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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー > 元永 純代氏

「情報と情報の掛け合わせ」で新たな価値を生み出すCCC。 
「代官山 蔦屋書店」が実践する“顧客価値”のための取り組みとは?

カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社元永 純代

Profileプロフィール

カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 社長室/広報

跡見学園女子大学非常勤講師。
中央大学大学院戦略経営研究科修了。経営修士(専門職)。
ぴあ、エスクァイア マガジン ジャパンで雑誌編集に携わり、2009年にカルチュア・コンビニエンス・クラブに入社、現在に至る。

DVDなどのレンタル業や書店、共通ポイントサービスなど様々な事業を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)。
「代官山 蔦屋書店」をはじめブランド化された店舗によって新たなライフスタイルを提案し続けています。
企画会社」を標榜するCCCの「顧客価値」のための取り組みとは、はたしてどのようなものなのか。
CCC社長室/広報の元永純代氏に、同社の戦略インターナルブランディングの取り組みなどについてお話を伺いました。

企画とは「情報と情報の掛け合わせ」である

Q. 本日は、日本最大書店チェーン「TSUTAYA」「蔦屋書店」、ポイントサービス「Tポイント」などを展開することで「新しいライフスタイル」を提案し続けるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下CCC)のブランディングについてお話をお伺いしたいと思います。
まずは理解を深めるため、元永さんの現在までのご経歴から教えてください。
入社は2009年です。以前は「ぴあ」や「エスクァイア マガジン ジャパン」などで雑誌の編集をしていました。
転職後は、すぐに「代官山 蔦屋書店」のプロジェクトに参加することになり、2010年から社長室/広報に所属しています。
当社社長の増田宗昭が直感的に発するフレーズを理論的に獲得したいと考え、2017年からは中央大学の大学院にも行き、田中洋教授のもとで学びました。

「代官山 蔦屋書店」のプロジェクト自体は2009年当時からあり、メンバーは私が3人目。
「この場所にどんなものがあったらいいか」という話から始めていました。
当時、ここは森だったので「森の中の図書館」というキーワードは当初からありましたが、具体的なことはまだ企画初期の段階でした。
Q. 日々の業務内容について教えてください。
普通は広報というと、メディアリレーションが主たる業務と思いますが、私はR&D事業に伴走する仕事が多いです。
メディアにPRすることよりも、メディアが取材したくなる要素をつくっていく仕事、ともいえます。
CCCの場合、非上場企業なので、会社として大きく何かを広報していくことが他企業に比べると少ないのですが、会社を運動体とみたときにそのメッセージを後の世代に残していくための出版活動や、ブランドコンセプトブックの制作なども行っています。
Q. CCCの事業内容について教えてください。
具体的には「プラットフォーム」、「データベース」、「ライフスタイルコンテンツ」の3つの事業があります。
プラットフォームはたとえば「TSUTAYA」、「蔦屋書店」、「Tポイント」や「Tカード」。
そして、そのTポイントから得られるビッグデータを利活用するのがデータベース事業です。
ライフスタイルコンテンツというのは生活提案のためのコンテンツで、店頭で「モノ」や「コト」をキュレーションしてライフスタイル提案をすることはもちろん、本の販売、制作、グループ会社による映画製作なども行っています。
今年のアカデミー賞に作品賞などでノミネートされた映画「ドライブ・マイ・カー」もCCCのグループ会社が制作しました。
そうした諸々を行うのがライフスタイルコンテンツです。
Q. CCCは「本・映画・音楽などを通してライフスタイルを提案する」という思いが創業の意図にあるということですが、増田社長はどのようなきっかけでそう考えるに至ったのでしょうか。
増田は、CCCを創業する前はファッションブランド「鈴屋」に勤めていました。
当時勢いがあった鈴屋で働いているうちに、増田は「みんな、服を買っているのではなくライフスタイルを買っているんだ。このジャケットが欲しいわけではなく、このジャケットを着て働いている自分を想起しながら買っているのではないか」ということに気がついたんです。
それで、会社に「ライフスタイルを提供する事業」を提案したのですが、「それはうちの仕事じゃない」と却下され、それなら自分でやってみよう、と思ったそうです。
Q. ブランド・ステートメントで「『ヒトと世の中をより楽しく幸せにする環境=カルチュア・インフラ』をつくっていきます」とありますが、これは「新しいライフスタイルの提案」と連動しているのですね。
水道は、誰の家でもひねれば水が出てきますよね。
それがインフラだ、という考えが増田の頭にあるんです。
たとえば音楽でいうと、高いレコードをお金がなくて買えない人がいる一方、買えるうえにギターを練習できる人もいる。
でもそれはおかしい、という考えが、「すべての人に音楽を」という思いにつながっています。
それがインフラだ、と。つまり「誰にでも分け隔てなくカルチャーを」ということですね。
「company」という言葉は「会社」という意味ですが、CCCでは「仲間」という意識が強い。
カルチュア・コンビニエンス・クラブの「クラブ」も、「仲間」という意味。
「みんなで」という意識がすごくあると思います。

