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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >佐治邦彦氏

これからのブランディングは「ミッションを伝える」ことが重要になる

株式会社サンアスト 代表取締役 佐治邦彦氏

【プロフィール】

株式会社サンアスト
代表取締役 佐治邦彦氏

1990年、求人広告代理店として株式会社サンアストを創業。ファッション誌の営業広告や飲食店、パチンコ店の販促広告を扱うほか、焼き肉店の開業など様々な事業を展開。2010年に経営コンサルティング業に転換。
2011年に一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会のトレーナー資格を取得し、中小企業にブランディングを普及・啓発する活動も開始。これまでに500社以上の中小企業を支援しており、2015年に自ら体系化した「ミッションマーケティング」の提供を開始。ブランド・マネージャー認定協会 エキスパートトレーナーとしても活躍中。
2019年度のブランディング事例コンテストでは「イベリコ屋のブランディング」で優秀賞を受賞。2019年8月、初めての著書「年商1億社長のためのシンプル経営の極意」を上梓した。


聞き手:一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 ディレクター 能藤




イベリコ豚の中でも最高級とされるハブーゴ産のレアルベジョータ。サンアストでは、このイベリコ豚を日本で初めてスペインから輸入した株式会社タイシコーポレーションのブランディングに着手。ブームの終焉と経営の多角化により、同社のイベリコ豚専門店「イベリコ屋」は一時は毎月400万円の赤字を出し、9店舗を閉鎖するほど落ち込みましたが、ミッションをしっかり伝えるブランディングを行い、業績改善を実現しています。サンアストの佐治邦彦氏に、「イベリコ屋のブランディング」についてお話を伺いました。



ブランディングで客単価は1.5倍に

聞き手

「イベリコ屋」のブランディングを始めることになった背景を教えてください。


佐治

「イベリコ屋」はタイシコーポレーションさんが経営する、イベリコ豚の中でも最高級のハブーゴ産レアルベジョータを提供するお店です。現在は直営店3店舗と通信販売を展開していますが、私が「イベリコ屋」と出会ったときは毎月赤字という状態で、赤字の9店舗を閉鎖し、もっとも業績のよかった店舗も立ち退きで撤退という、絶体絶命の状況だったんです。そこで「再び商品の本質を伝えていきたい」という思いから、ブランディングに取り組んでいただきました。その結果、今では既存店の客単価は1.5倍、リピート率は60%超にまで復活しています。


聞き手

どのようなことを軸にブランディングを手掛けられたのでしょうか。


佐治

経営の目的の明確化です。変化が激しい時代においては、「何をするか」より「何のためにするか」が重要。私はブランド・マネージャー認定協会で学んだメソッドをカスタマイズして、ブランド・アイデンティティを「ミッション」という言葉に置き換えており、「イベリコ屋」さんとも、この「ミッション」を作って一緒に取り組んでいきました。特に中小企業の場合は、ミッションが消費者に伝わるまでやり切るかどうかがポイントだと思います。


聞き手

どのような「ミッション」が生まれたのでしょうか。


佐治

「本物のイベリコ豚を広めると共に、環境問題を解決するNo.1企業」です。「イベリコ屋」を創業した先代は現社長の父親ですが、この方が日本に持ってきたイベリコ豚を、単なるビジネスのツールとして終わらせてはいけない。「本物の商品とは何か」ということを伝えながら、食文化や地域環境を守っていく企業になろうと決めました。


聞き手

売り上げを伸ばすだけではなく、環境問題の解決も視野に入れているのが特徴ですね。


佐治

はい。イベリコ豚が食べるどんぐりは樫の木からできるのですが、イベリコ豚を育てているスペインのハブーゴ村では、イベリコ豚の需要低下や森を維持する生産者が減少しており、森林の伐採が進んで「イベリコ豚の森」がどんどん縮小している状況です。そこで、年間1万本の植樹など、この森を守っていくための活動も行っています。この活動は現地の新聞でも大きく取り上げられました。また、イベリコ豚のソムリエ制度も導入したほか、現地に生ハム工場を設立し、生産から販売までを行なう仕組みを作りました。


“ミッション”を中心に全体を最適化

聞き手

ブランディングの具体的な施策についてお聞きしたいと思います。「イベリコ屋」を立て直すために、どのようなことをされたのでしょう?


佐治

まずは、お客様の満足度の向上を目指しました。ブームが終焉するとき、裏で何が起こっているかというと「一度出会ったお客様が離れている」ことです。特に市場が縮小に向かっているときは、お客様にリピートしていただくことや、口コミによる紹介が生まれることが大事。つまり、顧客満足度の向上や付加価値の向上が何より重要になるわけです。そこで、商品にまつわるすべてのタッチポイントを最適化することが、顧客満足度の向上につながると考えました。



佐治

そこで、中小企業向けに、簡単に商品やサービスを改善できるように考えたのがこのフォーマットです。「ミッションマーケティングフィールド」と呼んでいるもので、中心には必ずミッションがあります。ミッションを中心に全体を最適化することで商品やサービスを改善していこう、ということですね。


聞き手

どのような改善を施されたのでしょう?


