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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >駒瀬 元洋氏 Vol.3

商品開発者こそ、消費者のインサイトを見失ってはいけない! – 第三話

駒瀬 元洋氏 Vol.3 味の素株式会社 加工食品部

聞き手:一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 岩本俊幸

【駒瀬氏のプロフィール】

1993年、味の素株式会社に入社。

4年間の海外事業本部業務を経て、

1997年より味の素インテルアメリカーナ(ブラジル)に出向。

7年の赴任期間中、ブラジル人の真の生活に入り込み、

主力商品である風味調味料「SAZON」の売上げを2倍に、

また現在第二の柱商品である「MID」事業を立ち上げ、

事業領域の拡大などに尽力。

帰国後、中華調味料惣菜中華領域マーケティング担当、

「クノール」ブランドスープマーケティング担当などを経て、

現在は加工品食品部において「ピュアセレクトマヨネーズ」

「GABAN スパイスドレッシング」などを手がけている。


「GABAN」というブランドとのコラボレーションの効果は?

岩本

ところで、そもそもなぜGABANというブランドとコラボレーションしようと思ったのですか?


駒瀬

実は、GABAN社はグループ会社なんです。だから、自分達が持っているブランドを活用して何か作れないかというところから始まっているんです。


岩本

そうだったんですね。 それでは、GABANというブランドを使う上で、気をつけたことというと?


駒瀬

先ほどお話ししたように、調査をすると既存のドレッシングに不満がない。それこそ選び切れないぐらいの種類があって、どれも美味しい。思いつくものは、ほぼ全て市場にあると言っても過言ではありません。そういう世界ですから、同じようなものを持っていったところで200種類もあるからいいよ、という話になってしまいます。 そこで何で差別化するかと考えたときに出てきたのが「GABAN」というブランドです。これは独自のイメージ、独自の世界観を持ったブランドですから、これを核に商品のポジションを作っていこうと発想したわけです。


岩本

私はプロ用の胡椒というイメージを持っています。恐らく多くの方がそのようなイメージを抱いていると思いますが…。


駒瀬

「GABANのイメージ、ブランド価値は何ですか?」という調査をすると、「プロ」「レストラン」「本格的」、そして「舶来」というワードが出てきます。そして「舶来」から派生して「オシャレ」「洗練」というワードも出てくる。シルバーメタリックにブルーのすごくシャープな、スタイリッシュな感じのボトルもそういうイメージに繋がっているのだと思います。


岩本

それをいかに戦略的に取り込むかということですね?


駒瀬

会社としては、「GABAN」というブランドを有効活用したいという考えがあって、一方でドレッシング市場に参入するためには何か武器がないと参入できないと模索していました。ですから「GABAN スパイスドレッシング」は、味の素グループシナジーということをすごく意識した戦略商品と言えます。 また、先程少しお話しましたが、我が社は「クノール」というブランドも日本国内で扱っています。「クノール」というのは、もともとソースとか洋風の調味料全般をやっている会社です。なので、洋風のソースみたいなものの知見と「GABAN」というブランドを組み合わせて、新しいポジションを築けないかと。



岩本

味の素さんだからできた商品と言えますね。


駒瀬

そうですね。これまでドレッシングについては、何度かチャレンジしてきましたが、なかなか上手くいかずに苦い経験もしています。 でも、マヨネーズを販売している以上、ドレッシングがないというのは痛いところです。ですから、やらなければいけないと状況だったんです。


岩本

なるほど。すると、できるべくしてできたという感じなのですね。ちなみに、苦い経験もされたとのことですが、今回は何が違ったとお考えですか?


駒瀬

そうですね。自分たちでこういう差別化だとポジションしたつもりが、お客さんから見たら、それがポジションとして成立していなかったわけです。


岩本

先日、中央大学のビジネススクールのMBAエッセンス講座で、サントリーさんの「伊右衛門」の話を聞いたのですが、なんかちょっとそれに似ている感じがします。


駒瀬

そうかもしれませんね。お茶の市場もパイオニア商品がやはり圧倒的に強くて、味で差別化といってもなかなか難しいところがある。消費者も飲みなれたパイオニアブランドで満足しているから、わざわざ他のブランドを試してみようという気にならないのです。


