一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >山崎 浩人氏 Vol.2
聞き手:一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 岩本俊幸
【山崎 浩人氏氏のプロフィール】
ネオ・アット・オグルヴィ株式会社チーフ マーケティング プロデューサー
1964年生まれ。
明治大学商学部卒業。広告会社、コールセンター事業者、モバイルキャリアレップCEO、クロスメディア事業者CEOなどを経て現職。
2012年、日本自動車メーカー8社の共同プロジェクトである「Drive Heart」キャンペーン成功の功績によって、日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会主催、第10回Webクリエーション・アウォードで、「Web人 of the year」を受賞。
マス広告・コールセンター・モバイル・クロスメディアなどの幅広いマーケティング事業を経験し、現在は「マーケティング3.0」の具現策「マーケティング3.1」と「マーケティング4O」(One Earth、One Vision、One Network、Optimization)概念を提唱している。
一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 アドバイザー
聞き手
ブランディング支援の具体的事例をお話しくださいますか。
山崎
はい。国内自動車メーカー8社の合同キャンペーンの総合プロデュースをさせて頂きました。依頼が来る前、クライアントさん達も、8社合同という前代未聞の試みで、プロジェクトを進めるのに苦労しているようでした。東日本大震災の年のことです。いまでも多くの人の脳裏に焼き付いているでしょう。津波で流される自動車の映像。メーカーの人たちは、自分たちがつくった自動車が流されているのを目の当たりにして、なにかできることはないかと考えたそうです。若者の車離れをなんとかしたいという、自動車メーカーの共通課題は以前からありました。それらが8社合同のキャンペーンになったのです。
聞き手
そこでまずキャンペーン全体のコンセプトづくりをしたんですね。
山崎
我々は、“Drive Heart”というコンセプトに行きつきました。自動車の本質的価値とはなんだろうというところから出発して、大事な人に会いに行く、大事な時間を共有するものだと考えたんです。ドライブさせているのは自動車そのものではなくハートである、と。8社合同という事情もありましたが、「車は登場させない」と伝えました。主役はあくまで車にまつわる思い出、その思い出を持った人々だと。しかしストーリーの脇には、必ず車がそっと寄り添っている。そういう設計が必要だと思いました。
聞き手
この事例の成果を、どのように評価していますか。
山崎
8社合同のキャンペーンということで、革新性や話題性は充分にありました。私としては、共感性を付加することができたと考えています。保有者の自動車に対する好感を、車を持っていない人に共感してもらうというシナリオでした。自動車に興味のない若者の共感を得て、車離れに一石を投じたという意義はあったのではないでしょうか。定量的にともかく、定性的にはインパクトがあったと評価しています。私自身はプロジェクトのみなさんを代表して、「Web人 of the year(https://award.wab.ne.jp/pdf/20120903release.pdf)」という賞も頂いて、大変意義のある仕事でした。
聞き手
中小企業のブランド支援についてはどのようなお考えですか。
山崎
大企業に比較すれば、どうしてもリソースが少ないでしょうから、そうした中小企業では、ブランディングはより重要だと思います。
聞き手
協会著『社員をホンキにさせるブランド構築法(http://www.brand-mgr.org/bm_book/)』をお読みくださったそうですが、感想はいかがでしょうか。
山崎
この本はエモーショナルな点がとてもいいと思いました。特に後半の事例では感動しました。登場している人たちの本気度やその成果、周囲の人たちが感化された話など、どれも読み応えがありました。改めて、人間は気持ちで動くということを認識しました。また、ブランディング自体が情緒的な価値のあるものだということを再認識できたのも嬉しいです。ブランディング支援をしていると、クライアントも自分たちも、テンションが上がります。自分たちの意義を再認識できるんです。すごくエモーショナルな影響があると思います。
聞き手
ここに掲載されている事例は、理念経営をしている企業です。サービス業が多いのですが、サービス業のブランディングについては、どのようにお考えですか。
山崎
