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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >足立光氏

マクドナルドV字回復の立役者が語るブランド・マネージャーに必要なこと

足立 光氏

【プロフィール】

元・日本マクドナルド株式会社 上席執行役員 マーケティング本部長
足立 光 氏

一橋大学商学部卒業。P&Gジャパンに入社し、コンサルタントファームであるブーズ・アレン・ハミルトン(現 Strategy&)に入社、ローランド・ベルガーを経て、ドイツのヘンケルグループに属するシュワルツコフヘンケルに転身。2005年には同社社長に就任。赤字続きだった業績を急速に回復した実績が評価され、2007年よりヘンケルジャパン取締役、シュワルツコフプロフェッショナル事業本部長を兼務し、2011年からはヘンケルのコスメティック事業の北東・東南アジア全体を統括。ワールド執行役員 国際本部長を経て、2015年から2018年6月まで日本マクドナルド株式会社 上席執行役員 マーケティング本部長を務めた。2016年「Web人賞」受賞。



聞き手:ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 岩本




マクドナルドは一時期、ブランド力が低迷し、業績が悪化しましたが、「マクドナルドらしさ」を前面に出した数々のキャンペーン施策で鮮やかなV字回復を遂げました。その立役者の一人である日本マクドナルド 上席執行役員 マーケティング本部長を務められた足立光さんに、ブランドの立て直しには何が必要なのかを伺いました。



誰も成し遂げられなかったことを成し遂げたい

聞き手

最初に、足立さんのご経歴を教えてください。


足立

大学時代に竹内弘高先生(現一橋大学名誉教授)からマーケティングを学び、「マーケティングとは人の心を動かし、最終的には行動を促すことだ」ということを知って、マーケティングは面白いなと思いました。当時はバブル期で、同期のほとんどが日本の銀行や証券会社、商社などに就職する中、私は外資系のメーカーであるP&Gに入社を決めました。(安定している日本の企業に勤めてほしいと)親にも泣かれましたが、(マーケティングで)世界一の会社に勤めたいと思ったのです。

日本で6年、海外で2年勤めたあと、MBAと同様のことを短期間で学べると考え、当時、世界5大コンサルティングファームの1つであったにもかかわらず、日本では知名度の低かったブーズ・アレン・ハミルトン(当時)に移籍しました。その後同じく戦略コンサルティングファームのローランド・ベルガーを経て、ドイツの消費財メーカーであるヘンケルに移籍しています。2005年に大赤字だったシュワルツコフヘンケルの社長に就任、2年で立て直したことが評価され、2007年にヘンケルジャパン取締役とシュワルツコフプロフェッショナル事業本部長を兼務し、最後の3年はヘンケルの北東・東南アジア全体を統括しました。

ヘンケルでこれ以上の学びはないかなと思えるくらい学べたので、日本企業であるワールドに移籍しました。そこでもミッションは海外進出から30年以上経っても赤字が続いている海外事業を立て直すことでした。そして、2015年より日本マクドナルドのマーケティング本部長を務めています(2018年6月末で退職。インタビュー当時は在籍中)。

経歴を振り返ってみると、同じ業種にいたことはありません。共通点は、周囲がみな「あの会社はやめた方がいいよ」という会社に自ら進んで入ったことです。仕事が「修羅場」のような会社の方が、たくさん学びがあると考えました。3、4年で次の事業に移籍するのも、新しい学びがあるからです。生き急いでいるというか(笑)。

もう1つは、誰も成し得なかったこと(会社の立て直し)を成し遂げることが、痛快に感じたのです。それであえて事業や企業を立て直すことに積極的に取り組んできたのです。


ビジネスにおいて正しいことができる「場」を

聞き手

足立さんは企業の「立て直し」としての実績を重ねられています。日本マクドナルドもV字回復を成し遂げられました。企業の業績を立て直すうえで、共通項となる肝のようなことはありますか。


