一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >高橋広道氏
【プロフィール】
農林水産省 食料産業局産業連携課 課長
高橋 広道氏
平成6年入省。約10年前に三重県庁に出向し、農業部門と商工部門が一緒になった農水商工部(当時)でマーケティング室長に就任。地産地消の取り組みや、農業者や地元食品企業のブランディング支援事業などに携わる。
聞き手:ブランド・マネージャー認定協会 ディレクター 能藤
聞き手
農林水産省(以下、農水省)では「6次産業化」という取り組みを進めていますが、これはどのような事業なのでしょうか。
高橋
分かりやすく言うと、農業の1次産業、農作物を加工する2次産業、それを販売する3次産業をすべて一体化し、農業の可能性を高めようということですね。(※「6次産業化」について詳細はリンク先参照)
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/renkei/6jika/2015_6jika_jyousei.html
聞き手
似たような取り組みで「農商工連携」がありますね。
高橋
6次産業化は、1次産業者が最後の3次産業まで行うのが特徴です。農商工連携の場合は1次産業者、2次産業者、3次産業者が取引関係にあり、連携して取り組みます。どちらの取り組みにも一長一短があるので、私はケースバイケースで、状況に応じてどちらを選んでもいいと思っています。
聞き手
6次産業化はいつごろから動き出した取り組みなのでしょうか。
高橋
平成23年度から動き出しました。6次産業化に取り組む生産者が農林水産大臣からの認定を受けられる制度があり、発足当初は「27年度までに1000件」の認定件数を目指していました。ですが、今は当初予想を大幅に上回り、目標件数の2倍以上になっております。また、市場規模は32年度で10兆円が目標です。平成28年度は6.3兆円でしたね。
聞き手
認定を受けると、どんなメリットがあるのでしょうか?
高橋
認定を受けるといろいろな支援制度を受けられるようになりますが、認定に向けた支援も行っています。まずは「プランナー」の派遣。「6次産業化プランナー」に登録されている方が全国にいらっしゃるので、生産者の相談内容に応じてプランナーの方を派遣する制度です。年に3回まで、無料でプランナーの派遣が受けられます。
聞き手
プランナーによる支援の内容は?
高橋
生産者の方が、新商品の開発や新たな販路開拓まで行うことを「総合化事業計画」と呼んでいるのですが、この計画作成をプランナーが支援します。支援はプランナー以外にも、全国の各ブロックに地方農政局があり、そこでも相談することが可能です。また、補助金制度もあります。生産者の取り組みは、加工所や直売所の設置、新商品の試作品の製造などですが、その際に補助金を交付する仕組みです。悩み相談から補助金まで、支援策はひと通りそろっておりますので、認定件数は順調に伸びていますね。
聞き手
どのような相談内容が多いのでしょうか?
高橋
一番多いのは、販路開拓についての相談ですね。あとはブランディングについて。ブランディングと販路開拓は一体で不可分なので、やはりそこが課題という方が多いんです。特に多いのが、「商品ができたけど、どうすればいいですか」という相談。本来は販路開拓から考えるのではなく、商品開発の段階からブランディングも含めて考えなければいけないのですが、自分たちでまず商品を作ってしまう、というケースが後を絶たないんです。
聞き手
なるほど。
高橋
農家の方は農作物を作るプロかもしれませんが、必ずしも、加工して売る知見があるわけではありません。1次産業から3次産業まですべてを誰もができるわけではないんです。生産者の方が誤った道に進まないように、プランナーも含めた民間の力が必要だと痛感しています。行政のサポートも限界がありますから。
聞き手
商品開発の段階から相談しないと、間違った方向に行く恐れがあるわけですね。販路開拓はブランディングと一体で不可分だというお話がありましたが、ブランディングとの関係について教えてください。
高橋
6次産業化で製造された商品を「6次化商品」と呼んでいます。ジャムやジュース、ドレッシングなど最終商品形のものが多いですね。ただ、そうした商品は大手から中小零細まで国内の食品メーカーが販売しており、飽和状態です。競争が激しい分野に入っていくわけですから、ブランディングがしっかりしていないと販路開拓も難しいです。地元の直売所に売るだけなら必要ないかもしれませんが、長く売るためにはブランディングがしっかりできていないと、投資を回収できません。
聞き手
具体的には、どのようなブランディングが必要なのでしょうか?
