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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー > 田島 宏氏

『正解からはみだそう』というメッセージのもと“ぺんてるらしさ”を追求
インターナルブランディングで社員全員を“伝道師”に

ぺんてる株式会社田島 宏

Profileプロフィール

ぺんてる株式会社 経営戦略室ブランド企画課担当次長

1990年ぺんてる株式会社入社。新規事業の企画・販促などに携わり、2003年にデジタルペン「airpen」シリーズの事業立ち上げに携わる。
その後、文具の企画・販促を行う国内マーケティング部を経て、2017年に経営戦略室に配属。
2020年8月に経営戦略室ブランド企画課の担当次長に就任。同社の広報やコーポレートブランディングを担当。

今年創業76年目を迎えた、画材や筆記具などの文具の製造・販売を手掛けるぺんてる株式会社。
サインペンやノック式シャープペンシルといった画期的な製品を世に送り出してきた同社では、既成概念を超え、表現する喜びを生み出す「ぺんてるらしさ」を表現するため、「正解からはみだそう」というメッセージのもとブランディングを推進。
まずは全社員を「表現することの価値」の“伝道師”とすべく、インターナルブランディングに力を入れています。経営戦略室ブランド企画課担当次長の田島宏氏(以下、田島)に、ぺんてるのブランディングについてお話を伺いました。

狙いはコーポレートブランドの強化

Q. 初めに、田島次長がブランドに関わるまでの道のりを教えてください。
これまでにどのような仕事に取り組まれてきたのでしょうか。
私がぺんてるに入社したのは1990年。
初めは販促の部署で、新規事業の企画系の仕事を5年ほど担当していました。
その後、2003年にイスラエルの技術を使ったデジタルペンシリーズ「airpen」の企画担当を任され、最終的には事業責任者として7年ほど仕事をしました。それから国内マーケティング部で文具の企画・販促を担当したのち、2017年に今の経営戦略室広報課(当時)に配属されたのです。

現在の肩書は経営戦略室ブランド企画課の担当次長で、従来の広報の仕事に加え、コーポレートブランディングの仕事を担当しています。
Q. ぺんてるのブランディングに関わるようになった経緯を教えてください。
ブランドに携わるようになったのは、2019年3月に4人でタスクチームを立ち上げたときからです。
プロジェクトリーダーを任されることになり、製造、販売、販促、マーケティングなどの各部隊から改革意識の強い中堅の社員を集めました。メンバーは16人で、私がファシリテーターとなってワークショップを運営していました。
その後、2020年7月に経営会議でブランド戦略のプランが決済され、8月には広報課がブランド企画課になり、会社としてブランド戦略に本格的に取り組んでいくことになりました。
そこで、まずはインターナルブランディングからスタートすることになったのです。
Q. インターナルブランディングの具体的な取り組みについてお聞きしたいのですが、まずは理解を深めるために、ぺんてるの社風からお聞かせください。
他社のものまねをしない風土があると思います。
世界にまだないものを作りたい」という信念があり、たとえばサインペンや現代的なノック式シャープペンシルを世界で初めて開発したのが当社です。
鉛筆がある中でシャープペンシルを作ったり、油性マーカーや万年筆がある中で、裏写りしないペンが作れないかという発想で水性のサインペンを作ったりとベンチャー気質の会社で、アイデアを尊ぶところがあると言えます。