足立

在籍した会社は業種も違いますし、方程式みたいなものはありませんが、1つだけいえることは、ビジネスにおいて正しいことをすれば、業績は回復するということです。私が再建に携わった会社では、私の参画前後で、主要なメンバーをほとんど変えていません。業績が沈滞していた時と同じメンバーでも、正しい決断を短期間で実施できるような場さえ提供できれば、会社は立て直せると考えています。逆にいえば、業績の悪い会社は、正しいことをできなくするような、しがらみや遠慮、諦めなどがあるのですね。


聞き手

はじめに何から着手するのですか。


足立

まずは関係者にインタビューすることから始めます。社内だけでなく、社外の方ともランチや飲みの場などを含めて、様々な場でお話をします。日本マクドナルドでいえば、店舗の方とか、フランチャイジーさんとか、サプライヤーさんとかですね。内部の方と外部の方とでは話に大きなギャップがあるので、最初の1〜2カ月は両方の方からお話を聞くことに集中します。

それを経て、大体3カ月くらいまでには、何をやるのか(やらないのか)を決めます。私は日本マクドナルドには2015年10月に入社したのですが、その年の12月には何をやるのかを発表しています。だいたいここが再建のポイントかなという仮説を立てて、それをいろんな方と話しながら検証・補足・追加していく感じですね。


足立氏

仮説を立ててから現状把握

聞き手

まずはメンバーと現状把握からやっていくのですか。


足立

いえ、仮説を立てることから始めます。「仮説思考」と呼ばれる方法で、「こうしたらどうだろう」という仮説をたくさん出した上で、現状把握を深め、検証・補足・追加していくのです。何も仮説がないうちから、消費者調査をしたり、インタビューをしたりしても、あまり意味がありません。


「遊び心」がマクドナルドらしさ

聞き手

日本マクドナルドの業績のV字回復のお話を伺いたいと思います。足立さんは2015年10月に入社されましたが、当時は顧客離れが相当進んでいたのではないですか?


足立

2014年7月に食肉賞味期限偽装問題があって、2015年1月に異物混入の事故があり、2015年12月期は347億円の赤字となっていました。一番顧客離れが進んでいた時期かもしれません。しかし、2015年5月には「ビジネスリカバリープラン」がすでに発表されていて、店舗改装も進んでいました。私自身は比較的よいタイミングで参画できたかなと思っています。


聞き手

その時の日本マクドナルドには、どんな問題があると思っていらっしゃいましたか。


足立

1つは「健康を志向したような新製品が、マクドナルドらしくないな」と思っていました。率直に言ってマクドナルドのお客様の多くは、健康よりも「ガツンとしたおいしさ」を求めていらっしゃると思うのです。そこで野菜がどうとか、カロリーがどうといった訴求の仕方はあまりマクドナルドらしくないと思っていました。

2つめは期間限定品が多く、レギュラー商品にあまり力を入れていなかったことです。期間限定品で利益を上げようとするのはビジネスの落とし穴です。マクドナルドの場合、期間限定品は全体売上の3割ほどにしかすぎず、日本限定のため利益率も低く、そこで業績の回復につながるような売上や利益を上げようとしても、限界があります。プロモーションに多額の費用をかけて販売しても、販売期間が過ぎてしまえば期間限定品は売れなくなります。つまり、今月の売上が良くても、来月は良いかどうかわからないという意味で、事業の安定性にも欠けます。

3つめは、これは世間から叩かれていた時期なので仕方がないのですが、真面目なキャンペーンが多くて、マクドナルドらしい「面白さ」がないなと思ったのです。マクドナルドの競合は、私はオリエンタルランド(東京ディズニーリゾートの運営会社)だと思っています。「Fun Place to Go (面白さ・遊び心)」を打ち出しているところこそがマクドナルド特有のアイデンティティだと思っています。そういった遊び心を復活させようと考えました。


