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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >中西元男氏(後編)

経営戦略デザインのパイオニアが語るCIの「これまで」と「これから」(後編)

中西 元男氏(後編)

【プロフィール】

PAOSグループ代表
中西 元男氏

神戸生まれ。桑沢デザイン研究所を経て、早稲田大学第一文学部美術専修卒業。在学中、総合大学にこそデザイン教育の拠点をと「早稲田大学デザイン学部設置への試案」を発表するほか、著名な建築評論家浜口隆一氏と経営戦略デザイン書「デザイン・ポリシー/企業イメージの形成」を1964年に共著。1968年株式会社PAOS設立。約100社のCI・ブランド&事業戦略デザイン等を手掛ける。1998年株式会社中西元男事務所を設立し、拡デザイン教育&コンサルティングに注力。2010年~ニュービジネススクール「STRAMD(戦略経営デザイン人材育成)」主宰。



聞き手:ブランド・マネージャー認定協会 ディレクター 能藤




1968年に設立され、企業のCIやブランド、事業戦略のデザイン等に取り組んできたPAOS。「経営者に理解されるデザイン理論の確立とデザイン手法の開発」をテーマに、これまでに日本初となるデザイン・マニュアルの作成等、数多くの事例を手がけています。後篇では、代表の中西元男氏に、実際の手法について具体例を交えてその一端を語っていただきました。



デザインは企業固有のDNAを無視しては成り立たない

聞き手

今回は手法について、できるだけ踏み込んでお伺いできればと思います。著書の「コーポレート・アイデンティティ戦略―デザインが企業経営を変える」などによりますと、まず予備調査を行い、次に方針仮説を立て、そして本格的な調査分析を行って開発コンセプトを立ててから表現デザインに取り組む、とされています。


中西

確かにそうした手法は一般的ですが、必ずしもパターン化されているというわけではありません。CIの目的も、業績不振の企業を立て直すためであったり、業績好調の企業をさらに良くするためであったりと様々です。企業ごとに置かれている状況はすべて違うので、ケースバイケースですね。CI構築のやり方を、その企業に応じて考える必要があります。資金の規模や体質、固有のDNAを無視しては成り立たないのです。我々の仕事の最大の目標は、デザインという核(哲学と手法)をプロジェクトの中で生かし、しっかりと数字として残すことです。ただ、単に売上が上がればいいという話ではありません。数字を上げつつ、企業の社会的な位置づけも上げることで、次なる事業テーマが生まれます。そうした成長が可能なようにデザインに取り組んでいます。


聞き手

実際に調査分析をするうえで、どのようなフレームワークを活用されましたか?一般的には、3C分析、SWOT、KJ法などいろいろなものがあります。


中西

必ずこれを使う、というようなものはありません。まず、「何が効くか」がなかなか分からないものです。ただ、必ずしも常識的な積み上げだけではないことは確かですね。代表取締役などの意思決定クラスの方と話していると、だんだん何をやらなければいけないのかを、相手が理解してくるケースもあるのです。


聞き手

たとえばそれはどのような場合でしょうか?


中西

典型的だったのが、伊藤忠商事の室伏社長(故・室伏稔元社長)との仕事のケースです。デザインの依頼を受けたとき、伊藤忠商事は財閥系に次ぐ大きな商社であり、繊維商社から総合商社に成長を遂げた後でした。そうした中で、総合商社としてのスタイルを独自に作り上げることが重要ではないか、先ずそのための理念づくりからという話になりました。で、独自のスタイルを作り上げたうえで、最終的な成果として財閥系の三井物産や三菱商事を売上・利益で抜くところまでいけばCIプロジェクトの成功ではないか、と。
ロゴのデザインにおいては、どんな事業にも適合することを前提条件として進めましたが、あるとき室伏社長が「どこかしっくりこない」ということを言い始めました。始めに様々な調査をして、それに基づいて軸立てをして、どんなロゴが良いかと考えました。しかし進めていく中で、どうも違う、と。それで、話し合いを重ねていくうちに、社長ご自身がどういうものを欲しているかがだんだん明確になってきました。伊藤忠には代表取締役が33人もいて、いろいろな意見を言うのですが、やはり最終的には意思決定者である社長の意思が重要です。そこで何百案とあったデザイン提案を一度全部捨て、全く別のコンセプトに基づくデザインを改めて数案お出ししました。それは社長自身の思いとも合致しており、すんなりと今のロゴに決まりました。世界企業としての位置づけを表すような、総合商社としての伊藤忠がひとつの頂点にあるイメージですね。


聞き手

意思決定者の思いを軸にコンセプトを作り、デザインも行ったわけですね。ブランディングでは、“ペルソナ”を作るという手法があります。ただ、大きな企業では複数のターゲットがいるため、ひとりのペルソナを立てることが難しい場合もあります。そういう場合にも、「誰がペルソナか」と考えるよりも、経営者の理念をコンセプトの核にする、という考え方が正しいのでしょうか?


