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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >田中 洋氏 Vol.4

ブランドを組織の意思決定基準にする – 後編

田中 洋氏 Vol.4 中央大学ビジネススクール(大学院戦略経営研究科) 教授 一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 特別顧問

聞き手:一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 岩本俊幸

【田中氏のプロフィール】

経済学博士(京都大学)。

(株)電通マーケティング ディレクター、法政大学経営学部教授、

コロンビア大学客員研究員などを経て2008年より現職。

一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会顧問。

日本マーケティング学会副会長。

Hiroshi Tanaka Official Site

http://www.chuo-u.ac.jp/chuo-u/cbs/index_j.html


TBはサービス業の問題解決に有効な手段

田中

もう一つ、公開シンポジウムで思ったのは、伝統的な業のあり方というのはやはり変化せざるを得ないということ。

シンポジウムで発表された名古屋のエヌ・ケー・エスは、業務内容は伝統的な「校正」作業(測定器の性能をチェックする)ですが、おそらく校正という業務の役割が時代とともに変わってきたのではないかと思います。
企業も自分たちの在りようを変えなければならないというときに、チームブランディングという考え方が役に立つのだろうなと思いました。



聞き手

なぜそれが役に立つと思われますか。


田中

おそらくトヨタといった生産現場では、工員さんが自分から主体的にやるというのがメソッド化されていてうまくいっていると思うのです。
しかし、サービス業にはそれに見合うようなやり方や考え方がなかったと思うんですね。

サービスクォリティを改善するという場合、一番の問題点は人によって品質のばらつきがあるということです。
さらに、サービスはその場で消費されるものですから作り溜めができないので、なかなか品質の検査をすることができないことが二つ目にあります。

また三番目に、サービスは形がないので、サービスが提供されるや否や消滅してしまい、後から評価しづらいということがあります。
そうしたサービス業が本質的に抱える問題を、チームブランディングは解決してくれる部分があるということです。
例えば、「この行動はチームブランディングの考え方からみてどうなんだろう」と気づかせる。

これは前述した意志決定の話と同じです。
例えば、ホテルを見れば分かりますが、サービス業は従業員一人ひとりに現場での権限が委譲されています。
ということは現場で考えて問題を解決しなければなりません。

でも、何をどう判断したらいいいかというのがあまり統制されていないような気がします。
何を機軸にして判断すればいいのか現場では分からないのです。
その機軸になるのがブランドであるという考え方を全員で共有すれば、同じベクトルを持つことができます。


聞き手

サービス業の今ある問題を解決する手段としてチームブランディングは有効なのだとあらためて確信しました。

旅館業はもとより、美容室や医療機関でも実証例が出ています。
チームブランディングの一つのゴールを推奨規定、禁止規定という形で表しています。

ブランドに沿って自分たちはどう行動すべきかという行動規範です。
それが、お客さまにどう思われたいかというブランド・アイデンティティの一貫性につながっています。
チームブランディングの成果として考えられるものは何があるでしょうか。


田中

そこはまだ研究が必要だとは思いますが、まずは何らかの「代理指標」を作ることでしょうね。
売上げに何がもっともインパクトがあるかというのはすぐには分からないんです。そこで、企業は代理指標としていろいろなものを用いています。

例えば、ブランドに対する好意度であったり、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の「いいね!」の数であったり、数値化されるものは分かりやすいですね。
それが正しいかどうかは別として、代理指標を用いて測定しているのが現状なのです。
顧客満足度(CS)も代理指標なんです。
CSが高まれば売上げが上がるというのは、実証はされていないと思います。
でも、みんなCSを高めることを一生懸命やっていますよね。
なぜなら、CS向上を目指すと会社が一つにまとまるからなのです。

ですから、チームブランディングはCSの代わりにブランドを目標に持っているのだと理解しています。


聞き手

CSもそうですが、従業員満足度(ES)も売上げに直結するかどうかは分かりませんよね。
でも、今伸びている中小企業はESに力を入れているところが多いと感じています。



田中

ESも代理指標の一つですね。
CSもESもブランドも全てつながっているんです。最後は売上げなのですが、そこにいくまでにCSが非常にインパクトを及ぼす場合もあるし、ESが及ぼす場合もあるし、両方が及ぼす場合もある。
ですから、そこに至るプロセスを企業ごとに解明するべきでしょうね。