サービス業でもメーカーでもあまり変わりないと思います。ブランディングを通じて、相手がどう変わったかが問題だと考えていますので。ある自動車メーカーさんの話ですが、車好きにフォーカスしたコミュニケーションをしています。ところがそのクライアントさんは、自動車を好きじゃない人たちにも、そのメーカーを好きになってもらいたいと言っています。それなら、運転する人だけに目を向けるのではなく、助手席や後部座席の人のことも考えるべきでしょう。ドライビングのよさをドライバー以外の人、場合によっては、走っているのを見ている人にまで分かってもらえるようにすべきです。そのような変革をしてもらうことが私の役割ですから、どんな業種でもあまり違いはありません。
聞き手
そのようなブランディング支援をする場合に、キャリアを通じ一貫して大切にしていることはありますか。
山崎
相手に対しては、その人が本気かどうか。本気であれば、条件が悪くても手伝います。本気で会社を変えたい、会社を通じて社会に貢献したいと思っているかどうかです。自分自身が心がけているのは、視点です。俯瞰する視点。本質を捉える視点。そして先見性。それらを意識しています。少し違うかも知れませんが、鈍感力も必要だと思っています。物事を変えていこうとすると、どうしても周囲から反発がありますから。目的と手段をはき違えないということにも通じます。例えば、デジタル化。デジタルそのものを目的にしてしまう人が多いですね。いくら先進的でもデジタルは手段です。目的はブランディングのはずですから。
聞き手
その人の本気度は、どのように見極めているのでしょうか。
山崎
議論してみると分かりますね。本気で深堀しているかどうか、長期的視点に立っているかどうかとか、危機感の強さが伝わってきます。
聞き手
ブランド構築に成功している企業に共通点は感じますか。
山崎
しっかりとした創業者理念です。創業者が現役であれば、それが浸透しやすく、ブランディングも全社に行き渡っています。創業から年数が経って、その理念を体現する人物がいなくなると、どうしても理念が薄れてしまいます。それでも成功している企業は、理念の継承が仕組化されているところでしょう。
聞き手
企業理念とは、そもそもどんなものだとお考えですか。
山崎
私は、“らしさ”の言語化だと言っています。具現化できなければ意味がありませんので、企業風土などを活かした理念をいかに実現させるかを考えると、らしさを言語化しなければなりません。
聞き手
理念とブランドの違いはなんでしょうか。
山崎
同じものだと捉えています。ブランドは、残念ながら人によって解釈がまちまちですが、イコール理念と考えた方が分かりやすいでしょう。ブランド=理念というと、違和感を覚える日本のクライアントが少なくありませんが、外資のブランドの中には、ブランドは理念そのものだと言っている企業もあります。日本と海外の、そのギャップは埋めなければなりません。ある企業の現役の創業者は、すばらしい理念を語っています。しかしCMは、その理念とはかけ離れています。理念をブランドコミュニケーションに落とすべきだと、クライアントに訴えているのですが、なかなか難しいです。グローバル企業でも、そういうことが起こります。グローバルではとてもいいブランディングをしているのに、日本では表面的な表現になっている企業があります。そういう企業のCMが、国内で評価されてしまうので、改善されないのでしょう。
聞き手
関連していると思いますのでお聞きしますが、御社の創設者、デイヴィッド・オグルヴィとは、山崎さんにとってどんな存在ですか。
山崎
自分が考えていたことを、こんなに前に証明してくれている人がいたのか、と思っています。ブランドが大事であること。売れなければ意味がないこと。それは、販促ではなく、売れるブランディングをしなければいけない、ということです。データの大切さも、オグルヴィが証明してくれています。当社は、その創業者の理念が現在に見事に引き継がれていますよ。
聞き手
最後に、山崎さんが今後目指していることをお聞かせくださいますか。
山崎
これまで大企業を中心として担当し、また担当先のレイヤーは少しずつ上がっています。が、個人的には、今後は最上位のレイヤーの人たちを支援していければと考えています。そうでないと世の中にインパクトを与えられませんから。それから、スポット的な案件ではなく、より戦略から実行までトータルに関わるような事例を手がけたいと思います。
聞き手
大企業だけでしょうか。
山崎
もちろん中小企業も含め、上位のレイヤーの人と仕事をしたいと考えていますよ。きちんと理念経営を行っている人と。大企業は時に動きが遅いことがありますが、中小企業は反応が早いですよね。そういう企業のブランディング支援をして、国内の成功事例を増やしたいと思っています。
聞き手
本日はどうもありがとうございました。
※掲載の記事は2017年4月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。