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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >水野 与志朗氏 Vol.4

ブランディングと営業~購買行動の変化と営業のパラダイムシフト~ – 後編

水野 与志朗氏 Vol.4 一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 理事 ビーエムウィン(水野与志朗事務所株式会社) 代表取締役社長

聞き手:一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 岩本俊幸

【水野 与志朗氏のプロフィール】

経営者、経営コンサルタント、講演家、著述家。

学習院大学経済学部卒業後、味の素ゼネラルフーヅ(株)、マキシアム・ジャパン(株)、ハーシージャパン(株)でブランド・マネージャー、マーケティング・マネージャー、マーケティング・ディレクターを歴任。

34歳の時、書籍出版をきっかけに、コンサルティングの依頼を受けるようになり独立。

2005年には個人事務所をビーエムウィン(水野与志朗事務所株式会社)にする。

主な著書に

『ブランド・マネージャー』(経済界)

『THE BRAND BIBLE』(総合法令)

『ブランド戦略実践講座』(日本実業出版社)

『戦略的パブリシティ』(インデックス・コミュニケーションズ)

『「相談からはじまる営業」ならこんなに売れる!』(同文舘出版)

がある。


旧態依然とした営業のロジック

聞き手

ブランド戦略の観点と営業のロジックの間には、本質的な違いがあるのでしょうか。


水野

本質的な違いは“得意先観”の違いです。ブランド視点でマーケティングを見たとき、エンドユーザーを重視した消費者志向になります。一方、同じブランドでも、営業視点で見たときには、消費者よりも得意先を優先させます。いわばトレード志向です。コンシューマー(消費者)志向なのか、トレード(得意先)志向なのかの違いによってズレが生じるのです。先に述べたように(前篇)、“日本的”な組織においては、ブランド・マネージャーより営業部長の方が力を持っている場合が多くあります。そのため、ブランド・マネージャーは営業寄りの発想をしがちになり、営業のサポート役のような動きが多くなります。しかし、欧米の会社では、得意先はエンドユーザーへの“パイプ”に過ぎないという考え方を持っています。得意先とはエンドユーザーに商品を届けるための“通り道”なのです。結果として同じようにエンドユーザーにリーチできるのであれば他の得意先でもよく“代替可能”であると考えます。日本の営業マーケティングでは、得意先を見て活動しますので、得意先との関係をいかに良い状態に維持するかに力点を置きます。そのため、社内の営業活動も流通チャネルも慣習化、硬直化しがちです。これを僕は「営業の問屋現象」と呼んでいます。つまり自社の得意先はここであるという固定観念を持ってしまい、いかに効率的に得意先に商品を卸すかに重点を置いてしまうのです。そうなると、エンドユーザーへの視点が抜け落ちてしまいます。本当は卸した商品をいかに効率的にエンドユーザーに届けるかが大事なのです。


聞き手

発想が凝り固まっていて、消費者視点どころではないということですか。


水野

そうです。消費者視点でいうなら、本当に営業がやらなければならないことは、消費者とブランドとのタッチポイントを広げることです。消費者の生活導線や購買行動は時代とともに変化していきます。それに合わせて新たな得意先、チャネルを広げていくこと。たとえば、出版業界ではアマゾンの影響や出版不況もあって、“リアル書店”では本が売れなくなってきています。そこで、書店だけでなくコンビニで本を売るようになりました。これがタッチポイントを広げるということです。既存の書店だけでは、限定されたタッチポイントです。そこだけに対して、問屋営業をやっていては売上げは伸びません。消費者への導線を持っている別のパイプを探し、タッチポイントを広げることが必要です。



流通機構はどう変化しているか

水野

僕が関わっている消費財の業界では、Webによって、流通環境が変化しています。消費者は当たり前のようにWebで食品や飲料などを買います。もちろん、今までと同じようにリアル店舗で買い物もしますが、伸びているのはWebでの通販、アマゾンなどです。つまりWeb上に売り場がシフトしているのです。消費者がWebで買い物をしているにもかかわらず、多くの会社ではまだまだ既存のリアル店舗を中心に営業戦略は組み立てられていて、Webへの本格的な取組みは少ないのが現状です。


聞き手

今後メーカーはどのような対応をしていくと考えられますか。


水野

アマゾンのようなWeb店舗への対応もそうですが、今後はオウンドチャネルがもっと増えるのではないでしょうか。直営店舗や自前のWebショップです。それらの店では自社でエンドユーザーの情報も取れるし、流通業界特有の商慣習やしがらみもない。価格設定も自由です。アマゾンや楽天といった巨大Webショップが持つバイイングパワーへの対抗策にもなるでしょう。よって、もはや自分の商品を自分の手で売るという発想になっていくでしょうね。問屋や小売り店に卸してそれを消費者に渡すという従来のやり方だけでなく、もっとダイレクトにマスレベルの消費者とコミュニケーションを取るようになると思います。そして消費者は、スマホを通じて買い物をする機会がもっと増えると思います。今、ビジネススキームそのものが大きく変わるタイミングです。マーケティングの仕組みも変化していくでしょう。


