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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >森田広一氏

「感性」をマーケティングの共通言語に

森田 広一氏

【プロフィール】

日本マーケティング・リテラシー協会 代表理事 森田広一氏

東京都出身。大学時代に芸術心理学を学び広告代理店に入社。その後コンサルティングファーム役員の経験を経て、2012年に一般社団法人日本マーケティング・リテラシー協会(JMLA)を設立し、代表理事に就任。これまでに資生堂や味の素、住友重機械ファインテックなど、さまざまな業種のマーケティングを成功に導いている。



聞き手:一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 ディレクター 能藤




人の“感性”に基づく 「感性マーケティング」というマーケティング手法を展開する、日本マーケティング・リテラシー協会(JMLA)。数値によって分析できる情報の「定量データ」と数値で表せない情報の「定性データ」を組み合わせるその独特の手法は、企業に有効なマーケティング戦略をもたらすものとして現在、注目を集めています。ブランディングを行ううえで欠かせないマーケティングの新手法に取り組むJMLAの森田広一代表理事に、「感性マーケティング」の詳細やこれまでの実績、今後の展望などについてお話を伺いました。



既存の調査手法に疑問があった

聞き手

初めに、森田さんが感性マーケティングに取り組むまでの経緯を教えてください。


森田

もともとはテレビ番組の放送作家として社会人生活がスタートし、その後映画の宣伝代理店を経て、広告代理店に転職しました。営業部門に所属し、クライアントとマーケティング部門の間に立ってアンケート調査などの依頼にタッチしていたのですが、扱っていたのはいわゆる定量的選択肢のアンケートで、紋切型の調査手法や結果に不満を感じていたんです。


聞き手

どのような不満があったのでしょうか?


森田

たとえば、アンケート結果を分析してアウトプットを出すわけですが、そもそもアンケートの設問がアンケート設計者が作成するもので、そこから選ばせているだけなんです。「いろいろな理由を拵えて分析しているけど、無理やり結びつけているだけでは」「違うことを考えている人はたくさんいるのでは」と常に飽き足らない思いがありました。


聞き手

既存の調査手法に疑問を抱いていたわけですね。


森田

はい。当時から「ニーズの多様化」という言葉は使われていましたが、そうした幅広いニーズを既存の手法では拾えていないのではないか、と。それで忸怩たる思いを抱えたまま10年ほど過ぎたころ、会社のトップから、ある数学者の方とコラボレーションして事業を始めるように指示され、現在我々の協会で用いているような感性データの分析手法と出会ったんです。
その数学者の方は一般の人には理解が難しいアウトプットを出されていたのですが、手法は斬新で、納得できる分析をされていて面白いと思いました。そこで、なんとかマーケティングの世界に落とし込めないかとデザイナーや外部のSEとチームを組み、半年ほどかけて誰がみてもわかるアウトプットになる形に作り上げたんです。その後、許諾をもらって手法を引き継ぎ、会社を設立したという流れですね。


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聞き手

なるほど。では、感性マーケティングの手法について教えてください。感性マーケティングとはどのような手法で、既存のマーケティング手法に比べてどのような優位性があるのでしょうか。


森田

核となるのは「人の感性」です。たとえば、人が何を考えているか、ある商品に対してどのような理由で欲しいと思うのか、どんな人生を送りたいと考えているのか……そのような人の頭の中にあるデータを、我々は「感性データ」と呼んでいます。発した言葉や行動を分析できれば、その人の真のニーズが把握できるのではないかという考え方です。今は、技術力だけで商品を作ってもなかなか売れない時代。であれば、お客様がどんなものを望んでいるかをしっかりと聞き、傾向を分析することが重要です。


