“街並みとコミュニティーの形成”にまで踏み込んで
分譲地をプロデュース
小規模分譲地ブランド「Link Ring Town Kurusu(リンク・リング・タウン栗栖)」のブランディングとは?
エイドデザイン渡部 直樹氏
Profileプロフィール
エイドデザイン 代表
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 トレーナー
1974年生まれ。総合印刷会社にグラフィックデザイナーとして入社。
以降、20年間で5,000件以上の広告プロジェクトや企業のブランディングに携わる。
2016年にこれまでの経験をベースにしたマーケティング戦略を使い、地域活性化のプロジェクトを立ち上げ、クラウドファンディングへ挑戦。
全国から多くの支援金を集め、プロジェクトを成功に導く。
この経験からこれからのビジネスには“応援” と“ブランド”の力が必要不可欠なキーワードになると確信し、2017年にAID DESIGN(エイドデザイン)を立ち上げる。
ブランディング事例コンテスト2022では「新規分譲地開発におけるブランディング」で準大賞、SDGs審査員特別賞受賞。
人口の減少、若者の流出、自然災害など多くの地域が課題を抱えている現在。
和歌山のイエステージグループでは、そうした課題を解決するために街並みとコミュニティーの形成にまで踏み込んだ分譲地プロデュースに取り組み、定量的にも定性的にも成果を生み出しています。
小規模分譲地ブランド「Link Ring Town Kurusu(リンク・リング・タウン栗栖)」におけるブランディングとははたしてどのようなものなのか、ブランディングを担当したエイドデザイン代表の渡部直樹氏にお話を伺いました。
“3つの問題”が街づくり推進の背景に
まず、今回のブランディングのクライアントと、ブランディングの経緯について教えてください。
今回は、グループ全体のプロジェクトとして宅地開発分譲事業でブランディングを行いました。
「宅地開発」というと大規模な街並みを想像されるかもしれませんが、そのような大きな開発は、基本的には大手のデベロッパーが行います。
当然、規模が大きければ予算が潤沢にあり、街並み形成に力を入れられます。
一方、地方の不動産会社が行う宅地開発事業は小規模なので、土地を切り売りして終わり、という近視眼的なマーケティング発想で進められることがほとんど。
その結果、無秩序な街並み、つながりの希薄なコミュニティーが生み出されてしまうわけです。
ただ、イエステージはそうした街づくりに問題意識を持っており、これまでに「植樹条件付き分譲」や「ガーデン・エクステリア協定付き分譲」など、街全体を快適な住環境にするための明確なブランドコンセプトを打ち立て、街づくりを行っていました。
また、グループ全体で「まちづくり・ヒトづくりカンパニー」として新たな成長イメージを掲げた中で、地元和歌山での街づくりのイメージをアップデートする必要性を感じていたんです。
そこで今回、15区画という小規模ながら、街並み形成とコミュニティーの形成にまで踏み込んだ持続可能な分譲地をプロデュースすることになりました。
それがこの「Link Ring Town Kurusu(リンク・リング・タウン栗栖)」です。
そこで、新規分譲地のコンセプトとグループ全体の組織力強化を目的として私がコンサルティングを依頼されたという流れです。
なお、この分譲地名には「住民同士がつながり、輪になることで、持続可能な町にしてもらいたい」という思いが込められています。
まず1つ目の問題は、人口の減少が挙げられます。
和歌山では、26年連続で人が減り続けているんです。
2つ目の問題は、若者の流出です。
大学など進学で県外に出た若者のUターン率が、和歌山は実は全国ワースト2なんです。
そして、3つ目は自然災害。
台風や水害、特に発生確率が高まっている南海トラフ地震は深刻な問題です。
このような問題に対して、イエステージにできるのは「若者が帰ってきたくなるような、災害にも強い魅力的な街を作る」こと。
それにより、こうした3つの問題にアプローチできるのではと考えたことが、今回の街づくりの基点となっています。
3つのコンセプトを打ち出し良質なコミュニティーを形成
まず、そもそも「災害に強い魅力的な街」とはどのような街なのかを考え、それに沿って仮説を立て、ブランド構築を行っていきました。
いろいろな考え方があると思いますが、そのうちの1つの答えは、SDGsの11番目の目標にもある「住み続けられる街」だと思います。
そして、人が住み続けるためには、関わり……いわゆるコミュニティーの形成が必要です。
ただ、ここで問題なのは、関わる相手となる“ご近所さん”なんです。
正直な話、分譲地というのは、買って住んでみるまでは周りにどんな方がいるのかわかりません。
