チームのベクトルを合わせて“革新”軸にリニューアル
世界へ躍進する稲庭うどんのブランディングとは?

株式会社ビスポーク長田 敏希氏
Profileプロフィール
株式会社ビスポーク 代表取締役CEO/ブランドコンサルタント・クリエイティブディレクター
広告代理店を退社後、チームビルディング、ブランディングを核に多角的ソリューション提案を行うコンサルティング企業の株式会社ビスポークを設立。
世界三大広告賞のカンヌライオンズ、The One Showをはじめ、D&AD、NY ADC、iFデザイン賞、グッドデザイン賞、毎日広告デザイン賞など国内外の受賞多数。
著書に『ブレイクスルーブランディング』がある。
ブランディング事例コンテストは2018年度に「能登輪島米物語」で準大賞、2019年度に「鈴ノ屋きなこ棒のブランディング」で優秀賞を受賞。
2023年度に「稲庭うどんのブランディング」で地方創生審査員特別賞受賞、「正則学園高等学校」で、最優秀賞・大賞を受賞。
秋田県稲庭町が発祥の稲庭うどん。
秋田を代表する食品のひとつですが、近年は乾麺の生産量が減少し、市場が縮小化するなどの課題を抱えています。
そんな中、稲庭うどんメーカーの「稲庭うどん小川」では、挑戦、革新を軸にブランディングに着手。
パッケージを刷新するなどした結果、海外売り上げが390%アップするなどめざましい成果を生み出しました。
「稲庭うどん小川」のブランディングを担当した株式会社ビスポークの代表取締役CEO長田敏希氏にお話を伺いました。
市場の縮小や強力な競合が課題
まずは今回のブランディングの背景について教えてください。
今回のブランディングは、秋田の稲庭うどんメーカー「稲庭うどん小川」様の事例です。
「稲庭うどん小川」ではブランディング以前、大きく分けると3つの課題を抱えていました。
1つ目は「市場の縮小化」です。
稲庭うどんを含む乾麺の生産量は、この10年で約20%縮小しています。
共働きが増え、時短を優先する方が増えている中で「手づくり機運」が低下していることや、稲庭うどんの価値が若い方に届いておらず、顧客の高齢化が進んでいることがその要因です。
小川さんも、この市場の縮小化をじわじわと体感されており、「現状維持ではまずい」という思いを抱えていました。
そして2つ目は、「強力な競合の存在」が挙げられます。
小川さんは創業40周年を迎えるメーカーですが、稲庭うどんの業界1位のメーカーは創業160年と長い歴史があり、認知度も非常に高く、競合他社のつけ入る隙がなかなかない状況でした。
最後に3つ目は、販売を商社に一任していた「ビジネスフロー」です。
製造後に商社の方に商品を卸すビジネスフローのため、商社に販売を依存してしまっており、顧客イメージがつかめていない状態だったのです。
「革新・挑戦」軸にパッケージをリニューアル
まず行ったのが、チームのベクトルを合わせることでした。
経営層の方も工場の方も、「稲庭うどん小川」に関わる方にはすべてご参加いただき、「ブランドとは何か」「自分たちの魅力は何か」「どんな方が自社の商品を最大評価してくれるのか」について、徹底的に話し合いました。
そして、そこで導き出されたキーワードをもとに3C分析を行いました。
ほかのほとんどの乾麺は麺が切れないように油を塗って伸ばすのですが、稲庭うどんは熟成回数を繰り返すことによってコシを作り、油を使わずに麺を伸ばしておいしさを増していきます。
そのような製法から生まれる手間とヘルシーさに価値を感じる方をペルソナに据え、「ヘルシーな独自製法で、乾麺にイノベーションを起こす。県内シェアを最大手に取られているため、世界市場&東京を狙う」を市場機会に設定しました。
また、各社の稲庭うどんのパッケージやWEBサイトを横一列に並べてみると、どれも画一的で、見え方に差がないことに気づきました。
各社とも伝統・保守に軸足を置いて訴求を行っているため、違いがなかったのです。
そこで「稲庭うどん小川」では常識を破る、挑戦、革新方向に軸足を置いた戦略を取ることに決めました。
このような考えから生まれたブランド・アイデンティティが「稲庭うどんに革新を。TENOBE INOVATION 手延べイノベーションを起こす」です。
このブランド・アイデンティティを受け、パッケージから改革を始めました。
パッケージには社名がわかりづらいという課題を感じていたので、リニューアルでは、パッケージ上部に「TENOBE INOVATION」と入れて革新性とアイデンティティを伝え、自社のポジションを宣言しました。
また、「小川」の文字には稲庭うどんの吊るしの製法をイメージしたアイコンを盛り込みました。
さらに「油不使用」という文字や原料のこだわりなども表記するようにしたのです。
リニューアルの過程では、主力の取引先や商社から「こんなにパッケージデザインを変えたらお客さん離れちゃうよ」という声も出ましたが、「チーム稲庭うどん小川」として自分たちの向かうべき道に確信を持っていたため、しっかりと説明してご理解いただくことができました。
売上120%アップ、販路も拡大
パッケージのリニューアルから3か月後に効果が現れました。
「油不使用」としたことで、大手ドラックストアでの販路を獲得。
また、大手コンビニエンスストアではプライベートブランドではなく自社商品として採用されるなど、販路を大きく伸ばしました。
これにより、ブランディング後の売り上げは120%アップしました。
さらに、EC サイトの売り上げは 312%アップし、海外での販路も15か国から34か国へと拡大。
海外市場の売り上げは390%アップしました。
新規取り扱いは3000店舗以上に増加し、反対していた商社の方からも「変わって良かったね」とお声掛けをいただきました。
成功の要因の裏側には、パートナーの商社さんともベクトルを合わせたことがあると思います。
今回のリニューアルの経緯をご説明し、小川さんの思いをお伝えし、その思いを凝縮したツールを作って商社社内でも回覧いただきました。
通常、メーカーの思いは、商社、小売、顧客……と先にいくにつれて伝言ゲームのように尻すぼみになってしまいますが、そのようなことが起こらないように密に対話し、思いをブランドブックにして「見える化」していきました。
このツールを商社、小売の方に提案に使ってもらい、ブランドとしてのブレを防げたのだと思います。
また、このイノベーションを継続していくため、私たちは「TENOBE INOVATION PROJECT」を立ち上げました。
プロジェクトの一環として、老舗のかつお節問屋の「丸眞」さんとコラボレーションし、麺もつゆも無添加の稲庭うどん専用つゆを開発。
「新東北みやげコンテスト」で入賞することができました。
さらに、世界市場での拡大を狙い、産学官連携で学生とフランスの市場調査も行い、バジルソースの稲庭うどんをお弁当として販売したほか、食品ロスの取り組みとして、日本初の稲庭うどんの端材を利用したご当地エールも作りました。
このほかにも、世界の食卓に稲庭うどんを届けるという思いのもと、日本初の稲庭うどん専用のヴィーガンつゆも開発しています。
今後も、「本物の稲庭うどんを世界の食卓へ。」というビジョンのもと、世界の市場を更に広げていき、日本の「食文化」を多様な文化や価値観を持っている方々に届けていきたいと思っています。
※掲載の記事は2024年10月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。
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