Q. CCCでは「企画会社」を標榜しています。
この「企画」とは具体的にどのようなことを指しているのでしょうか。
CCCでは、企画を「情報と情報の掛け合わせ」と定義しています。
1983年にTSUTAYA1号店となる「蔦屋書店 枚方店」ができたとき、世の中には本屋もレコードのレンタル店もビデオのレンタル店も存在はしていました。
ただ、その3つを掛け合わせることで、全然違う新しいパッケージが生まれた。
それが企画だ、ということです。
企画とは、びっくりするような新技術ではなく、すでに知っている情報を掛け合わせることで新しい価値が生まれ、かつ、それが人の生活を変えるもの。
CCCではそれが企画だと考えています。
また、「人の生活を変える」ことはイノベーションでもありますよね。

企画には外の業界の視点も重要なポイントです。
増田は、本屋やレンタル業を始めたときに「レンタル事業は、金融だ」と思ったそうです。 たとえば3000円のDVDのレンタルの場合、お客様にDVDを渡して300円を貰い、次の日には3000円のDVDが返ってくる。
つまり10%の利益だ、という視点ですね。
この例はわかりやすかったし、そういう見方でものを見ると、また新しい局面も見えてくるわけです。

こうした「新しいライフスタイルを提供するイノベーション」の例では、ほかには家電店と書店を融合させた「二子玉川 蔦屋家電」もあります。
これは「家電は生活を一変させるイノベーションの道具だ。これをもっと素敵な売り方はできないかな?」という発想から生まれた店ですし、近年すごく活性化しているアート分野では、2017年に「お金持ちだけがアートを所有しているのはおかしい」と、アートと日本文化に特化した「銀座 蔦屋書店」を作りました。
また、図書館の運営も行っていますが、ここでも「図書館では静かにしなければダメ」という既存のイメージに対して、「喋っても、音楽が鳴っていてもいいじゃないか」とか、「年中無休で朝から夜遅くまで開いている図書館があってもいいじゃないか」と業界の外からの視点を持ちこんでおり、それによって新しいものを生み出しています。

企画は人の理解の領域外」というのが増田の考えなんです。
つまり、理解の領域にあるものはすでにビジネスになっているから、それは新しい企画とは言えない、ということですね。
だから領域外にあるものが企画なんだ、と。
たとえばこの「代官山 蔦屋書店」も、つくるると表明したときは社員全員が反対したんです。
こんな場所に大きな本屋を作っても人が来るわけがない、と。
ここには当時、本当に人がいませんでしたから。
ただ、増田にだけは見えているものがあったんですね。
それで実際に作って可視化してみたら、みんな「なるほど、こういうことだったのか」とわかったんです。
そうした増田の考えを社内に浸透させるのが私たち広報の仕事。
いろいろな形で伝えるようにしています。

 代官山 T-SITE内『シェアラウンジ』

店ごとに異なるメッセージがある

Q. CCCでは「店舗がブランドになる」という考えのもと、イノベーションの表象となる店舗を拡大させてきました。
どのような発展を辿ってきたのか教えてください。
まず、先ほどお話ししたように1983年に1号店が誕生し、その後1999年12月31日から2000年1月1日に替わる0時00分に渋谷のTSUTAYAがオープンしました。
それから2003年に六本木ヒルズのTSUTAYA TOKYO ROPPONGI(現・六本木 蔦屋書店)、2011年に代官山の蔦屋書店、2016年に二子玉川の蔦屋家電、2017年に銀座の蔦屋書店が誕生。
2013年には函館にも蔦屋書店を作っています。
これらのお店にはそれぞれに役割があり、「そこで体験する」ということがブランドになっています。