個人的にはマーケティング志向ではないと感じていて、コストをかけてマーケティングして発売した商品はあまりヒットしていません。(笑)
むしろ、肩の力を抜いて自分たちが作りたくて開発した商品がヒットしていますね。
たとえば最近も、1本の芯がなくなるまで自動で出てくる3000円のシャープペンシルが大ヒットしました。
Q. プロダクトアウト思考ですね。
そうですね、そのほうがうまくいく伝統があるんです。
油性ボールペンは筆記具でマーケットサイズが一番大きいカテゴリーなのですが「油性ボールペンだけは作らない」とか。(笑)
それぐらいものまねを嫌う社風なのです。
そのぶんアイデアの提案は活発に行われてきたので、革新的な製品を送り出せてきたのだと思います。ただ、0から1を生み出すのは得意なのですが、1を10にするのは下手で。市場を開拓するけれどシェアは競合に取られる、という(笑)。
Q. なるほど。では、いよいよブランディングについてお伺いしたいと思います。ブランド戦略の狙いを教えてください。
狙いはコーポレートブランドを強くすることです。
ぺんてるらしさ」とは何か、きちんと消費者に認知してもらおう、と。製品名ではなく、会社名で検索してもらえるように。
製品ごとに個別ブランド、アンブレラブランドが数多く存在してしまっており、イメージが統合されていない状態です。今は「正解からはみだそう」というブランドメッセージのもと、イメージを統合するために設計している途上です。
Q. コーポレートブランドを作り、企業としてブランドの耐久力を作っていこう、というわけですね。そのようなブランディングを始めたのは、何か課題があったからですか?
はい。2013年に、「ビジョンプロジェクト」という別のブランド活動があり、ビジョンを立てたことがあったのです。「表現するよろこびを育みます」というステートメントを作って、それが当社の独自の価値なんだと。
ただ、具体的に何をすればいいのか、「表現するよろこびを育む」とはどういうことなのか、どういう製品を作ればいいのか、社員も腹落ちしていなかったんですね。行動変容を起こすところまでたどり着けなかったんです。
そうした経緯があり、2019年にコーポレートブランドを強くしようと活動を始めたわけです。

もう一つの課題は、若手社員に話を聞くと、新製品が出ても触ったことがない、というケースが多かったのです。自分たちで製品の良さを理解していないのに、表現するよろこびを広めようと言うのは無理がある。
今回、インターナルブランディングから入ったきっかけも、そこに理由があるんです。
社員全員が「表現することの価値」の伝道師にならないと、理念なんて発信できないので。

また、一昨年、敵対的買収という資本問題が起きたのですが、資本的合理性という観点から、外部からは「合併したほうがいいんじゃないか」という声も聞かれました。それに対して、我々としては、そんなことはない、やはり理念を強く発信しなければいけない、と感じたんです。
Q. ブランドという言葉は曖昧で分かりづらい面もあります。
社内的な抵抗はなかったのでしょうか。
実は今回、社内発信する際も、「ブランド」という言葉を使うか使わないか、プロジェクトチーム内で議論はありました。
ただ、先ほどお話ししたような外部からの事案もあり、今だからこそ前に進むべきと考え、資料をまとめあげて「これしかないです」と会議を通したんです。
ただ、「正解からはみだそう」というブランドメッセージには分かりにくい部分もあるので、強い支援と強い反対が半々だったことも確かですね。

“チャレンジ精神”をブランドメッセージで表現

Q. ブランドメッセージ「正解からはみだそう」は、いつ誕生したのでしょうか。
先ほどお話ししたタスクチーム時代です。このころ、ブランドに関心がある4人が集まって、「ぺんてるらしさって、どういうことだろう」と月に2~3回ワークショップを繰り返していました。
たとえば、ぺんてるらしいシーンを画像で集めて発表したり、それぞれがリリースを書いてみたり、いい部分や悪い部分についてディスカッションしたり。また、製品ごとのブランドの物語を共有して、気づいたことを話し合いました。
そうした活動を経て「正解からはみだそう」という言葉に行き着いたんです。
Q. どのような意味が込められているのでしょうか?
「もともと、 “ぺんてるイズム”はチャレンジ精神なので、そのチャレンジする風土を価値として発信すればいいかな、と考えていたんです。
それで「一番エッジの効いた言い方」をゲーム的に発案していきました。
そして、表現することの価値は何かと考えると、「自分の中にあるものをアウトプットすること、表現することは尊い」という視点に行き着いたんです。
描くことによって自分の中にある正解に気づくことができ、それによって既成概念から抜け出せるのじゃないか…と。