聞き手

具体的にはどのような手順で分析されるのでしょう。


森田

取り扱うのは、年齢や性別、収入などの「定量データ」と、人が発した言葉などの感性データ、いわゆる「定性データ」の両方です。言葉はフリーアンサー形式のアンケートで収集します。その集めたデータを紐づけることで、どういう人たちが、どういう理由でその商品が好きなのか、あるいは嫌いなのかがわかるようになっています。
代表的なのは「数量化理論Ⅲ類」という手法ですね。これはサンプル間やカテゴリー間の類似性や親和性を調べる手法で、定性データと定量データでふたつ以上の関係性のあるデータを入れ、相対的な距離計算をしていきます。わかりやすくいうと、「似た者同士が寄ってくる」というアウトプットが出せるもので、どんな人たちにどういうニーズがあるかが分析できるわけですね。



図1 数量化理論Ⅲ類による分析結果の例 本質的価値の発見
関与度=ソフトクリームを愛好しているレベル。アンケートによって測定した。

感性マーケティングでソフトクリームの売り上げが2倍に

聞き手

実際の事例をもとに感性マーケティングの手法を掘り下げていければと思います。これまでに、どのような事例で感性マーケティングを駆使されたのでしょうか。


森田

たとえば以前、ソフトクリームを販売しているあるクライアントから、「ソフトクリームの売り上げを2倍にしたい」という依頼がありました。ただ、もともとの売り上げも好調でしたので、2倍を達成するためには「ソフトクリームの本質的価値」を伝えないと難しい。ソフトクリームを嫌いな人はあまりいませんから。要するに、売れるポテンシャルは持っているわけですが、みんなが好きな理由が実はわからないわけです。そこを明確にすれば、2倍売ることも可能だと考えました。そこで、アンケートで「あなたにとってソフトクリームとはどのようなものですか」とフリーアンサーで聞いたんです。


聞き手

ソフトクリームの本質的なニーズを探ったわけですね。


森田

はい。また、ソフトクリームは20歳前後の女性には売れていますが、その次のターゲットがわからなかったので、定量データを性別や年代で切っても意味がないと考えました。そこで、「ソフトクリームを買ってくれる可能性の高い人と、低い人」という区分けをして、そこに理由をつければ紐づけできるのではと考えたんです。そこでソフトクリームを好きな人の行動を推測して、設問をたくさん作り、回答値の高い人たちをソフトクリーム度が高い人、そうでない人は低い人……と分け、それぞれの人が「ソフトクリームとはどんなものといっているか」を分析しました。その結果、一番多く出現したキーワードは「癒し(いやし)」でした。ソフトクリームは冷たくてちょっと甘いので、食べるとホッとして疲れがとれると感じるわけですね。それが本質的なニーズだとわかったんです。


聞き手

そうした結果を踏まえて、クライアントにはどのような提案をされたのでしょうか?


森田

多くの人が持つソフトクリームのニーズに訴求するため、CMやポスターなどのクリエイティブのコンセプトは“癒し”を軸にしてもらいました。たとえばCMなら、親子でソフトクリームを食べていてホッとしている、というような。そうすれば、より多くの人がソフトクリームを食べたいという意欲が喚起されますよ、と提案したんです。その結果、5月のある日に昨対200%を達成することができました。


聞き手

2倍はすごいですね。


森田

社員の方々にとって、やる気が出る結果になったのではと思います。もうひとつ事例をご紹介します。これは「ある麺類を全国展開している企業」さんの事例です。当時、その企業は吉野家に価格競争を仕掛けられていたころで、具材を変えて原価を下げたり水をセルフサービスにしたりしていました。ですが、価格が下がったことで消費者は付加価値が希薄になったと感じ、売り上げが下がっていたんです。そこで、ちゃんぽんを「いつ、どこで、誰と、どんな理由で食べますか」と分析してみたところ、一般的な麺類はファストフード的に食べられていますが、ちゃんぽんは付加価値を求められていることがわかったんです。


聞き手

なるほど。


森田

そこで、クライアントに分析結果を見てもらい、納得していただいて、付加価値戦略に舵を切り直したんです。少しずつ値上げもしつつ、たとえば「野菜たっぷりちゃんぽん」や「国内産野菜100%」といったふうにアピールするようになりました。そうした付加価値戦略をとった結果、売り上げは徐々に回復していき、1年後には以前を上回る売り上げにまでなりました。