例えば、ふつうの通勤通学に使う鉄道会社ではCSはほとんど意味がないんです。
顧客満足よりも時間どおりに発車して時間どおりに着くのを当たり前に実現する方が大事なんです。
なぜかというと、CSは事前の期待に従って形成されるものだからです。
通勤通学している人が鉄道会社に利用する事前に期待することは、ファーストクラスのサービスではなくて、定時運行なのです。

ほかにもCSを機軸にするのが無理な業種はあります。
逆に、同じ乗り物でも豪華客船の旅だとCSが非常に大事になります。
事前の期待をいかに満たすかが重要だからです。
車の業界でCSを重視するのは、もちろんお客様の満足をアップさせて売り上げを上げるということもあるのですが、そのためにディーラーのサ-ビス内容がそれまでなおざりにされてきたということがあります。
いわばディーラーのスタッフのサービスへの取り組みを改善させるための目標の設定としてCSが重要なのです。

ですから、チームブランディングは業種ごとに戦略的に使われるべきです。
どれが最も売上げにインパクトがあったかを企業ごとに測定する必要があるでしょうね。


聞き手

われわれもっと成果事例を集め、企業ごとの代理指標を検証して、中小企業の経営支援のためにぜひ体系化したいと考えています。


従業員が創造性を発揮できるブランド

田中

ブランド力とESとCSの関係って密接にからんでいるんですよ。
例えば、昔のソニーやパナソニックの社員は、その会社に務めているというだけでESが高かったですからね。
だから、そういう人たちは自分たちが満足しているソニーブランドにできるだけ沿った行動をしようと思うわけです。

今だったら、グーグルがうまくいっていますね。
チームブランディングは、外壁からブランドを築くことによって内部を動かしていくのか、桂川LCのように内側からブランド構築していくのか、入り方はいろいろあると思いますから、その検討の余地はあるでしょうね。


聞き手

チームブランディングはファシリテーションやステップの踏み方などのプロセスがあるのですが、チームでCSの実現を目指しながら、同時に自分たちのやることが自分たちの手で明確になっていくことで、あらためて仕事にプライドを持ったり、ESも同時に高めることができるというメリットがあります。


田中

私は最近、「ブランド・インスパイアード・カンパニー」(Brand-inspired Company) という言い方をしているのですが、要はブランドがこういっているから自分はこうするというのではなく、ブランドの持つ意味を自分なりに解釈して主体的に行動する社員の組織体という意味です。
インスパイアというのは「刺激を受けて発想する」という意味です。

ブランド・インスパイアード・カンパニーとは、例えば、「グーグルはネット上で何かができるということを目指している会社だから、私はこういうアイデアでそれを実現する」というような従業員の創造性につながるような企業文化を持つ会社のことです。

チームブランディングも究極的にはそういう方向にいくべきでしょう。
トップダウンで全員が同じ方向を向き、同じ行動をするというのがブランドではなく、ブランドの影響下においてそれぞれの社員が創造的に自由に動いているというのが理想です。


聞き手

それができている企業というとグーグルとか、ザッポスとか・・・。


田中

そうですね、ほかにもあると思いますが、理想形を考えると理論化しやすいかもしれません。
クレドは何を教えてくれるかというと、意志決定の優先順位です。
何を優先して考えるべきかを教えてくれます。
もちろん、それも重要ですが、インスパイアとはその意思決定のさらに上のレベルで、何かを創造的に考えるという発想をも、ブランドが教えてくれるということを含んでいるのです。



聞き手

それはブランドのイメージをいい意味で超えるということですか。


田中

分かりやすく、段階的に3つのレベルで考えると、例えば、「うちの会社は有名だから人の道にはずれることをしてはいけません」というのが一番下のレベル。
モラルですね。
もう一段上のレベルになると、クレドになります。
つまり意思決定の優先順位を教えてくれるような規範の設定です。
さらにその上のレベルになると、ブランドにインスパイアされて創造性が湧き出てくる。
もしかしたら、今のブランドを超えるような発想もここから出てくるかもしれません。


聞き手

それはどういうことですか。


田中

例えば、昔のソニーだったら、みんなが自由に発想するわけです。
ソニーというブランドを軸に発想していくといろいろな自由なアイデアが出てくる。
つまり自由な発想というのがブランドを基軸に展開されているわけです。


聞き手

ブランドのDNA(遺伝子)みたいなものですね。
この三層構造の三角形はチームブランディングを体系化する上でも大変参考になります。
私自身がインスパイアされます。
これからも田中先生にはいろいろと知見をご教授いただきたいと思います。

本日はありがとうございました。


※掲載の記事は2015年12月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。