一方で、「店舗」そのものがブランドになる、という側面もあります。
一番わかりやすい例は渋谷のTSUTAYAで、ここはテレビで渋谷の様子を紹介するときに必ず映る場所ですよね。
六本木ヒルズ店も当時鳴り物入りで生まれたのですが、ここにTSUTAYAがあることで、お店がブランドになる、わけです。
TSUTAYA TOKYO ROPPONGIのオープンの時は、同年に誕生したTカードのマークを店のマークにしました。
そんなふうに「ブランド化した店舗」の看板に商標をくっつけることでTカードのブランドの力を上げていこうと考えたわけです。

蔦屋書店の場合は、それぞれの店舗で地域特性というものを意識しています。
「代官山 蔦屋書店」など、街の名前を店名の前に付けるようにしており、その街ならではのテーマを持って運営することを重要視しています。
たとえば銀座の蔦屋書店の場合は、日本一ギャラリーの多い銀座という街だからこそやはりアートをやるべきだと考えました。
一方、函館は30万人口のだんだん元気がなくなっている地方都市で、人が外に出なくなっています。
だから、そこでは「人が家から出て蔦屋書店に来て、誰かと会う」ということが大事だと考え、「コミュニティの創出」をテーマに思案した。
そんなふうに、それぞれに一つずつ、何かしらのメッセージがあるんです。
Q. 場所とコンセプトはどちらが先にあるのでしょうか。
基本的には場所が先でしょうか。
たとえば「代官山 蔦屋書店」も、代官山という場所が先に決まっていました。
代官山はイメージは良いですが通行量も少なく、商売をするには好条件とは言えませんでした。
ただ、緑があったり、歴史的に地勢が良かったり、車で来たときに停めやすいだけの土地があったりといろんな条件が重なってこの場所に決まりました。
黙ってお店を開けるだけで多くの人が来る場所ではない。
だからこそ、わざわざ行く理由をつくらなくては、とプロジェクトメンバーは必至で企画を作り出しました。
函館もです。
函館という場所が先に決まっていました。
函館 蔦屋書店がある場所は住宅地ですが、そこに、人を「家から出て蔦屋書店に行く理由」を作り出しました。

そしてもう一つの特徴として、オープンする街が決まったら、企画する社員はずっとそこにいることが多いように思います。
その土地のいろんな人にいろんな話を聞いて、自分のものにしていく
それはどのお店でも必ずすることですね。
たとえば、函館店がオープンするときも社員がずっとその土地に行っていて、バス停に毎日来るおじいちゃんと「今日も昨日もどこに行っているの?」と話をするんです。
そうしたら、おじいちゃんは「友達がいるラーメン屋に行っている」と。それを聞いて、「なるほど、街に出る人はあんまりいないけど、人には会いに行くんだ」とヒントが得られて、市民が活動する場にすればいいんじゃないか、というアイデアが生まれたんです。
よくマーケティングでは「顧客の世界に住む」と言いますが、我々は本当に「住む」んです(笑い)。

 代官山 T-SITE内『シェアラウンジ』

「顧客価値」が何より重要

Q. 元永さんは、ブランド戦略の成功事例を集めた書籍「ブランド戦略ケースブック2.0」の執筆にも参加されており、本の中で「ネット時代の小売業の在り方」について書かれています。
この内容について、詳しく教えてください。
さきほどの函館の話と共通しているのですが、蔦屋書店を中核とした複合施設である「代官山 T-SITE」の企画段階で、街ゆく人たちに「この街に作ってほしい店はなんですか?」というアンケートを取ったんです。

1位は「カフェ」で、2位が「書店」でした。
このアンケート結果を受け、「カフェに何をしに行くのかな?」と考えてみたとき、「どうもコーヒーではない」という結論に達したんです。
カフェでお客様は人を見て、「素敵な人たちの中にいる私」を見出しています。
つまり、コーヒーそのものより、その空間にいることの喜びのほうが大事なのではないかと気がついたんですね。 そしてそれは、ネットには代替できない価値である、と。