仮に、価値観の合わない方がご近所さんだったとしても、買い替えは容易ではないですよね。
一方、価値観の近しい人が集まると、自然と仲良くなり、コミュニティーの形成も早くなります。
そして、そのコミュニティーが良質であれば、災害時にも大きな役割を果たします。
実際、阪神淡路大震災において約80パーセントの方が近隣住民によって助けられた、という内閣府の推計もあります。
また、生き埋められたり、閉じ込められたりしたときの救助主体の約30パーセントは、友人や隣人。
つまり災害時には、いざというときに助け合える良質なコミュニティーが大きな役割を果たす、ということが言えると思います。
そこで、イエステージでは「価値観の近い人を集めれば良質なコミュニティーが形成され、いざというときに助け合える、災害時にも強い持続可能な街を作ることができるのでは」と仮説を立て、それに沿って、協会のブランド構築フレームワークを使い、ブランド・アイデンティティを策定しました。
セグメンテーションは、分譲地は夫婦で購入を検討されるケースが大多数のため、より詳細なイメージを共有できるように、リアリティを重視して夫と妻それぞれで設定しました。
ペルソナは、世帯年収600万円程度の4歳の子供がいる30代夫婦です。
その結果、出来上がったのが「あそぶ、たのしむ、つながる セーフティーな街」というブランド・アイデンティティです。
1つ目は、「グリーンで繋げる一体感のある街並み」です。
美しい街並みを形成するために欠かせないのは、家の顔とも言える、エクステリアです。
そこで、この分譲地では、建物ではなくガーデンやエクステリアに一定の条件を設け、お庭の専門家が個々の邸宅だけでなく、街全体を考えながらデザインを行っていきました。
2つ目は「建築協定によって守られる美しい街並み」です。
建築協定とは、建築基準を超えた高度な基準を設け、それを行政が認可することで住む人が変わっても適用され続けるというこの分譲地独自のルールのこと。
これを作ることにより、資産価値の維持向上と美しい街並みが担保されるわけです。
そして、コンセプトの3つ目は「楽しみながら育まれるコミュニティー」です。
具体的には、イエステージが住民の方々に対して防災にちなんだあらゆるイベントを行い、それを通じて楽しみながら住民同士をつなぎ、コミュニティー形成の手助けをするのが狙いです。
これら3つのコンセプトを明確に打ち出すことで、「こんな街に住んでみたい」と思う価値観の近しい人を集めることができました。
価値観の近しさを定量化することは難しいですが、実際に分譲地をご購入いただいた住民の方々の職業を見ると、警察官や消防士の方が非常に多かったんです。
もしかすると、そうした偏りが、価値観の近い人が集まっているという1つの成果と言えるのかもしれません。
ブランディングでスタッフの行動が変化
たとえば、完売目標は2023年の2月ですが、目標よりも早い段階での完売が見込めました。
次に定性的な成果としては、問い合わせの質の変化や、スタッフの行動変容が挙げられます。
たとえば問い合わせの質の変化については、これまでは土地の条件を軸にした問い合わせが多かったのですが、ブランド構築以降は「リンク・リング・タウン栗栖」というプロジェクトを指名してのポジティブな引き合いが目に見えて増えました。
また、スタッフの行動変容については、スタッフが率先してアイデア出しを提案するなど、社内が活性化しました。
このプロジェクト以降、開発責任者を中心に全スタッフが自発的に動く組織に成長しており、そのようなところでもブランディングの成果を実感しています。
理想の街づくりを実現させるためには、建築条件だけでなく、何らかのカタチで建物そのものへ関与することも必要だと感じています。
また、今回のブランディングでゴールは達成できたのかというと、答えはノーです。
なぜなら、この分譲地のコミュニティー形成にはまだまだ関わっていかなくてはいけないからです。
また今後の新たな街づくりにおいても、イエステージグループにしかチャレンジできないことがまだまだたくさんあると考えています。
ただ、1つの企業にできることは限られています。
先ほど、和歌山には3つの問題があるとお話ししましたが、実はこうした問題は多くの地方でも抱えていることだと思います。
ですから、街づくりに対して同じような問題意識をお持ちの方や志のある方と共に、日本のさまざまな地域において、小さくてもいいので魅力的な街を作っていくこと。
これにより、本当の意味での持続可能な街、持続可能な日本ができるのではないかと思っています。
※掲載の記事は2023年2月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。
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