高橋
たとえばパッケージのデザイン。地元の印刷会社にお願いすれば、そこそこのクオリティーのものを作ってくれます。地元の道の駅などだけで販売するならそれでも問題はないでしょう。でも、それは印刷会社のレベルのパッケージデザインで、プロのクリエイターが関わっているデザインと比べると、レベルが違います。東京や全国で販売しようとするなら、やはりプロに頼んだほうが良いでしょうね。
聞き手
行政としても何かブランディングでサポートすることがあるのでしょうか?
高橋
個々の生産者の方のブランディングを保護すること。つまり知的財産の保護を制度でサポートをすることが行政の役目です。行政のブランディングと生産者のブランディングは、ちょっと性格が違うんです。我々はあくまで裏方なので、我々が生産者の方のブランディングのためにできることは、プランナーの派遣などになるわけですね。
聞き手
一般的に、企業のブランディングには外部のコンサルタントが参画するケースが多いのですが、6次産業化においてはどうでしょうか?
高橋
生産者がブランディングまで行うのは難しいので、外部のコンサルタントに参画してもらう方がいいと思います。ただ、コンサルタントが来たからすべて解決、というわけではなく、生産者のやる気次第なんです。外部の人と一緒に試行錯誤していかないといけないでしょう。かつてお世話になった人に、「ティーチングは簡単。ティーチングではなくコーチングが重要だ」と言われたことがあります。ティーチングとは、たとえば「パッケージはこう直せばいい」というように、生産者の意識を変えずにアドバイスすること。一方コーチングとは、生産者の意識も変えることです。成功や失敗を経験させて成長を促し、次に取り組むときに支援しなくても同じようなプロセスでできるようにする。プランナーを派遣する際も、ティーチングではなくコーチングをしてあげることが理想ですね。
聞き手
6次産業化におけるブランド管理について教えてください。
高橋
加工品の例で説明します。地域全体のブランド農産物の管理があります。たとえば、福岡なら「あまおう」というブランドのイチゴがありますね。この「あまおう」を使った加工品を開発・販売する場合、「あまおう」は地域の宝ですから、そのブランドを汚されないようにしないといけない。一社で完結するものではないケースが多いので、簡単ではありませんが。
聞き手
ある品質基準を生産農家すべてに守らせる、というようなことでしょうか?
高橋
仮に、糖度は○○以上、というブランド管理をしていたとすると、加工品にそこまで及ぶかどうかは微妙なところなんです。ただ、農産物の1次生産者の場合、だいたい協議会のようなものを作っているので、加工品を製造する際にその基準を守らせるなど、いろいろ決めていると思います。そういうレベルになると、行政も関与しないといけません。
聞き手
民間でブランドを管理する場合、ブランドのコンセプトに基づいてやっていいことと悪いことを決めるのが定石です。6次産業化の場合はどうでしょうか?
高橋
6次産業化に関して、やっていいことと悪いことを、統一して国なり県なりで何か基準を作っている、という事例は、知る限りではありません。ただ、ひとつの事例としては、私が三重県庁にいたとき、三重県で「三重ブランド」という、特産品を認定する制度がありました。みかんやお茶などで、三重ブランドを名乗れるものをかなり限定するなど、行政のお墨付きのブランド管理には厳格な基準を設けていましたね。
聞き手
6次産業化の優良事例を表彰する制度もありますね。受賞した場合、生産者にどのような影響があるのでしょう?
高橋
直接的な影響としては、表彰をされることで話題になり、注目されることでしょうか。また、大臣賞を取ることが生産者のプライドにもつながります。それにブランドを傷つけないように、ブランド管理をしっかりしてもらえるという利点もあります。何よりも大事なことは、横への広がり。表彰される人を参考にできますし、「自分も表彰されることを目指そう」というモチベーションにもなります。刺激になってくれればいいなと思っています。
聞き手
最後に、6次産業化のこれからの課題について教えてください。
高橋
プランナーの質の向上がまず挙げられます。平成30年9月30日現在、プランナーの登録者数は、都道府県サポートセンターに1,041人、中央サポートセンターに208人と数は潤沢なのですが、やはり中には優れた結果を出せるプランナーと、そうではないプランナーがいて、その差が激しいんですね。もちろん、サポートセンターで審査はしていますが、審査段階ですべてを見極めるということはやはり困難です。ですから、いまはプランナーの質を高めるにはどうしたら、ということを考えているところですね。
また、WEBを活用した情報発信などで6次産業化を加速させる取り組みは有益だとは思うのですが、ネット通販などに不用意に販路を拡大させると、不良在庫や手数料の増大で苦しむケースもあるように思います。販路の拡大は良く検討した方が良いでしょうね。
※掲載の記事は2019年2月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。