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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー > 武田 信次郎氏

変わり続けることと守り続けること
―「不易流行」で“YSSらしさ”を追求 ―

ヤマハサウンドシステム株式会社武田 信次郎

Profileプロフィール

ヤマハサウンドシステム株式会社 代表取締役社長

横浜市立大学商学部卒業後、1987年に旧東亞特殊電機(現TOA)に入社。PA(音響機器)営業やホール音響のセールスエンジニアなどを担当し、1999年に競合企業のヤマハサウンドテックに転職、ホール音響の営業などを務める。2003年にヤマハ入社。PA商品企画・事業企画、PAマーケティングなどを担当。2013年にヤマハミュージックジャパンに出向し、PAマーケティング課長、PA営業部長を歴任。2018年6月、ヤマハサウンドテックと競合の不二音響が合併して2009年に設立されたヤマハサウンドシステムの代表取締役社長に就任。現在に至る。

聞き手:一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 岩本俊幸
話し手: 武田 信次郎 氏

ホールや劇場、ドーム、アリーナなど大空間の音響設備の設計・施工でトップシェアを誇るヤマハサウンドシステム(YSS)。2019年に設立10周年を迎えたことを機に、新経営方針「YSS 2.0」を策定。「不易流行」というワードのもと、「変わり続けること」と「守り続けること」の両立を掲げる同社では、新たなミッションやビジョン、バリューを作成。さらに、ヒトの成長が会社の成長には不可欠と捉え、社内大学「YSSアカデミー」を開校するなど変革を進めています。ブランディングの一環として、こうした変革のプロセスを「リアルなストーリーとして発信していく」というYSS代表取締役社長の武田信次郎氏に、新たな経営方針やブランディングについてお話を伺いました。

「新経営方針「YSS 2.0」で組織OSをバージョンアップ

Q. まず、ヤマハサウンドシステム(以下、YSS)について教えてください。
YSSは、ホール、劇場、アリーナ、スタジアムなど大空間の音響設備のプロフェッショナルです。500席以上のホールや劇場では市場シェアはトップだと思います。
Q. 武田社長は2018年6月にそのYSSの社長に就任されています。それまでどのような道のりを歩まれてきたのか、ご経歴を教えてください。
大学卒業後、TOA(旧東亞特殊電機)に入社しました。実は大学時代、軽音楽サークルでバンドを組んでいて、あるとき音響機器(PA)を買うことになったんです。で、本屋で買った本が、たまたまTOAの社長が書かれた設備音響の本でした。本当はバンドのPAの本を買いたかったんですが、間違えて買ってしまった(笑)。ただ、そのときに「世の中にはこういう世界があるんだな」ということを知り、卒業後にTOAに入社したんです。
Q. TOAではどのようなことをされていたのでしょうか。
12年勤めたうち、ホール音響のセールスエンジニアを8年務めました。その後、競合のヤマハサウンドテックに転職し、そこでは4年ほど勤め、縁あって親会社のヤマハに転職したんです。ヤマハ入社後は浜松で6年ほどPAの商品企画や事業企画の仕事に就き、2009年に東京に戻ってきて、PAの販売部門でマーケティングの仕事をしていました。2013年に販売部門がヤマハミュージックジャパンとして分社化することになり、そのまま出向する形になったんです。だから2009年から2018年まで、ずっとマーケティングを担当していたわけですね。
Q. 2009年に東京に戻ってこられた年に、YSSが設立されています。
そうですね。私が浜松から戻ってきたときのヤマハの事務所は日本橋箱崎にあったんですが、そこはYSSの事務所の一角をヤマハのPA営業部が借りている、という形だったんです。だから衝立の向こうを見ると、元同僚も先輩も、合併前は競合だった不二音響の方々もいる……仕事を取りあっていた相手が、席を並べているわけですから、それはもう衝撃でした。
Q. その後、2018年にYSSに出向されたわけですが、YSSにははじめから代表取締役として出向されたのでしょうか?
そうです。2018年のゴールデンウイーク中に社長として出向する話を聞き、引き継ぎを始めました。ただ、実はPA営業部で部長職にあったとき、YSSでもオブザーバーとして関わっていましたので、数値的なことも、中でどのようなことが起きているかもだいたいわかっていましたね。
Q. 社長に就任するにあたり、まず手始めにされたことは?
YSSは2019年で設立から10年になるので、当時の上司から「いろいろ変えていかないといけないこともある。2年ぐらいで改革してほしい」と言われていて。だから、なにより改革が大前提でした。
Q. どのような課題を抱えていたのでしょう。
当時感じたのは、トップダウンが強いということ。異なるルールで活動してきた2社が合併したわけですから、新会社のルールを守るためにも最初はトップダウンで進めるのは当然だと思います。しかし、合併後時間が経ち、その領域は脱したのでボトムアップに変えていかないといけないと思いました。

