3段階の計画でプロジェクトを推進
BtoBtoEのビジネスプランに挑戦した
「IPUカルチャーのブランディング」とは?

株式会社ファーストデコ扇野 睦巳氏
Profileプロフィール
株式会社ファーストデコ 代表取締役
IPU・環太平洋大学 特任准教授
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 トレーナー
岡山県岡山市出身。社会に出て子育てをしながら、法政大学通信教育部経済学部商業学科でマーケティング・経営・会計を学ぶ。
2015年4月には、法政大学時代の恩師でありブランド戦略論の第一人者である田中洋先生の元で学びなおすため、中央大学大学院ビジネススクール(MBA)へ進学。
さらに在学中には、知識創造論の第一人者・野中郁次郎先生の共著者である遠山亮子先生のゼミで学び、知識創造とブランド戦略を統合する独自のアプローチを培った。
岡山と東京の二拠点で研究と実務を展開し、同年5月には株式会社ファーストデコを設立。
企業や地域のブランド構築を支援している。
実践の場では、2017年度のブランディング事例コンテストで「株式会社ワークスマイルラボ(旧:石井事務機センター)のビジネスモデルイノベーション」で大賞と中小企業特別賞を受賞。
2019年度には、株式会社MJカンパニーの「筋膜リリース専用機メディセルによる女性活躍支援」でSDGs審査員特別賞を受賞するなど、社会課題解決型ブランドの構築に積極的に取り組んできた。
2021年9月よりIPU・環太平洋大学に着任し、ブランド戦略論を担当。2022年度には野生鳥獣の利活用を目的とした「IPU Gibier(ジビエ)」で中小企業庁長官賞を受賞。
さらに2023年度には、ラグビーを通じて地域を元気にする「IPUエシカルアスリート」でSDGs審査員特別賞、2024年度のBRAND MANAGEMENT AWARDでは、ベトナム異文化交流「IPUカルチャー」でSDGs審査員特別賞、岡山市学生イノベーションチャレンジ推進プロジェクトではグランプリを獲得。
理論と実践をつなげ、「統合型実践知」を教育と研究の柱として展開している。
近年在留外国人が増加し、国籍別ではベトナム人の割合が最も多い岡山県。
ただ、在留外国人数は全国総数の約1.1%にとどまっていることから、IPU・環太平洋大学では「住みやすくて災害の少ない岡山にもっと来てほしい」と新たなプロジェクトに着手。
「ベトナムと岡山の架け橋になり、日本で一番ベトナム人と幸せに暮らせる岡山をつくる」をパーパスに、様々な取り組みを実践しています。
さらに2025年7月14日には、岡山空港とベトナムを結ぶ直行便の実現に向けた「第1回ベトナム交流・勉強会」を立ち上げ、産学官の多様なステークホルダーとともに新たな一歩を踏み出しました。
株式会社ファーストデコ 代表取締役でIPU・環太平洋大学特任准教授の扇野睦巳氏にお話を伺いました。
3段階のSDGsドミノによる計画を立案
本日は、2024年度「BRAND MANAGEMENT AWARD」でSDGs審査員特別賞を受賞した「IPUカルチャーのブランディング」についてお話をお伺いできればと思います。
まずは今回のブランディングの背景について教えてください。
「IPUカルチャーのブランディング」は、「ベトナムと岡山の架け橋になり、日本で一番ベトナム人が幸せに暮らせる岡山をつくる」をパーパスに取り組んだ事例です。
IPU・環太平洋大学は2007年に開学した私立の大学で、建学の精神は「挑戦と創造の教育」。
スローガンは「夢、挑戦、達成」です。
このスローガンを体現するために、扇野ゼミでは3年連続のエントリーに挑戦しました。
このブランドの立ち上げの背景には、急増する在留外国人の存在があります。
岡山県では2019年以降、国籍別で最多となっているのがベトナム人であり、IPU・環太平洋大学においても14カ国の留学生の中で、ベトナム人留学生が最も多くを占めています。
地域と大学の双方でベトナム人との関わりが拡大している現状が、ブランド創出の大きな原動力となりました。
とはいえ、岡山県内の在留外国人数は全国総数340万人の約1.1%にとどまっているという現状があり、「住みやすくて災害の少ない岡山にもっと来てほしい」と考えました。
そこで、プロジェクトのパーパスを「ベトナムと岡山の架け橋になり、日本で一番ベトナム人が幸せに暮らせる岡山をつくる」とし、2030年のビジョンを「ベトナムと岡山空港の直行便を開通させる」としました。
ミッションは「パートナーシップで交流活動を行う」、バリューは「日本にいるベトナム人のホームシックを無くし、ベトナムの経済成長と日本の人口問題を解決する」と決めました。
市場機会は「食と体験を通じた異文化交流」として、バックキャストからフェーズ1「食と体験を通じた異文化交流を深め、無意識の偏見を無くす」、フェーズ2「外国人を雇用している企業にキッチンカーで訪問し、外国人が働きやすい環境をつくる」、フェーズ3「日本人と外国人が共存し、幸せに暮らせる岡山を目指す」という3段階のSDGsドミノによる計画を立てました。
まずフェーズ1では、ベトナム人を育成し、留学生と交流を持ちたいと考えている「製造業経営者の山田さん」をペルソナに設定。
ブランド・アイデンティティは「環太平洋エリアに住む人々の心に花を咲かせる」と決めました。
また、ブランドのネーミングは「IPU Culture」とし、ロゴマークは環太平洋エリアの国の国花をモチーフに、多様性と一体感を表現。ブランドのカラーは自由、独立、博愛を意味するターコイズブルーを選び、タグラインは「ベトナムと岡山の架け橋」としました。