チャレンジするには、正解だと思っていることから脱却しないと踏み出せない。だから、これは社員に対しての言葉になっていると同時に、我々がどういう価値を提供する会社かを世の中に発信する言葉でもあるんです。
Q. ブランドメッセージができて、それをどのように社内で展開していったのでしょう。難しさもあったと思います。
言葉としての分かりにくさという懸念は、プロジェクトメンバーの中でもありました。
経営会議でも言われましたね。
「『売り上げは達成できていないけど、正解からはみだしているからいいですよね』というセールスマンが出てきたらどうするんだ」と。(笑)
でも、それは想定内の質問でしたので、「当社の理念であるチャレンジをするためには、既成概念を疑うこと、一人ひとりが正解を持つことが必要で、この言葉にはそういう意味が含まれているんです」と説明しました。
経営層には、確かに“チャレンジ精神”などの言葉のほうが分かりやすいのです。

でも「正解からはみだそう」も、言っていることは実は同じ。だから「ベテラン中堅社員にはいまひとつピンと来なくても、若手社員にはこの言葉は勇気になる。
若手社員のためにいまの言葉に翻訳するなら、こっちじゃないとだめなんです」と言って、納得を得られるようにしました。
Q. ほかに、ブランドメッセージを浸透させるために行ったことや、ブランディングで実施したことは?
まず、150ほどの施策を社内向けと社外向けに分け、すぐに着手できるもの、時間を要するもの、即効性があるもの、じわじわと効いてくるものという軸でポートフォリオを作りました。
そしてどのような施策から始めるかを考えたとき、まず経営トップから強いメッセージを発信してもらう必要があると考えたのです。

そこで、年頭のあいさつで社長から、「正解からはみだそう宣言」をしてもらいました。また、宣言の前には表現する喜びとはどういうことか、社員が自ら体験し腹落ちするイベントが必要だとなったのです。

それが昨年に実施した最初の社内イベント「PENTEL RAKUGAKI WEEK」です。
イベントはメイキング動画の制作も含め、すべてブランド企画課の仕切りで行いました。
どのようなイベントかというと、大きな帆布にテーマだけ決めて書き方は指定せず自由に表現してもらった作品を、世界中のぺんてるグループの拠点から集めて一枚につなげてみようというものです。布や画材、筆記具はパッケージして全世界のぺんてるグループ各拠点に発送しました。
12月には160の作品と制作風景の写真や動画が集まり、茨城工場のグラウンドに作品を展示してドローンで撮影、宣言の前に配信しました。そこまでがインターナルブランディングの第1弾ですね。
Q. そうしたブランディングを実施してみて、どのような手応えを感じていますか?
大人がクレヨンや絵の具を握って自由な表現ができるのか、という懸念がありましたが、想像以上の出来でした。

振り返ってみて分かったことは、この会社に集まる社員は、子供のような心を失っていない、ということ。
彼らが感じた“表現するよろこび”を世の中に伝えていくのがうちの会社なんだよ、と理解してもらうためのイベントでしたが、社内評価がとてもよかったんです。
コロナ禍のため、海外販社の社員の参加は無理じゃないかという意見もありましたが、蓋を開けてみると、海外販社では最小単位、部署単位で集まってくれました。そうした結果を見て、チームビルディングのような効果もあったんだということも発見したのです。
Q. 最後に、田島さんがブランディングにおいて大事だと思うことと今後の展望を教えてください。
ブランディングに関わるまでは、仕事のモチベーションは「モノづくりがしたい」ということでしたので、どこか縁遠いものだと感じていたんです。
ただ、モノづくりの価値をしっかり伝える手段として、ブランディングはすごく相性がいいということが業務を通じて分かりました。今はブランドに関わっていることがしっくりきていますね。自分の仕事への熱量はモノづくりへの共感がエンジンになっているので、そこに共感できるブランド・マネージャーでありたいと思っています。

今後の展望としては、「正解からはみだそう」という理念もそうですが、ブランドは定着するまで相当時間がかかると思います。
自分のキャリアを考えると、おそらく自分がいなくなったあとに自走するイメージですね。
今ぺんてるは創業76年目ですが、100年目を迎えたときも、ぺんてるが唯一無二で世の中から必要とされている企業であるように、ブランド価値がそのままずっと存在していることが夢。
自分がいなくなってもブランディングの力でブランド価値が持続していることが目標です。

※掲載の記事は2021年5月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。

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