トップダウンのマネジメントシステムだったので、部長の権限がほとんどなく、小さな案件もすべて私のところに回ってくるんです。ボトムアップが少ないので、これでは若手が楽しくないだろうな、と感じました。
Q. そのような、10年間トップダウンで進めてきた組織をどのように変革していったのでしょう。
まず新経営方針となる「YSS 2.0」を打ち出しました。組織のOSをバージョンアップしよう、という意図です。
Q. 具体的には?
まずは「体質」を磨き上げようと決めました。合併から10年経って「体格」、たとえば社員数は1.5倍に増えました。でも、企業にとって大事なのは「体格」ではなく「体質」です。卓越した組織能力を発揮できるようにするために「体質」を磨き上げようと考えたんです。次に、「経営資源」。一般的な経営資源は「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」ですが、当社は言わば一品受注生産の労働集約型なので、私はやはり「ヒト」の能力を高めていくしかないと思いました。

また、この仕事は受注ビジネスなので、選ばれ続けるためには「ブランド」も重要です。「ヒト」と「ブランド」、このふたつを二大経営資源に定め、長期的な競争力を出していこうと決めました。
図1 新経営方針『YSS 2.0』
Q. なるほど。ほかにはどのようなことを考えられたのでしょうか?
組織能力の方向性です。組織能力は「保つ能力」「より良くする能力(カイゼン)」「新しいものを生み出す能力(イノベーション)」の三つ。採点してみると、「保つ能力」は二重丸です。「カイゼン」は、丸ぐらい。問題は「イノベーション」で、三角をつけました。

ルールを守ることで「保つ能力」は強く、それによって品質は高いのですが、リーディングカンパニーとしてはお客様に新しい価値を提供することも大事なので、新しいことに挑戦していく必要がある。そこで、設計図の最初の段階で出てきたのが「変わり続けること」と「守り続けること」です。
Q. 「不易流行」という言葉で表していますね。
「変わること」と「守ること」の2つをいい言葉で表現できないかと探していて、松尾芭蕉の言葉「不易流行」を見つけたんです。「不易」は残すべきものは残す、「流行」は変えるべきは変える、ということ。たとえば、不二音響やヤマハサウンドテックが引き継いできたDNA、YSSになってからできたDNAは、木で言えば幹や根っこの部分にあたります。ここは太く、もっと根を張っていきたい。枝葉や実の部分は、時代に合わせて変えていこう、と。