PRとSNSをコミュニケーションの中心に据える

聞き手

その中で打ち出された方針にはどういったものがあるでしょうか。


足立

1つは先ほどの「遊び心」を前面に出したプロモーションです。2つめは、「メディやお客様に広告してもらう」ことを考えました。当時マクドナルドはメディアから相当叩かれましたが、逆にいうとメディアからの注目度は高いということです。メディアも新商品が出ると、掲載してくれるので、それを最大限にポジティブなメッセージに変えようと。また、顧客離れといっても、当時のマクドナルドには1日150万人~200万人が来店されてました。そのうちの1%の方にツイートしてもらえば、1万5000~2万ツイートにもなります。当時のマクドナルドは信用を失っていました。そのため自分たちで「こういった美味しい商品が出ましたよ」と訴えるのではなく、メディア(PR)やツイッター等のSNS(による口コミ)を、コミュニケーションの中心に据えることにしました。

3つめは、ポジティブなニュースを矢継ぎ早にたくさん配信することです。ポジティブなニュースをどんどん発信していくと、当時、Webの検索で上位を占めていたマクドナルドに関するネガティブなニュースはどんどん下の方に下がり、見えにくくなります。ネガティブな印象を消すためにも、ポジティブなニュースを多く出すことは有効なのです。

マクドナルドは1カ月前に予約して計画的に行くレストランとは全く異なり、いわば衝動的に来ていただく店です。衝動的に来ていただく確率を上げるためには、マクドナルドに関するポジティブな話題にたくさん触れていただくことが必須です。そのためにも、マクドナルドのニュースは、あればあるほどいいのです。


聞き手

具体的にどのようなキャンペーンを行われたのですか。


足立

2016年のはじめには「名前募集バーガー」「チョコポテト」などのキャンペーンを行いました。新商品に名前を付けてもらう「名前募集バーガー」(選考の結果「北のいいとこ牛(ぎゅ)っとバーガー」に決定)は約500万通もの応募があり、「話題は作ることができる」という手応えがありました。

同時期にマックポテトにチョコレートをかけた「チョコポテト」も話題になりました。非常に好みが分かれる商品でしたのが、話題性のためにも出してしまおうということで商品化しました。テレビCMで「絶対に美味しくない」と言わせたのですが、広告代理店からは「そんなメッセージを出したCMは史上初めてですよ」と言われました(笑)。

前述した「ガツンとしたおいしさ」というマクドナルドの特徴を出したのが、2016年4月の「グランドビッグマック」「ギガビッグマック」です。これも話題になりましたし、肉(パティ)が一部の店舗では品切れになるほどの売れ行きでした。「マクドナルドらしさ」がしっかりと受け入れられたのだという手応えを感じたと共に、メディアを通してのPR露出が強力であることを再確認できました。また、この商品あたりから、メディアのマクドナルドに対する論調が、少しポジティブになってきたことを感じました。

2016年5月の「クラブハウスバーガー」の企画は、食べたお客様に、5点満点で味を評価していただく、というもので、SNSなどでみなさんにアップしていただき、売上にも直結しました。いわゆる「消費者参加型」のキャンペーンが効果的であることは、ここで手応えから確信に変わりましたね。

「裏メニュー」や「怪盗ナゲッツ」などの企画も、マクドナルドらしい遊び心が込められた企画だと思います。「裏メニュー」は、実は商品的にはレギュラー商品にトッピングしただけなのですが、これも売れ行きが良くて、レギュラー品でもちゃんと話題性を付ければ売れるのだという確信につながりました。


