一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >永井 和人氏 Vol.2
【プロフィール】
ベルガードファクトリージャパン株式会社
代表取締役社長 永井 和人氏
1982年 シナガワスポーツ(株)入社
1983年 ベルガード(株)に社名変更 ※2012年2月に経営破たん
2012年6月 ベルガードファクトリージャパン(株)設立
聞き手:平野史恵(株式会社イズ・アソシエイツ クリエイティブディレクター)
聞き手
2012年の経営破たんから、今やメジャーリーガーから愛用されるブランドに成長した「ベルガード」ですが、倒産後すぐは大きな決断があったようですね。
永井
実は倒産直後に、ある韓国メーカーから出資のオファーがありました。でも出資の条件が、その企業の日本法人になることでした。もし韓国企業の傘下になれば、ベルガードが持っている防具製造のノウハウが海外に流出してしまいます。以前、台湾の会社に防具の材料の製造を依頼していたとき、その会社はうちの防具を真似して作った製品を自社の製品として他に販売していたんです。アジアの企業の一部には知的財産という概念が足りないところもあり、もし韓国企業の傘下になったら、ノウハウ流出によってこれまでうちが築いてきたことがすべて無駄になってしまうリスクを感じ、お断りしたんです。
聞き手
以前の会社ではOEMを多く扱っていたようですが、現在はどうされているのですか?
永井
現在はOEMは最小限に留めています。というのも、OEMは製造側の取り分が約2割と非常に少なく、相当量作らないと割りに合いません。でも再建後3人の職人と私だけでしたので、キャパ的にも無理なことが幸いし、大手からの依頼もございましたが、お断りさせていただきました。
聞き手
新しい「ベルガード」がこだわったのはどんな点なのでしょうか?
永井
私たちがこだわったのは、自社の強みを強化することでした。前の会社でも定評のあった防具には、すでに多くのファンがいました。この技術は国内屈指です。大手メーカーの野球用品は海外製が多いですから、それに対抗するためには高い技術力と材料にこだわって作る“メイドインジャパン”の防具に特化するしかない、と考えたのです。ベルガードの防具はすべて、国内の職人が手作りで丁寧に製作しています。基本的には半製品でストックしておき、注文が入ると作るという「受注生産」方式です。注文を頂いてから出来上がりまでに2週間~約1カ月かかりますが、「軽量」で「耐久性」に優れていると好評を頂いています。
聞き手
特に最近需要が高まっているのが審判用防具だとか?
永井
昔の審判はユニフォームの上から防具をつけていましたが、今はマスク以外の防具はユニフォームの下に着用しています。野球シーズンは基本的に春から秋口までですから、暑くて汗もよくかきます。そのため、金属パーツを使わず、汗で錆びることがない、メタルレスの防具を開発し装着時の快適性を高めたり、審判用マスクも、顔に触れるパッド部分に吸水布加工を施したりしています。またマスクを装着したまま、“ストライク”や“ボール”といった発声がしやすい工夫も盛り込んでいます。
聞き手
そういう細かい気配りが大手メーカーではできないことですね。他にも何かあるのでしょうか?
永井
大手が取り組まないのは競技人口の少ない分野です。そのひとつが女性用野球用品。うちの製品はオーダーメイドもできるので、グローブやミットにハート柄やヒョウ柄といった女性らしいデザインを施したものを注文されることもあります。オーダーはサイト上でパーツごとに色を変えることもできます。こうした細かい注文一つひとつに丁寧に応えるようにしているため、それが口コミで広がっているようです。他の例では、今年のWBCで、韓国代表の防具に国旗を入れて作ったりしました。
聞き手
海外からの注文が多いようですが、やりとりはどのようにされているのでしょうか?
永井
インターネットのおかげで、最近は多額の費用をかけず海外とのやりとりができるようになりました。以前からFacebookはやっていたのですが、ある人からアメリカではInstagramの方が盛んだからやったほうがいいとアドバイスを受け、うちでも始めてみたんです。するとMLBの選手からメッセージが届くようになりました。例えば、うちの防具を使っている選手を見て同じものを欲しいと思った選手が、Instagramで写真を見つけて注文してくるんです。
聞き手
サイズはどうするのでしょうか?
永井
注文してきた選手をMLBの野球中継で見れば、好みのサイズ、型がわかりますから、それをもとに製作し、現地に送っています。製品が届くと選手からお礼のメールが届くんです。しかもハートの絵文字付きで。たいていの外国人選手は「ベルガード」の製品を気に入ると、野球少年のように喜んでくれます。いつの間にかMLB選手たちとも「メル友」になっていて、いつトレードになるとか、その選手の極秘情報まで送られてくることもありますよ。
聞き手
小さな規模だからこそできる、気配りとマンツーマンの対応で、メジャーリーグ選手たちに愛されているんですね。ありがとうございました。
※掲載の記事は2018年5月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。