「不易流行」というコンセプトは、そもそもYSSらしさの追求でもあります。同じことばかりやっていたらお客様は離れていってしまうし、かといって、新しいことばかりやっていてもお客様は離れていってしまう。この絶妙なさじ加減をどうするかというのがYSSらしさの追求です。それをなしえるには、やはりブランディングしかない。だから、この「不易流行」「らしさ」「ブランディング」というワードは、経営方針を決めるうえで最初に出てきた部分でした。
図2 『不易流行』というコンセプト
Q. ミッションやビジョン、バリューも変えられています。
ミッションは、「公共空間の音づくりで社会に貢献する」としました。最もこだわったのはビジョンで、「いい音、いいサービス、いい人材をつくるNo.1サウンドカンパニーになる」。
やはり、いい音を作る会社である、ということを強調したかったし、もっと音にこだわる会社にしたかったんです。契約時に提示された仕様書に基づいて施工する物件で、どこで競合と差が出るかと言えば、やはり音へのこだわりですから。 「いいサービス」も保守点検などに強い会社でもあるので欠かせません。何よりも経営資源で一番大事なのは人材。人材を作れば、自然といい音もサービスも作ってくれます。だから、この3つを並べたわけです。そして、やはり音響の会社なので「サウンドカンパニー」と入れたかったんです。辞書を引いていただくとわかりますが、実は「サウンド」には、健全、堅実という意味もあるんですよ。
Q. では、「いい人材」を作るために、どのようなことをされたのでしょうか。
実は最も難しいのがここでした。一番の問題は、マネジメントです。将来的にボトムアップにしていきたかったのですが、まずはミドル・アップダウンを機能させたいと思いました。そこで、最初に着手したのはマネージャー研修です。たとえば、それまでは部長職の人間もプレイングマネージャーだったので、しっかりマネジメントの仕事をするように定めました。
Q. 研修はどのような効果がありましたか?
研修を受けた人間が、「人を育てることで会社が体質面でも成長する、だから人材育成は大事な仕事だ」という気づきを得た点は、うまくいったと思います。もちろん急には変われないので時間がかかるとは思いますが、部長職の人間が、プレーヤーをやめて部下を見るようになり、新たなコミュニケーションが生まれるようになりました。それは変わってきたことだと思います。

人材育成のため「YSSアカデミー」を開校

Q. 人材育成といえば、今年10月には「YSSアカデミー」も開校されていますが、どのような背景で始めたのでしょうか。
「YSS 2.0」を森にたとえると、人材育成は森を構成する1本の木に相当します。森を設計するフレームワークには「組織の7S」を使いました。「組織の7S」の「スキル」のところに「人材育成」がある。当時、「人間力」に関しては研修を予定していましたが、「専門技術力」の研修は、各部門のOJT任せで、あまり機能していないと感じていました。

実際に、仕事内容や労働条件、職場環境などについての50問のESアンケートを行い、重点改善項目をあぶりだしたところ、一番満足度が低かったのが教育制度だったんです。これで、社員も教育制度に問題があると思っていることがわかりました。このような背景から、「YSSアカデミー」を開校して、人間力、専門技術力の両方をここに統合し、どちらも上げていけるようにしたわけです。

YSSアカデミーの構造としては、会社理解や業界理解、ビジネススキルなどの「ヒト学部」、共通知識、計画設計などの「オト学部」、技術や開発企画の「モノ学部」、営業やマーケティング、保守などの「コト学部」と、4つの学部があります。学び方はウェブ、集合研修、OJTの3つ。今はコロナの影響もあって、ウェブ講座を中心にカリキュラム制作を進めています。
図3 YSSアカデミーの独自カリキュラム
Q. YSSアカデミーはどれぐらいの期間準備されたのでしょうか?
2019年の12月にプロジェクトを立ち上げて、10カ月でスタートさせました。最初は41講座でしたが、今は260講座以上のリストがあがっています(笑)。まさに社内大学と呼べるものです。

選ばれ続けるためにはブランディングが不可欠

Q. ブランディングについてお聞きします。そもそも、なぜブランディングが必要だと感じたのでしょうか?
社長として出向する前、マーケティング担当だったころは、キャンペーンなどで売り上げを一時的に上げる方法に疑問を持ちつつも近視眼的なマーケティングをやっていたんです。でも、YSSは物を売るのではなく、受注生産型ビジネスです。クライアントとの契約段階では図面しかない状態。そこでどうやって仕事をもらうかというと、信頼しかないわけです。それで、選ばれ続けるには、企業価値を高めること、すなわちブランディングをするしかないと思いました。
Q. ブランディングは何から始められたのでしょうか。
信頼されて仕事をいただく、ということは、信頼できるものを作らないといけません。そこで、まずは経営理念です。理念を実現できるように社員を動かしていこう、社員の教育や対応を理念ベースでやっていこう、と考えました。
次に、納入実績です。実績は実績を生みますが、これまではできていなかった。当社ではたくさんの実績がありますので、新たにマーケティング部を発足させ、この納入実績を外に向かって伝えていこうとしたわけです。
Q. 信頼を可視化したわけですね。
そうです。あとは、「会社を変えます宣言」をしました。具体的に言うと、「もっと音にこだわる会社にします」ということを、企業広告で発信したんです。それが「もっと、音を。」というコピーで始まる、テキストだけの広告ですね。

