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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >田村実氏

会社のブランディング活動を通じて、社員が日々成長する

田村 実 氏

【プロフィール】

元・スズキ株式会社代表取締役副社長 田村 実 氏

一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 アドバイザー

1972年、鈴木自動車工業株式会社(現スズキ株式会社)に入社、2011年に代表取締役副社長として経営の中核を担う傍ら、国内営業本部長としてスズキブランド向上のために営業力強化とお客様満足度アップに取り組んだ。

販売会社をすべて黒字化し、2014年12月には8年ぶりにスズキを軽四輪車国内販売台数年間トップの座に返り咲かせた。

聞き手:一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 岩本俊幸


リーダーの姿勢を示す

聞き手

田村さんは1972年に鈴木自動車工業株式会社(現スズキ株式会社)に入社後、23年間にわたって営業マンとして活動され、日本経済新聞で「伝説の営業マン」と紹介されるほどご活躍されました。営業マン時代はどのような活動をされていたのですか。


田村

東京・多摩地区の営業を長くやっていました。最初は飛び込み営業もやって、駐車スペースが付いた家を見つけては、声をかけさせていただきました。それから45年経ったのですが、今でも多摩地区のエンドユーザー様とはお付き合いがあります。ご本人が高齢になられたときは、その息子さんとお付き合いさせていただいたり。この間も、「スズキの自動車1台買うよ」と声をかけてくださいました。もう私は営業マンでもなければ、スズキにも在籍していないのですが、そういった声をいただけるのはうれしいですね。


聞き手

エンドユーザーの方とのお付き合いそのものが、積み重ねられた実績といえますね。その後、国内営業本部長に就任されて、様々な社内改革に取り組まれたと伺っています。社内改革を行うきっかけは何だったのでしょうか。


田村

会社の中には、前向きな社員もいれば、会社に不満を募らせている社員もいます。 しかしそれは、必ずしも社員が悪いとは限らないと思いました。悪口を言う社員も、最初は夢や希望をもってスズキに入ってきた。実は後ろ向きではなく、前向きな提案があるのかもしれない。しかしそれを会社が受け入れないと、不満やいらだちが募る。「誰が正しいか」ではなく「何が正しいか」ということが大事なんです。 ですから私は、営業本部長として、「まず俺の取り組みを見てくれ」「こういう姿勢で働けば会社も評価してくれる」というモデルを自ら示そうと思いました。そこからが改革のスタートだったのです。


「ファンネット宣言」で社員の一体化に努める

田村

その方向性を示すために考えたのが「ファンネット宣言」というキャンペーンでした。

「ファンネット宣言」は、「スタッフ全員最高の笑顔でお客様をおもてなしいたします」「『入りやすく、居心地のよい』お店にいたします」「お客様とお約束したことは必ず守ります」という3つの宣言です。お客様にスズキのファンになってもらうために、全国の営業所、パートナー店のネットワークが同じサービスを提供できるようにしようという思いから、私自身で名付けました。

一番に伝えたかったのは、「あなた(社員)の給料は、お客様から出ているのですよ」ということです。100万円の自動車を買っていただいたのなら、100万円以上の満足を提供しましょう。その上でリピーターになってもらいましょう。さらにその方たちが知り合いの紹介もしてくれる。そうして、お客様とスズキとの結びつきが強くなっていくのではないかと考えました。

本当のお客様は、1台買ってくれた方ではない。2台目を買ってくれた時に、自分たちを評価してもらえたということになるのです。 ブランドというテーマでお話をさせていただくと、よくブランド品などといわれますが、工場で生産されたものはただの「製品」。それを社員が魂を吹き込んで初めて、「商品」となります。いかに社員が魂を吹き込むかどうかで、ブランドに差が出てくるのです。


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聞き手

そういった取り組みをお客様にも伝えていったのですか。


田村

ファンネット宣言のポスターをディーラー店に貼ったりするなどして告知しました。お客様がそれを見て、「実際にやっていることと違うじゃないか」ということになるといけません。


聞き手

社外のブランディングが、社内のブランディングにもなったのですね。社員教育はどのような方法で行われたのですか。


田村

本社で展開の仕方を練りはしましたが、上意下達では浸透しないということで、各営業所に推進委員を出して、毎朝「ファンネット宣言」を唱和させるなどして進めていきました。 そのあとに、全国の推進委員を集めて大会を開きました。その中でいろいろな取り組みの事例が出て、お互いに話し合うと、「あなたの営業所ではそこまで推進できているのですか」という事例が出てきます。

そうした話の中で、推進に反対するいわゆる抵抗勢力が明らかになります。推進を進める上では、そういった人たちの居心地が悪くなるくらいに変革しないといけません。そこまですれば、居心地の悪い人も、やらなくてはいけなくなってきますから。


苦情に向き合った「拠点長勉強会」

聞き手

リーダーたちにはどんな指導をされましたか。


田村

「拠点長勉強会」を開きました。それまでは、お客様相談室に苦情が来ても、現場が後ろ向きで、解決にいたらないこともありました。私が副社長になってからは、「ここ(苦情)にニーズがあるのだ。ここを解決すれば、お客様はまた私たちを指名してくれるのだ」と説きました。

