか?


加藤

そんなことはありません。もうすぐ「超熟」ブランド10周年を迎えるというころ、売り上げが下がったことがありました。「超熟」の開発時期から販売にリアルに関わり、「超熟」を消費者の皆さんに届けるため心血を注いできた従業員の多くが定年を迎え始めたころです。若い世代は、入社したときからすでに「超熟」があり、ブランドとしての情熱が薄くなり始めていた時期です。そのころは競合他社も非常に品質の高い商品を出し始め、当社の従業員であっても目隠しで食べると差が分からないこともありました。そんな背景もあり価格競争にも巻き込まれ始めます。若い世代の営業担当は、「超熟」販売当初の情熱や、売り上げを上げてきた成功体験がありませんし、競合他社の商品の方が美味しいのではないかという思いすら抱いていたようです。自社の商品に対する自信が弱まる……。これが一番怖かったですね。当時は販売促進グループのマネージャーでしたが、全国の各営業拠点を、マーケティング部のスタッフと「超熟」の魅力を伝えて回りました。


岩本

どんなに優れたブランドであっても、それを伝える人の情熱がなければ伝わりませんからね。特に強調して伝えたことはどういったことだったのでしょうか?


加藤

「超熟」はまだまだ進化する。その可能性は大いにあるのだ、ということです。Pascoは「超熟」で勝負するということを伝えたかったのです。


岩本

営業の方に自信というか、「超熟」は終わっていないということを伝えたかったのですね。


加藤

そうです。そのときに感じたのは、結局、業績の足を引っ張る大きな要因は、実は社内にあるのだなということです。問題の根底を探ると、それが社内から生じていた。それをどうにかしなくてはならないと、大変悩みました。


岩本

インターナルブランディングと言われる部分ですね。言葉で伝えること以外にも、ブランドブックなどを使われたのでしょうか?


石橋

はい。もともとブランドブックはありましたが、それを改めて意識してもらうように伝えて回りました。「超熟」発売から15年以上経った今も、新しい世代にブランドのコンセプトを理解してもらい、「超熟」がさらに成長していくために、分かりやすいイラスト入りのブランドブックを新たに作りました。それを使って、自分の家族に説明してみてほしいとも伝えています。この新しいブランドブックで研修会も行い、「超熟」を育てていくための意思統一を目指しています。




岩本

素晴らしい活動ですね。従業員が入れ替わるたびに常に伝えていかなくてはいませんね。


石橋

そう感じています。新入社員教育では実施していますが、今後は全社員を対象に定期的に行うことも検討しています。


岩本

そういったインターナルブランディングの中核となるブランドブックで、特に伝えたいことは何でしょうか?


石橋

「超熟」のコア・アイデンティティである「毎日食べるものだから美味しくて安心」ということですね。それを従業員一丸となって守っていくという決意を持ってもらいたいのです。単純に売れれば良いということではなく、そういった強い理念の基に作っているということを心から理解してもらいたいと思っています。


「超熟」ブランドに、新たな価値を

岩本

最後に、今後の「超熟」ブランドについて伺えますか。


石橋

当社は「食」で社会に貢献したいという理念で創業しました。今、食料自給率の低下を食の大きな問題と考え、自給率向上のためにできることはないかと考えています。実は、日本のパン用小麦の自給率は3%程で、ほとんどを輸入の小麦に頼っています。ですので、パンそのものが、食料自給率低下に拍車をかけていると思われているのです。そんな風潮を変えたいと、今回も社長の想いから始まっています。
今まで、日本の気候ではパンに適した小麦の量産は難しかったのですが、北海道農業研究センターが開発した「ゆめちから」という品種のおかげで量産が可能になりました。収穫量が多いだけでなく、タンパク質が多いのでもちもちとした上質なパンを作ることができる画期的な新品種です。社長自ら北海道へ出向いて、「ゆめちから」を栽培してくれる農家を探して回り、北海道知事への働きかけや、「ゆめちから」を使ったパンの試食などを通じてPRし続けました。その結果、ついに「超熟」にも使えるくらいの生産量が確保できることになりました。



石橋

先日、新聞でも報道された通り、2015年1月末からリニューアルした「超熟」には、まだ少ない量ではありますが「ゆめちから」を配合しています。今までよりもさらにしっとり・もっちりした食感を感じていただけると思います。「機能的価値」も上がりますし、これを買って食べていただくことで食料自給率向上にも貢献していただける。「超熟」ブランドに3つ目の価値、「社会的な価値」を新たにプラスすることができたのではないかと考えています。


岩本

とても素晴らしい取り組みですね。第一次産業を活性化させるという効果もあると思います。


加藤

今まで小麦にはブランドがなくて、せいぜい「北米産」とか「カナダ産」といったものでした。それらはまったく農家の方の姿が見えません。しかし今回の取り組みで、大勢の農家の方が当社を見学に来られて、我々としても生産者の方の顔が見え親近感が湧きましたし、農家の方たちも、自分たちの作った小麦が「超熟」になるのを見て、大変自信になったそうです。


石橋

農家の方にとって小麦は特に、自分たちの卸したものがどういう商品になるのか見えにくい作物なのです。お米のように、小麦もブランド化していきたいですね。



加藤

国産の小麦を使う理由には、実はもう1つ理由があります。小麦を大量に消費する中国の存在です。世界で一番の小麦生産国である中国は、畜産関係の飼料に利用するため、比較的品質の高くない小麦を世界各国から大量に仕入れています。一方日本は、遺伝子組換えや、ポストハーベストなど厳しい規制がかけられます。輸出国側からすると、規制の厳しいところに労力をかけたくないというのが本音でしょう。2007年に起きた異常気象でも、当時オーストラリアで干ばつが発生して、日本に小麦が入ってこなくなりました。あのようなことがまた起きたら……。そのリスクを防ぐためにも国産小麦への取り組みを始めたわけです。


岩本

産業構造というか、第一次産業そのものを変えるようなお話ですね。
安全・安心で美味しいという「機能的な価値」、シンプルで豊かな食生活を提案する「情緒的な価値」、さらには3つ目の価値として「社会的な価値」をも付加した「超熟」ブランドは、きっとこれからも消費者に愛され続けるブランドであり続けるのではないかと感じました。
本日は非常に素晴らしいお話を聞かせていただきました。ますます「超熟」が好きになりました。ありがとうございました。