また、人がEコマースで買う商品の最たるものは本で、2位は家電です。
こうした時代に、当社のようなリアル店舗がどのようにアプローチしていけばいいかというと、商品を買うための1クリックではない何かを考えなければいけません。
たとえば知らない本に出会えるとか、その「出会い」や「発見」を提供したいと思っています。
Q. 競合についてのお考えを教えてください。
蔦屋書店の場合、競合を意識されることはあるのでしょうか。
類似はあまり見当たらない気がします。
ただ、我々には「どこもしていないことをする」という意識もないんです。
それよりも大事にしているのは「顧客価値があるか」ということ。
この「顧客価値」という言葉をCCCでは高い頻度で口にしますし、社内用語の一つかというほど社員みんなが使います。

「顧客価値」とは、具体的にはお客様がうれしいこと
たとえば、コーヒーを飲みながらただで本が読めたほうがいいのではないか、という発想ですね。
「みんな本を買わなくなるし、本が汚れるので難しいのでは」という意見も社内にはありましたが、結果的にはそのほうが本が売れますし、お客様もうれしいわけです。

CCCは企業ブランドのブランディングに力を入れているわけではないんです。
というのも「CCCはこんな会社です」というより、蔦屋書店やTSUTAYAやTポイントなどの顧客接点にブランドの価値を蓄えていくことに重きを置いているから。
では、それを実現するためにどこを意識しているかというと、やはり顧客価値です。
だからそこはすごく留意していますね。

たとえば、お客様に「いいね」と思われるためにはどうすればいいか。
具体的には、ドアを開けるときの注意看板だったり、カフェ席であることを示すシールだったり……これは本当にいるのか、ないほうが良いのではないか、という試行錯誤をずっと行っています。

たとえば最近この「代官山 蔦屋書店」で実践したことは、テラス席のテーブルのシールをはがすことでした。
代表の増田が2階の窓から下のテラスを見ながら「下を見ろ、テーブルになんで2枚も3枚もシールが貼ってあるんだ!?」と言ったんです。 つまり、「お客様からどう見えているのか、どう思われたいのか」を現場で考える、ということですね。
Q. インターナルブランディングはどのような取り組みをされているのでしょうか?
たとえば「蔦屋書店の新しいブランド価値を高めていかなければいけない」と、社員が読むためのコンセプトブックを作りました。
会社として何を一番大事にしていて、それはどうしてなのか、ということを伝えていかないといけないと思っています。
Q. ほかに、地域ブランドにおける成功のためのポイントがあれば教えてください。
ブランディングプロセスや、デザインをどうするのかという考えをもう少し前提として持っていないと、最終的な目標達成には辿りつけないのではないかと思っています。
そういう意味では、どう地域をデザインしていくのか、ということが最初にあるべき考えるべきではないかと考えます。
大きな街づくりをどう視野に入れていくのかというマクロ的な視点もが必要となると思いますし、ブランディングするときには、当事者には「地域の方々と一緒に商品を外に出したい」という思いがありますが、そこをオーガナイズする人も必要なのではと感じます。やはり地域中の人ができることもありますが、限界もあると思います。

今は地域間競争するところも出てきています。
ただ、地域ブランディングの真似は実は難しいので、やはりオーガナイズする人を作り、その地域内でブランディングするべきなのか、それとも最初から地域外に持っていくべきなのか、という適切な考え方をもつ地域内外の「ヒト」のアドバイスをもらうことが求められているのではないかなと思います。
Q. 最後に、元永さんのブランディングについてのお考えを教えてください。
私は田中先生の教え子なので、ブランドの定義は田中先生が仰っている通り「人が認知するシステム」だと思っています。
ただ、それを田中先生のゼミ生以外に言っても理解されづらい。
だからすごく難しいことではありますが、経営の人間が考え、事業によるブランディングを通して顧客に伝えることが大事だと思います。
ブランディングは、経営、マーケティング、法務それぞれにやることがあります。
であれば、私の仕事は経営とマーケティングと法務をつなぐことだと思っています。
社内でも「ブランド」という言葉は使っています。
ただ、ブランディングとは何か、ということは極力言わないようにしています。
そうしないと、認識のズレが露見してしまい、そこから話が進まなくなってしまいますから。
ただ、当社の場合は「顧客にどう思われたいのか、今どう思われているのか、だから何するべきなのか」ということを増田が常々言っているので、それは顧客の中にある認知システムとも近いのかなと思います。

フランチャイズの本部である我々がすべきことは、実験なんです。
たとえば新しいことを可視化することです。
ブランド価値を高めていくこともその中の一つなので、そこを大事にすることは当たり前、というのがみんなの共通認識であると思います。

※掲載の記事は2022年5月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。

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