佐治

まずは対象顧客です。対象は、エリートサラリーマンとしました。飲食店のブランディングで 私たちが大事にしているのは、来店動機です。そこで今回の場合は、「イベリコ屋」をデートや接待で使う人たちを対象顧客に絞りました。


聞き手

なるほど。では、商品やサービスについては?


佐治

私が「イベリコ屋」と出会ったとき、一番売れていたのは豚しゃぶでしたが、売れている商品をただ売るという発想では、商品が“本物”であるということはなかなか伝わりません。やはり、イベリコ豚の魅力といえば、“世界一の生ハム”です。ですから、その生ハムに込めた思いや背景を、商品価値としてしっかり伝えていこうと思いました。そこで、生ハム、ステーキ、お寿司をメイン商品に据えました。また、こうしたメニューを主軸にすると高級ワインの注文も増えますので、客単価向上にもつながります。重要なことは、自社のミッションと商品の関連性。ついブーム商品や売れ筋商品中心の構成になっていきがちですが、そうではない改善をしていきました。


聞き手

ミッションに沿った商品構成を考えることが大事なのですね。


佐治

はい。また、以前は売り上げを上げるために宴会の需要にも対応していたのですが、それを少しずつなくしていきました。ペルソナにとって、デートや接待をしている横で宴会をしているのは、 あまり気持ちのいいものではありませんから。いわば、ペルソナにとって価値のあるものを強化し、価値のないものはやめていったということですね。何をやり、何をやらないか、そこをミッションから明確にして改善しました。


聞き手

ほかにはどのようなことをされたのでしょう?


佐治

来客戦略、つまり接客面の改善に着手しました。接客では、社長自ら生ハムをカットするようにしました。生ハムをカットしながら、「ハブーゴ村では豚はこんなドングリを食べるんです」などストーリーを語りながら背景を伝えています。また、店舗真ん中のセラーには生ハムを飾りました。実は、顧客は生ハムを1本キープすることができるんです。1本25万円もするのですが、それが順番待ちという状況です。さらにVIPルームには、ハブーゴ村や先代の写真を飾りました。そこでさまざまなストーリーを感じていただき、商品の歴史や食文化が伝わるように演出しています。


聞き手

“世界観”を伝える取り組みを積極的に行っているわけですね。


佐治

そうですね。食は五感で感じるものなので。特に目で、ストーリーから背景を感じることは大きな部分です。そこで全面的に、この商品の背景を伝えていこうと考えました。先代がこの商品とどのように出会い、どのような思いで日本に持ってきたのか。また、この生ハムはスペインの王侯貴族が食べていた商品でもあるので、そうしたこともストーリーとしてまとめています。



佐治

こうしたストーリーは、ランチョンマットなどを使って伝えるようにしています。ロゴマークも世界観が分かるように、どんぐり、盾、冠、豚の鼻をシンボルマークにしました。また、樫の木を現地から持ってきて、村の雰囲気を伝える世界観づくりにも着手しました。接待やデートでもてなす側がお客様にストーリーを伝えて場を盛り上げ、ハブーゴ村の食文化に対する思いやイベリコ豚を守っていこうという思いを一緒に伝えていけるように、と。そうした思いによってデートや接待の価値が上がり、それが客単価アップや口コミ紹介につながったことが、業績改善にもつながっていったのだと思います。


聞き手

“伝える”ことがブランディングの軸になっているのですね。


佐治

これからの時代は、“伝える”ということが非常に重要です。商品のサービスや価値はそれほど差がなくても、結果は大差になっている、という事例は多い。それはなぜかというと、やはり、しっかりと対象客に価値を伝えているかどうかだと思います。そこで大きな差が生まれていくわけです。繰り返しになりますが、ブランディングをするうえで重要なのは、やはり「目的を明確にする」こと。今後、変化が激しく複雑な時代になっていく中では、価値を明確にしてブランディングを進めていくことが大事だと思います。

また、今日の市場が縮小していく状況下では、世の中の問題解決を軸としたビジネスでなければ生き残れないと思います。それゆえ我が社の使命は、問題解決型ビジネスモデルの育成であると考えています。
何年か前から我が社では「スモールグッドカンパニー」の量産を目標にしています。中小企業は規模を追求するのではなく、生産性を向上することこそが大切だという考え方です。我々のクライアントで、スモールグッドカンパニーになられた企業にインタビューして、その様子をyoutubeで公開する取り組みをつい最近始めました。このようなモデル企業をたくさんご紹介することも通じて、我が社のビジョンの実現に少しずつ近づいていければと思います。