一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >駒瀬 元洋氏 Vol.2
聞き手:一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 岩本俊幸
【駒瀬氏のプロフィール】
1993年、味の素株式会社に入社。
4年間の海外事業本部業務を経て、
1997年より味の素インテルアメリカーナ(ブラジル)に出向。
7年の赴任期間中、ブラジル人の真の生活に入り込み、
主力商品である風味調味料「SAZON」の売上げを2倍に、
また現在第二の柱商品である「MID」事業を立ち上げ、
事業領域の拡大などに尽力。
帰国後、中華調味料惣菜中華領域マーケティング担当、
「クノール」ブランドスープマーケティング担当などを経て、
現在は加工品食品部において「ピュアセレクトマヨネーズ」
「GABAN スパイスドレッシング」などを手がけている。
聞き手
たくさんあるとは思いますが、これまで伺った以外に、これは苦労したなということというと?
駒瀬
まぁ、仕事も含めてブラジルの生活は2年くらいで肌感覚がつかめました。ただ、ブラジルというのは階級社会なんですよ。我々のお客様は金持ちではなくて庶民です。粉末ジュースにしろ調味料にしろ、庶民の方々に買ってもらって生計を立てているという商売です。ところが僕の部下についている大学を出てマーケィングをやっているようなスタッフは、みんな金持ちです。ブラジルというのは金持ちでないと大学へ行けないという国ですから。だからブラジル人と言いつつも、庶民の生活実感みたいなことは彼等は分からないのです。
聞き手
現地で働いている人達がですか?
駒瀬
ええ。居住エリアも全然違います。粉末ジュースなど、彼等は自分達は飲まないのです。普通にコーラを買えてしまうから。
聞き手
そこは、一緒に仕事をされていてなかなか難しいところですね。
駒瀬
はい。普通に考えると、僕は外国人だからブラジル人のことは分からないと思いがちですが、僕は外国人で分からないからこそ分かろうとして庶民の家に入り込んだりとか、下層の人たちのスーパーを見て回ったりとか、努力してそういう生活を知ろうとします。そうすると、結果的に僕の部下の金持ちのブラジル人よりも、僕の方が貧しいブラジル人の暮らしが分かるようになります。
聞き手
ブラジル人と言っても一括りにはできないわけだ。
駒瀬
1つおもしろい例があります。「SAZON」という商品があるのですが、これは基本的に主食に使う調味料です。当時、肉用とか魚料理用とか野菜料理用とか、用途別に5種類のバリエーションがありました。すると、これをポップコーンの味付けに使っているということが分かってきたのです。向こうは、日本と違ってコーンそのものが売られていて調理するんです。バターを入れた鍋を熱して爆発させて作る。その時に「SAZON」をまぶすと非常に美味しくなると。
聞き手
消費者の方から新たな使用法が生まれたわけですね。面白いなぁ。
駒瀬
ええ。それで、それならポップコーン用の「SAZON」というのを出したら売れるのではないか、という話が出たんです。その時です。現地のスタッフは「ポップコーンなど、いま電子レンジで作るのが主流で、鍋を作るなど時代後れだ」と言うわけです。だけど僕が見ている限りそんなことはない。まだまだ昔ながらの方が主流だと思うと話しても分かってもらえなかった。そこでデータを取り寄せてみたんです。そうしたら圧倒的に昔ながらの方が多かったのです。電子レンジはほんの一部でした(笑)まぁ、ポップコーン用の「SAZON」についてはその後いろいろあって、既存品で遡及したほうがいいということで、結果的には商品化はしませんでした。だけど一事が万事こんな感じで、ブラジル人だからといって必ずしも相手が正しいとは限らない。
聞き手
なるほど。むしろちゃんと客のインサイトなり生活をどれだけ知っているかというところが大事なわけですね。
駒瀬
そういうことです。
聞き手
逆にどうでしょう。そこまで格差があるというのは、マーケティング的に考えたらやりやすい方に働くのですか?それともやりにくいのか。
駒瀬
恐らくやりやすいのではないでしょうか。ターゲットしやすいですから。向こうは圧倒的な格差があるので、ソーシャルクラスが違うと感覚がまったく違う。買っているものも価値観も全く違います。そういう意味では、日本でも最近、格差社会とか言われ始めていますが、騒がれるというのは格差がなかったということです。
聞き手
確かに言われてみるとそうですね。
駒瀬
日本に戻ってきて改めて驚いたのが、ものがあふれかえっているということです。だから「欲しいものはあるか?」と聞いても、「ない」という回答の方が多い。そうなると、もう欲しいものではなくて、欲しい気持ちを作りだすことに注力しなきゃいけないんだなぁと思いました。ものは満たされていますから。