岩本

サントリーさんも何回も失敗していて、ストレートに本物を開発しようと「伊右衛門」というブランドができたと聞きました。


駒瀬

確かに、「伊右衛門」は「京都福寿園」というブランドの世界観がかなり商品を左右していると思います。


岩本

コラボレーションが上手く相乗しているという点では、「GABAN スパイスドレッシング」も成功例になるのではないでしょうか。


駒瀬

発売からまだ1年です。掲げた目標にはおかげさまで達しましたが、大きな市場なので市場全体から見たらまだ小さなピースという感じです(笑)。紆余曲折はあったけれど、何とか足場を築きつつあるなとは思っていますが。


岩本

いやいや、1年で手ごたえを得られるなんてすごいと思います。


新たな市場を創りだし、新提案をきっちり伝える

岩本

では、マーケティングの辺りのお話を伺いたいと思います。 これはいままで上手くいかなかったのに、今回は上手くいったな、なんていうポイントを挙げていただくとしたら、どの辺りになりますか?


駒瀬

先程来お話している通り、アプローチの違いですね。 従来は、どちらかというと既存市場で、既存品に対して差別化して、既存品からスイッチしてこようというアプローチでした。だけど、スイッチするほどの差別化ができていなかった。 しかし今回の「GABAN スパイスドレッシング」は、そもそもそういうアプローチではないのです。既存品から奪い取ってこようというアプローチではなくて、新たな市場を創造しようというアプローチです。そこが大きく違う点ですね。


岩本

なるほど。


駒瀬

「GABAN」というのはスパイスのブランドです。「スパイスを使ったドレッシングとはどんなものですか?」「どんなものに使ったらいいのですか?」と繰り返し検討していった結果、「グリーンサラダだったら、スパイスが効いている必要はない」という結論に達しました。 ではどうするのか。スパイスというのは、もともと肉の臭みを消すために使われていたものですから肉との相性は良い。なので「スパイスの効いたドレッシングというのは、肉にも使えるソースのようなドレッシングということだよね」と着地した感じです。


岩本

通常のドレッシングとは、使い方がそもそも違うと。


駒瀬

ええ。ですからグリーンサラダ用のドレッシングの市場で競うつもりはありませんでした。売り場でいうと、新たな市場、新たなカテゴリーを作ろうと。もっと大きく言ってしまえば、新たな食卓提案をしようというように大きく捉えた事業なんです。  ただ、ブラジル時代の「MID」も含め、全ての商品に共通することですが、ターゲットにきっちり正しく伝わらないと上手くいきません。当たり前のことですが、そこが一番大事なポイントだと思っています。


岩本

ターゲット、消費者にきちんと思いを伝えると言うことですね?


駒瀬

ええ。「GABAN スパイスドレッシング」の場合は、良さを一番実感できるのは、「グリーンサラダではなく、肉入りサラダである」と。普通に肉だけを食べるのではなくて野菜をたくさん一緒に食べるという食べ方もきちんと伝えければなりません。 なぜなら、そういうコンセプトで作っていますので、グリーンサラダではちょっと味が濃かったり、またプレミアムの商品なので普通の商品に比べ価格も高い。きちんと伝わっていないと、結果「高いだけで、大したことないね」という間違った評価になってしまいます。


岩本

確かに、使い方まで提案しておかないといけませんね。きちんと伝えなければならない重要性がよく分かりました。


駒瀬

きちんと伝われば、ちょっと高いけれどもソースだと思って使えば価格に見合った価値が十分にある。しかも、ドレッシングとしても使える。また、使いきれるであろう量にしてあるので、冷蔵庫に残ってしまい、結果余って捨てるということもないんです。そこまで理解いただければ、他にない独自の価値を持っているということで定着するのではないかと思っています。  一方で、そこまで求めてない人もいっぱいいます。ドレッシングというのはサラダを食べるもので、サラダがおいしく食べられればいい。それで安いのがあるならば、その安いほうで十分という人には、これはトゥー・マッチです。安い方で十分という人にはいくら言っても響かない。


岩本

確かに。難しいところですね。


駒瀬

そこはすごく試行錯誤しているところです。


岩本

ターゲットの人とマッチしたメッセージ、これが合っていないといけないわけですね。


駒瀬

そうです。だけど原資も限られ、無尽蔵にお金があるわけではないですから、無駄なプロモーションを数撃てるわけでない。1年販売して、そこは明確に分かってきました。なので、今後は正しく伝える上で、その効率を最大化していくか。そういうところに軸足を置いていこうと考えています。


岩本

ターゲットである人に正しく伝えるという試行錯誤の中で、見えてきたポイント、やり方みたいなものはありますか?