中西

それが正しい場合もあると思います。ただ、必ずしもワンパターンではない。企業のCIやアイデンティティ戦略というのは、会社の数だけあると認識すべきです。伊藤忠の場合には、総勢、世界中の5,300人もの人たちにアンケートを取ったり、選抜メンバーで理念研究をやっていただきました。その研究発表会は土曜日丸一日掛けて代表取締役会議を開催したのですが、プレゼンター役の社員の中にはそのためにスーツを新調したり、美容院に行ったりと張り切って臨む方もおられました。ある女性社員が舌鋒鋭く、「男性社員が目先の売上ばかりにうつつを抜かしている姿を見ると、私たちは悲しくなります」と意見を発表していたのが印象的でした。様々な取り組みを経て最終的に、新しい企業理念、コーポレートシンボル等のビジュアルや運用ルール、企業存在の明示、将来の指針等、New CIを構築して行ったわけです。


聞き手

なるほど。経営者の思いや理念を基にブランドの核を作ると、たとえば「世界に通じる企業になりたい」などのように抽象的になって来ると思います。そうすると、結果的に競合と差別化できなくなるリスクもあるのではないでしょうか?


中西

それはあり得るでしょうね。でも、企業の独自価値が共有化されていれば、それで構わないと思います。ただ、問題は同業他社と理念が同文になったりするのはマズイですね。ともに同じようなことをやろうとするから、似たようなものが出てくる可能性が十分ある。その際に大事なことは、いかに独自性を持って目立ち際立つか、その表現を、強烈に追求していくことだと思います。


中西氏

情報化社会ですから、企業存在そのものを、ひとつのお芝居に見立てる「コーポレーツルギー」が重要です。

聞き手

独自開発された調査分析のフレームとして、「セルフ・コントラスト・マーケティング(SCM)」というものがありますが、どのようにして発想されたものでしょうか?


中西

最初に使ったのは、INAX(現LIXIL)の事例でした。その背景は、マーケティングがだんだん成熟して来てしまったため、なるべくドラマティックにマーケティングをやろう、という考えがINAX側にもともとあったことです。演劇界で有名な理論のひとつに、「ドラマツルギー(作劇術)」というものがあります。我々はそれをもじって、コーポレートドラマツルギーだから「コーポレーツルギー」と呼んでいました。
演劇の理論においては、まず主役がいて、それを引き立てる脇役がいて、先端役がいて、道化役もいる……これら性格の異なる役の組み合わせで、一つの劇を面白くして行くわけです。これを企業に当てはめると、主役である主力商品だけを売っていても、だんだんもたなくなっていきます。そうすると、次の主役になる可能性のあるものとして、脇役となる商品が要るわけです。先端役は、たとえば「あの会社はあんな新しいことをするのか」と驚きを与える役回りです。自動車メーカーがレーシングカーを製造したりするのがその例です。レーシングカーも作っているあの会社が作っている優れた自動車、という目で消費者が見てくれる。先端役は応援団のような機能を持っているとも言えます。
INAXの事例で考えると、タイルで日本一になった。これが主役ですね。やがてライバルTOTOもタイルに手を出し始めた。一方、INAXもトイレ事業に本格的に手を出そうと考えた。だからINAXとしては、従来とは異なった形の事業を展開しようということになりました。INAXにとってトイレが当初脇役で、次の時代の主役になる可能性がある商品です。その際、海外にはデザインの良いトイレがたくさんあるので、そういうものも輸入販売事業として扱うことになりました。これが先端役です。ただ、欧米で多いブロンズの配管は日本では建築基準法上認められていませんので、確認申請が通りません。そこで配管類を日本の法規に適合するようにあらかじめブラスに変えてしまおうと考えたわけですね。当時トイレの1製品シリーズを開発するのに26ヶ月かかっていましたが、海外から輸入することで、約350種類ものものすごい品ぞろえが短時間で一気に可能になりました。


中西氏

中西氏

聞き手

なるほど。ほかにはどのような工夫をされましたか?


