一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >眞邉光英氏
【プロフィール】
丸眞株式会社代表取締役/一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 シニアトレーナー
眞邉 光英氏
学生時代に、ブランドと密接な関係にある、知的財産権の1つである“商標法”について学ぶ。ブランド構築と、知的財産権、その両方の視点から資産としてのブランドを考えることを得意としている。現在は、家業の鰹節屋を継ぎ、鰹節を提供するだけでなく、飲食店のコンサルティング及び、商売繁盛をサポートしている。「丸眞株式会社」でブランディング事例コンテスト2018の優秀賞を受賞。
聞き手:一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 森永
聞き手
「丸眞株式会社」のリブランディングが「ブランディング事例コンテスト2018」で優秀賞に選ばれました。改めてリブランディングの目的について教えてください。
眞邉
今回のリブランディングは、先達が見つけた“UMAMI”に関わる知恵や文化といった資産のバトンをしっかりと引き継いで、私の代で進化させ、次世代に引き継ぐことを大きな目的としています。先達は経験的に、鰹節と昆布を使うととても料理が美味しくなることを知っていました。たとえば鰹節のイノシン酸、昆布のグルタミン酸、干し椎茸のグアニル酸の3つの旨味を掛け合わせると、7~8倍の相乗効果が得られます。つまり掛け算ですね。リブランディングは、この日本文化のエッセンスである「掛け合わせて引き出し合う」がキーワードになっています。「掛け合わせて引き出し合う」対象は、日本の食、世界の食、新しい技術や考え方、先達の知恵や経験、関わってくださる方々、働く仲間、歴史、社会……と多岐にわたります。
聞き手
どういったきっかけでリブランディングに着手したのでしょうか。
眞邉
もともとは、お客様のビジネスをサポートすることを目的にマーケティングやブランディングを学び、ブランド・マネージャー認定協会でもシニアトレーナーの資格を取りました。その後、ブランドに関するセミナーの講師をしたり、お客様のブランディングのサポートをしたりしているうちに、自社のブランディングについて見えてきた部分が多くあり「いつかは自社のリブランドをしたい」と考えるようになったんです。
聞き手
リブランディングにあたって、具体的にはどのようなことをしたのでしょう。
眞邉
まず、社内でブランドチームを作って3C分析を行い、もともとブランドの視点でとらえていた商品や考え方も含め、とくに自社のあらゆる要素について、棚卸しを徹底的に行いました。自分や祖先、鰹節、“UMAMI”、屋久島、先達、人間、生命、日本、地球……など、「今」につながるルーツの棚卸ですね。
聞き手
イチから自社のすべてを見直したわけですね。そのあとは?
眞邉
次の流れとしては、ペルソナ、ペルソナストーリー、ポジショニング、ブランド・アイデンティティ、ロゴ、パッケージ、ホームページ、映像、名刺、ブランドブック、箱、袋、ポスター、建物の看板、エプロン……など、200を超える点数のデザインのやり直しに着手しました。今回は、ブランド・マネージャー認定協会にも携わっておられた江上隆夫さんに経験豊富なアートディレクターである高田正治さんをご紹介いただき、その方の素晴らしい力量とご尽力もあって、イメージに添うものができたと思います。
聞き手
たとえばロゴも洗練されたデザインですが、どのような思いが込められているのでしょうか?
眞邉
ロゴのデザインは日本の家紋をイメージしています。二重に重なる3つの輪がありますが、これは上からぽつんと出汁を垂らして広がっていく様を表しています。この3つの輪は、グルタミン酸とイノシン酸とグアニル酸が掛け算の関係になっていく、というイメージで開発しました。普遍的で飽きのこない、力強いマークです。そこに「THE UMAMI COMPANY」という横文字を併せることで、伝統の中に新しさを感じられるように意識しました。
聞き手
また、“UMAMI”の可能性を広げ、提案する場として「UMAMI LABO」も作られていますね。
眞邉
はい。「UMAMI LABO」は、“THE UMAMI COMPANY”の考え方の元に集まってくる、情報のインプットとアウトプットの交差点です。ここでは、「実験的で挑戦的でクリエイティブ」なものを創り出すという視点で、新商品の形でアウトプットしています。また、「ブランド体験の設計の場」でもあり、同時に“THE UMAMI COMPANY”の肝である「掛け合わせて引き出し合う」というコンセプトを実現させるエンジンとしての役割や、ブランドをインキュベートさせる場としての機能も持たせています。
聞き手
具体的にはどのような商品が誕生したのでしょう?