聞き手
欲しい気持ちね。うん、分かります。
駒瀬
iPodなんか最たる例じゃないでしょうか。調査したところで、消費者から「こういうのが欲しい」と出てくる商品ではない。だけど実際に市場に出回って「良いらしい」となると、欲しい気持ちが湧いてくる。iPadもまさにそうです。あんな商品自体、誰も考えつかないけれども、出てきて何かしらかを見せられたら購買意欲が湧くという。
聞き手
欲求を作りだしていくといういことですね。
駒瀬
そうです。ブラジルから帰ってきて、「クノール」の担当をしていた時に、東京ガールズコレクションの読者モデルとコラボレーションして商品を開発したことがあります。商品自体は元々あって、新しい味を作ろうという企画でした。この場合なんかも、消費者からしたら自分たちの代表である読者モデルと一緒に作った商品、自分たちの目線で作った商品だから食べてみたい。そのようなことで、発売と同時にバーッと口コミで広がってすごく売れたわけです。結局、もの自体の差別化というよりも、そういう情報、言ってしまえば欲しい気持ちですね、これをどう作っていくか。これが現在の日本での戦い方ではないでしょうか。
聞き手
なるほどね。確かにそうだなって思います。相当アンテナを張っていないとダメですね。
駒瀬
ええ。通常の調査では限界があります。でも、いまはソーシャルメディアがあるので、日々ブログやツイッターなどを見れば、生の声を拾えるではないですか。そういうのを見て、いま日本の人たちはどういう感性なのかという肌感覚を磨くことが大事なんだと思います。それによって何がツボなのかな、というのが見えてきますから。
聞き手
仰る通りですね。
聞き手
それでは現在手がけられている「GABAN スパイスドレッシング」のお話を伺っても良いですか? 評判が良いようですが。
駒瀬
一言で言ってしまえば、新しい提案が受け入れられつつあるのかなと思っています。
聞き手
詳しく伺えますか?
駒瀬
「GABAN スパイスドレッシング」は普通のグリーンサラダに使うドレッシングではなく、ソースとして主菜に使えるという新たな価値を提案したのです。
駒瀬さんが商品開発から手がけられている「GABANスパイスドレッシング」シリーズ(発売元:味の素株式会社)
聞き手
確かにパッケージの写真を見ても、サラダというよりもメインディッシュのようですね。
駒瀬
ええ。普通、ドレッシングというと野菜に使うものじゃないですか。それで満足いただけるものです。そして我が社が売り出すまでもなく、ものすごくたくさんの種類が既に市場に出回っており、どれも出来はいいし十分おいしい。値段も手頃だし不満はない。
聞き手
確かにラインナップが豊富で、不満を探すのが難しい商品ではありますね。
駒瀬
そうなんです。だから無難なものでは受け入れてもらえない。それならば新たな価値なり機能を提案しようと思ったんです。
聞き手
それが「ソースとしても使えるドレッシング」というわけですね。
駒瀬
そうです。パッケージの写真のように、野菜を敷いて肉なり魚なりを乗せて、最後に「GABAN スパイスドレッシング」をジャッとかけるだけで立派な主菜になるんですよ、と。でも、それだけではありません。実はもう1つ工夫を施しているんです。
聞き手
と言いますと?
駒瀬
ドレッシングというよりは野菜なり主菜を美味しくするというのが機能であり、価値そのものです。もし不満があるとするならば、と考えたんです。
聞き手
他のドレッシングにはない価値?それを探ったわけですね。結局、何だったのでしょか?
駒瀬
ドレッシングは食卓に置いて使うものであるというところに着目しました。すると、既存のドレッシングに不満が唯一あるとすれば、あまりオシャレなものがないということに気づいたんです。
聞き手
なるほど!
駒瀬
そこで、この「GABAN スパイスドレッシング」は、つい食卓に置きたくなるようなおしゃれなデザインとし、情緒的価値も提案していこうと。なのでパッケージのデザインは、ものすごくこだわって作りました。また、実際に「こんな風にテーブルコーディネートをしてみては?」という提案もしています。ドレッシングで食卓全体を華やかに楽しいものにしていこうと。
聞き手
シーンを想像させるわけだ。不満ないと思っていましたが、確かに確かに。
駒瀬
なので4月に行なわれた「丸の内のフラワーウイークス」というお花の祭典に、「GABAN スパイスドレッシング」のボトルを使ったテーブルガーデニングを演出し、出展しました。
聞き手
お花に!? でも意図するところとぴったりですね。それにしてもすごい発想だなぁ。
※掲載の記事は2015年1月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。