キッチンカーを導入しBtoBtoEのビジネスプランに挑戦
フェーズ1では、授業を通じて異文化交流イベントを開催しました。
会場は岡山ビューホテル併設のレストラン「五感」。
同ホテルの代表取締役であり、現代経営学科の非常勤講師でもある上野宏一郎先生(写真右端)にご協力いただきました。
イベントでは、バインミーなどベトナムの定番料理を、日本人にも食べやすいようにアレンジして提供し、楽しくベトナム文化を学ぶことができました。
当時はコロナ禍の真っ只中で、実施すべきかどうかの判断にとても悩みました。
しかし、振り返ってみると、あの時に挑戦したからこそ今につながっていると実感しており、思い切って実践してよかったと感じています。
このような実践的な授業によってブランド体験を積み上げていき、翌2023年からは学外浸透にも着手。
扇野ゼミで開発したベトナムスイーツ「チェー」をオープンキャンパスに参加する高校生向けに提供し、好評を博しました。
このほか、2024年には、地域の方々向けに防災をテーマとした地元交流会「IPUフェスタ」も開催しています。
次に、学内のビジネスプランコンテストがきっかけでキッチンカーが導入されることになったため、フェーズ2に移行し、BtoBtoEのビジネスプランに挑戦しました。
フェーズ1でペルソナに設定した「製造業経営者の山田さん」が経営する会社を販売先として、その会社で働く従業員の方にベトナム料理を提供するという内容でウェルビーイングの実現を目指しました。
販売先の条件は、ベトナム人を多く採用しており、近くに飲食店が少ない郊外の立地にある社員食堂を持たない企業で、福利厚生の一環として活用してもらおうと考えました。
テストマーケティングでは、日本人でも食べやすい「岡山パクチー」の生産者である株式会社アーチファームの植田社長と、フェーズ1の異文化交流イベントにご参加いただいた製造業の(株)TANIGAWAの谷川社長にご協力いただき、ベトナムの麺料理「フォー」を提供しました。
たくさんの報道関係者がお見えになり、岡山の山陽新聞やKSB瀬戸内海放送でもご紹介いただきました。
また、約60名の社員の方々にも食べていただき、アンケートでは約8割の36名の方が「美味しかった」と回答されました。
そしてランチタイムにベトナム料理が食べられることについて、6割を超える方々が「幸せに感じる」と回答されています。
このほか、日本人の方からは「仲間のふるさとの文化を体験できてよかった」「距離感が縮まった」などのご感想が寄せられました。
今後は、ほかの国へも横展開していき、「日本で一番外国人が幸せに暮らせる岡山」に挑戦していきたいと考えていました。
岡山の産学官金言労士が連携し「ベトナム直行便プロジェクト」を立ち上げる
ブランドマネジメントアワードでの受賞をきっかけに、その後も数多くのコンテストで栄えある賞をいただくことができました。
とりわけ「ベトナム直行便の就航」というビジョンには地元企業の皆さまから大きな共感をいただき、そこから一気にパートナーシップの連携が加速していきました。
さらにNHKワールドでの密着取材も決まり、再びTANIGAWA様へキッチンカーでお伺いすることになりました。
その際、フォーの味や作り方をめぐって、ベトナム人と日本人学生の間で小さな意見の食い違いが生じました。
この体験を通じて、外国人と共に暮らすためには、味覚や生活習慣の違いを受け入れる「寛容力」が欠かせないことを改めて実感しました。
その学びを反映し、私たちのパーパスも「日本で一番ベトナム人が幸せに暮らせる」から「ベトナム人と幸せに暮らせる」へと、一文字を変えて表現を磨き直しました。
その体験を糧に、令和6年度おかやま市学生イノベーションチャレンジ推進プロジェクトでは、ついに悲願のグランプリを獲得しました。
グランプリ獲得によって、岡山市の大森雅夫市長の前でベトナム直行便への想いを直接伝えることができました。
さらに、5月14日に開催された駐日ベトナム大使の講演会では、現代経営学科4年・扇野ゼミ所属のズオン ティ ヴィ アインさんが勇気をもって「岡山―ベトナム間の直行便就航の可能性」について大使に直接問いかけました。
学生の真摯な声は会場の空気を動かし、大使からは「まずはチャーター便の導入を検討したい」との前向きな回答を引き出しました。
この一問一答は、若者の挑戦が国際的な議論を動かし、実現への道を大きく切り拓く瞬間となりました。
7月14日には、株式会社岡山高島屋 代表取締役・岡 憲史氏の呼びかけにより、ベトナム交流・勉強会を開催しました。
ベトナムとの空の架け橋というビジョンに共感いただいた株式会社岡山高島屋をはじめ、両備ホールディングス株式会社、株式会社JTB、イオンモール株式会社、株式会社源吉兆庵、岡山理科大学など、観光・商業・教育といった多様な分野の関係者にご参加いただきました。
学生代表として登壇したのは、現代経営学科4年・扇野ゼミでリーダーを務めるグエン ティ タオ ゴックさんを中心に、同ゼミ3年のズオン フエン アインさん、チュオン ミン ゴックさん、さらに田口ゼミ3年のグエン フオン ガンさん。
先輩から後輩へと想いをつなぎながら、持続可能なブランドとしてプロジェクトは確実に進化を続けています。
※掲載の記事は2025年8月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。
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