眞邉
たとえば、これまでに「半生サラダ節」「鶏節」「しょうがぶし」「UMAMI煮干」などの独創的な商品を生み出してきました。また、商品自体は一般的に見えるものでも、使い方や出汁の抽出方法なども含めて「新しいもの」を創造しています。これも先達の知恵や新しい技術、日本の文化、和食、イタリアン、フレンチなどさまざまな要素を考察しながら、「掛け合わせ引き出し合った」からこそ生まれ、お客様のお役に立つことができているのだと思います。
聞き手
「UMAMI LABO」を創設したことで、新商品開発以外にはどのようなメリットが生まれたのでしょうか。
眞邉
社員全員が参加するUMAMI LABOチームを結成したことで、私たちの強みである“味の設計力・新商品開発力・情報力”を磨き、「掛け合わせて引き出し合い」ながら価値創造を行う場が作れました。今は凄くパワーを感じていますね。
聞き手
ブランド・アイデンティティの“THE UMAMI COMPANY”を商品・サービスにどのように反映させたのか教えてください。
眞邉
先ほどもご紹介した「鶏節」や「半生サラダ節」「しょうがぶし」「UMAMI煮干」などの「UMAMI LABO」の商品や、「イタリアン、フレンチ向けのUMAMI出汁の取り方」「UMAMI LABOチームで培ったノウハウの使い方の提案」などを原資に、“THE UMAMI COMPANY”らしく「掛け合わせて引き出し合い」、伝統の中に新しさを感じてもらいながら、顧客に寄り添って悩みや欲求を解決しています。
聞き手
これまでにどのような提案をされてきたのでしょうか。
眞邉
たとえば、蕎麦業態でイタリアンの味作りの手法を使ったり、イタリアンやフレンチ業態で和食の“UMAMI”の引き出し方のノウハウを掛け合わせたりしています。そして、そうした経験とナレッジが“THE UMAMI COMPANY”の資産となり、次なるクリエイティブを生みだす精度を上げていく、というわけです。
聞き手
さまざまなチャレンジが、血肉となって次に活かされているのですね。
眞邉
はい。まだまだ途中ですが、このように「掛け合わせて引き出し合い」ながら、そして伝統の中に新しさを創造していきながら、丸眞のブランド要素にポジティブなイメージを意味づけして、商品に反映させていくことを心掛けています。
聞き手
「丸眞株式会社」のビジネスモデルはBtoB主体なので、リブランディングの周知には難しさもあると思います。どのような形で周知させているのでしょうか?
眞邉
もちろん難しさはあります。1つには、先ほどお話したとおり、ロゴやパッケージ、ホームページ、映像、エプロンなど200を超える点数のデザインをやり直しましたので、お客様にはブランド体験として、こうしたデザインに様々な機会で触れることがあります。たとえばその中でも、鶏節はとくに“THE UMAMI COMPANY”の商品として注目度が高い商品ですね。
聞き手
たしかに「鶏節」は斬新で、聞いたことがありません。
眞邉
「鶏節」には取材の依頼やお客様からの問い合わせが多く入っているんです。たとえば、六本木の高級ホテル「ザ・リッツ・カールトン東京」のレストランで弊社の鶏節を使っていただいているのですが、同店のシェフが講談社から肉の本を出版することになり、鶏節がほかの素材ととても合うからと、ご紹介していただけることになっています。また、関西中心に出版されている「あまから手帖」の3月号では、付録として鶏節を採用していただきました。
聞き手
なるほど。ほかには周知のためにどのような工夫をされているのでしょう?
眞邉
商品をお届けする箱は、とくに工夫を凝らしています。今まで鰹節屋ではなかったような、伝統の中に新しさを感じるデザインの箱に仕上げました。また、箱の耳には、“UMAMIの設計を致します”というメッセージと感謝のメッセージを入れ、弊社の顧客の方々にポジティブな記憶が残るようにしています。
また、エプロンもブランド周知に一役買っています。「丸眞」のロゴを入れた、リーバイスの「501」ジーンズのユーズドを使用したパッチワークのエプロンを作りました。これはとても評判が良く、お客様から「お店で付けたいから譲って欲しい」といわれるので、販売もしています。今までの鰹節屋は、こうしたデザインがされたエプロンをすることはありませんでしたので、ポジティブなイメージを残してもらうことに貢献しているのではないでしょうか。さらに、お客様のもとを訪問した社員も、出先でほめられることが多くあり、リブランディングによって、ともに働く仲間のロイヤリティも上がっていると思います。
聞き手
インターナル・ブランディングも意識されていたということでしょうか?
眞邉
そうですね。そういう意味では、今回のリブランディングはとても良い効果が出ていると思います。実は、最新の採用募集では1名の募集だったにも関わらず120名の応募があったんです。このように、採用活動でも効果が出ていますね。
聞き手
最後に、改めて今回のリブランディングについての手応え、思いを教えてください。
眞邉
「THE UMAMI COMPANY」というブランド・アイデンティティを作ったことで、商売の考え方もずいぶん変わりました。旨味を作ってくれた先達の資産を食いつぶすのではなく、頼り切るのでもなく、渡してもらったバトンを「THE UMAMI COMPANY」として新しく進化させ、次の世代に渡していければと考えています。今は世界の食文化に対しても、貢献しながら変えていけるんじゃないかという自信を感じています。まだまだ始まったばかりですが、後の世代に「THE UMAMI COMPANY」として“UMAMI”を残せるよう、頑張りたいですね。今後も「THE UMAMI COMPANY」の考え方でオンリーワンを極め、ブランドカンパニーの道を歩めればと思っております。
※掲載の記事は2019年6月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。