聞き手

問屋の存在がどんどん小さくなっていくのでしょうね。


水野

業界にもよるでしょうね。古くからある業界では、問屋が流通を牛耳っています。今までの利権や特権みたいなものがあるので、変化できないのはそういったところです。しかし、今やショウルーミングは一般的で、例えば若い女性がコスメを買う時、ドラッグストアで店員に評判を聞き、さらにスマホを使って口コミサイトの星の数をかぞえて、値段を比べてスマホの方が安ければスマホで買うという時代です。リアル店舗は情報収集の場と見なされ始めています。このようにチャネル環境が変わってきている中、売り手も変わらなくてはなりません。


聞き手

商品を並べて、売っているだけではだめな時代になったということでしょうか。


水野

その通りです。特にスーパー量販店などのリアル店舗では、一時、その多くが“安売りスーパー化”してしまいました。価格訴求が中心で、驚きや感動などのストアロイヤルティを生む顧客体験の創造は二の次になってしまった。


聞き手

結局、顧客が置き去りにされているということですね。


水野

“安売りスーパー化”した店に行くのは安いものを買いたい“バーゲンハンター”が大半です。一方、Webショッピングでも、ほしいものがすぐに、しかも最安値で見つかります。値段の安さをウリにするのはWebショップの典型的な戦略です。これではリアル店舗は分が悪い。消費者はリアル店舗に行かなくても、ことが足りてしまうのです。リアル店舗がお客を集めるためには別の付加価値を創らなくてはなりません。代官山のT-SITE(代官山TSUTAYA)などはアンチWebショップの好例でしょう。


聞き手

流通革命と言われていますが、本当に変わったのですね。


水野

消費者の購買行動が変わったことが一番大きな理由です。購買行動が変わったから流通も必然的に変わります。しかし、変われない流通もまだまだ多くあります。変われない流通と付き合っている営業も硬直化していて変われません。硬直化の負の連鎖が起こっているのです。



営業は変化できるか

聞き手

ブランディングと営業の関係が見えてきました。一方で、中小企業では経営者がブランド・マネージャーの役割も営業の役割も担います。意思決定者が少ない分、中小企業の方が、環境の変化に対応しやすいのではないでしょうか。


水野

そのような考え方もできますね。一方、中小企業の場合、経営者の意向が強く働く分、経営者次第ともいえるでしょうね。消費者の生活導線に敏感で変化への意欲を持っている経営者であれば良いですが、旧態然の考え方で経営やブランドマネジメント、営業をしている経営者もいます。前者であれば、変化に対応しやすいかもしれませんね。


聞き手

水野さんは、ブランディングと営業という両方の視点からアドバイスをしたことがありますか。事例があればお聞かせください。


水野

以前関わった企業さんで、インターネットで高級石鹸を売っていたメーカーがありました。その高級石鹸の廉価版がドラッグストアで売られるようになってしまい、売り上げが立たなくなってしまいました。そのメーカーではドラッグストアなどへのチャネルを持っていませんでした。しかしこの会社には新規チャネルを開発するほどの十分な数の営業マンもおらず、正直、社長が唯一の営業マンでした。そこで、東京の大手の問屋1社だけにコンタクトして、何とか入り込みました。何故その問屋を攻めたのかというと、配荷率が広く、商品を店舗に流す力があったからです。その問屋で扱ってもらい、ロフトやハンズなどに商品が並べば、それを見た業界の人たちが、その商品を知って必ず問い合わせをくれるだろうという作戦を立てたのです。これはブランディングの考え方で行った営業戦略です。ブランディングでは、いかに売り込むかではなく、いかに売り込みを不要にするかを考えます。こちらから「どうですか?」と言わなくても、向こうから「1つ下さい」と言わせる構造をつくることがブランディングです。そういう形にする営業を行ったのです。


聞き手

1回はしっかりと営業をしなければなりませんが、そこを突破したら、広がるという仮説を立てて実行した事例ですね。ブランディングと営業のそれぞれの課題や、連携の仕方がわかるからこそ、できたアドバイスだと思います。環境変化が起きている現在に必要な発想ですね。


水野

チャネル戦略は1度作るとなかなか変えられません。いま40~50年に1度の環境変化の時期です。これまでの営業パラダイムを変えなければならないときだと思います。


※掲載の記事は2017年6月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。