苦情を言ってくれるお客様は、それだけでもありがたいことなのです。不満を持っていても、苦情を言ってくれる人は6%前後だと言われています。怖いのは残りの94%の、黙って去っていってしまうお客様です。 その証拠に、CS(顧客満足度)ポイントの低い営業所は、苦情も少ないんです。東北地区のお客様などは特に我慢強い方が多いですから、苦情を表に出すこともなく、去ってしまわれる。 そこで、全国の営業所から営業所長などを呼び、「拠点長勉強会」を行いました。50営業所を1グループとしたグループを4つ作り、勉強会を4年間にわたって行いましたから、スズキの営業所800カ所が勉強会を受けたことになります。 当初は、こういった苦情がどうして起きるのかという問題提起をしても、「出来の悪い社員がいるから」などという答えが多かったです。でも、それでは何の解決にもならない。

社員が日々のルーティーンワークを重ねても成長できないのは、リーダーに問題がある場合が多いです。上司は選べないというけれども、最初についた上司に影響を受けることはすごく大きい。 私は拠点勉強会で、苦情案件を読み上げ、拠点長一人ひとりに「あなたならどうしますか」と聞きました。 中には、こんな解決法もありました。営業所の休日にセットする「本日はお休みをいただいています」という固定電話の留守番通知を、営業日になって解除するのを忘れ、苦情になった件。全国のディーラーにその件を周知しても、また同じようなことが全国で起きてしまう。

その解決方法が、社員の日報の電話を、携帯電話ではなくて、営業所の固定電話で受けるということ。これで留守番通知がセットされたままか一発でわかる。そういう一つ一つの積み重ねが、拠点長勉強会で起きました。 最初は営業本部長が話をするから怒られるんだろうと嫌がっていた拠点長も、喜んで勉強会に来るようになりました。


大切なのは「リーダーの姿勢」

聞き手

そういった取り組みをされて、変わったことはありますか。


田村

目標数値はありませんでしたが、自然と各営業所のCS(顧客満足度)ポイントは上がっていきました。 それから、お客様相談室にサンキューコール(お礼の電話)が寄せられるようになりました。「次も必ずスズキさんの自動車を買います」といった電話とか。総務課にお礼の手紙が届くようにもなりました。変わったという実感がありましたし、社員の喜びにもつながりました。 2014年12月に8年ぶりにスズキが軽四輪車販売台数年間トップに返り咲いたことからも、成果は見えたと思います。 また国内ディーラーの利益は4倍ほどになったのですが、売り上げは増えても不良債権はほぼゼロになりました。それだけ社員の責任感も管理面での意識も変わったということです。


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聞き手

改革を成し遂げる上で、これがポイントだったなということは。


田村

リーダーとしての「姿勢」を見せ、各リーダーの意識を変えたことです。 リーダーが保身に走っていては、部下は動きません。判断の基準は損得ではありません。善悪なんです。

西郷隆盛の言葉で「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、始末に困るものなり。この始末に困る人ならでは、艱難(かんなん)を共にして国家の大業は成し得られぬなり」(リーダーたる者、命も名誉も官位もお金も投げ捨てなければ国家のために大業を成し遂げることができない、という意)というものがあります。リーダーが上を向いて仕事をしているのか、現場を向いて仕事をしているのかで、組織は大きく変わります。 近年「働き方改革」が唱えられていますが、リーダーが率先して前向きな姿勢を示して、社員一人ひとりがよい成績を挙げられやすくするのも、働き方改革といえるのではないでしょうか。


メーカーとしてのお客様視点

聞き手

営業畑として歩まれた田村さんですが、乗用車「ソリオ」、軽自動車「ハスラー」の開発にも携われたのですね。新製品の開発で重要視されていたことは何でしょうか。


田村

お客様目線に尽きます。お客様がスズキに求めているものが何なのかを見失ってはいけない。軽自動車に物足りない方も、住宅事情でジャストサイズの自動車を求めている。それこそがスズキが作るべき自動車だと考え、「ソリオ」を開発しました。 そのほかにもお客様目線で考えるべきことはあります。例えばメーカー側にとっては固定ドアの方が軽い、スライド式は重いという事情があっても、お客様はスライド式が欲しいというニーズが確固としてあるのです。

(メーカーの)作りたいという思いと、(消費者の)欲しいという思いが一致していなければいけない。 それと、移動手段という発想から離れていかないと。燃費ももちろん重要ですが、自動車で移動する時間が楽しいとか、自動車を掃除するのが楽しいとか、そういった価値を提供しないといけないと思います。スペックを上げました、価格も下げました、では、儲からないでしょう。

お客様目線という観点でいえば、スズキの軽自動車の利用者の65%は女性なのに、女性視点というのがほとんどありませんでした。そこで「女子改」という組織を作って、消費者目線のショールームづくりに取り組みました。 ショールームというのは「売り場」ではなく「買い場」なんです。女性のお客様が来店しやすいようなショールーム、具体的にはトイレの設計まで考えました。


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聞き手

ブランディングを通じて気づかれたことを教えてください。


田村

ブランド力を上げようとするプロセスを通じて、人が育つということです。ですからブランディングの活動を、構えて何かするのではなく、日常業務のルーティーンの中で行わなければならない。そういった環境を会社が作ってあげないと。

そういったルーティーンの結果として、物が売れるんです。ソリオは以前の平均単価に対し結果的に1.5倍に上昇したけれども、4倍売れた。ハスラーの発売時は多忙をきわめたけれども、社員の大きな喜びになった。上意下達で解決できるほど甘いものではありません。現場の自主性を重んじ、売れる仕組みを作ってあげることが、社員の働き方改革につながるのだと思っています。それができるのが本当のリーダーだと思います。


聞き手

ブランディングも、社員教育も、働き方改革も、一つにつながっているのですね。本日はありがとうございました。