また、10周年ブランディングをやりました。たとえば、業界の第一人者から10周年のお祝いメッセージをもらうなどで、YSSとの付き合いや、昔の不二音響やヤマハサウンドテック時代の話なども交えて。過去の先輩方がどういう仕事をしてきたか、現在の社員が知ることができるので、インターナルブランディングにもなったわけです。あとは、パブリシティですね。業界誌で、社員を登場させて、その社員ごとの「不易流行」とはなにか、と語ってもらって。みんなちゃんと答えてくれて、読んでいて涙が出そうになりました。
図4 業界紙インタビューにて、現場スタッフがそれぞれの『不易流行』を語る
Q. なるほど。インターナルブランディングについてはどのような施策をしましたか?
実は、「YSS 2.0」は経営方針ですが、同時にインターナルブランディングでもあるんです。とはいえ、今はまだ「不易流行」を言い続けているぐらいで、あまりできていませんが、たとえば2018年11月から社内向けに社長ブログを始めました。ブログでは、お客様からの反応だったり、社員が疑問に思っている制度だったりについて説明しています。
Q. ところで、ヤマハでもブランドプロミス“Make Waves”を策定していますが、YSSのブランディングとの関係は?
ブランドプロミス“Make Waves”は「人々が心震わす瞬間」を表現した言葉です。何を持って心震わすか、そこを厳密に決めているわけではないので、ローカライズができます。
つまり、トーン&マナーは守りつつ、YSSなりの“Make Waves”とは何かを考え、実践できる。たとえば、私たちは音で心震わす。YSSの作った音は人々の心にまで届いていく、感動を与える……我々の“Make Waves”は、そういう解釈になるのかなと思います。

変革プロセスを“リアルなストーリー”として発信

Q. 業績についてもお伺いします。今年は新型コロナウイルスという特殊な1年でしたが、ここ数年の業績はいかがでしょうか。
売り上げは2017年度から3年間、右肩上がりで成長しています。ただ、コロナの影響もあり、今期は昨年ほどではありません。
Q. 今後の課題について教えてください。これからどのようなチャレンジを考えていらっしゃいますか?
やはりインターナルブランディングですね。社員には、もっとワクワクしながら仕事を楽しんでもらいたいと思っているんですが、理念的なことを語ってもワクワクはしてくれません。もっと自分ゴト化して、やらされているのではなく、自ら仕事を楽しんでいる、それを作っていきたいし、それを日々実感できるようにしていきたい。そのためにもインターナルブランディングを強化したいと思っています。実は、今期中にブランドブックを作ろうと動いていたんですが、急がずに時間をかけることにしました。社員が、自分たちで作ったような形で進めていくのが理想ですね。
Q. 最後に、武田社長にとってブランディングとはなにか、教えてください。
社員にワクワクしながら仕事を楽しんでもらうためにも、経営者にとってブランディングは必要不可欠だと思います。ブランドが輝いているからこそ自分もワクワクできるし、自分が働くことでブランドも輝く、それによってお客様の信頼も得られます。

私たちがやろうとしているのは、変革のプロセスそのものを、等身大のリアルなストーリーとして切り取って、外に向けて発信することです。守るべきところを守り、変わっていくべきところは変わっていく、それをノンフィクションのストーリーとして発信していく。そうすることでお客様もついてきてくれるし、社員にも面白い会社だと思ってもらえる。これからも、「ノンフィクションの、ドキュメンタリー形式の」ブランディングをやっていきたいと思っています。

※掲載の記事は2021年1月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。

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