聞き手

「ガツンとしたおいしさ」「遊び心」などのマクドナルドのアイデンティティを取り戻す企画だったといえますね。


足立

入社前にある方から「マクドナルドのアイデンティティは『背徳感』なんじゃないの」と言われて「それだ!」と思いましたね(笑)。


聞き手

ポテトだけでもカロリーがあるのに、さらにチョコレートをかけるなんて、確かに背徳感がありますね(笑)。


「ポケモンGO」をきっかけに「全方位外交」

聞き手

「ポケモンGO」などタイアップも多いですね。


足立

先ほどお話した「衝動的に来店していただく」ために始めたのが、各社様とのアライアンス(提携)です。

「ポケモンGO」に関しては、マクドナルドに、食べるとか休憩するとかとは「違う」理由で、多くの人に来ていただきたいという思いがありました。PRはプレスリリース1本打っただけですが、田舎だと「ポケストップ(道具などを入手できる場所)に行くにはマクドナルドしかない」という状況にもなり、ゲーマーの間では瞬く間に広まりました。

広告しなくても、従来と異なる客層が、わっと集まる――そんな発見があって、以降同様のアライアンスを組むようになりました。ゲームでいえば「グランブルーファンタジー」「ウイニングイレブン」などです。ドコモ、au、楽天様などともアライアンスしています。どのタイアップ先にも数千万人レベルのお客様がいらっしゃいますから、効果は抜群です。これまでマクドナルドはアライアンスに消極的でしたが、今は「全方位外交」を行っています。


聞き手

スタッフの教育について、行われていることはありますか。


足立

日本マクドナルドには「インナーコミュニケーション部」という社員・店員向けにコミュニケーションを行うしっかりした部署があって、全国の社員・店員に改善を指導したり、研修ビデオを見てもらったりと、様々な教育を行っています。しかし社員・店員の一番のモチベーションは売上です。売上が上がらないのに、メッセージを発信しても響きません。現在30カ月連続増収(インタビュー当時)ですから、店舗スタッフはノリノリでしょうね。モチベーションも高く接客できていると思います。


学び続け、大胆に、正しいことをやる

聞き手

マクドナルドのマーケティング本部長を3年近く務められて、ここがターニングポイントだったな、あるいはここが苦労したなというポイントはありますか。


足立

2016年のはじめから、話題づくりと商品力があれば、これだけ集客できるのだという実感が持てました。今はその手法を生かして企画を考えれば大丈夫だという自信が付きました。マクドナルドはブランド力も強く、あまり心配はしていません。

苦労した点は、個人的にはありません。修羅場であればあるほど、働いている実感がわきますから(笑)。ただ一般的にマクドナルドは、日々の売上を追いつつ、月に3、4つキャンペーンを実施し、同時に1~2年後の施策も考えるという、大変な業務です。強いてあげればそういった点でしょうか。


聞き手

足立さんはまもなく日本マクドナルドを退職すると伺っています。さしつかえなければ今後のご予定を。


足立

新しい移籍先はまだ決まっていません。こればかりはタイミングと出会いがありますから。ただ私は大学時代に「周りの人を幸せにするために生きる」と決意したことを守りたいと思っています。困っている人が喜んでもらえるような、そんな仕事に就きたいと考えています。


聞き手

最後にブランド・マネージャーを目指す人、従事している人にメッセージをお願いします。


足立

3つあります。 1つは「Keep Learning」(学び続けよ)です。何才だろうが、何もしなければ落ちていくだけです。すごい勢いで勉強してほしい。通勤電車の往復1時間、年間260時間、ゲームをやめて本を読むだけでだいぶ変わってきます。「暇をつぶす」なんて考え方はないはずです。

2つめは「Go Bold」(大胆になれ)です。新しい企画でも施策でも、尖ったアイデアを出すべきです。安全策ではなく、大胆に「大成功」を狙いに行ってほしい。

3つめは「Do the right things for business」(会社のために正しいことをせよ)です。上司の言うなりに仕事をするのではなくて、自分が会社のために何ができるかを、自分で考えることです。そうして初めて、自分のキャリアにつながります。


聞き手

ありがとうございました。今後のご活躍も、楽しみにしています。


足立氏と岩本
今回インタビューを受けていただいた足立光氏と、弊ブランド・マネージャー認定協会代表理事岩本で記念撮影

※掲載の記事は2018年11月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。