駒瀬

1つは口コミです。 口コミとしてはWEBも然りですが、やはりリアル口コミですね。使い方を楽めるホームパーティーみたいなところで、「あっ、こんな使い方があったね」というリアルな口コミを中心に置いて、それをさらにWEBを通じて拡散するというのをやっていこうと思っています。 岩本 最初からWEBではないのですね。 駒瀬 ええ。掲示板みたいなところで使い方を共有することによって、「他の人はこうやって食べているんだな」とか「「今度、試してみようかな」」という気持ちになっていただければいいですね。 岩本 先程もお話しましたが、シーンを想像させるということですよね。いいですね。



岩本

最初からWEBではないのですね。


駒瀬

ええ。掲示板みたいなところで使い方を共有することによって、「他の人はこうやって食べているんだな」とか「今度、試してみようかな」という気持ちになっていただければいいですね。


岩本

先程もお話しましたが、シーンを想像させるということですよね。いいですね。


駒瀬

きっと普段使いでこんなことはしないんだろうなとは思います。でも、こういう世界観を持った商品だということが伝わればいいと思っています。


岩本

1つの理想の姿?


駒瀬

ええ。そういう世界観を作っていくということと、この商品の良さを一番分かってもらえるメニューを一生懸命普及していくことも大事です。それはこちらから打ち出すものもあれば、ソーシャルを使って自然発生的に発信されるものもある。そのためにWEBサイトを利用していくということです。


岩本

なるほど。ある種、ファンクラブのような形が理想なわけですね。


商品開発者こそ、常に顧客視点で

岩本

最後に、商品開発担当者として、気をつけていること、心がけていることなどをお聞かせいただけますか?


駒瀬

ブラジルでの「「MID」」も然り、「GABAN スパイスドレッシング」も然り、まずは消費者をしっかり見るということですね。 当たり前のことなのですが、作っている側は1つの商品に入り込んでしまうということが起きがちなんです。朝起きて夜寝るまで、その商品のことばっかり考えているわけではないですか。すごく関与が高いからそうなるのですが、我々が売っているものは1個200円、300円のものです。ハッキリ言ってしまえば、世の中の人達はそんなに関心がないのです。だから世の中の人全てが関心があるという前提で、細かい差みたいなところにこだわって頑張ったところで、関心のない人からしたら、どうでもいいことだったりするわけです。ですから消費者の本当のインサイトを見失わないということです。


岩本

常に顧客視点でいるということですね。


駒瀬

そうです。僕ら売る立場からすると、ついつい「競合とはここが違うんです」というように競合視点になってしまう。 特に、商談などをする時に必ず「どう違うのか」と聞かれるから、当然、営業もそれがどうしても気になって、消費者のインサイトをどう満たしているかということよりも、競合とどう違うかみたいなことに関心が行きがちです。


岩本

なるほど。すごく狭い世界に入っていって、苦労して差別化した点に目が行きがちなんですね。


駒瀬

ええ。でも、それって関与の低い消費者から見たら、どうでもいいことだったりするということがあるわけです。


岩本

分かりますね。


駒瀬

いまの日本は全般的にオーバースペックになっていて、機能がありすぎて、結局使いこなせていないということが多いじゃないですか。差別化のための差別化みたいなことに陥ってというのがあるので、そこが一番の落とし穴なのかなと。だからそこは気をつけているし、常に消費者の視点を忘れないよう心がけていますね。


岩本

競合につい目が行ってしまいがちけど、もちろんそれもある程度は必要なのでしょうが、まず消費者を見ましょうという話ですよね。


駒瀬

また、何事も伝えられることでないと意味がないと思っています。 いまの日本はモノづくりとしてはすごくレベルが高くて、無名なものでもいいものがいっぱいある。悪いものを探すほうが難しいぐらいの世界です。あとは、どれだけ伝えられるかということの勝負なんだろうなと。


岩本

なるほど。改めて肝に銘じなければと思います。一番大事なところですよね。 本日は、ブラジル時代のお話から、現在携わっているお仕事、そしてマーケティング、ブランディングのお話まで、多岐にわたりお聞かせいただき本当にありがとうございました。大変勉強になりました。