聞き手

値下げをしてでも販売量を上げようと考える企業が多い中で、勇気のいる戦略ですね。


森田

そうですね。ですが、お客様が本当に求めているものを出せば、売れるわけです。企業側の勝手な推測ではなく、ちゃんと顧客視点の戦略が立てられるのが感性マーケティングの素晴らしさだと思います。そしてその根幹にあるのが、多変量解析や感性分析といわれている数学の世界の分析手法で、それを我々が保有しているわけです。協会独自の感性データ、定性データの分析手法によって詳細な顧客のデータを分析でき、かつ企業のトップが見てもすぐに理解できるアウトプットに仕上げたことが、我々の優位性かなと思います。


聞き手

誰が見てもわかる形に落とし込むことが重要なわけですね。ところで、数量化理論Ⅲ類以外にはどのような分析手法があるのでしょう?


森田

ISMとDEMATELという手法があります。ISMは階層構造の分析です。消費者が、どういう媒体で、どういうコンテンツが気になっているか、それを把握することで、どういう商品を買ったか、といった階層構造が分析できます。DEMATELはもっと複雑で、因果関係を持っているネットワーク全体の関係を整理して構造的に表現する手法です。たとえば、ある商品を売ろうとしたとき、階層に関係のない意見がたくさん出てきたとしましょう。そのときに、どういう順番でそれらを解決していけば一番効果的な仕組みづくりができるか、ということがわかるんです。また、企業側が不祥事を起こしたとして、マスコミや消費者の方々に友好的に感じてもらうために、どういう言葉を発してどういう言葉でしめくくればいいか、という分析も可能です。戦略立案の際は、数量化理論Ⅲ類、ISM法、DMATEL法を組み合わせて活用します。



図2 ISM法による分析結果の例 ゲームの購入経路と階層構造分析


図3 DEMATEL法による分析結果の例 演説ストーリー分析
要素の重要度と要素間の因果関係を同時に構造的に整理する手法。

今後は協会と講座の認知度向上が課題

聞き手

協会の現在の活動内容について教えてください。


森田

大きく分けて、教育ビジネスと企業サポート事業のふたつに取り組んでいます。教育ビジネスについては、メインは感性マーケティングを核にした戦略が立てられる人材育成です。定性データの分析手法を教えてマーケティングに活用していただくわけですね。とはいえ、マーケティングそのものを理解していないと感性マーケティングは活用できませんから、一般的なマーケティングを教えるベーシックコースから受講していただき、その後、定性データ分析をするコースにあがっていただくという形です。また、一般的な定量データの分析手法を教えるアナリストコースと、BtoBセールスを教えるコース、商品企画に特化したコースなど、横広がりでも展開しています。そしてもうひとつの取り組みが、企業様を直接サポートするようなコンサル事業というわけですね。


聞き手

では、最後に協会の今後の展望を教えてください。


森田

そもそも教育ビジネスを立ち上げたのは、感性マーケティングが今の日本企業に有効な手法だと思ったからです。ですから、この手法をより多くの人に伝えられればと考えています。日本の大多数の企業は中小規模で、困っている度合いも当然、中小企業の方が多いわけですよね。であれば、中小企業の人たちに分析手法が広まったほうが、役に立つだろうと考えたんです。
日本人はものすごく感性が豊かな民族だと思うんです。たとえば「安全」と「安心」という言葉がありますが、実は「安全」という英単語はあるけれど、「安心」はないんです。そういう言語が生まれること自体、感性を大事にする証だといえるのではないでしょうか。感性を理解できないと、日本においてマーケティングで成功するのは難しい。日本人は繊細な感性を持っていて、そこを把握することがマーケティングの基本ではないかと思うので、ぜひこの手法を広めたい。日本マーケティング・リテラシー協会と講座の認知度を上げて、「感性」をマーケティングに関わる人の共通言語にしたいと思っています。感性マーケティングの有用性を広く知ってもらえるようにしていきたいですね。



中央が森田代表理事、右が堀内理事、左が当協会の能藤