一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー > 扇野睦巳氏
【プロフィール】
株式会社ファーストデコ
代表取締役 扇野睦巳氏
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 シニアトレーナー
1970年生まれ。岡山県岡山市出身。結婚・出産後、子育てをしながら法政大学通信教育部経済学部商業学科へ進学し、ブランディング・マーケティング・経営・会計を学ぶ。2015年4月、中央大学大学院(MBA)への進学に伴い拠点を岡山と東京に構える。大学院ではSECIモデルを用いて100年企業のビジネスモデルイノベーションを研究。暗黙知を通じた実践的形式知化をデザインの領域に活用する。2015年5月に株式会社ファーストデコ設立。2017年10月、本社所在地を東京都千代田区大手町に移転。2019年度のブランディング事例コンテストでは「株式会社MJカンパニー/株式会社みかも」の事例でSDGs審査員特別賞を受賞。
聞き手:一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 岩本
聞き手
はじめに、ブランディングに取り組まれた当時の状況について教えてください。
扇野
まずクライアントについてご説明すると、MJカンパニー様は岡山県岡山市に本社を置く、治療器販売業を手掛けている企業です。主力商品は筋膜リリース治療機の「メディセル」で、現在は国内の治療院を中心に1,700台超を販売しています。ただ、ブランディングをスタートするまでは、エステ業界の顧客を中心に展開していたのですが、「痛い」「効果がない」などマイナスイメージが先行して売り上げが低迷しており、2012年には減収減益となってしまっていたんです。
聞き手
マイナスからのスタートだったのですね。
扇野
はい。それで2013年からインターナルブランディングをスタートしました。まず第1フェーズでは減収減益から脱却し、増益経営へとV字回復することを目的としたんです。
聞き手
具体的には、まずどのようなことから着手されたのでしょう。
扇野
第1フェーズでは、まずは創業の精神を振り返ることから始めました。創業者の渋谷智也社長の「なぜこの会社を起業しようと思ったのか」という存在意義を明らかにし、理念を再構築しました。学生時代にラグビーをやっていた渋谷社長は、首を痛めることが多かったのですが、カイロプラクティックで痛みが消えたことで「治療という手段で人々の役に立ちたい」と思ったそうです。
そうした背景から、「もっと多くの方々の健康づくりに貢献したい」と考え、ターゲットはそれまで売上構成比で9割を占めていたエステ業界を捨て、1割だった治療業界へ“選択と集中”を行うことにしました。経営理念は、以前の「販売を通じ地域社会の健康に貢献する」というありがちだったものから、「命を燃やす!」というもともとの熱い思いへと原点回帰を図りました。こうしたことを、幹部社員2名と社長を含めた4名でチームブランディングを実施し、決定していったのです。
聞き手
ペルソナはどのように設定したのでしょうか。
扇野
患者を治すことに命を懸けている個人経営の治療家、です。整骨院を経営しており、あくまでも患者目線でものを考え、すぐに苦痛を取る手段のひとつが「メディセル筋膜療法」と考えている人物です。この先生が得意としている手技や鍼、電気治療と「メディセル」を組み合わせた“スピード治療”によって、先生を地元の名士にしよう、という思いでまとまっていきました。これにより、これまでの「切らずにセルライトを取る機械」という価値ではなく「スピード治療を実現するソリューション」というオンリーワンの機能的価値が見つかったんです。
聞き手
ロゴマークなどブランド要素については、どのような工夫をされましたか?
扇野
すでにブランドとして認知されているロゴマークは残し、あとはすべて刷新しました。たとえば、名刺はそれまではコスト重視で無難なデザインでしたが、治療家の先生に覚えてもらえるように、インパクトのあるデザインに変えました。また、お礼状用のハガキも同様にインパクトのあるものを制作しています。チラシは、ペルソナに近い治療家の先生にも制作に参加していただき、訴求力の向上を図りながら、エリアを絞って何度も発送するようにしました。