中西

それ以外には、新開発商品で、急激に増えつつあった女子従業員用のトイレに、三面鏡を採り入れていくとか、生理用品を入れるボックスをとりつけることも行いました。「コーポレーツルギー」の考え方で言うと、メインはタイル、脇役はトイレです。公園など公共トイレを快適にする提案なども開始しました。「INAXという会社はいろいろ社会的な価値にも配慮してくれている」と思われるような施策をしたわけです。このようにコーポレーツルギーとは、主役がいて脇役がいて、先端役、道化役がいて、というように、企業経営をひとつのお芝居に見立てる、という発想なのです。この手法はキリンビール等他企業の場合にも使いましたね。


「イメージの差別化マーケティング」が重要に

聞き手

松屋銀座でCIの構築をされたとき、最初に管理職向けに講演をしたと伺いました。その時のお話を詳しく教えてください。


中西

松屋の場合、管理職には現場に出ている、年配の方が多かったので、そういう人たちに向けて、「これから何をしようとしているか」という話を理解して貰うことが重要でした。旧価値観から脱皮して貰う意識改革が必要だったわけです。
百貨店がある時期から、なぜ小売業の王者になったのかというと、やはり豊富な品揃えや安全安心の品質などが要因にありました。ですが、時代の流れとともに、同じようなものを置いている専門店もあちこちに生まれ始め、次第に旧来の価値体系ではもたなくなってきました。
そうなると、今後百貨店がどう競争していけばいいかを考えないといけません。ですが管理職の人たちと話をすると、みんな百貨店の優位性について、品質がいいとか、接客が良いとか、時期が来ればバーゲンをやるとか、そういう旧来型の特徴だけを言っている。しかし実際には、そういう段階を超えたところで競争が起きているわけです。品質の差別化をマーケティングに結びつけるやり方や、価格の差別化をマーケティングに結びつけるやり方だけでは不十分です。これは工業化時代型の差別化です。そうではなくて、そこで気分よく買い物ができるとか、ステータスを満足させるとか、いわば「イメージの差別化マーケティング」が重要になります。いうなれば情報化時代型の差別化です。
そこで、ここにしかない変わったものを目玉にしようと、いろいろな一品性の価値のある品物を集めてもらいました。また、空間のデザインにも工夫を依頼しました。人が冷静になる場所はだいたいフィッティングルームかエレベーターの中と言われています。エレベーターの中は退屈ですからね。そこで、その中を不思議な空間にして、お客のワクワク感を消さないように工夫しました。ほかにもINAXの協力をあおいでトイレも個性的に変えてみたり、いろいろ仕掛けをしていきましたね。


聞き手

ほかにもなにか工夫されたことはあるのでしょうか?


中西

ストアプロモーションにも着手しました。これは休業日の夜間に飾り付けの準備するのですが、最初の時、現場に行ってみたら宣伝部の人は「そんなことやっても意味はない」と誰も出て来ませんでした。それで、これは大変だと、四方に声をかけて人を集め、我々自身が店内の飾り付けを行いました。また、資金があれば可愛いモデルさんを使ってプロモーションしたりするのですが(笑)、モデルさんなんて頼めません。だから第一回目は野菜の造形がきれいだから、これをビッグビジュアルにしてモデルとして使ってしまおう、という策を取りました。


聞き手

やはり反発する人も中にはいるわけですね。初期に反発していた人たちも、その後は共感に変わるのでしょうか?


中西

やはり変わります。来店客数も売上もうなぎ登りに上がっていきましたからね。


聞き手

やはり結果を出さないといけないわけですね。反発する人を巻き込むためにどのようなことをされましたか?


中西

無理に説得しようとはしませんでしたね。結構荒っぽく走ってきましたよ(笑)。賛成する人には一緒にやってもらい、反発する人は見ていてくれればいい、というスタンスでいましたね。デザインの有効活用にはそれだけのパワーがあったのだと言えます。


自らの使命は、今までの蓄積を後進に伝えていくこと

聞き手

他にもたくさんの事例やエピソードがあると思いますが、やはり一貫して、「デザインを核としたコンサルティング」で結果を出し続けて来られたということですね。


中西

そうですね。今まで数多くの事例を手掛けましたが、結果を出すことにこだわってきました。
そして、そのノウハウや見識、資料が少なからず蓄積されています。先日もお話ししましたが、これらを後進に伝えていくこと、人材育成が自らの使命だと思っています。
現在3冊の本の執筆を並行して進めているところで、少しでも自らの知見を後進に託することができればと考えています。「STRAMD」の講座自体は昨年度で終了しましたが、このような講座はもっとたくさん開催されてもよいはずです。卒業生とのつながりは現在も続いており、今年も同窓会を開催する予定です。これまでとは別の形での展開を模索しています。


聞き手

そのような講座が開催されれば、私も受講したいものです。今日は、その手法の一端に触れたというと言いすぎですが、何とか垣間見ることはできたように思います。
貴重なお話をありがとうございました。


中西氏と岩本と能藤
今回インタビューを受けていただいた中西元男氏と、当協会代表理事岩本とディレクターの能藤とで記念撮影

※掲載の記事は2019年1月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。